第3話:お説教
「「座りなさい」」
「…はい」
その日の夜。セルフィを家に送り届けた僕を待っていたのは父さんと母さんの説教だった。理由はまあ、やはりあの事だろう。
誰もいないところで魔法を使う、というのはそれほどまでに危険な行為なのか、二人とも今まで見たこともない程に深刻な表情を顔に浮かべているのを見て改めてわかった。
内心ビクビクしつつ二人の真正面に座った。
「シキ。何か言い訳はあるか?」
「…ないです」
「シキ。まず聞いてほしいのは、私たちがしたいのはお説教じゃないのよ」
「…え?」
うむ。どういうことだろうか?
「あなたが使ったもの…それは称して魔術っていうものなの」
「…ええ。知っています」
「それはね、ある程度の才能がないと使えないものなの。けれど――」
――あなたは使えてしまった。
母さんは悲しそうな顔でさらにこう続ける。
「それは何を示すのかわかるかしら?」
「…?」
なにが、言いたいのだろうか?
「―――王都学園っていうのをあなたは知っているかしら?」
急に話がとんだ。まあ、関係のある話なのだろう。一応は素直に答えておくことにしよう。
「ええ。まあ、話には聞いたことありますよ。現代魔法の最先端が売りのこの大陸の唯一王が設立した学園ですよね?」
本で読んだことがある。
この大陸を収めている唯一王二世が設立した学園。勉学を学び、健康に育て、国の役に立てようという魂胆から生まれたという話だ。
それがいったいどうしたというのだろうか。
「ええ。まあ大体あってるわ。実はね、私たちアリオン一族の掟でね?こういうのがあるの。『魔術を使う子供は学園に入学すること』」
「…母さんつまりそれって」
「ええ。貴方はこの掟に従って学園に入学しなきゃいけない」
…なんてこったい。
僕が一番楽しみにしていたい世界での学園生活が実現できるじゃないか!掟かー、掟なら仕方ないよねー。
「えー。ぶっちゃけ言うと、私たちはこの掟を守る気はありませんでした」
「え?」
「私たちの間にできた大切な子どもなのよ?あそこは表向きはさっきあなたが言った風なんだけれどね、中身はびっくり最初こそ大人たちに囲まれて守られているけれど、年齢を重ねていくうちにだんだんと危険になって行くの。今はだいぶマシになってるらしいけどね」
「…どういうことですか?」
「そのままの意味よ。年を重ねるにつれ、兵士として育て上げられるの。私たちが通ってた頃はひどかったわ」
「ああ。あの頃は治安もかなり悪かったからな。先輩たちは殆ど戦争で……」
……傭兵かよ。と思わずつぶやく。
兵士として――つまりは駒として使われるというのか。
この大陸には、内戦がしばしばおこっている。大抵はすぐに止むのだが、戦争は戦争。死人が出るのが当たり前だ。
つまりだ。
その戦争に母さんと父さんは行かせたくなかった、ということだ。
…でも、僕は――。
「んで、俺たちはずっと話し込んでいたわけだ」
父さんがそこで口を挟んでくる。……。そうかなるほど。だから……。
「だから、夜中にギシギシと音が聞こえたんですね」
「「………………………」」
顔を赤くしてうつむいている。
あれ?…僕は至極純粋な気持ちで聞いたんだけれど、あれ?今話を聞いて僕は実に感動していいたんだが。
父さん母さんが真剣に僕の事を話し込んでくれてたのかとすっかり。
「え?なに?どうしたのさ。父さん母さん。そんな赤くなって」
「え、な、ななななななんでもないぞ!なあ!?ユフィ!?」
「そ、そそそそうよ!さ、さあ。話を続けて頂戴!クロウ君!」
…ああ。僕の悪い勘当たったかよ…。
うんまあ、妹弟大歓迎だぜ。父さん母さんよ。でも今の感動だけは返してくれ。
「こ、コホン。話の続きだが、ユフィと話し合って決めたんだよ。お前に決めさせるってな」
ほんのりと赤い顔をかくさず父さまはそう言った。
情けない顔である。
「さ。ほら。決めろ。とはいえ…答えはもうわかりきってるけどな」
「…父さま。僕は学びたいです。この世界の事。この世界の歴史。すべてを学びたいです。だから――だから僕を学園に連れて行ってください!!」
次の日。
僕は外に出ていた。結構久しぶりの外出だ。爽やかな風を肌に感じながら、すうっと息を吸う。
昨夜の興奮冷めやらず、あんまり眠れなく、少し眠気でふらふらするのだがまあそれは仕方がないというものだろう。
