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よくある異世界転生モノ  作者: 向ヶ丘こよみ
僕らの研修旅行とストーカー
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第32話:「鈍感」

用事があって2、3日投稿できませんでしたすみません

 図書館に入り、二人を探し出しようやっと講堂へと向かう。アリア王女との質疑応答とやらに遅刻している可能性があるので、流石に急がなければ、と急ぎ足で廊下を歩く。

 二人はがなんでこんな急に?と、聞くが、

アリア王女は見つかったんだと言うにも彼女からは釘が刺されており、アリア王女を僕が見つけたということは言えない。

 故に、彼らには制限時間があるんだよ、などと適当に嘘をついておきつつなお歩いていく。

 そのせいか、少し大きめのコツコツと三人分の足音が廊下に響く。

「ちょ、ちょっともう少し遅く歩けないの!?」

 エレンの一際大きい声が響いた。どうやら彼女は僕以上に体力がないようで、既に頬を染め、肩で息をし始めていた。こういう風に表現するとすごく卑猥に聞こえるから日本語とは不思議である。……日本語じゃないけど。

 数分後、最終的には歩けなくなったエレンを背負うことになったが、何とか特に迷うことなく講堂へとたどり着くことができた。なぜか生徒のほとんどは講堂に居て、それを少し疑問に思いつつエレンを降ろす。どうすればいいのかわからないので、とりあえずはシルク先生のもとへと向かうことにしよう

 先生に聞いてみれば、どうやら、皆は四十分くらい前にはここに戻って駄弁っていたらしい。その中で僕ら三人は最後だったようで、先生も迷子になったんじゃないかと心配をしていたようだ。

 先生には一言謝り、どうやらどこに座ってもいいらしいので、僕ら三人は適当なところに座る。

 講堂の前の方にはさっきの大臣が手にタオルのようなものを持ち、汗を拭きつつ、舞台そでの方に向かって目を閉じ誰かを叱っている。恐らくは先ほど戻ってきたアリア王女だろう。きっと逃げ出したことを怒られているのだと思うんだけれど……あ。なんか股間部押さえて舞台そでに消えて行った。おそらくは例の古代魔法をかけられたのだろうが……ご愁傷様です。大臣。

 多少威力は抑えられてるとは思うが、やはり股間部に激痛とは考えただけで恐ろしい。

「シキ?なんでそんなすっごい汗かいてるんだ?」

「いや……うん」

「大丈夫かい?さっき僕を背負った疲労が来てるの?」

「いや、そういうわけじゃないから大丈夫」

「それにしても体力ないお前がよく頑張ったよな。うん」

「そこまで距離はなかったけれど、まあ疲れたは疲れたよ」

 結構足にきてる気もするが、たいていのことは治療(キュアー)で事足りるから大丈夫だろう。

「それにしてもアリア王女どこにいたんだろうな」

「まあそれは少し気になるよね」

 お前らと同じ部屋にいたんだぜ、とは口が裂けても言えなかった。

「シキはどうしてここにアリア王女が来てるってわかったんだ?」

「え?あーうん。それはその、あれだ。勘だ」

「勘で僕はあんなに走らされたのか」

「まあいいじゃん。結果オーライだったしね」

「そうだけど…」

 と、そこで拡声器のような形の魔導具を手に持った大臣が壇上に上がり、それに反応して雑談をしていたほとんどの生徒が一斉にそちらを向き、アンカー先生もそれに準じて「静かに」と大声をはる。それはもう少し前に言うべきだったと思うんだが。

「皆さん。この度はご足労をおかけして申し訳ありませんでした」

 案外優しそうな声が響く。

 ……顔が若干青い。まだ痛んでるのか。

「王女は昔からこういう癖がありまして……いえ、こういうのはいいですね」

 今度は横の舞台そでをちらちら見だした。早くしろ、というアリア王女の殺気か何かだろうか。

「では、皆さんお待たせしました。アリア王女との質疑応答の時間です」

 小さく「アリア様どうぞ」と大臣は中腰で拡声器を舞台そでの方へ渡す。それに反応し、待ちわびた、という表情とともに、アリア王女はゆっくりと優雅に舞台そでより出てくる。

