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月明かりの帰り道(書籍化記念SS)

2018年2月に本編を書籍化していただきました。御礼の「なろう特典SS」です。

書籍1巻p123、webでは12話あたりの裏側。書籍未読でも大丈夫です。


(ヒュー視点)


 森の館での晩餐の帰り。手持ちの魔法灯をかざしてまだ暗いこの小道も、今夜は雲のない空に浮かぶ月に照らされてほんのりと明るい。

 領主の屋敷のあるこの辺りは、村に住んでいた頃も頻繁に来るところではなかったけれど、やはり懐かしさはある。

 当時と変わらぬ空気が満ちるこの村に来ることになったのは、それこそ精霊の采配だろうか。


「タウンゼント、お前なあ……」

「え、やだなあマークってば。あれは挨拶のキスだってば。他意はないよ?」

「あってたまるか」


 道に沿って流れる小川の水音が小さく聞こえるなか、探査魔術が終わった時のあれこれを言い合いながら診療所への帰路をたどっていた。


「それよりさ、向こうに泊まるウォルターはいいの?」

「……アデレイド様とバディがいる」

「僕よりバディのほうが信用されてるっ?」


 あながち間違ってもいないかもしれないけど、気分は微妙だ。僕の抗議を無視して、マークは淡々と話を進めていく。


「探査までしたんだ。声が出ないことに関して、本当になにも分からなかったのか?」

「表層だけだからそこまではねぇ。うーん、怪我の影響は無いんですよね、先生」

「発声に関係する器官に外傷は確認できなかったからね。精神的に落ち着いた今も戻らないとなると、原因はマーガレット本人ではないように思うよ」


 少し後ろを歩くダニエル先生を振り返ると、僕の意見を肯定するように頷かれた。


「となると、やっぱり、界を渡った影響だろうね。それは精霊の領域だ。残念だけど、僕たちにはどうしようもないよ」


 自分でも分かっているだろうに、手持ちの灯りに照らされたマークの表情はまだ苦々し気だ。


「彼女もさ、不便は不便だろうけど、そんなに悲観しているようには見えなかったけど?」

「そういう問題ではないだろう」


 ますます不満そうだ。なんだ、別の理由か? 

 今日見た『招き人(マーガレット)』の行動を思い返してみる。庭で、台所で、彼女はいつも楽しそうに……ああ、そうか。


「声が聴きたい? マーガレットって、しょっちゅう何か歌っているもんね」


 料理をしながら、片付けながら。独り言も割と多いみたいだし。

 図星だったのだろう、マークはむっすりと黙り込んで顔を背けた……へえ。向こうで何度か見かけた時と全然違うね。

 変わるもんだと面白くなってわざと覗き込むと、ぐいと押し返してくるから、ふざけて大げさに後ずさる。


「そういえば、確かこの辺りにモグラか何かの穴が」

「――っつぁっ!?」


 先生、指摘が遅いっ! 

 その「穴」にがっつりと足を取られて、ぐらりと体が傾く。耳に響く小川のせせらぎに、自分がいる場所を一瞬にして再確認した。

 魔術院のローブが派手に翻えるのが、薄闇の中に残像のように見えて――っ、魔術展開を、いや、こんなことで使ったら始末書ものだし、でもバレなきゃってそれは無理ぃっ!?

 絶対零度の眼差しで口角を上げた筆頭に、無慈悲に呼び出される近い未来が瞬時に脳裏に浮かぶ。


 ずぶ濡れになる覚悟をきめると同時に、斜めになった視界が途中で止まった……視線の先には、呆れ顔で僕の腕をがっしりと掴むマーク。


「うわ、びっくりしたぁ。ええと、あの、……どうも」

「……手間のかかる」

「せっかくお礼言ったのにっ?」

「はは、危なかったね。さあ、行こうか」


 苦笑いの先生に背中をぽんと促され、またぞろ歩き始める。

 それにしても、この人達は――なんというか。


 しばらくは無言で歩いていたけれど。狭かった道が広くなり、窓辺に灯る民家の明かりが見えてきたころ、疑問をぶつけてみた。


「……育った世界が違うマーガレットは、まあ、分かるんだけど。アデレイド様も先生もマークも、本当に僕に対して普通だよねえ。今日がほとんど初対面だっていうのに」

「は? 気を遣う理由がどこにある」

「えっ、マーク本気でそれ言っちゃう? このローブの意味も僕の立場も知ってるよね?」


 魔術院の制服であるローブ、それに施された縁取りの刺繍。これには数年前に開発された、強力な魔力を帯びた糸が使われている。さらに、一見するとただの模様だが、実は特殊な魔方陣だ。

 自身から漏れ出る魔力を遮る結界にもなるこれにより、魔力制御の負担は格段に減った。しかしその一方で「刺繍付き」のローブは高魔力保持者――つまりは、底知れぬ力を持つ者の証にもなった。

 よく見えるように引き寄せてローブを指さす僕に、マークは平然としている。


「制御もできないような奴が、あの魔術院で残れるか。それに、自分と周りの人の身くらい守れる」


 過ぎる力は脅威だ。いくら大丈夫と言われても、本能に近いところで根付いた恐怖心を取り去るのは難しいのが普通だろう。王都に行ってからの短くない年月で、それを嫌というほど思い知らされた。

 だというのに。


「これでも人を見る目はあるつもりだ。能力と人格を混同する気はない、信用するかどうかは別だが」

「マーク……容赦ないなあ。先生もそこで笑いますか」

「いやいや、二人とも()()()()と思って。さ、診療所まではもう少しだよ。明日も早いんだろう?」

「先生、朝になったら森に薬草採りに行きますから」

「ああ頼むよ。熱冷ましの薬が少なくなっていたね」


 採取予定の薬草について話し始めた二人と並んで、歩き続ける夜の道に目を落とす。

 暗闇に浮かぶのは、家々の窓の灯りと月明かり、足元を照らす魔法灯。

 それぞれは頼りなくもあるけれど、道を進むには十分だ。


「なんだかなぁ……」


 今日、村長の家に集まっていた村の皆も、懐かしさだけを映した瞳で僕を見た。

 ――こだわっていたのは自分だけか。

 僕の呟きは、ミーセリーの夜道に溶けて消えていった。





ありがとうございます。

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