第6話:とある少年の復讐
「こんにちは!あのガキに復讐しに来ました!」
「……」
セルフィのお泊りイベントが発生したその次の日の今朝方。僕は珍しく早い時間に目が覚め、いい朝焼けも見えていたんで朝日を浴びようと外に出たとたん、突然そんな声が耳へとはいる。その声の主は、例の男の子、アレン君で、第一声にそんなことを言われた僕は、その場で固まる以外出来ずにいた。
こんにちはって。
「あっ、ガキ!何でお前こんなとこに!」
「こんなとこで悪かったな。ここに住んでるんだし此処から出てくるのは当たり前だろう」
呆れて声も出ない、というと、アレン君は顔を真っ赤にさせた。やーいキレてやんの。
というか今のはあれか。発声練習のようなものか。
そんな道場破りみたいな感じでこの家に尋ねるつもりだったのか。しかもこんな朝早くから。
「というかお前、お前のお母さんに叱られたんじゃねえのかよ…」
「ふん!その程度でくじける俺じゃないからな!」
いやいや、くじけるくじけないとか、そういう問題じゃないと思うんだけれど。怒られたら反省する。子供のくせにそこをわかってないとは。…いや、僕が言うことではないか。……ご両親も苦労してそうだ。
「つうか、こんな朝早くから何してるんだよ…」
「今日はパパの…お父さんの手伝いをしろと言われてきたからな!逃げてきたんだ」
今パパと言いかけたな。恥ずかしいのか少し頬赤くしている。お年頃である。
「お前なあ。そうは言うけれど、今ここで復讐しようとしたところで、僕が大声で叫べば、誰かしら来るんだぜ?」
「グっ…」
「場所を考えようぜ。場所を」
「場所か…」
「例えば、人気のないところだったりとかさ。色々あるだろ?子分と一緒に考えてこいよ」
「そうか…なるほどうん。じゃあそうすることにするよ」
「おう。朝方だからな。気をつけて帰れよ」
「ありがとうな!」
すごく清々しい顔で、一言そう言うと、アレン君は走って去っていってしまった。
うん。単純って素晴らしい。
今日は、恐らく襲撃には来ないだろうけれど、これからもこう来られては困る。何か対策を打たないとだめかもしれない。対策とはいっても暴力をふるうわけにもいかないので、説得以外にはないんだけれど。
完全に後姿が消えた頃には、とりあえずは保留、という結論に至った。
「ふあぁ……そろそろリリィさんが起きるころだとおもうんだけど」
そういえば、日の光はそんなのよくは浴びれなかったな。ま、良しとしておこう。
「じゃあ、シキ…君。またね!」
「おー。またなー」
いつもよりいい表情を浮かべたセルフィは僕に小さい手を振りながら、彼女は家の中へと入っていく。今回の道中は、彼ら三兄弟は出てこなく、実に買い手気にセルフィ宅までつくことができたのだが、実を言えば、かなりハラハラしながら僕はセルフィを家に送っていた。
アレン君に子分に相談してから来いと言ってしまった手前、不意打ち上等状態になってるかと思ったのだ。例えば木の上から攻めてくるなり、曲がり角で襲撃してきたり、とか、汚い手を使ってくるとばかり思っていたのだが。
「杞憂だったかな?」
…帰ろうと、後ろを振り返ったその時である。
「はーっはっはっはっは!」
「僕ら」
「参上!」
「………」
三つの足音とともに現れたのは、まるでどこぞの特戦隊のように三人でポーズを決めているアレン君たちであった。…いやいやいや。待て待て待て。
「おかしいだろ!?お前ら作戦とかそういうの考えねえの!?」
「作戦なら考えてきた!」
「その名も!」
「「「特攻!!」」」
「一昨日きやがれ!」
そうだ。こいつらは子供だった…いやおい。何で特攻という言葉はわかって、不意打ちという言葉が分からないんだ!?…ああ。そうだ。こいつらバカだったなあ!
