3話〜勇者の呪い(6/11)
いだっ!
落下し、僕は腰を打ち付けて止まった。
「いだだだ……落とし穴?」
上を見上げたら空が見えた。随分と穴の淵が遠くに見える……途端、グリフォンが覗き込んできた。
「ひっ!?」
鳥肌が立った。すぐ目の前に顔がある。
ど、どうしよう……
僕が立ち上がり手を伸ばしても、ギリギリ出れないほどの穴。広さは僕がしゃがみこめるくらいはある。ただ、巨体のグリフォンでは入ってこれない。入ってこれないよね。絶対入ってこないで。
へたり込んで、グリフォンの行動を見ていた。というか、腰が抜けて、見ているしかできなかった。
グリフォンは、顔を突っ込んできたり、前足を突っ込んできたり、襲う気満々。立ち上がるとギリギリ頭を攻撃されそう。出られない以前に立ち上がれもしない。
携帯電話が欲しい。助けを呼びたい。しばらくここに待機していて、誰かに見つけて助けて欲しい。
かっこ悪いけど、やむを得ない。かっこ悪いけど。かっこ悪いけど……
……かっこ悪いのは、やだな。勇者なんだし。
勇者の残滓を名乗った煙の人に託されたのに、こんな情けなく、縮こまっていたくないな。僕が情けなくて、勇者に失望されるのは……怖いな。
そんなことを考えていたら、上から土がふってきた。上を向くと、グリフォンが、穴を掘っていた。
「げっ!?」
やばい、降りてくる!
慌てて周囲を探るけど、武器になりそうなものはない。木の棒さえない。
まずい、まずいまずいまずい。
慌てて半泣きでそこら中を触っていると、突然手が空を切る。
「おとと!? あれ?」
その周囲に手を動かすと、人一人くらいは通れそうな大きさの穴がある。暗くてよく見えなかったけど、どうやら横穴が開いたみたい。
「こ、これ、行き止まりだったりしたら……でも、これしかないや!」
少しずつ穴が広がってきていたので、深く考えないで飛び込む。もし先がなくても、ここに逃げ込めば時間はさらに稼げるはず。
……追い詰められたら足から食われて地獄かもしれないけど。
進む。狭くて、土臭くて、暗くて、蒸し暑い。全然進めない。ただ進むだけでストレスが溜まる。それに、どんどんと怖いのが増してくる。
後ろから迫ってきているものがある。触れられたら、死んでしまう様なもの。
今更になって、死が明瞭に見えてきて、手足が震えるほど怖くなってくる。怖くて、堪え切れなくて、涙が溢れ出した。
実感なんてないまま死んだ前世と違う。今は、こんなにも自分の死がよく見える。
死にたくない。
ギュッと目と口を閉じて、生きたい気持ちを呑み込む。死ぬことも、生きたいことも、あまり意識し過ぎると怖くなる。怖くなったら、動けなくなる。そう思うから、落ち込んでしまいたくないから、考えない。こんな時は、楽しいことを考えるんだ……
……僕は勇者なんだ。封印された力を取り戻して、最強になって、魔法使って……剣を握って、仲間と、魔王を討つんだ……ここで死んじゃダメなんだ。
進む。進む。進む。前もなにも見えないけど、前に進む。
明かりが見えないのも、風が来ないのも、不安になるけど……壁にぶち当たったら掘り進めばいい。穴が崩れたら生き埋めになるかもしれないけど……ええい、マイナス思考禁止。意味ないからダメ。
「う、うおおおおお!」
気合を入れて進む、進む。そしておよそ五分くらい経ち……突き当たった。
「うぐっ……こ、こんなの、予想してたし!」
強がる。
この穴が偶然できたのか、誰かが掘ったのかわからないけど、もし誰かが掘ったなら、こんな不自然に終わるとも思えない。きっと崩れて塞がったんだ。なら、崩れた土は、他より柔らかいんじゃないかな。
そう考えて、前上下左右を軽く触る。わからないけど、比較的上側が柔らかい気がした。
……上か……上に掘れば、少なくとも地上には出る。よし、上に掘ろう。そしたら、出れるはず。そんなに、多分、深くない!
上を向いて、少し掘る。顔に土が掛かる。
「ぶはっ!」
そりゃそうだ。
目も口も閉じて、ゆっくり掘り始める。
もしも、掘って、顔を出したら目の前にグリフォンが居たら、ええいマイナス思考禁止! でも慎重に様子を確認して出よう。最悪穴に戻ろう。
ゆっくりと掘り進んでいると、やがて、ぼろりと土が落ちて、光が射し込んできた。
……出れた。出れた!
ゆっくり掘り、ゆっくり掘り、穴を開ける。上には何もいない。そっと顔を出す。
「何やってんだ少年?」
目の前には、知らない人が居た。




