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よくある異世界転生モノ  作者: 向ヶ丘こよみ
僕らの研修旅行とストーカー
33/37

第31話:「そこでなら…別にみていいから」

最後の三千字は2時間クオリティー

やっぱり1日おきになっちゃいそうですね


※現在試験的に投稿時間の調整を行っています

 アリア王女――本名アリア・メガラニカ・レニース。

 唯一王三世の七女。浮遊都市オリオンの土地を治める、王でもある。最近は裏繁華街の撲滅に力を入れているという話だが、よく知らない。

 性格は良いと聞く。民を思いやり、統治力も非常に優れていて、オリオンを治めてきた歴代の王女の誰よりも発展速度が早かったらしい。

「おい平民。聞いているのか」

 その王女は今、目の前で、僕をカラスがつついて散乱したゴミを見えるような目で睨んでいるわけで。……そんな事前情報などとはまったくもって当てはまっていなかった。

 その道のプロなら狂喜乱舞してしまいそうな目線に僕は彼女の方を向いたままそのままかたまってしまう。いち早く逃げたいのだが、まるで石になったかのように体は動かない。

 ただただ冷ややかな視線を浴びっぱなしで、彼女の問いにすら口を開くことはできなかった。

「ちっ。平民風情が…私を無視しているのか?」

 急かすようにアリア王女は一歩一歩近づきながら言う。

「……ああ成程。なに。そう緊張しなくともいい。私は、此処で何をしているのか聞きたいだけだ」

 ついに僕の目の前にたどり着いたアリア王女が僕の膝を足蹴にし、顔をずいと近づける。やはり王家の血筋なだけあって顔が整っていている。揺れる小麦色の髪だったりに思わず見とれていたい気分にはなったけれど、それよりも今は、彼女から感じる殺意の波動が問題であった。

 この状況果してどうするべきか。考えるんだ僕。実質二十数歳の頭脳をフル回転させろ。

 魔法をぶっ放すか?……いや、王女っていうくらいだし、やる前にやられそうだ。

 じゃあ、今一瞬で逃げるか?……駄目だ。僕の顔はばっちりみられてしまっている。大陸から逃亡しない限り、殺されてしまうきがしてならない。

 だめだ。何をしてもBADENDの未来しか見えねえ。

 というかちょっと待ってくれ。僕は図書館に入ってだけなのに何でこんな目にあってるんだ?名目上とはいえ、今目の前にいるこいつを探し出すためでもあるというのに。

「ふうん?何?もしかして口を割らない気?やらしい感情でもあったのかな?」

 やらしい?

「例えば、ここにある本もって帰っちゃうとか。今アンタの目の前にある魔導書は全部希少中の希少。古代魔術が書き記された本…さぞ高価よ。アンタみたいな平民は喉から手が出る程……ってあら?」

 これ全部古代魔法の魔導書だったのか!?うっわ―まじかよ。ほんとにあったのかよ。すっげー。僕。古代魔法書き記してある本に触っちゃったよ。しかも読んじゃったよ。

 凍りつかせた表情の下で狂喜乱舞をしていると、アリア王女は何かに気付いたかのように声を上げた。途端、彼女は、僕の制服の胸ポケットにある校章をまじまじと見始めた。

「はぁん。成程ね。アンタ、平民ぽいと思ったけど、王都学園の学生だったのね」

 え?気付いてなかったのか?知ってて平民平民言っているのかと思っていたんだけれど。

「さては大臣の差し金か……わたくしが今日のあれが面倒くさいから逃げたと気づいたのね……」

 今日のあれ?……ああそういえば、もとはといえば、質疑応答のために王朝まで来たんだったよな。ああ。なるほど。それが面倒だと、そういっているのか。

 この王女よくこの国の長が務まってんな。

 まあ、スレるお年頃なのだろう。……何歳か知らないけれど。見た目的には僕らと同年代だと思ったんだが、どうなのか。後で調べておこう。

「ま、それは今はいいわ。今はアンタよ」

「くっ……」

「あら?なによ。ちゃんと声出るじゃない」

 やっと吐き出した言葉にそんな風に言わなくてもいいじゃんよ。

「さ。喋れるなら言ってもらうぞ。アンタはいったい何しにここまで来た」

「……別に」

 本読みに来たって言ってもどうせ信じられないだろうから、とりあえずはそう言ってお茶を濁す。まあ、この手の誤魔化しはすぐにばれてしまうんだけれど。

「ふうん?ああそう。このわたくしにそういう態度をとるんだ。へえ……」

 にやりと怪しく笑ったアリア王女は、ようやく足蹴をやめ、机の上にあった本を一冊手に取った。表紙の文字どころか色すらも擦れ消えているほどにボロボロな一冊である。

 それにしても痛かった…これ太ももに跡残ってるんじゃないかな。地味にこの王女ヒールのかかと部分当ててやがってたし。

「この魔導書に書かれている古代魔法で、確か解析済みなのが一つあったのよねー……」

 そう言うとパラパラと本をめくる。

 解析済みの古代魔法は確かにあるけれど、それが載っている魔導書は確かかなり少なかったはずなんだけれど、そのうち一冊が目の前にあるのか。

 うっわ…すっげえ……おらワクワクすっぞ。

 ……待てよ?今古代魔法を確認していったいどうするんだろう。僕に放つつもりか?……でも、それににしても相当な技術が必要だと聞く。王家の王女とはいえそれはできるのだろうか。普通に考えて無理だな。うん。

