境界人
「全身が硝子でできていれば良いのに。」
少女はそう言いながら朝の教室の空気を吸い込んだ。
早朝の自分以外いない教室は静けさを保っていたが、それも時間の問題だった。もうすぐ、騒々しい朝がくる。
学校で過ごすのも二年もたつのにこの始まりの雰囲気には未だに慣れない。
友達がいないわけでわないのに。
特に自分の見た目がおかしいわけもないのに視線が気になってしまう。
一体いつからだろうか。
ふと何も気にせず無邪気に遊んでいた頃に思いをはせる。
だが少女は気づかない。今この一瞬でさえ青春が過ぎていることを。そして後に懐かしみ、惜しむことを。
気づきたくても気づくこともない。
そういった類いを思えるのには若すぎるのだのだった。
外から野球部の掛け声が聞こえる。今は泥臭く、重苦しく感じるその声も、
いつしか透き通った群青や鮮やかなオレンジ色へと時を経て移ろう。
そう思えたとき、少女は大人に変わっていた。