スコーンでお茶を
「はい、これ」
にこりと笑ってダニエル先生に手渡されたのは、チョコチップ。
チョコレート! 今まで見たことなかったから無いものと思っていた。
ココアもコーヒーもなかったし。もし作り方や原材料が同じならばカカオ豆は暖かい地方だから、割と北国の部類に入るこの国で栽培が行われていなくても仕方ないか、と諦めていた。
そうしたら、最近他国から輸入するようになってたのですって。
地方では入手が難しいけれど、王都ならそれなりに手に入る……高いけど。高級品だけど。一粒三百円する高級チョコレート並みに、日常的には手が出せないけど。
そ、れ、を、ダニエル先生からいただいたのだ。
キスチョコをうんと小さくしたような形のを、両手の平に軽く山盛りくらいの量……お値段は考えないでおこう、うん。
昨日まで王都に行っていた先生の馴染みの患者さんが老舗パン屋さんで、チョコパンを試作中だそうで、まだ珍しいものだからとくれたと言う。
「マーガレット、これで何か作れる?」
チョコレートに馴染みのないアデレイド様が私に振ってきた。
クッキーやマフィンにただ混ぜてもいいんですよと伝えたけれど、とりあえず一度は様子を見たいらしい。
どうしようかと考えて、チョコチップスコーンを作ることにした。
スコーンなら、ダニエル先生とアデレイド様がお喋りしている間に出来上がる。せっかくだから今作って今食べてもらおう。
アデレイド様はスコーンを食事の時に出す。パンと同じ扱いだ。
私もそれに違和感を感じていないけれど、今日ばかりはお菓子ポジションで登場してもらおう。
いつもは全粒粉をブレンドする粉を全量薄力粉にして、膨らし粉と合わせて振るう……振るうのが面倒な時は泡立て器でぐるぐるとしてごまかしている。スポンジケーキじゃなければこれで十分。
その粉に、砂糖と塩を加えてざっと混ぜたら、バターを加えて両手の指先を使って、すり合わせるように混ぜ込んでいく。
バターを溶かさないように、指先で手早く、指パッチンみたいな感じで。ここだけちょっと手が疲れるけれど、バターを小分けにした状態で入れると少しラクにできるかな。
大きなバターの塊がなくなって、全体的にサラサラの状態になったらチョコチップを投入!
牛乳を加え、ヘラで切るように混ぜて、少ーしだけゆるい感じのひとかたまりに。
打ち粉を大量に振った台の上にどさりと生地を置いて、さらに上からも打ち粉を振って、手のひらの付け根を使って数回ざっと捏ねる。
ほわんと美味しそうな生地になったら手のひらか麺棒で延ばして、型で抜いてオーブンへ。
焼き時間を合わせても、慣れれば二十分ほどで出来上がる。クイックブレッドだねえ。
焼いているとチョコレートの甘い匂いが……懐かしいこの香り。ポテチとかのスナック菓子よりチョコレートが好きだった。ここでも食べられるなんて幸せ以外の何物でもない。
オーブンに張り付いて、焼きすぎない最高の焼き加減で取り出す。いそいそと居間へ運ぶ私の顔がとろけていたのは、仕方のないことだと思う。
その後交渉の結果、私の診療所保母さんのお給料は一部現物支給になった。
そして王都のパン屋の親父さんと仲良くなるのも、そう遠くない話。
【スコーンの分量】
薄力粉:220グラム
ベーキングパウダー:小さじ2
砂糖:大さじ2
塩:小さじ半分弱
バター:40グラム(室温に少しだけ置いておくと混ぜ込みやすい)
牛乳:140cc
打ち粉:適宜
※ 全粒粉を混ぜる場合は粉の総量を変えずにお好みで。
ただし薄力粉:200・全粒粉:20グラムまでがおすすめ。全粒粉を増やしすぎると膨らみが悪いので。
※ 生地は1.5センチくらいの厚さに延ばして、型がなければコップで抜くか、包丁で切り分けて。
※ オーブン予熱忘れずに。温度は高めの190〜220度で11〜13分。ご家庭のオーブンの具合に合わせて。
※ 捏ねすぎ、焼きすぎは固くなるので注意しましょう。
※ チョコチップ、レーズン、ナッツ…アレンジはお好みで。牛乳の前に混ぜ込んでね。
※ 上手に出来ると、真ん中に「狼の口」と言われる割れ目が横に入るので、温かいうちに割ってバターなり、ジャムなり、クリームなり、たっぷり乗せてどうぞ!
作者が大昔に、なぜかインテリアの雑誌(とっくに廃刊)で見つけたレシピを少しだけアレンジしています。分量も作り方も他にもたくさん試したけれど、これがマイベスト。
粉まみれを(お母さんが)我慢できれば、小学生でも作れるくらい簡単です。休日のブランチにおすすめ。




