参拾漆話 別れ
ー白詠sideー
月明かりが都の屋敷を照らし出す中、私は藤原家の屋敷の縁側で藤原さんに別れを告げていた
今日は満月、つまり蓬莱山さんを月に連れ戻すための使者がくる日だった
「…私はもう都を出ます」
私がそう告げると藤原さんは驚いた顔でこちらを向く
「なん…で?」
少し泣きそうな顔になっていて、罪悪感が込み上げてくるが、私がこれからすることを他人に見られてしまい、万が一にもその関係性を問われたときのためにも私は出て行かなくてはならない
「……私はこれから都を出て様々な処を見て回りたいのです」
「…白詠は私を置いてっちゃうの?」
藤原さんの瞳からは涙が溜まり今にもこぼれ落ちそうだ
「…あなたの父親である不比等様もしばらくするか、かぐや姫が都を離れればきっとあなたの元に戻って来てくれますよ」
「違う! 私は…私はあなたに、白詠に一緒にいて貰いたいの!」
藤原さんは黒髪を振り乱しながら涙を流して否定の言葉を口にする
「かぐや姫の難題に応えられず、父上は大きく辱められた……その事実は変わらない、そんな中で前と同じように過ごせると白詠は思ってるの!?」
「……藤原さ「妺紅って呼んで!」
私は意識せずに一つ息をはく
「……妹紅さん」
いきなり名前で呼んだため驚いたのか、かぶりを振るうのをやめてこちらに視線を向けてくれる
「……確かに前と同じように、とはいかないかもしれません、でも最初にあったときよりも妹紅さんは確実に変わった」
その言葉に妹紅さんは目を少しだけ見開く
「……もちろん良い方向に………大丈夫、妹紅さんのことをわかってくれる『人』は必ずあらわれるよ」
そう、私のような人の心を持つふりをした妖怪ではなく、妹紅さんの清らかな心を理解し、共感してくれる人が……
「………白詠は、白詠は私のことを理解してくれないの?」
不安そうな瞳を向けられ戸惑ってしまう
私はその視線から逃れるように妹紅さんを抱きしめる
「……私は結局理解した『つもり』で終わってしまう」
「なら…もし私がこの都をでて外で会ったときは、私のことを理解してくれるまで一緒に居てね!」
抱かれたまま顔を上げた妹紅さんの顔は笑顔で満ちていた
そのまま少しの間抱き合っていたが、不意に妹紅さんから離れる
「ありがとう白詠! あなたのおかげで何だか気が楽になったよ」
「……さようなら妹紅さん」
私は縁側から立ち上がり握手を求める
「旅立つ前ぐらい呼び捨てで呼んでよ、友達でしょ?」
私の手をつかみ、こちらを向きながら言われる
急な事で、恥ずかしく少しだけ顔に熱が集まる
「……さようなら、も…妹紅」
「ううん、またね白詠!!」
その言葉を聞いた後、藤原邸をあとにする
私はかぐや姫の屋敷に向かう中、恨めしげに満月をみあげた…
今夜の満月は憎らしいほど綺麗に輝き都を照らしていた………
メリークルシミマス! 今年も寂しくシングルベル
先月の更新かなかったにも関わらず短文ですいません。
そのことも考慮してお正月にはもう二回ほど更新するかもしれません。
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それでは良い一日を!!




