夜
夜。
ひんやりした空気がある。
着ている服が肌と擦れて寒さの裏づけをする。
コンクリートに残った夏の暑さたちは冷たい風たちが周囲を回って追い出していく。
どんどん気温が下がって闇が物体のあちらこちらから染み出てくる。
影が合わさって闇を作り。本当の黒が作り出される。
綺麗な黒だよ。みんな。
体の力を抜き、漆黒に身体を覆わせる。
冷気も一緒に身体に流れてきた。
すぐに闇が自分の身体から溢れてくる。
「ああ懐かしい。この感じだ。」
二、三年前以降。この感覚を封印してきた。
後頭部が熱くなる。
けれどこの感覚がたまらなく欲しくなった。
得られないと知って。恋しくなった。
身体に負荷がかかる。
もちろん。封印はできていた。
俺の精神はこの期間で変わったはずだ。
闇が私の心の隙を見つけて入り込む。
視界が闇に包まれ。周りの物体は闇に溶け込む。
俺は闇に溶けた。
身体が軽くなる。
身体から何かが切り離される感覚に陥る。
来たか。自分の闇であり。弱点である使者。
黒い。黒い闇が現れる。
どろりとした液体とも固体ともいえない気体に近い何か。
長い身体を背後で創造しているのだろう。影を切る音が響く。
幾度も影を切って。
低い唸り。身体が復活したことを告げた。
「おい。」
アイツの声がする。低めのしわがれた声。
声にまで闇がまとっていて心の奥底まで響いてくる。
涙なんか出ないから。少しの笑みと悲しみが心に落ちる。
前の自分とは違う悲しみ。
「懐かしいな。こちらの世界に戻ってきた。」
俺は闇に言う。苦い笑みを噛んで。見えないけど。声から分かる。昔と同じアイツ。
「ふん。散々俺の悪口言って切りやがった癖に。生意気言うな。ははははっは」
俺の後ろで長い身体をぐるぐる。とぐろを巻いている感じがする。相手をあざ笑うかのような声が響く。
相変わらずの思考だな。少し笑える。
「うるせいやい!さあ。始めるからな。」
ピタッと動きをやめた。
「そっか。変わったな。」
低い声。
闇の声は、自分の考え方が変わったのを読み取ったのだろうな。
いや、いつもそばにいるから知っていたのか。どっちでも良いか。
認めてくれた。それだけで十分か。
「おい。忘れたのか馬鹿。」
「あん?」
あざ笑うかのような発言に反射的に答える。
……うん?
と、自分が照れるのが分かる。
待て前て……おい!
恥ずかしすぎだろ!
アイツは心の声も読み取れるのだった……ふん。笑える
昔はそれでおちょくられていたな。
「ああ。そうだ。」
背後から満足そうな声。
ふう。気をつけなければな……
「それと龕韻と呼べよ。お前が命名したのだろ。」
龕陰か……ああ……懐かしい。
……懐かしい名だ。
俺は闇に名前を付けたんだ。
そう。僕が悟った時には何も言わず。
落ち込んでる時は笑ってくれた。闇に……付けたんだ。
そんな居なければ立てれなかった化け物に……
闇という身体から染み出てきた化け物。
「龕韻。」
俺は闇が好きだ。お前が好きだ。気付いた。だから私は観たいと又思えた。
「……」
相変わらず。何も言わないのか。まあ良いさそれが龕韻の愛情か。
「さて行くか。」
笑った。
「いつでも一緒さ。」
それは自分なのか龕韻なのか。それはあの日からの約束だった。
「見えてなかっただけさ。」