「ほんとさあ…というかお前!お父さんの手伝いは今日1日やるんじゃなかったの!?」
「今は昼休み」
「バカじゃねえの!バカじゃねえの!」
「ええい!バカバカ言うな!このバカ!」
「昼休みの間家にいないで外に出てたら、お父さんが心配して外に来ることぐらい予想しろよ…」
「ふん!残念だったな!お父さんなら今も必死に仕事を――」
「……おいアレン」
「しご…と…を?」
壊れたブリキのおもちゃのようにアレン君は振り返る。
そこには般若の形相のアレン君父が大股を広げ、立っていた。
ほんの少しの言い合いの後、このあいだのように耳を引っ張られ、アレン君は引きずられながら、子分の二人はそれについていき、その場を立ち去って行った。
なんというデジャビュ。
「…帰ろう」
今度は口に出して、普段よりも疲れている身体を引きづりつつ、家に向かって歩いていった。
さらにその翌日。
今日は、お母さんに買い物を頼まれ他の出近所の八百屋のような場所に来た。これが実質初めてのお使いなので、例の番組のBGMを鼻歌で歌いながら、比較的に人が多い、大通りを歩いていく。
今日は暑くもなく寒くもない。丁度いい気温だ。散歩にはもってこいだ。心地いい風と、近くにある山から聞こえてくる葉っぱの揺れる音を感じながら、ゆったりと歩く。
確八百屋は確かこの薬屋から二件先にあったはずだよな、と、確認を込め、地図から顔をあげたとたん、彼らはそこにいた。音もなく多少びっくりさせられた僕は、ほぼ反射的に、目の前にいた奴の股間を蹴り上げた。
「ぐぼぉ!」
目の前にいた奴は、奇声を上げる。
あわててそいつに近寄る二人を発見した。地味に背の高い、短髪の男の子、少し長めのはたから見たら女の子みたいな小っちゃい男の子が一人。
完全に一致である。
「おま…いきなり…」
これは謝らなくてもいいや、と判断した僕は、彼らの横を通り抜け、何事もなかったかのように八百屋に向かうことにした。
「ま…待て…お前」
さながらゾンビのようにのように手を伸ばす彼、アレン。名前はかっこいいのに、中身は駄目な、年齢的に実質小学生の男の子。
「いやさ。今日は買い物あるから失礼するわ」
「ちょ…お、俺に復讐させろ!」
「いやだ」
「いや、頼むから!復讐させてえ!」
大通りの真ん中で、今にも土下座しそうな男の子がいたら、嫌でも注目を浴びてしまう。それが恥ずかしくなった僕は、つい「ああもう。ちょっと待ってろ!」と、彼らを底に待機させた。
メモのような何かに書いてあるものを店員の人に渡し、紙袋のようなものに、各種類の食材を入れてもらい、彼らのもとへ、再び出向く。
「これを持て」
「は?なんでだよ?」
「いいから」
「お、おう…」
よし。予想通り、こいつ押しに弱いぞ。
内心ほくそ笑んだ僕は、アレン君に一番大きい袋を。小っちゃいのと中くらいのにそれぞれ袋を持たせ、彼等の先頭に僕はたった。
「こいつらを、僕らの家まで運んだら、復讐されてやるよ」
後ろを振り向きつつ、そういうと、彼らは、スッゴイ嬉しそうな表情になる。うん。いい表情だ。子供はそうじゃねえとな。
と、まあ、そんな感じで、アリオン家玄関の前まで連れて行った。
彼等の持っていた荷物を持ち、玄関に入り、
「うん。ありがとう。それじゃあね!」
と、言い残し僕は家の中へ入って行った。
ドアの裏でなんかいろいろ言ってるが、まあ気にしないでおこうと思う。玄関の様子に気が付いた母さんが、「あんたクロウ君に似てるわね」と言われ他のは非常に不服である。
更にその次の日。
「おいお前!今日こそ!お前に復讐するぞ!」
草刈りをしていた僕に飛び込んできたその一言。今日はセルフィが家に来るということで、すこしウキウキしてた気持ちが一気に下がる。呆れ顔を浮かべながら、カマを地面に置き、彼のもとに向かった。
「お前…懲りないなあ」
「今日こそ!お前に!復讐!すーるーんーでーすー!」
「子どもかっ!…いや、子どもか…」
はぁ…と、ため息をついたときに、何かに気付いた。違和感しかなかったため、とりあえずは聞いてみることにする。
「お前…後ろの奴らは?」
聞いてみると、いらっとした顔を浮かべながら、仕方なさげに話し始めた。
「ああ。あいつらは、今日は風邪ひいてるって言ってな。まったく」
あー。なるほど。それで…いや待てよ?これは、退散させるには絶好のチャンスなんじゃないのか?
