3話〜勇者の呪い(9/11)
幾らか話をしながら、僕らは森を抜けた。
あぁ、生きて帰ってこれた。森の中で死ぬかと思った……良かった。
「や、やっとまた、戻ってこ」
ガンガンガンガンガン。
「うがっ!?」
「あん? なんだ?」
途端、激しく何かを打ち鳴らす音がひびいた。
また敵か!?と周囲を見渡すと、教会の人が目の前で、フライパンの様なものを伸ばし棒みたいなやつで叩いていた。
何事だろうと唖然としていると、森からネルティさんが出てきた。
「おい、アン」
「え!?」
声は低く、明らかに怒ってる。その怒気に当てられたのか、ラインさんもわずかに固まった。
さすがにこれは、僕が勝手に逃げたからだとわかった。
ネルティさん以外にも、次々と教会の人が顔を出してくる。一様に、安堵した顔。
そうか、この音は、僕を見つけた合図だったんだ。
「あ、あの、ご、ごめんなさい……」
「お前ねぇ……ラインに助けられたのか?」
その質問に全力で頷く。
すると、ネルティさんは僕の肩に両手を置いた。
「はぁ。まぁいいわ。でもな、アン。あんたはちゃんと自分の価値を把握しな。なんだありゃ。囮かい? あたしらが全員生き残っても、あんた一人死んだらご破算なんだよ。逆なら全然良い。あんた一人生き残れればそれでなんとかなる。その辺の価値観をちゃんと理解しなよ」
怒鳴るでもなく、穏やかに諭されて、でも、誰にも死んで欲しくはなかった。叶うなら、勇者として守りたかった。
「僕も、死にたくはないです、けど……みんなも、死んで欲しく、なくて」
「結果的に上手く生き残れたからこれ以上は言わないけど、もしあんたが死んでたら、例えばエンジュなんか自責の念で自害しかねない。あれはそのくらいバカな子だよ」
ネルティさんの言葉を想像し、エンジュさんや、それ以外の人が、この身体を失った時のことを考えた。
エンジュさんが悲しむ姿が、酷く鮮明に浮かんで、かぶりを振った。
「あっ、そうだ! エンジュさんは!?」
「あぁ、薬打ったら飛び出して行ったよ」
「飛び出し……どこに?」
訊ねると、ネルティさんは森の方を顎で指した。
「え?」
そっちを向くと、すごい速度で何かが走ってきた。いや、エンジュさんが走ってきた。
そして僕目掛けて、躓いた。
「きゃあ!」
「う、うわっ!?」
思わず受け止める。力足らずで、押し倒される。
「あ、アンス様ぁ! ごめんなさい、ご無事で何よりです! 私が役に立たなかったばっかりに!」
エンジュさんはそのまま起き上がるでもなく、ひしっと僕を掴んで泣いていた。
さっきのネルティさんの言葉が頭を過る。
「ごめんなさい、エンジュさん」
「ごめんなさい、アンス様!」
思わず僕も泣きそうになってしまった。
期待とかには僕が応えないといけなくて、そういうもの全部重いな、と思った。
でも、僕のことを心配されるのは嬉しいな、とも思ってしまった。
まだ勇者にはほど遠いけど、いつか、期待に応えたいなと、なんとなく思えた。
僕が仰向けでしゅんとしていると、ラインさんがすごい驚いた顔で僕を見下ろしていた。僕も思わずギョッとなる。
「しょ、少年……いや、あ、あなたが、勇者様だった、のか?」
あ。言ってなかったんだった。




