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3話〜勇者の呪い(3/11)

 目のこと、エンジュさんはすごく気にしていたみたいだけど、思ったことをそのまま言ったらとても安心してくれたみたいで良かった。

 やっぱり、異質な感じがダメなのかな。僕的にはすごいこう、力強そうで、主役っぽくて、たまらない感じなんだけど。


 さて、それでは僕がすごく楽しみにしてる、呪いの方はどうだったんだろう。


「あ、あの、エンジュさん。それで、僕の呪いの方は、何が見えたんですか?」

「あっ、はい。呪いですね! ……これは、呪いなんですか?」

「見えないのでまるでわかりません」


 僕にそう言いながら、エンジュさんは周囲をキョロキョロと見回している。何みてるのかなと思ったけど、もしかして僕の呪いってそんな広範囲に広がってるの?


「アンス様の周囲に特に濃く、その、魔法とは違って、でも、私の知る呪いとも違う何かがあります。でも、それは薄く靄の様に、周囲に満ちていて……なんだか、全然わからないんですが、かなり広い範囲に影響を与えるものみたいです」


 ……ど、どうなってるんだろ。広範囲に? どんな効果がどう広がってるのか、自分だとまるで理解できないのが怖いな。必勝だし、悪いものではないと思いたいんだけど。


「アンス様が亡くなっていた間は、こんなもの見えなかったはずなんですが……アンス様の命や意思に影響されるものなんでしょうか」

「そういうものもあるの? 呪いって」

「あるはありますが、私もそれほど詳しくはないので……ロムロス様に聞いてみるのが良いかもしれませんね」


 取り敢えず、煙の人が自分が呪いだと言っていたから、僕の命とは関係ないと思う。


「あの、ところで、アンス様」

「あ、はい。なんですか?」


 すると、エンジュさんは眼帯をスッと元に戻した。


「大変言いづらいのですが、少々のんびりし過ぎているかと」

「……おぅ」


 あまりはっきりとした情報は得られなかったけど、のんびりし過ぎたので、僕らは早足で炊事場に向かった。立ち止まって話し過ぎた。


 炊事場に着くと、スラッとして白衣をまとい、モノクル、だっけ? 片目の眼鏡の様なのをしている女性が立っていた。


「おー。本当に来た。よろしくね……あ、いや、よろしくお願いします、勇者様。私はネルティ。今日の朝食の取りまとめをしてるよ、です」


 ネルティという女性は、言い直し、少しお硬くなる。僕としては、硬くない方がいいけど、敢えて言うこともないかな……いや、なし崩しはダメだ。勇者らしくってわけじゃないけど、気を遣われ続けると、その、なんかダメになりそう。


「あ、あの、アンス、です。よろしくお願いします」

「そんなに畏まらなくていいよ、勇者様」


 あああ、それ僕が言いたい言葉なのに。


「えっと、僕は昔の記憶もなくて、強くもないので、勇者じゃないので……アンスと、気軽に接して欲しいです」


 ダメだー! 半日話したエンジュさんと違って緊張する!

 エンジュさんにでさえまだ噛むのに!

 ……あ、でも初対面の人に意見できてるから凄く成長してる気はする。そこは褒めたい。褒められたい。


「あぁ……いいのかい? いやぁ、私も堅苦しいの苦手なのよ。勇者が凄いのは知ってるけど、あまりお話とかは読んでなくてさ、どういう人か知らなかったし、いまいちこう尊敬!ってなってなかったし。助かるよ」


 砕けるのはっやい! 言い難そうなこと本人に向かって堂々と! 見習いたいその強さ!

 というか、勇者のことって、認識に差があるんですね。みんながみんなエンジュさんみたいな感じではないんですね。


「ネルティさん、親しむのは良いですけど、あくまでも勇者様なんですから、それなりに敬意は持ってくださいよ」

「はいはい。その内にね」


 あ、今はないんですね勇者への敬意。僕の評価じゃないのでいいですけど。気が楽ですけど。


 そんな挨拶をしていると、こっちのやり取りに気付いた奥で調理してた人たちがこっちに歩いて来た。

 ひ、人増えると、緊張するなぁ。


「お、おはようございます、勇者様」

「うわ、本当にいた。おはようございます、勇者様」

「あ、冗談じゃなかったんですか! おはようございます」


 珍獣みたいに言われてる。

 これだけ大勢の人にさっきのことを言うとなると、緊張がすごいな。そう思い、深呼吸していると、ネルティさんがパンパンと手を打った。


「はいはい。アンスくんは、自分がまだ勇者の自覚もないのに勇者呼ばわりは迷惑だってさ。だから、アンスくんって呼んであげて」


 そこまで言ってませんよ!? あと呼び名が颯爽とフレンドリー!


「アンス……様……」

「ネルティさん。そいつは俺たちが呼び難いですよ。ネルティさんと違って、俺ら勇者様のお話を良く聞かされてたんですから」

「そう? んー、じゃあ、略してアンくんにしよう」


 馴れ馴れしさが増した様にしか思えませんが!

 そしてこの中では、少なくともネルティさんの認識が異端なのだとわかった。なんだか、すごいなこの人。


「……アン様か。勇者様の名前をそのまま呼ぶよりは、まぁ、気が楽か」

「じゃあ、おはようございます、アン様」

「昨日はすみません、アン様。つい驚いちゃって。よろしくお願いします」


 あれ!? 愛称呼びは呼び難くないんだ!?

 思わぬ周囲の適応っぷりに驚きつつ、しどろもどろに挨拶を返す。

 昨日の今日だけど、なんか、みんなさっぱりしてて……うん。なんか、すごく安心した……


「さてと、じゃあアンくんは、エンジュと一緒にこれ」


 そして僕は、ネルティさんから包丁とジャガイモに似た何かを渡された。


「じゃあ、その芋をざく切りに切ってくれる? 包丁は使えるかい?」


 芋や包丁、そしてざく切りという聞き慣れた言葉に安心してから、僕ははいと頷き、芋を切り始めた。

 新生勇者が最初に手に掛けた獲物は、芋であった。

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