3話〜勇者の呪い(4/11)エンジュside
アンス様が、私の手元を見ているのがわかります。
切り方のお手本にされるのでしょう。慣れたことなのですが、緊張します……
私が切って、おおよその形などを見て頂くと、だいたい問題なく丁寧に調理されておりました。
トントンと問題なく調理をしていると、ふと、先程の溢れていた、アンス様の呪いが気になりました。さて、今この瞬間も、この炊事室に溢れているのかと。
そっと眼帯をずらし、アンス様を見てみます。すると、変わらずアンス様の周りが特に濃く、周囲にも満ちています。ですが、手と包丁を伝い、その呪いは明らかに、芋を覆い尽くしていました。
……アンス様の気の様なものが流れ込んでいると考えると大変美味しそうなんですが、呪いと考えると毒化しそうな気がします。大丈夫なんでしょうか。
……毒味することにしましょう。まさか死なないとは思います。死なないといいなぁ。
「あ、あのぅ、アンス様」
「え? なんですか?」
少し決意が甘いのか、言葉が続きません。
……死なない、死なない。
味が劣化していても、呪われていても、毒になっていたとしても、それを誰かに食べさせるくらいなら、私が食べて塞き止めるべきだと思います。
「あの、そのお芋、一切れ頂いても、いいですか?」
「え? これですか? はぁ。はい、どうぞ」
頂きました。
恐る恐る、口に寄せます。口に入れます。食みます。
……んん? 生とは思えない甘味。なんでしょう、食感も味わいも何か変わっている様な。これが呪いなのでしょうか……これ、美味しいですよ?
「アンス様、これ、すごく美味しいですよ!?」
「お、美味しいんですか?」
驚いて、ついつい叫んでしまいました。するとアンス様も気にされた様子。
美味しいといえど、生。やはり調理した方が美味しいと思います。せめて火は通したい。
「あ、いえ、生はそんなに……あ、いえ、えっと。アンス様が切られたから、美味しいんだと思います!」
なんかそんなにと言うのを躊躇い、変に言葉を付けたところ、微妙な表情を返されました。変なこと付け加えなければ良かったです。
「はい、切ったのちょうだい。煮込むから」
そう言って、ネルティがザルを持ってきました。私の芋をそこに入れます。
あ。アンス様の芋は分けた方が良いかもしれませんね。というかあれはあれだけで調理して食べ比べてみたいです。
そう思っていたのに、アンス様の芋は同じザルにザッと盛られ、混ざってしまいました。
あぁ、惜しい。
惜しんでいる間に、次の野菜が渡されます。次の野菜も、また切った物を味見したいです。
カンカンカン、カンカンカン、カンカンカン。
……北。ここと逆の方角。
私はとっさに武器を取り出し、腕にはめました。服の下に忍ばせていた、拳と腕を防御する手甲。
装備し終えると、眼帯を取り、窓に向かいます。廊下は避難で混むとわかるので、外を回ります。
この鐘は襲撃の警報。鐘の回数は方角。だから、駆け出しました。戦えるのは、今私だけだから。
「エンジュ!」
背後からネルティが手製の爆弾を投げて渡してくれました。助かります。
窓から飛び出し、教会を回り、空に敵を見つけました。翼を持つ四足の獣。距離は近い。発見が遅れた様子ですが、今は奇襲されずに発見できただけ良しとしましょう。
一直線にこちらに来る以上、勇者様を狙っていると見て良いでしょうか。良いですよね。でしたら、アレは、間違いなく敵です。
敵は速く、私を超えて、教会へと体当たりを仕掛けようとしています。
「させません!」
振りかぶり、ネルティに渡された爆弾を投擲。顔に触れ、炸裂しました。そのまま空でバランスを崩し、地上に降ります。ですが、着地。どうやら無傷みたい……手強そうですね。
敵は私に向かい、地上を駆けて体当たりを仕掛ける。
拳を構え、顔面目掛けての拳打で迎え撃つ。
ぶつかり合うと、敵は止まったけれど、私が後ろに飛ばされる。
着地し、構え直し。
……一呼吸。
敵は空へ飛び上がり、爪を振りつつ急降下。
後ろに跳んで避けてから拳打。
「はっ!」
敵が前足を振り上げ拳が弾かれる。
バランスを崩したところに再度爪を振り下ろされ、それは手甲で受け流す。後ろに跳ねて距離を置く。
魔力が敵の意識に合わせて動くから、血の目で敵の動こうとする方向が多少は先読みできる。それでも、回避と行動が少し遅れている。
……強い、ですね。
図体の割に反応が早く、拳を打ち込めない。それに、爪と牙に良くないものが見える。多分、毒。
敵は吠える。私が少し怯むと、再度突進を掛けてきた。
顔を蹴り、踏み越えて、背中を叩く。
敵もバランスを崩すけれど、羽で打たれて私も吹っ飛ばされる。
地面を転がり、すぐに起き上がる。
敵は空へ飛び上がり、そこから体当たり。
私が横に跳んで避ける。
敵は地面を僅かに踏んでからまた空へ。
打ち合っても、押し負ける。何か、転ばせられないものでしょうか。
そう思って敵を見据えていると、敵の周囲に淡い金色の靄が見え始めました。
これは……アンス様の呪い!?
慌てて振り返ると、そこにアンス様がいらっしゃって、そこから金の靄が伸びておりました。
逃げてください、と言おうとした時、肩に痛みが走りました。
ぐっ!?
痛みに堪えながら、地面を転がる。そして立とうとするけれど、右腕が痺れて動かない。警戒していたのに、毒が回ってきた。
まずい、と敵を見ると、敵はアンス様の方を向いている。アンス様は、まだ教会へ入ってくださっていない。
「アンス様……早く逃げてください」
痛みと痺れで声にならない。
やがて教会から射撃が始まるけれど、敵には対して効果はなさそうでした。
早く逃げてください。そう思いながら、身を起こしてアンス様の方へ向かおうとします。
けれど、痺れが回ってきて、頭がふらつき、私はそのまま倒れ伏してしまいました……