そういえば、昨夜と一つだけ環境が変わったことをここに記しておこうと思う。学園にはいるにもやはり入学試験は必須らしく、来たるべき試験に備えて、一週間後から父さんとリリィさんからそれぞれ剣と魔法を教わることになった。まあ、その試験自体、受けるためには年齢制限があって、その関係上六年後になるんだけれど。その六年間みっちりと魔法を学ぶということだ。そのぐらいしないとあそこには受からないらしい。
因みに、魔術師である母さまはというと『あー。わたしランクSSSだから教えるにも加減分からないから、教えられないのよね。ごめんね?シキ。そのかわり、いーーーーーーーっぱい愛してあげるからねー♡』などといわれて、その豊満な胸に抱きしめられて、危うく窒息しそうになった。と、まあ母さまから魔法を教わるのは相当先になりそうだ…。教われるレベルまでいくかどうかは謎だけれど。
…ちなみに、お母さんに抱き着かれたときにちらりとみえた父さまの目は今でも忘れられない。羨ましかったのだろうか。
一週間か…前までならすぐに感じたんだろうけど、楽しみなものが先にあると思うと、なぜか不思議と長く感じられるよね。感覚的には、誕生日が数日後の子供の気分である。
そこまで考えて、歩みを止めた。
ここか。
僕の家ほどではないが、そこらの家よりは少し大きめな家が僕の目の前にある。表札のようなものには、『ストライフ』と書かれていた。
つまり、此処は僕の初めての友人たるセルフィ・ストライフが住む家である。
「えっと…うーん」
昨日の帰り際、セルフィと強引に遊ぶ約束を取り付けられてしまい、仕方がなく(いや。とてつもなく張り切っているけども)セルフィの家の前まで来たというわけだ。場所は母さんに聞いたんだけれど、あの人方向音痴だから場所を聞くにも不安だったが、さすがにそこまで及ばなかったか。
……そういえば。
僕この世界の一般常識というものを知らない。いや。四歳なのだから、そんなのをきにする方がおかしいのだろうけど、あいにく僕は精神年齢二十歳。気にしなければいけないという妙な責任感が僕を襲うのだ。
「…えっと…どうしよう」
あれか。セルフィちゃーん遊びましょーとか言えばいいのかな。さすがにそれはないと思いたいのだが。此処は無難に門をたたくか?と、門をたたこうとした瞬間、ドアがガチャリと開いた。
「あ!やっぱりシキくんだ!」
「やっほー。セルフィ」
こっそりドアの隙間から顔をのぞかせたのは、昨日の緑髪の少女。セルフィであった。
「じゃあ、いこっか!」
そういうと勢いよくドアから飛び出したセルフィ。
セルフィの恰好は白いロングスカートにゆったりとした薄いピンクの長袖のシャツを着ていて、なんというか、ちょっとオシャレしちゃったーみたいな恰好である。かわいい。
「そういえばさ。なんで僕が玄関にいるってわかったの?」
「それは簡単だよ。わたしの部屋は玄関の上にあるから、そこの窓から見てたんだ」
ずっきゅーーーーん!と、胸に来た。
え?なにこれ。すっごいハートに来たんだけど。何この生き物。超かわいい。抱き着きたくなる衝動を抑えていると、前を歩いてたセルフィが、僕の方に向く。
「ねえ。シキくん。あの…さ」
「どうした?」
「きょ、今日のわ、わわわ私の服。ど、どどどどどうかな!?」
顔をずいっと近づけて、きょどりながらしゃべるセルフィ。ああ、なるほど。女性特有のあれか。
ここはギャルゲー主人公を見習って対応しよう。
「か、かわいいとおもうよ?」
思わず声が裏返ってしまった。ギャルゲー主人公菅。。こんな恥ずかしいセリフを素面で言えるというのか。直接的に言ったせいか、セルフィは顔を赤らめた。
「か、かわいいか…え、えへへへ」
顔をデレデレさせて、そういうセルフィ。
…なんというか、こんな反応みてると「あれ?この女子僕のこと好きなんじゃね?」とかを思ってしまう。まあ、そのせいで痛い目見たことがあるのですぐさま、その邪念を燃やし尽くすことにした。
「で、セルフィ?どこに行くの?」
「ふえっ!?…あ、えーっと…」
少し驚いた後、考えるしぐさをする。
「…もしかして、決めてなかった?」
「うん!」
…いいお返事だこと。
まあうん。子供だししょうがないか。ほほえましい限りじゃないか。
「うーん…じゃあ、僕の家に来る?あそこなら、何かしらの遊び道具もありそうだしね」
「うん!そうする、そうする!」
そして、僕たち二人は僕の家へと方向転換するのだった。