「あったあった。……この古代魔法は、古くより拷問に使われてきたというわ。何でも、女性が使えば男性に、男性に使えば女性にしか効かないっていう、変わった魔法らしいのよね。魔法名は《ルクスリア》」

 へー。古代魔法は変わってるっていうけれど、そんなのがあるのか。……というかちょっと待て。この人今拷問つったか。そんな魔法を僕に放つ気かよ。

 まあどうせ出ないからいいんだけど。

「あら?ずいぶん余裕ね。……あ。どうせ出ないって思ってるんでしょ?残念ね。王家のほとんどの人間は超人的なほどの魔法才能を持ち合わせていてね。解析されていないならともかく、解析済み且つ、どういうものか、と理解していればすぐにできちゃうのよ」

 ……え?いや、え?ちょっとまておい。

 もしかしてあれか。この人らは仙人級魔法才能でも持ち合わせているのか?いや、さらにその上か……えっと……何だったか忘れたけど。

「ちなみに、女性が男性に使うと、股間部に鈍痛が――」

「ごめんなさい!さっきのは誤魔化しでしたああああ!!」

「よろしい」

 股間部に鈍痛ってある意味最大の拷問じゃねえか。恐ろしすぎるだろ古代魔法。古代魔法に対する興味が少し失せちゃったよ。

「で?本当はどうしてここにきてたのよ」

「その……本……読みたくって」

「ふうん?やっすい言い訳だな」

 くっ。やっぱりそうなるか。

「はあ。ま、いいわ。とりあえずはそうだとして、アンタに聞く。大臣がアンタら王都生徒を動かしたの?」

「え?あ、は、はあ。そうですけど」

「くっ……やっぱりね」

「その……王女は」

「様をつけろ」

「王女様!えっと、あなたは何で質疑応答に出ないんですか?」

「さっきも言ったでしょ?面倒だからよ」

「でも」

「でももなももない」

 なもってなんだよ。

「わたくしは面倒だからでない。それだけ」

 面倒っていうけれど質疑応答なんてすぐじゃないのか。

 そう言おうとしてやめた。何も知らない人間が知ったようなことを言ったらきっと怒るだろう。さっきの拷問呪文をかけられてしまうかもしれないし。

「さ。お退き。いつまでもそこにいたら邪魔よ」

 その言葉にゆっくりと腰を浮かしかけた途端、ドンと肩を押された。よろめくが、少し横移動しながらバランスを取りつつ、ソファー着地することに成功する。

 あっぶねー。この王女なにするんだ、と憤りを感じながら、横を見ると、僕がさっきまで座っていた場所に王女が座っていた。成程、あそこが王女のベストポジションだったのか。

「そこでなら…別にみていいから」

「え?」

「そこでなら、別に本読んでてもいいって言ったのよ」

「あ、ど、どうも」

 さっき僕が言ったこと、信じてくれてないと思ったが、よかった。

 ともあれ、ようやく魔導書をゆっくり読めるのだ。お言葉に甘えて読み始めることにしよう。と、一冊の真新しい本に手をつけようとすると、

「あ。その本は今からわたくしが読むから、やめて頂戴。初心者ならこれがおすすめだからこっちを読んでおきなさい」

 と、手を弾かれる。代わりに渡されたのは、ぼろぼろの色あせた表紙――さっき王女が放とうとした拷問魔法の書いてある魔導書であった。

「古代魔法、好きなんでしょう?それ読みやすさで言えば一番なのよ」

「あ、ありがとうございます」

 そういって、若干びくびくしつつ、読み始める。……ところどころにきれいな文字で書き込みがしてある。おそらくアリア王女のものだろう。いいのかよ。貴重な本なのに…とは思ったが、どうやら最近巷で話題の魔法で消えるインクを使っているようだ。本に書き込みは許せないが、まあ、一応は消えるし、この注釈のおかげで多少は読みやすいので良しとしておこう。

 書き込みには、図の解説だったりがされていて、展開される魔法陣の絵もちゃんと描かれている。

 注釈によれば、どうやら、この魔法は唯歴が始まる前に作られたもののようで、主に性犯罪で捕まった罪人の拷問用に開発されたという。

 男性ならば股間部を10回全力で蹴り上げた痛みに握りつぶされたような痛みを感じ、女性ならば、破瓜を10回まとめて全力で破るような痛みに加えて、こぶしを突っ込まれたような痛みを感じるという。……どこに突っ込むかまでは言わないが。