 拡声器をもらうだけもらい、ぽいと放り投げたアリア王女はゆるりとお辞儀をすると小さく咳をする。

「皆さん。このたびはご迷惑をおかけしました。前日の仕事疲れでわたくし寝坊をしてしまいまして…」

 顔を少し赤くしながらそう言う。それに対し生徒はまあそれならしょうがないか、と若干堅かった空気が一気に和らぐ。

 それを嘘だと知っている僕としては、苦笑いを浮かべる事しかできなかったけれど。

「さて。今回は質疑応答問という事でしたよね?わたくしこういうことは苦手なのでお手柔らかにお願い申し上げます」

 今度はえへへ、と表情を柔らかくして、照れ笑いを浮かべる。雰囲気はさらに柔らかく変化する。彼女の本性をしている身としては、もはや呆れさえ出てきている。


 数十分にも及んだアリア上王都生徒たちの質疑応答の末、ようやく解散となった。

 途中ちらちらと僕の方を見て、目が笑っていない表情で笑いかけられたけれど、あれはもしかして僕にも質問をしてほしかったのだろうか。

 そうだとしたら悪いことをしたかもしれない。もう会うことはないだろうが、今度会う機会があれば謝っておくとしよう。

「帰りもあの魔方陣か…やだなあ…」

 エレンがげんなりとした表情と共にそう言う。

 どうやら彼女も転移酔いの被害者らしい。酷いようなら治療(キュアー)―掛けておくから安心しな、と声をかけると、にヘラとした表情で「ありがとう」と言われる。不覚にもきゅんとしてしまった。

「――!?」

 不意に。僕に例の視線が突き刺さる。

 冷たく、僕を確かに見据えるような視線。先程アリア王女から感じたものより明らかに強い殺気の視線。ついさっきどころか昨日の公判ですらこの視線は感じなかったのに、なぜ急に?おかしい。僕が誰かから恨みを買っているというならわかるが、此処まで強い殺気を感じる程恨みを買った覚えはない。

「どうした?シキ」

 レンが心配したように僕に声をかける。

「シキ君?やっぱりさっきの疲れが?」

「だ、大丈夫。大丈夫だから」

 明らかに声は震えている。大丈夫には聞こえないだろう。しばらくしてからようやく、視線は消える。あの視線は一体何だったんだろう。飛行船内のときは整列をしていたため、どこから感じたかはすぐにわかったのだけれど、今回はばらばらに並んでいたためだろう、どこから感じたかなんて、まったくわからなかった。

 今回の研修旅行は、気をつけておくとしよう。あと、念のため、シルク先生に相談もしておいた方がいいかもしれない。

「本当に大丈夫か?シキ」

「あ、ああ。もう大丈夫だよ」

 実際は大丈夫なんかじゃなかったが、とりあえずはそうやって気丈にふるまっておく。その様子をエレンが目を細めつつ見上げてくる。なんだろう。見透かされているような感覚だ。

「シキ君。何かあったら相談して、ね?」

 僕をじっと見つめるその眼を恥ずかしさから目をそらし、その問いには一応了解の意を示すと、エレンは満足そうにうなずいた。

「カップルみたいなことしやがって」

 邪魔者を見るような視線を僕に向けるレン。

「カップルって」

「うまいこと言うなあレン君。カップルだってさカップル」

 くすくすと笑いつつなぜか意味深に「カップル」を繰り返す。若干恥ずかしい。さっきよりも恥ずかしい……。

「ほらお前ら。移動もう始まるぞ」

「うっわマジで?ちょっと待ってよ。心の準備してないよ?」

「キャラ変激しいなおい」

 こいつこそ情緒不安定というべきじゃないんだろうか。

 …とはいっても、僕も先ほどの転移酔いを味わった身としては油断はできないんだけれど。…………治療(キュアー)を即時にかける準備をしておこう。



 ――皆疲れもあったのだろう、僕、エレン、レン以外地獄絵図の一部と化したのは言うまでもない。



「今日はひどかったなあ」

「あはは。本当にね」

「主に最後だな」

 レンは例の魔法、僕とエレンは治療(キュアー)の対処が早かったためかあの地獄をみずに済んだが、周りの人等は、ホテルに着いた途端しかばねと化していた。……心なしか、ホテル内が心なし爽やかな匂いで包まれている気がする。

