3話〜勇者の呪い(4/11)
手際良く芋を切っていくエンジュさんを見習いながら、それより幾らも悪い手際で芋を切る。親の手伝いくらいの経験しかないけど、しといて良かったと思った。そして同時に、もっとやっとけば良かったとも思った。
勇者、今、芋切るのに苦戦してます。伝承と、かつてのアンスさんに物凄く申し訳ない。
トントントントンと切っていく。少し楽しくなってきた。
「あ、あのぅ、アンス様」
「え?」
不意にエンジュさんから声を掛けられた。
「なんですか?」
訊ねると、エンジュさんはジッと僕が切り終えた芋を見つめている。
その言いづらそうな様子に、もしかして切り方間違えたのかなと、焦る。
「あの、そのお芋、一切れ頂いても、いいですか?」
「え? これですか? はぁ。はい、どうぞ」
どうするのかわからないけど、とりあえず手渡す。すると、エンジュさんはそれをカリッとかじった。
……何故? 何故僕のを、傷んでた? それともなんか別のだった?
僕が様子を見ていると、エンジュさんの目が見開かれた。
「アンス様、これ、すごく美味しいですよ!?」
芋ですよ!? 生ですよ!? 切っただけですよ!?
いや、でもこの世界のだし、なんか違うのかな。でも、エンジュさん驚いてるしな。そもそも摘み食いするなら自分の切ったので良い気がするし。
「お、美味しいんですか?」
「あ、いえ、生はそんなに」
ええええええ。
「あ、いえ、えっと。アンス様が切られたから、美味しいんだと思います!」
ええええええ。
こんな風におだてられたの初めてだ。切り方だって、エンジュさんより下手みたいだし……勇者が切ったから美味しく感じるとかかな。だとするとエンジュさんは勇者好き過ぎると思う。
「はい、切ったのちょうだい。煮込むから」
ネルティさんが大きなザルを持ってくる。それに僕は芋を入れる。少しあっ、て顔してから、エンジュさんも切った野菜をザルに入れてた。
悪い気はしないけど、ストーカー一歩手前な怖さもある。
カンカンカン、カンカンカン、カンカンカン。
ザルをネルティさんに渡して次の野菜を取り、僕が切り始めようとした時、頭に響く激しい鐘が鳴った。
「いっ!?」
思わず耳を塞ぐ。
三回速く打たれ、少し間を置いてまた三回と、リズム良く打たれている。
「な、なにこれ!?」
僕が隣のエンジュさんに問おうとした時、エンジュさんは窓に向かって駆け出していた。
「エンジュ!」
ネルティさんの声がして、ボールの様なものが飛んで、エンジュさんがそれを受け取る。そして、次の瞬間にはエンジュさんは窓から外に飛び出していた。
「弱いのは慌てないで地下に降りるよ! さぁ、アンもこっちだよ!」
何が何だかわからないけど、周りがやたらと焦り始めているのはわかった。
みんなが一直線に教会の奥へと向かう。しかし、エンジュさんは外へ向かった。
あ、これ、敵だ。
そう思ったのと同時に、冷や汗が流れる。
エンジュさんは、戦いに出たのだと気付いた。あの人が、何かと戦おうとしてる。
「ほら、アン!」
ネルティさんに手を掴まれ、次の瞬間、僕はそれを振り払ってしまった。
「あ、こら!」
「ごめんなさい!」
エンジュさんが飛び出した窓に向かい走る。そして、僕も外へと出た。
エンジュさんは、強いのかもしれない。でも、あんなに傷だらけだった。敵が強いか弱いかなんてわからない。でも、エンジュさんが傷つくかもしれない。だから、だったら、勇者としては……何か、できて欲しい。
窓から出てすぐの場所には何もいなかった。だけど、教会の反対側から大きな音がして、そちらに向かい駆け出した。すると、象ほどの肉体で、鳥の様な顔と翼、けれど四つ足で尾を持つ、グリフォンの様な生き物が居た。
「うぐっ」
目が合う。
するとその途端、そのグリフォンが吠え、思わず身が竦む。
そんな相手に、エンジュさんが立ち向かっていた。
どう戦っているのかはわからないけど、グリフォンは飛び上がっては襲い掛かり、エンジュさんはそれを避けながら戦っている。
……勇ましく挑む姿に、身体の傷は、こうした戦いでついたのだとわかった。
しかし、エンジュさんが不意にこちらに振り返り、その隙に肩の辺りに爪を受けてしまう。
「え、エンジュさん!」
叫んだつもりだったけど、怖くて、震えていて、声はあまり出ていなかった。
エンジュさんは地面に転がった。そして、起き上がろうとしているが、腕の傷が思いの外深いのか、立ち上がり損ねている。隙だらけだった。
「エンジュさん!」
しかし、グリフォンはそこに追撃を仕掛けるような気配を見せない。ただ、僕のことをまっすぐに見つめ、翼を広げている。
たぶん、狙いは僕なんだろう。
狙うなら、わざわざここまで来たのなら、そりゃ、勇者だよね狙いは。
「僕、だよね……僕なんだろ」
心臓が激しく鼓動して痛い。怖い。
そいつは、慎重にこちらへジリッと歩を進める。警戒しているのがわかった。僕もそれに合わせて、一歩引く。
「教会に逃げたら……教会を襲ってくるよね。そうだよね」
すると、教会から銃声が響く。中の人が撃ってくれているみたい。
この世界に銃なんてあったんだ!
そんなどうでもいい感想が過る。
「アン、早くこっちに来なさい!」
ネルティさんや、何人かが戸口に立ち、手招きをして居る。でも、僕があそこに逃げたら、こいつは僕を引っ張り出す為に教会を襲うに違いない。もしかしたら、先に手近なエンジュさんを仕留めないとも限らない。それは、怖い……何もしてない自分が、すごく怖い。お荷物で役立たずと思われるのが怖い。
だから、逃げよう……銃は、あまり効いている様に見えないし。
グリフォンは教会に向けて吠えた。
「こ、こっちだ! こっちを、見ろ!」
出来る限りの声で叫んだ。
教会や、エンジュさんが狙われない為には、これしかないと思う。
思い直そうとして、浮かんで来て、思い直そうとして……それでも、やっぱり浮かんで。
勇者らしく、やるしかない。
エンジュさんは、僕が出てきたから振り返ってやられてしまったんだから、僕が気を引いて、エンジュさんを助けるべきだ。
「良し……良し」
足が震えるけど、一回太ももを叩いたら、少し引いた。
泣きそうだ。怖いし、囮になったところで、その後どうすれば良いのかなんてさっぱり考えつかない。いざとなっても戦う力なんて持ってない。そもそも、そんなに体力が保つかもわからない。
そう思いながら、僕は振り返り走り出していた。教会と、そしてエンジュさんから離れる方へ、全力で駆け出す。
僅かに振り返ると、今まさに、そいつは僕の方を目掛けて飛び立とうとしている。
……生き返らせてくれた皆さん。その、僕、また死んじゃったら、ごめんなさい!




