トマトのパートナー
アデレイド様の裏庭は宝箱。野菜も花もみんな仲良くいい感じに交ざって育っている。
だから、居間に飾る花を切りながら二、三歩行くと茄子や胡瓜も採れちゃうわけで。時短だね。
それでも考えなしに植わっているのではない。ここに来てから教わったのだけど、植物には相性があるらしい。私としても、日向を好むか日陰向きか、水はたっぷり必要か否か、とかそんな区別があるくらいは知っていた。
さすがに、乾燥を好むトマトと湿気大好き胡瓜を隣同士で育てたりはしない。でもそれの他に、とてもワクワクするような相性があったのだ。
今、私はアデレイド様に頼まれて畑にトマトを採りに来ている。大きいものでも片手にすっぽり入るくらいの実は日本で言ったらミディトマトに近いだろうか。
完熟させてから収穫するので味は濃厚、走りの季節は多少ある酸味も旬の頃には甘いばかりに変わる。
真っ赤になったトマトの実を潰さないように一つ一つ籠に入れる。
料理にももちろん使うけれど、特に小さめのミニトマトサイズのは洗って可愛らしい蓋つきの皿に盛り、ダイニングテーブルの上に常時置いている。
これはちょっとしたおやつ代わりに摘む分。口寂しい時、通りかかった時、少しだけ喉が渇いた時に一、二個ポイポイと口に入れると、適度な歯応えと水気の多い果肉の甘さに満足するのだ。
日本に生きている時に、私はこれを冬に金柑でやっていた。飴やチョコレートもいいけれど、風邪が流行る冬場に手軽にビタミンを補給できてカロリー控えめ。何より柑橘類が好物だったから。
難点は、美味しい金柑はいいお値段がするのでそう頻繁には買えなかったことかなあ……でも、私はここで見つけたのだ! 裏庭の森近くの端に金柑らしき木があるのを!
アデレイド様に聞いたら、どうやら金柑と同じらしい。
毎年実をつけるが一人二人で食べきれる量では無いので、木になったまま放置されていたという……なんということでしょう。きっと、私を待っていたに違い無い。
今年はバンバンもいであげるから、楽しみにたくさん実をつけてくださいましね。
で、トマトをある程度採り終わったら、苗の隙間から顔を出しているバジルの葉を摘み取る……そう、バジル。ピザにパスタに、トマトと黄金の組み合わせのバジル。
バジルは水分を多く吸い上げる性質があるので、乾燥土を好むトマトと一緒に植えるとぐんぐん水を吸ってくれてトマトにいい感じの土具合にしてくれるそうだ。そんなわけでこの二種類は近く寄り添って育っている……すごい、食べる前からこの相性の良さ。運命を感じるわ。
ついでにトマトにつくアブラ虫も自分の方に引きつけてくれるバジル。素晴らしい自己犠牲。時々駆除するのと、収穫時はちょっと注意が必要ではあります。
他には、キャベツの近くにはセージやカモミールが植わっていて、蝶がキャベツに卵を産みつけないように守ってくれていたり。田舎道によく似合うマリーゴールドは根っこや葉に殺虫成分を持つらしく、ジャガイモや豆なんかの近くに咲く姿が見られる。
どれも絶対でも確実でもなくて「おばあちゃんの知恵」みたいなものだけど、気持ちよさそうに風にそよぐ植物を見ていると、こういうのでいいんじゃないかな、と心から思う。
なんとなく、そばにいることが自然になって。お互いに補い合ったりしていけたら。
籠に山盛りになったトマトにバジル。赤と緑の組み合わせはキラキラ目に眩しくてなんだか気分も上がる。
さて、今日はなにを作りましょうか。