碧き星の行方
思い付きで書いたのでこれからちゃんとした話にしていこうか、迷ってるところです。ということで、ぜひぜひ感想をお寄せください。お願いしますm(__)m
「キミがいけないんだよ」
その一言が胸に刺さった。茨のトゲのようにやわらかくそれでいて硬い。釣り針のように返しがあって、容易く抜けない。
「私が……」
「わたくしのこと、ちっとも見てくれない、キミがいけないんだよ」
「ジャン、貴方とは婚約解消したはずだ」
アークは言った。いや、アークとは仮の姿。緋色の軍服を着用しているが、今は蔡架と名乗っている。それが本来の彼女の姿だった。髪は艶のある黒。左目は碧、右目はブラウン。アース色だった。
蔡架は抱きついてきた女性。ドレスをまとい女装したジャンを強く弾き飛ばした。
「とにかく、帰りたまえ。二度と私の前に姿を現わさぬように」
強い口調で押し退ける。
ジャンは薄茶の琥珀色に近い長い髪を振り乱し、蔡架に縋りつく。端正な顔を歪め、叫ぶ。
「わたくしはキミだけを愛している」
「安易に言うものじゃない。貴方は国王の妃となる方だ。ジャンヌ」
栗色の瞳を見つめ、蔡架は諭す。
だが、ジャンは拒絶する。
「その名で呼ばないで、アーク。わたくしを男だとわかっていてめとろうとする男色家なんて大嫌いよ」
華奢な体で顔立ちも女っぽく、男ぐささを感じさせない。
そもそも、彼がジャンヌと名乗って女装しているのは、愛するアークこと蔡架が男として養父に育てられていたからだ。男として生きるアークの傍にいられるよう女として振る舞ってきた。
「国王陛下は純粋に貴方を愛していられる。あの方と結婚することが、貴方にとって最良の幸せだ」
「わたしにとって、最良の幸せはアークの傍にいること。だから、二度とわたくしを置いていったりしないで」
蔡架は首を振る。
「私には貴方が重荷だ。私にはやらねばいけない死命がある」
「リャンと戦うこと……同郷の魔術師同士なのに……」
「理案……空桜と一騎打ちすることが私の死命」
ジャンはわずかに唇を震わせた。
一騎打ち……アークは死を覚悟している。
立ちすくんでいるジャンをよそに蔡架は通りを曲がった。
ジャンが慌てて追い掛けた時には、蔡架の姿はどこにもなかった。
しばらく蔡架を探して通りを彷徨った。誰かに止められるまでは、ずっとそうしていただろう。
「お嬢様」
理案が後ろから抱きついてきた。
「リャン、どうして……」
「お嬢様、もうどこにも行かないでください。蔡架のところにも、陛下のもとにも」
「リャン、ヤダ。はなして」
「ダメです。はなしたら、お嬢様は蔡架を探しに行く。そんなことさせません。僕とかけおちしましょう」
理案はジャンに使える従僕だ。身分違いで許されぬ恋。しかも、婚前を控えた主人に大胆な告白をする。相手が男としりながら、蔡架から奪いたいと思った。蔡架が唯一空桜以外に愛した者だから。許せなかった。奪うことしかできない。人質にすれば、蔡架はきっと理案の言うことを聞く。そう確信している。
帝地……。
「わ、かった……わ。リャン、だからはなして……」
「お嬢様……」
理案は腕に力をこめ、よりきつくジャンを抱きしめた。
帝地……。今、今世でこうして彼女を抱けたなら、どれだけよかっただろう。敵対するときがくることはわかっていた。いつの世で帝地を殺さねばいかないか。ずっと、不安だった。
「リャン……」
「すみません、お嬢様」
ジャンを解きはなった。
「リャン、キミどうしたの」
理案は首を傾げる。
「左目が碧になっていてよ」
理案は漆黒の短髪に翠の目をもっている。
蔡架は帝地として、覚醒し、左目が碧になった。理案も、空桜に覚醒したらしい。左目は水の力を表わす碧。右目は風の力を表わす翠。蔡架の右目のブラウンは土の力を表わす色。左目は理案と同じ水の力を表わす碧。蔡架は覚醒してるのだ帝地として。だから、猶予はないと思っていたが、ホントに猶予がなくなった。対峙の時は間もなくだ。
理案が死すか、蔡架が死すか、万に一つ。もしくは、相討ち。そうすれば、一から殺しあいは振り出しに戻る。
時は満ちた。