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第7話:魔法の適性

 2週間がたった。

 つい1週間前から始まった魔術の修行、剣術の修行にもなんとなく余裕が出てきたように感じられる。こうやって朝早く起きることもだいぶ慣れてきたものの、窓からさす朝日だったり、朝特有の寒気にはやはり馴れないものだ。

 もう少し寝ていたいなんていう邪念を振り払い、伸びをして起き上がる。これは豆知識だが、起きた直後に伸びをすると、寝ている間に固まった体を伸ばす事で軽いウォーミングアップになるらしい。まあ、僕個人としては効果があるようには思えないが。

 伸びで起きたなあ、という実感を感じた時、トントンと二回ドアが叩かれた。

「シキ様?起きてますかー?」

 リリィさんだ。

 因みにこのタイミングで起きていないとリリィさんに水をかぶせられる。

「はーい…ふああ」

 やはり顔を洗わないと目は覚めないらしい。ベッドから降りて、寝巻きのまま部屋を出る。

 自慢ではないが、この家はかなり広い。最初のころはよく迷子になったものだが、さすがに今はもうすべての部屋は覚えられている。まあ、そうじゃなきゃセルフィの案内などできないだろう。

 そんな家の中をふらふらとした足取りで、洗面台まで行き、布か何だかよくわからないもので顔をふく。

 顔を洗った僕が次に行くのは食卓である。どうやら、今回は僕が一足遅かったようで、食卓には既に料理が並んでいた。

 今日の朝食はベーコンと目玉焼きとご飯だ。

 因みに僕は目玉焼きは胡椒醤油派だ。異論は認めん。

 どうやらこの世界の食生活は、僕の居た世界に準じているものがあるようで、豚や牛などの動物から、米や小麦などの穀物も存在しているらしい。しょうゆやみそのような醗酵系の調味料もあり、日本人事田奈僕としては非常にうれしい限りだった。

 椅子に座って、僕の着席を待つ父さんと母さんはいまだ寝ぼけ眼である。ニコニコ笑顔のリリィさんを眺める。たぶん僕の視線には気づいているんだろうが、忙しくって口出しはできないのだろう。

 僕が自分の席に着いたところでリリィさんも自分の席である僕の隣に座る。

 そして、みんな食べ始める。食に感謝する概念がないこの世界において「いただきます」という習慣というものはなく、食卓に家族全員が座ったら食べ始めるという暗黙のルールらしい。

 そんな中、僕は一人「いただきます」を言ってから食べることにしている。

 この癖だけは抜けない。まあ、癖というのもあるのだがなにより食べ物のへの感謝という純粋な感情を持ち合わせての「いただきます」なのだ。

「む。シキよ。今日こそ野菜ソースに挑戦してみないか?」

 父さんは僕が醤油をかけようと、手を伸ばした手をつかみそう言った。

「…父さま。僕は塩コショウ派だから」

 その手を必死に引きはがそうと手首を上下左右にぐりぐりと動かす。が、微動だにしない。

「まあ。まあ。そういわずに」

 そうだ、と思いついた僕は、強情な父さんの方に人差し指を向け、

「…光よ(ライト)

 と、小さい魔法陣を展開させつつ、最近コントロールがうまくなってきた初級光魔法を放った。

「まばゆい光が俺の視力を奪うぅ!?」

 ちらりとリリィさんに目を向けるのももちろん忘れていない。小さく親指を立てていたのも確認済みである。

 手が離れたところを見計らって、醤油の瓶を取り、目玉焼きにかけた。

「く…シキよ…お前ここ1週間で魔力調整を学んだな…!?」

 因みに、こんなふうに的確に相手の眼球をつぶすというテクニックは、リリィさんから最初に教えてもらった技術だ。

 普通なら1か月かかるらしいのだが、僕にはスキル《魔術才能》があるので、こうもい簡単に上手くやることができた。

 これは余談だが、達人級魔術才能なら数日、仙人級魔術才能なら一日、魔人級魔術才能なら生まれたその瞬間から魔力調整の技術があるらしい。

 生まれた瞬間って。

「そういえばお前基本の戦い方すら1週間で学んだしなあ。さすが俺らの息子といったところか!」

 そういってがっはっはと笑う。おい。アンタ目はどうした。いつの間に治ったんだよ。

「あれ?顔赤くなってますよ?シキ様?」

 今のセリフが少し恥ずかしかったのか、無意識に顔を赤くしていたのをリリィさんに指摘される。

「ちょ…囃し立てないでくださいリリィさん」

「んふふ…かわいいなあ。シキは」

 そこで頬をほんのり染めた母さまが口をはさむ。

 そういえば、母さまのお腹がいつの間にか少し大きくなっている。

「…母さま母さま」

「ん?なにかしらっ!」

 満面の笑みでそう言ってくる母さま。

 ほぼ純粋な気持ちで、僕はそのお腹の事を聞くことにした。いや、もしかしたら、この言い方は失礼かもしれないとは思ったよ?相手は親とはいえ女性だし、でも、気になったのは気になったのだし仕方ないよね。

