第30話:「おい。そこの平民」
ぐっすりでした
「各クラスで団体行動をしつつ、探索するのだ!いいか。早急に見つけろ!」
アンカー先生はそう指示をとる。それに従って各々4人から3人のパーティーを編成しつつ、探索をし始めた。
どうやらかなり事態は深刻なようである。
……と、そんな中、僕とレンは二人パーティーを組んで、配布された地図を手にどこへ行こうか博物館にきたような気分で相談していた。だってまだ見てないところとかあったんだもん。
ホールとか応接間とか図書館内とか。…前者の二つは割とどうでもいいか。
「まあ、誰か見つけてくれるでしょ」
「……思いっきり他人事だな。おい」
だって他人事だしね。
「はぁ……まあ、付き合うけどよ」
「さっすがレン。付き合いがいいね」
「べ、別に付き合いがいいわけじゃないんだからね!」
「まさかのツンデレ!?」
こいつも多少テンションが高いのか、お互いにクスクスと笑いつつ、とりあえずはホールへと向かうことにした。
それにしても、本当に豪華な建物だ。目がくらみそうで怖い。僕の光よをここでやったら反射のしすぎで真っ白になってしまうかもしれない。と、それほどまでにきらびやかで豪華だ。
もしかして、七女のアリア、とやらの趣味だろうか。王都にはこんな目立つような装飾のある建物はない。威厳とかそう言うのだったら、キリシア先生が異端なのかもしれない。たしかあの人は五女だったか。
……多いな王家の娘。
最低でも七女とは。王様盛りすぎじゃないだろうか。…ちょっと言い方が悪いか。
歴代の唯一王含め、一世から三世までとかって、やはり側室持ちなんだろうか。…ハーレムか…。
「何ニヤニヤしてるんだ?」
おっと。レンに突っ込まれた。顔に出すぎていたか。
思考はその辺で切り上げ、少し急ぎ足で、ホールへと向かう。道中何度か迷ったものの、試行錯誤の末、ようやくホールへとたどり着いた。
「や、やっと着いた……」
「ようやくだな」
だから何でお前は全然疲れていないのか……ああ。そう言えばお前電気信号が何たらって言ってたな。うらやましい。
しかし、広い。バスケットコート四つ分はあるんじゃないんだろうか。そして内装だ。四神をあしらったのであろう彫り物が四方に設置してあるのが非常に印象的で、天井に設置された四つの巨大なシャンデリアは、まるでルネサンスの宮殿のようである。
シャンデリアをよく見てみると、あれは火を灯しているわけじゃなく、光よを丁度いい明るさで火を再現しているようだ。安全面を考慮したのだろう。前世で見たことある、電気を使うようながっかりシャンデリアのようなものか。
「でも…」
「ああ」
ここには隠れそうなところは存在しなかった。
大きなテーブルに大量の高級そうな椅子。見当たる置物は、それぐらいしか此処には存在していない。高そうな棚と、もっと高そうな花瓶が存在するが大きさ的にあそこに隠れるのは不可能だと思われる。
ここには恐らくいないだろう。
一応壊さなければどこを触ってもいいということにはなっているが、これなら触らずともわかる。ま、興味を引くものは存在しないし、さっさと出てしまおう。
「お前…王女様さがし二の次になってるだろ」
「どうでもいいしね」
「意外にひどいことを言うね」
その発言に突っ込みを入れたのは、今朝話しかけてきたクラウディアさんであった。地図片手で、周りには友人らしき姿は見えない。どうやら一人だったようだ。
意外にひどいことを、と言うが、そう思っているのは僕らだけじゃないと思うのだけれど。
「今の此処の人等に聞かれてたら学校の退学は避けられないよ?」
「おっと」
確かにそうか。不敬罪に問われそうである。ここにそんな法律があるかどうか謎であるが。
「そう言えば、何でクラウディアさんがここに?」
「見学みたいなものかな。あと苗字は嫌いだから、エレンって呼んでよ。長いし読みにくいだろうしね」
「あ、ああ。わかったよエレン。…というか見学って、他の人と行かなかったのか?」
「うん。集中したいからね」
「それなのに俺たちに話しかけたのか」
「迷惑だった?」
と、エレンは目を潤ませながら、僕らを上目で見上げる。か、かわいい…と口に出しそうになるがグッと抑えた。……隣でレンが「かわいい……」とつぶやいている。抑えろよ。
「まあ、実際は注意の為に話しかけたんだよ」
「……そりゃどーも」
「どういたしまして。……さて。今度は図書室に行こうかな」
「図書室か……僕らも一緒に行っていい?」
「えー。さっきの話聞いてた?」
露骨に嫌そうな顔をする。容赦が無いな畜生。
まあ僕も駄目元であったし、断られても気にもしないけれど。
「ま、いいか」
「いいのかよ」
今度こそ声に出す。
「うん。さ。いこ。さっさと動かないとアンカーさんに怒られちゃう」
「そうだな……ほらレン。夢見続けてないで行くぞ」
「ハッ!?さっきの超絶美少女はどこに?」
