3話〜勇者の呪い(1/11)
なかなか、寝れなかった。
泣き疲れてもいたけれど、この状況にときめいたのもあるし、抱かれてることも泣いたことも恥ずかしかったというのもある……でもそれ以上に、エンジュさんの物理的な包容力が強烈で……ほんと、腕力が強過ぎて痛かったり振り回されたりして目が覚めたりしたから、明らかに寝不足だった。
ところどころウトウトとして意識を失ったりしてはいたので、ずっと起きていた訳じゃないんだけど。そして今も、痛いハグで意識を取り戻したところ。僕は膝を抱える姿勢で丸くなり、エンジュさんは僕に覆い被さる様に背後からぎゅっと抱きしめていた。
目を覚ます度に姿勢が変わっているので、3回目くらいにようやく、好き勝手に持ち変えられてるのだとわかった。僕が意識を取り戻した回数だけでも、7回は向きや姿勢を変えられた。放り投げられなくて良かった。
……さて。起きられない。
姿勢のこともある。起きたくない気持ちもある。そりゃあ、ありますよ。ありますよ! でもそれとは別に、ちょっと冤罪的な問題に気付いてしまった。
意識が飛ぶ前には多分なかったものだと思うんですけど、毛布とまた別の布が目の前に落ちてまして、これきっとローブなんです。そして多分これ、エンジュさんのなんです。僕着てるし。寝る前にこれ着てた気がするし。
僕の背後は今、果たして、どうなってるんでしょうか。僕、どうしたら良いんでしょうか。こっそり抜け出した方がいいのか、このまま寝たふりしてた方がいいのか……悲鳴上げられたらどうしよう!
嬉しくも恐ろしいこの状況。
でも、僕この姿勢だし、エンジュさんを脱がせることは僕には、あ、でも自分で脱いだとしてもその時はこの姿勢じゃないはずだから……なんの証明にもならないね。僕はやってない。
慕ってくれてる理解者に嫌われたくない。そうそう嫌われないとも思うけど、そんなことわからないし、嫌われるかもしれないことはしたくない。そう思いながら、後頭部と首に、意識を集中する。触覚を妨げる髪の毛が鬱陶しい。
もそもそと、エンジュさんが動いた。起きそうだ。
僕はハッとして目を閉じた。寝たふりにする。
「んん……んー」
「ぐはっ!」
締め上げられました。腕を砕かれるかと思った。怒られてるのかと思った。反射的に詫びそうでしたが、痛くて声が出なかった。
「んん……えぇ……? なんで……あれ……あっ!? うーしゃさま、あ、ちが、アンス様!? あれ、私寝入って!?」
僕から腕を離し、跳び起きた。そして、自分の服が目の前に落ちていたことに気付いたのか、それをバッと掴んでから、ベッドを降りた。
寝てたふりをしたいのに、痛くてそれどころではなく、プルプルと震えることしかできない。
「お、おはよう」
服を着た音がしたので、振り返る。
エンジュさんは、僕の声や様子から、自分が何をしたのか察した様子だった。だから、川が上流から下流に流れる様に、滑らかに頭を床につけようとする。
「あ、謝らないで!」
制す。すると、座る寸前というキツい体勢でピタリと固まった。
「あ、あの、私、すみ」
そしてエンジュさんはゆっくりと立ち上がり、わたわたと手を振ってから、口の先まで出かけた言葉をどうにか呑み込んで、ふぅと深呼吸。
そして意を決した。
「……おはようございます」
「う、うん。おはようございます」
朝の挨拶は、滞りながら無事に終了した。
「はぁ……アンス様ではなく私が寝入ってしまいました。すみ……おはようございます」
「あ、うん、おはよう」
謝らないでと言ったのを気にしてるみたいだけど、うん、そこまで忠実に守ってくれなくても良かったんだけど。まぁいいや。謝られるの苦手だし。
「はぁ。あの、私は朝ご飯のお手伝いに行って来ますが、アンス様は、本日はどうされますか。その、ご飯」
「あー……」
昨日の今日。行かないのも場を気まずくさせてしまいそうだけど、行くのも気を遣わせそうだな……どうしよう。
……一旦見送ろうかなぁ。昼前に少しくらい挨拶してから、いや、食べてから挨拶を……うーん。
あ。そうだ。
「あの、エンジュさん。お願いがあるんですけど、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
僕そんなに上手じゃないけど、裏から。大勢にかこまれないところから、行くことにしよう。それがいい。
「朝食の支度、僕も手伝わせてくれませんか?」
「え? はぁ……ええええええ!?」
朝日が昇る少し前。エンジュさんの叫び声が、そこそこ響いた。