「最近太った?」

 気絶するまで頭の横をぐりぐりされた。

 まあ、うん。当然だと思う。




「今日からは本格的に魔法を覚えていきます」

 家族4人では広すぎる庭で、僕とリリィさんは魔法を練習している。

 あらかじめ張ってある防護魔法のおかげで庭の外に魔法が行くことはないらしいがその結界が目視できないので、いささか不安である。

「はーい」

「その前に、まずは属性の適性を見てみましょう」

「適正?」

「はい。魔法を使うには、適性というのものが必要なんですよ。本に書いてありませんでしたか?」

「……ああそう言えば…」

 そんなような文章があったような無かったような。うる覚えである。

「まあ、その適性?は、どうやって?」

 片っ端から魔法を放っていくんだろうか。いや、さすがにそれはないか。

「えっと…あ。これですね」

 あらかじめ持ってきていたバッグの中を探り出したリリィさんは、お目当てのものを探り当てたらしく、何かを取り出す。

「これは…?」

 リリィさんの手にあったのはキラキラと光る綺麗な透明の石だった。まるで水晶のようで、綺麗だ。

「これは、純魔石といって魔力を込めると、その性質によって色を変える不思議な石です」

「へ、へえ…でもお高いんでしょう?」

「いえいえ。魔石市場で10個セットでたったの10G(ゴールド)

「高いよ!?」

 因みに1G=1万円。

 更に因みに1S(シルバー)=1000円、1K(カッパー)=500円、1B(ブロンズ)=100円、1L(レッド)=10円の価値があるらしい。これはなぜか頭の中で自動で返還されるのだ。転生特典ということで割り切っている。

「それでは、思いっきり魔力を込めてください」

 ごつごつとして綺麗な石を握ってみる。魔力をコントロールして石に伝わらせた。

「…はい。そろそろいいでしょう。手を離してください」

「うん。…って。なんじゃこりゃ!?」

 その石からは光が放たれバチバチという音と共に雷が石全体を黄緑色で染めていた。

「これは…」

 リリィさんの顔も驚愕に染まっていた。一体どうしたのか。

「えっと…これは…?」

「……シキくん。これは異常事態です」

「…は?」

「私は、これまでいっぱい努力していろんな種類の魔法を覚えてきました。いわば努力の結晶です」

「は、はあ」

 努力でいろんな属性の魔法を覚えられるんだな。それのほうが驚きだよ。

「私も元々は水の属性しか使えませんでした――が、しかし。あなたの使える魔法は、すべてを照らす【光】の属性。荒ぶる【雷】の属性。この2つに適性があるようです」

「は、はあ」

「これまで私は最初から二つとも使える人を見たことがありません!」

 興奮したように目を輝かせてそういうリリィさん。

 顔をすごく近づける。近い近い近い!

「じゃ、じゃあ、雷と光の基本魔術を教えましょう…はい。これを使って下さい」

 リリィさんにそう言って手渡されたのは古びた木の棒。その先には黄色い星がついている。なんだか昔の変身系魔法少女の杖みたいだ。

「じゃあ、まずは雷から。…えっと…雷よ(サンダー)!」

 リリィさんがそう言いながら指先を上に向けた。

 そして、呪文名を言った瞬間指の先から小さい魔方陣が展開され、その中心がぴかっと光り天に向かい、雷が駆け抜けていく。

 空から降る雷が上に向かって落ちるというのは何とも不思議な光景である。

 恐らく障壁に当たったのだろう雷は、僕らの数メートル上あたりでバチリという音とともに四散した。

「ふう。久しぶりだったけど出ました」

 リリィさんの実力がどのくらいかはよくはわからないけれど、どうやら雷よ(サンダー)を使うことは少ないのだろう。緊張したような面持ちで言った。

「それではやってみてください」

「おっけー」

 さっきのリリィさんがやったように、指先を上に向けた。

「えっと、なんだっけ。…雷よ(サンダー)!」

 思いっきり呪文名を叫ぶと、指の先端から魔法陣が出てきたのだが、すぐに崩れてしまった。

「…どうやら、雷属性は練習が必要みたいですね」

 人がいとも簡単にやってのけた後自分が同じことをして失敗するなんてことはよくあるものだけれど、さすがに初級でつまずくとは思ってもいなかったのか、リリィさんは若干の苦笑いを浮かべていた。

 …こ、この程度でくじけないんだからね!?

 この先どうなるのかなあ…と、若干泣きそうになるのを押えながら、その後ひたすらに雷よ(サンダー)の練習を続けるのであった。


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