第35話:「作戦――開始だ」
ちゃ、ちゃんと一週間だよね?
追記:どうやら更新は一週間で安定しそうです。
「さて。そろそろ僕らも行くとしようか」
解壁の魔法がかかった壁を前に、EからAクラスの中から一人ずつ選出された、五人がそれぞれ立つ。
僕から見たらほかの四人が歴戦の勇者のように見えるのは気のせいだろうか。まあ、戦いに赴くという意味合いとしてはあってるかもしれない。
「……あっちはうまくやれてるだろうか」
「さあね。まあ、こっちはこっちで作戦通り行こうか」
Aクラスの代表であるハイド君が、こちらの勝利は確定と言わんばかりに僕の背後に立ち、メガネをクイと上げながらそう言った。信頼しているのか、心配はしていないらしい。あの闘技大会での姿は見る影もない程に冷静な姿だ。
てっきり罵倒されるかと思ったけれど、僕のあの演説らしきものから、少しは見る目は変わったようで、少なくとも今は、同じ男として目的を遂行する為にそう言う面倒なことは排除しているようだ。
もしやあの演説はこれを目的としていたんだろうか。
そうだとしたらミカド君とグレンに感謝だ。
「撮影係。撮影機の準備はいいか」
「は、はい!ちゃんと整備はしておきました!」
そう答えるのは、小柄メガネである、中性的な容姿のCクラス代表君。わたわたしている姿は見ていて不安になるが、その眼は闘志に燃えている。
カメラを握る手が心なしか震えているが、その腕は確かだという。
「よし。それじゃあ地図係。道は覚えたか」
「……安心しろ。記憶力には自信がある」
不敵に笑う不健康そうな彼は、Dクラスの代表で、この計画の真の実行犯らしい。それを知るのはレンと数人の男子、そしてレンから内緒にそれを訊いた僕のみだ。
「余計な荷物を持っていくわけにはいかないからな。頼りにしているぞ。……トラップ解除係。お前は大丈夫か」
「多分ね。まあ、頑張るよ」
アバウトに答えたのは、Bクラス代表君。へらへらとしているが、やるときはやるという噂だ。
「努力はしてくれよ。俺の通信配備もばっちりだ。中に入っても大丈夫なよう確認もついている。……さて。じゃあアリオン。頼んだぞ」
「うん。皆。行くよ――《壁よ 見えざる壁よ 今その時来たれり》 解壁」
唱えると、同じく光があふれてきた。先程の事で学んだのでみんな前もって腕で光を防ぐ。数秒した後腕を解くと、そこにはまるでずっとそこにあったかのようにドアが鎮座していた。木製で引き戸式のドア。
そこに手をかけ、
「作戦――開始だ」
高らかに宣言しながら、僕ら五人は中へと這入っていったのだった。
PM 7:25
「――そろそろシキ達は行った頃か」
金髪の少年、グレンは『聖域』の方向を見ながらそう呟く。既に正面ルートを確保した彼は腕時計を確認し、私たちも行く時間か、と腰を上げる。
「(それにしても――それにしても、やはり気が進まない)」
生徒会の役員なので、やりたくなさは倍増だ。やはり実行するとなると躊躇をしてしまう。小さくため息を吐く。
彼ら、真正面組が担うのは、主に先生の搖動だ。
先生方をだます――それだけでも気が進まないというのに。……シキに例の勘違いを広めさせるわけにもいかないので、結局はやらなければいけないんだけれど。
『グレン。そろそろ時間だぞ』
隣に座るBクラスの少年が、話しかけてくる。
興奮しているのか、少し息が荒い。十歳らしからぬ光景に、再び溜息が出てしまう。どうしたと心配をされるが、何でもないと首を横に振る。
周りの男子は、ほとんど闘志に燃えているのを見ると、みんなでつながって団結するという意味では、こういうのもいいとは思えてしまう。
まあ、やはり犯罪なのだが。
「(お母様――今の私の姿を見たらなんというかなあ)」
あさっての方向を向き。そんなことを思い浮かべた。
とっさに「青春してるなっ」と親指を立て、サムズアップする母の姿が脳裏に浮かぶ。
「(くそう。言いそうだな)」
「グレン。大丈夫か?」
そう話しかけてきたのは、シキの共通の友人であるレンだ。その顔は、みんなと同じくしてやる気に満ち溢れていたものの、確かにグレンを心配している。先ほどのハイテンションがうそのようだ。
「ああ。すまない。もう大丈夫だ。貴様も準備しておけ。すぐに向かうぞ」