 なんというか、すっごいいたそうだ。それ以外表現のしようがない。

 ところどころにある王女の注釈で、リアルさが増していく。きっと誰かに試したりしたんだろうなあ……ひょっとしてあの大臣かな。

 ご愁傷様です。

「さて」

 心の中で黙とうをささげていると、本をぱたりと閉めたアリア王女が急に何か言い出した。今から詠唱を覚えようと思ってたのに。

「そろそろ行くわ」

「え?」

「あれよあれ。アンタたちの質問に答えるっていうやつよ。さすがにこれ以上は少しまずそうだしね」

「あ、あれ?面倒じゃなかったんですか?」

「そりゃ面倒よ。でも仕事は仕事。行かなくちゃいけないのよ」

 すっきりしたのか、少しさっきより表情が柔らかい。……もしかして、この人本を読んでストレスの発散をしていたのか?

 その顔は、すぐにきりっとしたものに変わる。

「ほら。行くわよ。結構時間もぎりぎりだしね」

 言われて気づく。ついさっき図書館に入った時からすでに1時間と数十分が経過しているのだ。これは結構大ごとになってそうだし、たしかにさっさと行ってしまうに尽きるかもしれない。

「なんだかんだでアンタにも迷惑かけちゃったし、悪かったわね平民」

「ど、どうも……」

 言う割に呼び方は平民固定である。

「さ。行きましょう」

 立ち上がったアリア王女についていく為に、僕も慌てて本をテーブルの上に置き、席を立つ。あのふわふわは心地よかったんだけどなあ、と心残りはあるが、あっちに目を引かれていたらおいて行かれそうな勢いでアリア王女は先にどんどん進んでいく。

 早いなアリア王女。そのドレスでどんだけ速度でてんだよ。

 王女の早歩きに僕は駆け足でついていく。どことなく執事とお嬢様のような構図だ。

 あっという間に図書館の入口へと戻ってきた。僕が来た時よりもはるかに速い。早歩きのおかげというのもあるが、迷いもせずまっすぐ歩いたおかげでもあるだろう。

 王女はおそらく常習犯だな。

 名推理だよ僕。

「さ。じゃあ、私はここで別れるわ。

「え?」

「だって一緒に来たら、その…あれよ。面子とやらがあるから。だから、あんたもあんまりほかの人には言わないで頂戴」

 ああ成程。そういうことか。まあ、わざわざ話すようなこともないけれど、一応言動には気を付けておくとしよう。

「はいわかりました……」

 そう言うと、「そ、ありがと」と少し顔をそらしつつそう言う。

 照れ隠しだろうその行動をほほえましく思いながら、

「その、お気をつけて」

 と、一応定型文を言っておいた。

「クスッ。自分の家みたいなものなのよ?何を気を付けるのよ」

 それもそうか。

 とそこで、アリア王女が、ふと何か思いついたような表情に変える。

「名前」

「はい?」

「だから名前よ。平民っていうんじゃかわいそうだから、名前で呼んであげる」

 やはりくすくす笑いながら、僕にそう問うた。

「シキ――シキ・アリオンです」

「…え?アリ、オン?」

 僕が名前を言った瞬間、アリア王女は驚愕に顔を染める。

 ああ。そっかなるほど。英雄の名前だからだろうか。まあ、この世界だと珍しいらしいからな。アリオンという家名は。王家ともなれば、数年前のこととはいえ聞き覚えがあったのかもしれない。

「いえ。きっと思い違いよ。まさかこの子が――」

 ……なにやら反応がおかしい。この子が、と明らかに僕自身を言っている。となると、僕の名前自体にそう反応しているのか。僕の名前に聞き覚えでもあったんだろうか。

「えっと…王女、さま?」

「え?あ、ああごめんなさい」

「大丈夫ですか?」

「え、あ、ええ。大丈夫」

 ダウトだ。

「んん。じゃ、迷惑かけたわね。えっと、シキ。質疑応答の時に会いましょう」

 若干早口でそういうと、アリア王女は逃げるようにそう言い放って、すごい速さで、廊下の向こうへあっという間に消えていった。

 ……どことなく謎を残すような感じだけれど、一応はこれでよかった…んだよな。

 自分の中に感じる嫌な予感が……外れるといいんだけれど。

 少し眉をしかめつつ、エレンとレンの回収をして、質疑応答の場へと向かうことにした。


シキ:男の悲しみを再確認した

アリア:《ルクスリア》を初めて見た時は拳の、の部分で震え上がったそう。ちなみに現在思春期真っ只中の14歳

大臣:アリアの《ルクスリア》を日常的に食らう犠牲者。現在独身らしいが、このこととの因果関係は不明


古代魔法:何かとエグいものが多い。身体中に虫を這わせるものから術者を中心とした大爆破をおこすものまで多数

ルクスリア:男は女に女は男にかけることができる拷問魔法。戦闘用では決してない。魔力の調節による強弱は設定出来ないらしい

おらワクワクすっぞ:非常にわくわくしている状態。野菜人にはなりません

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