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悪霊

作者: 久枝 佐一

友人が悪霊に憑かれたと言う。


まさかそんな莫迦げたことは、と思ったが一つ心当たりがあったのだ。


まだ私と友人が七つの頃、彼は廃社---尤も、その社と言うのは存在の証明自体を彼の証言のみに頼るしかなかったのだが---に忍び込み、その際に白装束に身を包んだ霊を見た、としきりに周囲に吹いて回っていたことがある。


古い記憶だったが何故かそのことが頭に浮かび、特に理由もなくこれと今現在友人が悪霊に憑かれた(或いはそう自称している)ことに何か関わりが有るようにすら思われた。


友人は地元の自動車修理工場に就職したのだが、私は県外に務めていたので、とにかく彼のことが心配でならなかった私はすぐに地元に戻ることにしたのだ。


久しく地元の土を踏んだ私はそのまま彼の実家へ向かった。


彼の母に会い、しばらく話をした後に彼の寝込んでいると言う部屋に入った。


そこで私が目にしたのは最早以前の姿とは全く異なる友人だった。


私が「おい」と一言かけてやると彼は起き上がり、私に向かって「おお、お前か…」と言った。(その声に生気は感ぜられなかった)


彼の顔は見れば見るほど確かな、そして毒々しい緑色になっており、更には1回りほど腫れ上がっているように見えた。


「悪霊に憑かれたと聞いたが」と私が切り出すと彼は「ああ、医者がそう叫んでたが---耄碌した爺いだし、生粋の田舎者だから、説明のつかんことは全てそれで、片付けるんだろう。だが困ったことに、お袋もそれを信じ切ってやがる」とこれまた弱々しく小さい声で話した。


私もまさか本気で悪霊の類だとは思ってはいなかったが、このような病気にもお目にかかったことは無かった。


「なあ、ひどく寂しいんだが、しばらく、近くにいてくれないか」


しばらくすると震えた声で友人が言うもので、悪霊を信じ切っている家族は「祟り」を恐れて部屋に近付きもしない(飯時は別だが)という話も聞いた上で---しかし正常な判断をできる者でも感染症を恐れて近付きはしないだろうが---そばにいてやることにした。


友人の臥せっている布団の横に、彼の容態が急変しはしないかと気にしながら座っていたが、実際のところ寂しいと言ってもその時間の殆どを寝て過ごした為に会話はほぼなかった。


その間に私はあの事をもっとよく思い出そうとしていた---あの、廃社の話だ。


廃社で幽霊を見たと彼が周りに吹いて回った後、周囲は小学生であったということもあってか彼は霊能力者としてはやし立てられた。


その後から彼はよくあそこに幽霊が見える、だとか、ここにも、だとか言う様になったものだ。


だが今にしてみれば、持ち上げられて嬉しそうにしていた彼の目は常に何か暗いものを孕んでいたようにも思える…あの暗いものは何だったのか?


そういうことを考えているうちに眠り込んでいたようだ。


目を覚ました頃には部屋は真っ暗になっていた。


灯りをつけようとして私が立ち上がるのと同時に彼もがばっ、と身を起こしたかと思うと息苦しそうに


「お、俺は……」


と辛うじて言葉を口にした。


「何だ!?」と私が慌てて聞き返すと彼はまた、必死に絞り出したような声で


「お、思い……出した………」


と言った。


刻一刻と彼の息は荒くなっている。


「何を、思い出した?」


と私がまた聞き返すと


「俺は…あの日から、呪われてたよ…」


と言ったようにも聞こえた。


その言葉を発した後彼はすぐに布団に倒れ込み、そして二度と動かなかった。


私が彼の身を案じて抱き起こすと、彼はまるで何か恐ろしいものを見たような顔をしたまま死んでいた。


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