「了解。がんばれよ。リーダー」
リーダーという単語に、はぁ、と今度は心の中で、ため息を吐いた。
そうはいっても、いつまでもこういう気持ちになるわけにはいかない。気を引き締めなければ、この作戦は成功しないのだ。
その気持ちを込め「よし」と頬を叩く。ジンとした痛みが頬に広がった。
「皆。聞け」
その気持ちを言葉に籠める。
「この任務は、一番大事な役目だ。失敗したら作戦全体がダメになると思っていいだろう。全力で行くぞ!」
男子達が一斉に沸き、同時に立ちあがった。
その光景に少し優越感はあるものの、やはりやり場のない気持ちが、心の中に残るのだった。
PM 7:30
一方こちらは、遠回りのルートで作戦開始を待つミカド達のグループだ。
彼らの役割は、女子たちを食い止めるというもので、その役割故に、顔の整っている男子がそろっている。ただその心に宿すものは、皆共に同じらしい。
「…あっちは盛り上がってるなあ」
みんながどういう風に女子を食い止めるか話していると中、リーダーであるミカドは小さくそうつぶやいた。グレンは乗り気ではなかったが、まあやるときはやってくれる人間だ。それを彼はよく知っている。
グレンとミカドは同郷の出身だ。幼いころからいっしょなので、幼馴染ということになる。それを思うと、少しシキがうらやましくもあった。あんないい女の子が幼いころからそばにいたなんて、ああ妬ましい――彼のシキに対するライバル心はそこに起因しているのだろう。
彼に勝てるなどとは思っていない。そもそも入り込む隙間もないほどに、シキとセルフィはくっつきぱなしなのだ。シキはそのことに気づいていないのだがが、ミカドはそれ自体にも腹が立った。彼を初めて見て、聞いたときからまだ短い時しか立っていないが、やはり彼とは友人にはなれそうもない。
彼はそうは思っていないようだけれど――鈍感というのは、やはり敵を作りやすいのだろう。
「(ちっ。またイライラしてきた)」
昨晩のことからそう時間もたっていない。感情の整理をしておくべきだったな、と今更ながら後悔する。
「(セルフィさんの裸か……)」
ぐふふ、とミカドはあくどい笑みを顔に浮かべた。今はそのことに集中して、ほかのことを忘れようとしているのだろう。
そのあたりで、思考をいったん中断し、壁にかかる時計をちらりと見る。今頃、セルフィさん(Aクラス女子)は風呂に入ろうとしているところかと、想像すると、再びにやにやとしてしまう。断続的にやにやとする姿は、犯罪者のそれである。
その姿を収めた写真を入手するためには、女子の食い止めもかなり重要なのだ。と、やる気を再び注入すると、ミカドはぐっと立ち上がる。
その姿を見た男子達も彼にならい同じくして立ち上がった。
無言で、視線を交わすと、彼らは、まるでずっとそこでそうしていたかのようにおしゃべりをしながら女子の部屋を目指す。
「(頼むぞ……アリオン)」
PM 7:30
そろそろ二人とも任務についてるころかな。きっと成功してくれると思うんだけれど…。そんな気持ちを抑えつつ、暗い道を僕の光よで照らしながら、慎重に突き進んでいく。
この通路は、かなりのトラップが仕掛けられていて、女子風呂までそこまで距離はないんだけれど、慎重に進まないとかなり危険なのだ。
どれほど危険かというと、一回トラップ解除に失敗してしまったとき、地面がいきなりどこにつながっているのかわからない落とし穴と化したといえば、こうも慎重になるのもわかるだろう。
さらに、魔法などで無理に突破すれば、この穴のすぐ横に設置されている感知障壁に接触して、先生たちに気づかれてしまうのだ。
「……よし。罠解除成功。進むよ」
Bクラス代表君がほっとしたように嘆息する。
「…遠いね」
「仕方がない。罠解除も楽な仕事じゃあないのだからな」
容姿通り体力がないのか、Cクラス代表君がカメラ片手にそうつぶやく。
十五分も立ち止まっては進みを繰り返しているので、そう思うのも無理はないのかもしれない。実質進んだ距離はそこまででもないのだけれど。
「……こっちだ。アリオン」
Dクラス代表君が言う。指さす方向をバケツリレー方式で前に伝えていき、先頭にいるBクラス代表君に伝えていくという形だ。
先頭にたどり着いたようで、少し疲れたような「了解」という声が、前から聞こえる。彼が今回の中で一番疲れるのだろう。