 用意がいいなあ……。

 ああ。あそこにいる先生群真っ白に燃え尽きてるよ。シルク先生も笑顔を保っているけれど、あの人も真っ白だ。

「よう。貴様らも無事だったのか」

 談笑をしていると、一つの大きな影が近づいてきた。

 グレンだ。「も」ということは彼も治療(キュアー)を自分にかけて最悪な事態を防いだのか。

 そう言えば、いつの間にかグレン君今朝の暗い表情から戻っている。

「ストライフとロックハートも無事だったぞ。ミカドは駄目だったが」

「ああ……ミカド君アウトだったかー……」

 見たくないな。ヤンキー風の男子が口からアレを出している瞬間は女子卒倒ものだろう……いや、女子は既に酔いで倒れてはいるのか。

 しかしセルフィとアイちゃんは無事だったのか。うむ。よかったよかった。美少女のそういう瞬間なんて一部特殊な性癖を持つ人以外に需要などないからな。

「あ。シキー」

「アリオンくーん、タカミチとアルケミス君と…あと知らない子ー」

 今度は丁度話題に出ていた二人がやってくる。少し表情は暗いが、変化と言えばそのくらいだろうか。

 転移酔いがひどかったのかもしれないな。

「うー。シキー治療(キュアー)かけてー」

 なぜか涙ながら近づいてくるセルフィ。どことなく昔に戻ったような感じである。かわいいんだけれど、一体どうしたんだろうか。

「あはは。なんかセルフィ転移後の酔いをアルケミス君に直してもらってからその状態なんだよね」

「私は特に何もしていないんだけどな」

 幼児退化か何かか、ものすごいすり寄ってくる。まるで小動物のようで、無意識のうちに頭を撫でてしまう。

あー畜生かわいいな。

「むー。顔緩めすぎじゃあないかな?シキ君」

 と、エレン。

「いやーだってかわいいし?」

「ほーう。さっき僕がありがとうって言ったら顔デレデレさせてたくせに」

「…は?」

「え?いや、あれは…まあ……え?あれ?セルフィ?なんか小動物から獰猛化した肉食獣みたいな目つきに」

「シキ君ッ!」

「あ!懐かしいな君付け――あ、ごめんなさい。茶化さないから睨まないでください」

「どういうことなのかな?そちらのかわいい女の子にデレデレしちゃって」

「で、デレデレはしてねえよ!」

「してたくせにー」

 ついにはエレンが背中から抱き着いて腋あたりから顔を出す。

 オ、凹凸は少ないけど女子特有の柔らかい肉付きが――。

「してるじゃない」

「ごめんなさい!してました!」

 いや、でもだな。かわいい物には反応しちゃうのは男の(さが)でもあり僕個人の(さが)でもあるのだからしょうがないんだけれど。

「昔っから、かわいい物にはすぐ反応しちゃし!」

「お母さんからの遺伝だからしょうがないだろうに」

「~~~~!しょうがなくないです!」

「ごめんなさいい!」

 なんだろう。

 リリィさんのような覇気が彼女にある気がする。

「まったくもう!まったくもうだよまったくもう!」

「いや、もう既に何で怒ってるのかわからないんだけど」

 はあ、レンと後ろにいるエレン、グレンとアイちゃん全員からの溜息が聞こえる。

「鈍感」

「鈍感だね」

「鈍感め」

「なんでえ!?」

 いや、確かに僕はセルフィが何でおこってるのかわかってないけれど、そこまで言わなくてもいいだろうが!

 ひどい奴らだ。

 ――結局なぜ起こっていたのかわからないままセルフィにフライング土下座をかましたのは、一生の思い出になりそうだった。

シキ:鈍感

セルフィ:ヒロインなのに出番が少なめ。いろんな意味で危うい

レン:正直シキが羨ましい

エレン:シキlike。loveではなくあくまでlikeらしいのであしからず

大臣:

アリア:


拡声器型魔導具:いわゆるメガフォン。少ない魔力で高威力。所謂省エネ型。値段は高め

殺気の視線:気配を察知できるシキもシキでおかしい

真っ白:文字通り文字通り以上の意味で真っ白に燃え尽きる

フライング土下座:上級テクニック。これを見た者はたちまち相手を許すという伝説の奥義



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