…試してみるのもいいかもしれない。
「お前!」
「はい!?」
「あいつらはお前の子分なんだろ!?」
「お、おう。そうだが…」
「なら!」
一段と声を張り上げてみる。
彼の焦り具合がちょっぴり楽しい。
「お前が今やるべきことは違うだろ!僕に復讐することじゃない!あいつらのおみまいすることだろ!!」
その一言に彼をハッとした表情を浮かべ、フルフルと震えだした。失敗したか?と、彼の顔を確認する。
すると、ふいに、彼は僕の肩をつかんだ。
一瞬肩をビクッとさせたのだが、彼は一向にそれを気にする様子もなく、急に語りだした。
「すまなかった…!今までお前を誤解していたよ!お前にまさかそんなことを言われるなんて…!今俺はお前の言葉に感動した!」
「お、おう」
なんかすごい誤解を受けている気がする。
いや、うん。
お前そんなにしゃべれるんだね。それにすっごい難しい言葉遣ってる気がするのは気のせいか?
「ありがとう!俺はあいつらのお見舞いに行ってくるよ!本当にありがとうな!!」
バッと、踵を返し、その一言を走りながら言い、そのまま彼の背中は消えて行った。…そう言えば、彼の頭、たんこぶで来てたけど、昨日も殴られたのかなあ。
なんだか、すごくあっさりとした結末にはなってしまったが、まあこれもこれでいいか、とどことなく納得できていない僕を無理やり納得させ、とりあえず母さんに言われていた草刈の続きをやることにした。
――そして2時間後
予定通り、セルフィは家にやってきた。
今日もお洒落だね、何て、キャッキャウフフな会話をし、オセロとダイヤモンドゲームにぼろ負けした後、さっきの話をすることにした。
「さっきも、例の男の子来たんだけどさ」
「えっ!?また!?もう。ちゃんと私のお父さんが起こったのに」
ぷんぷんと怒った様子で、そんなことを言う。
「多分、あいつもう来ないと思うぜ。ちゃんと反省してるはずだ」
「え?本当に?でもどうやって?」
「え?…うーん。成り行きかなあ」
僕がそう言うと、ん間にそれ、といい笑顔を浮かべくすくすと笑う。
でも事実なのだから仕方がないんだよなあ。
僕は窓の外に少し目線を動かしつつ、どことなく笑みを浮かべてる自分に気付く。
そう言えば、僕が言ったあの一言って、昔涼香に言われたことなんだよな…懐かしい。いや、何思ってるんだ。僕は。早く忘れよう。
「シキ君?」
いつの間にかセルフィは僕の手をぎょっと握り、少し心配そうな顔を浮かべていた。…そうだな。早く忘れて、今は――
「……いや。なんでもないよ」
―――今は、この幸せを享受しようじゃないか。
後日
アレン君のお父さんが、僕の家にきた。どうやらあの一件以来、急に生活態度が良くなったらしく、アレン君のお父さんの職を継ぐとまでいっているそうだ。
うん。反省しているようでよかった、と胸をなでおろしていると、同時に心配していることがあるんだと言っていた。
どうやら、あの子分の二人。男の子ではなく、女の子だったようで、つまりは彼は女の子を子分にしていたらしい。まあ、問題はそこではない。
その子分二人が、急に女の子の格好をし始めたという。今まではきっと彼のまねをして男の子の格好をしていたのだろう。
…何というか。
アレン君。彼の将来はあらゆる意味で楽しみだ。