3話〜勇者の呪い(2/11)
エンジュさんに頼み込み、僕は炊事場で簡単なお手伝いをすることにした。
大人数に囲まれたら僕は確実にテンパるけど、少しずつなら、と。まぁ少しでもテンパるとは思うけど、マシ、だと思う。
先にエンジュさんが話を通してきてくれると言うので、今は待ち状態。そわそわしながら、僕は部屋をウロウロしていた。ダメって言われたらどうしようか。
そう心配していると、エンジュさんが駆け戻ってきた。
「アンス様。大丈夫とのことなので、これから向かおうと思うのですが、よろしいですか?」
「あ、うん。大丈夫です」
と応えたら、服を剥がされた。
「ちょっ!? なんで!?」
「え? ……あ! すみません。服着替えてもよろしいですかと、聞いたつもりで」
「ごめん、わからなかった! 待って、自分で着替えられるから!」
僕が拒否すると、強力な腕力で押さえ込まれる。
うん。びくともしない。
「お任せください。すぐに終わりますので」
エンジュさんの目がらんらんとしていました。
こうして、僕は無事、寝巻きから着替え完了する。服の位置とかわかってなかったし、着方も把握はしてなかったので、そういう部分は助かった。
……しかし拭い切れない辱しめられた感。
一方、エンジュさんも我に返り、謝りかけて、また固まっていた。
謝るの禁止、このままいくとずっと守っちゃうのかな。てきとうなところで解禁しておいた方がいいかな。そんなに長く禁止したつもりはなかったんだけど。
そういうわけで、僕らは炊事場へ向かう。
食堂へ向かう道と同じだと思ったけど、どうやらその隣らしい。
道すがら、僕は僕のできることを考えていた。そしてふと、僕をこの世界に引っ張り込んだ、煙の人の話を聞いてみようと思った。
「そういえば、エンジュさん。僕がこの世界に……生き返る時に、たぶん、昔の僕の一部、なのかな、煙の様な人に会ったんですよ」
「術で生き返る時に、ですか? それは興味深いですね」
食いついてくれた。ということは、生き返る際に昔の自分に会うとか、そういう事例的なことは特にないのだろうか。まぁでも、僕が本人じゃないから起こったのかも知れない……そう考えると、伏せておいた方が良かったかも知れないなぁ。まぁいいや。
あ、でも、呪いについては知っているかもしれない。
「あ、えっと。それで、その人は自分が必勝の呪いだと言ってました。きっと、その呪いは僕の身体に宿っているんだと思います。これ、戦いとかに使えたりしないですかね?」
そう訊ねると、首を傾げられた。
おや。ご存知ないものでしたか。
「必勝の、呪い……ですか? 縁起が良いのか悪いのか。本ではそんな伝承は見たことないですが……あの、良ければ少しだけ、その呪いというのを見てみても良いですか?」
呪いを、見る?
「見るって、見えるんですか?」
「はい。あの、あ、えっと、その、ですね、私の、あの、えっと……」
エンジュさんの声がどんどん小さくなっていった。そして、歩幅も小さくなり、やがて足が止まる。
少し距離が開いたので、僕も止まって振り返った。
「どうしました?」
「は、はい、あの……」
訊ねると、言い淀んで、目も泳がせている。そのまましばらく待っていると、やがて、僕の方をキッと見返してきた。よくわからないけど、なんらかの覚悟が固まったらしい。
「じ、実は、私のこの眼帯の下なんですが、その、失明しているわけではなくて、呪いや魔力の流れを見ることができる、特異な目なんです……あの、見た目がその……ちょっと、とても、よろしくない感じですが」
そう言って、左目を指す。
……なんか少しときめいた。魔眼とか、そういうやつなのかな。
「で、ですので、背中を向けて頂いても、よろしいですか?」
「えっ!?」
見られたくなさそうなエンジュさんの声に、僕の不満そうな声が重なった。
「え、ええ!? も、もしかして、見たいんですか!? き、気持ち悪いですよ!?」
「あ、ご、ごめん! 見てみたかったけど、いいや! 見られたくないよね! ごめん!」
そう答えると、僕は背を向けようとした。
いったいどんな目なんだろう。気にはなる。でも、本人が気持ち悪いというくらいなのだから、見られたくないと思っているのはわかる。
ええい失せろ好奇心。
「あ、あの。その、私のことを、せめて、嫌わないでくださるのでしたら……見て頂いても、構いませんが」
「えっ!? あ、いや、無理しなくて良いよ、僕も、エンジュさんが嫌がることしたいわけじゃないし! 嫌われたくないし!」
うっかり素直に言い過ぎる。
すると、エンジュさんは、少し躊躇ってから、左目の眼帯をスッとずらす。
左の眼窩には、真っ赤な眼球が波打っていた。
「おおっ!?」
「んんっ!?」
思わず驚いて身震いした僕と、僕を見て少し身震いしたエンジュさん。
……え。何見えたの。
「えっ、何、あの。僕の呪い見えました?」
「あ、わ、私の目、や、やっぱり気持ち悪いですよ、ね?」
お互い気になってること言う。
あっ、と思って、相手の話に意識を向ける。
「あ、いえ。目は、驚きましたが、気持ち悪くはないです」
「えっと、これが呪いなのかはわかりませんが、何かは」
よし、こうなるよね。順番に話そう。
そう思ってお互いに話題をジェスチャーで譲り合い、最終的に、目の話題を続けることにした。
「気持ち悪くなんかないですよ。これ、どうなってるんですか?」
ジッと覗き込む。目はやはり波打っていて、固体に見えない。でも、溢れ出したりする様には見えない。
「あ、あの、これは血で出来てまして、怪我で目を失った時に、魔力で再生して……失敗して、こうなっちゃったんです。そしたら、普通に見えないものも、見える様になってしまって……」
「へー。すごい」
「……あの、あまりまじまじ見られていると、流石に、恥ずかしいです……」
「すごい……あ、ごめん!」
思わず飛び退いて、目を逸らす。そういえば、うっかり、女性の顔をまじまじ見ちゃった……失礼なことしたかな。
でも……目を失うほどの怪我をしたのに申し訳ないし、片目ああなっちゃった気持ちはわからないけど……目が特殊な力持ってるの、ごめん、すごく憧れる。