「――通信が入った。つなげるぞ」
僕の前にいるハイド君が、唐突にそういう。定期報告の時間かと腕時計を見る。前もって各組の通信係に頼んでおいたのだ。もしもなかったときはその時はトラブルがあったと考えてくれということだ。どうやら一回目の定期報告までは順調らしい。
ハイド君は耳に装着した魔導具に手を伸ばし、カチリと音を鳴らした。おそらくを入れたのだろう。
「――もしもしこちら実行組。……よし。わかった。ありがとう。引き続き頑張ってくれ」
少しの会話の後、さっきと同じくして電源を切った。
「どうやらグレンの方はうまくいってるとさ」
周りからは、安堵の声が聞こえる。
そうか…よかったと、一安心していると、再び通信が入ったようで、ハイド君は先ほどと同じく電源を入れる。
「――こちら実行組。…………そうか。ありがとう引き続き頼んだ。どうやら、美香Ⅾふぉの方もうまくいってるみたいだ。羨ましいことに、ミカド無双らしいが」
各クラスからのイケメンをほぼ動員したというのにそれなのか。ミカド君の人気はやはりすさまじいらしい。
皆も嬉しそうな声を上げる反面唇をかみしめている。
「……皆止まって。罠だ」
みんな一斉にぴたりと止まる。
「本当に多いな…ここ」
「資料によれば、先生を撃退するために設置されたものらしい。まあ、気づかれたことはないというがな」
「まあ、気づかれたら、ここは既に封鎖されているだろうしね。それでもこの用心ぶりはすさまじいよねえ。いったい誰が作ったのだろう」
「……過去の有名な生徒が作ったという話らしい」
雑談をしつつ、罠解除を待つ。
数分した後、再び前の方から「よし。進むよ」という声が響く。その声に従って、行進を再び始めた。そんなことを繰り返しながら、2回目の定期報告で今度も大丈夫だと報告を受ける。みんな露骨に安心しつつ、通算いくつになるかわからない罠解除へと差し掛かったところだ。
「よし」
Dクラス代表君曰く、もう半分まで差し掛かったという言葉で再び気合を入れた僕たちは、罠解除の合図ともとれるBクラス代表君の声に反応し、進む。その瞬間だった。
ビービーという音が、突如壁を隔てた向かいから聞こえる。
「な、なんだ。一体どうしたんだ!?……つ、通信だ。いれるぞ。――もしもし!?いったいどうしたんだ!」
外の警戒音ともとれるその音に、戸惑いを隠せない僕たちは、通信から漏れる大きな声に、耳をふさぐ。
「……な、何…だと!?…ああ。了解だ。落ち着くように指示しろとミカドに言ってくれ。ああ。グレンにも送通信を回せ。この時のための作戦もできているから、適切に処理するんだ」
魔導具の電源を切ったハイド君は、急に悔しそうな声を上げた。
「ど、どうしたんだ?」
「どうやら、警報が鳴ってしまったらしい。ここがばれるのも時間の問題かもしれない」
「な、なん――まさか!」
Bクラス代表君は、何かを思い出したかのように、今解除したばかりの罠を見る。
「くそ…しまった。この罠だけ違うものだ。解除の仕方を間違えたんだ!」
「なんだってそんな――」
「今まではずっと同じものか、少し構造が違う程度だったんだが――いや、ごめん。言い訳はしないよ…すまない」
どうやら、罠の解除を間違えるというミスをしてしまったようだ。こうなるのも想定内だったのだし、過ぎたことなのだ。みんなで彼を慰める。
しかし、こうなったということは、みんな作戦の第二次校に移るということだが――はたして、大丈夫なのだろうか。
漠然とした不安を抱えつつも、僕らは再び歩みを進め始める。
こうなったのだったら、もう時間はわずかしかないのだ――。
シキ:覗き実行犯に仕立て上げられた表のリーダー。カワイソス
グレン:そんなに乗り気じゃないらしい。生徒会役員解任が地味に怖い
ミカド:セルフィ厨過ぎて逆に引く
ハイド:個人的にはこういうキャラ好きです
幼馴染:昔から必ずと言っていいほど不遇な扱いを受けてきた古き良きヒロイン格
リーダー:責任を押し付けられる可能性は大
撮影係:左手に持つ高級撮影機で一瞬の隙も逃さない
地図係:正直いらない
通信型魔導具:実はどうやって魔導具同士が繋がっているのか解明されてない、不思議魔道具。製造過程はトップシークレット