目の前にいるよ。と、言おうと思ったが、無視して先に進むことにした。一応声はかけたからな。後ろから大声で「待ってえ!」という声が響いているが、そんなことは知らん。というか叫ぶな。
ああ。ほら。騎士っぽい人に怒られた。ぺこぺこしているのがおもしろい。エレンもそう思ったのか、口を手に添えクスクス笑っている。
「…うう…こってり怒られた」
「く…あはは。うん。レン君もやっぱり面白いよ」
「え?俺の名前…」
「いやはや。気に入った人は名前で呼んでるんだ。あ。気になるなら呼ばないけど?」
「い、いや。別にいいよ。気にしない」
「そっか。よかった。シキ君はどうだい?」
「え?ああ。僕も気にしないよ」
……男子を何の戸惑いもなく名前で呼ぶ、というのを見るとやっぱりこの子は変人だと思えてしまう。裏変人の異名を持つアイちゃんですら僕らを苗字で呼ぶというのに…真の変人はやっぱりすごいぜ。
「…なんか失礼なこと考えてない?」
「いえいえそんな」
「……怪しいなあ。ま、いいけど」
そう言うと、エレンはついてきて、と言わんばかりに前を歩きだす。どうやら道は把握しているようだ。僕らは直ぐに迷ったというのに、やはり天才か。
エレンの後ろについていきつつおよそ三分くらいだろうか。わりとすぐにたどり着くことができた。ここまで来るのに僕とレンだったら十倍くらいは時間がかかってしまいそうだ。
「さ!入ろうか!」
さっきとは打って変わってすごくいい笑顔だ。図書館という言葉にどれほどの期待を描いているのか……やれやれ。天才といえど、やはり十歳の子どもだな。他愛もないぜ。
「……澄ました顔してるけど目がすっごい輝いてるぜ。あと口もとにんまりしてる」
……そんなに露骨だったか。
「さ。入るんならさっさと入ろうぜ」
レンはそれほどわくわくしていなかったのか、キラキラしている僕ら二人をジト目で見つつそう言う。まったく。このわくわくがお前にはわからないのか。
エレンもそう言いたいのか、ジト目でレンを見かえした。いいぞー。やれやれ!
「全くレン君にはそういう教養がないのか。ま、僕は勿論どうやらシキ君は読書人みたいだしー?ねー」
「ねー」
「仲良しかよお前ら」
「だって図書館だぜ図書館!王族の図書館といったら、それはすごいものに違いないよ!」
「そうそう。例えば」
そう例えば!
「昔の魔導書だったりね!」
「古き良き昔の著名人の本とかね!」
……うん?
気のせいか、エレンが今すごくありえないことを言った気がする。え?古き良き昔の…なんだって?
「……シキ君?え?何、魔導書?……まさか、僕の耳はおかしくなったのかな。そんななんの知識にもならない本を君は読み漁るの?」
信じられないものを見るかのように言うエレン。それは聞き捨てならんぞ。
「おい。魔導書バカにすんじゃねえぞ。昔の人の知識の宝庫だぞ。古代魔法とか見てみろ。かっこよすぎて感動すんぞ」
「こっちの方が昔の人の知識の宝庫だよ。電気を読んでご覧よ。昔の人の知恵!勇気!最高じゃないか!それに比べて魔導書なんて…野蛮だよ」
おい。それこの世界の人間言ったらおしまいじゃねえか。この世界魔法ありきだろうに。
「そっちこそなんだよ。古き良き著名人の本って。何冊あると思ってんだよ。アバウトすぎだろ」
「そっちこそ魔導書なんて腐るほどあるだろう?」
「は?」
「は?」
「情緒不安定すぎだろお前ら。仲良いのか悪いのかわかんねえ。…つーかさっさと入れよ。本談義はいいから中に入れよ」
……いずれこの件はエレンと決着をつける必要がありそうだ。彼女もそう思っているのか、標的をいつの間にかレンから僕に変えている。負けずに僕も彼女を睨む。今この場に、読書という土俵のもと永遠に終わりがなさそうな戦いは始まったのだった。
にらみ合いつつ、無駄に豪華な両開き式のドアをひらき、図書館内へと入っていく。
「わぁ…」
「すっげえ…」
「…これは……」
三者三様の反応を見せる。
まず目にしたのは、ありえないぐらいに巨大な棚、そこにぎゅうぎゅう詰めにされた本の数々。そして、本独特の紙の匂い、若干の埃の香りや本棚の香りだろう木の匂いも感じられた。この匂いが大好きな僕にとってはまさに天国である。
広々とした空間。迷宮を作るかのように並ぶ本棚。窓際に並ぶ高級そうな真っ白いテーブルと、モノクロのソファー。
すべてが僕にとって眩しい。
家の書室とは比べ物にならない、もはや桃源郷と呼べるほど僕にはそこが輝いて見えた。
「すっげえ!エレン!はやくはいろうぜ!」
「落ち着けシキ」
「これが落ち着いていられるか!さあ行こう!早く行こう!今すぐにだ!」
「エレンも落ち着け」
おっと。図書室では静かにというのは、全世界共通だろう。エレンの方を見き、口元に人差し指を当て、静かに、というジェスチャーを送った。はっとした顔を浮かべたエレンは苦笑いをして、僕と同じく人差し指を口もとに当てた。
「……お前ら本当に何なんだよ」
レンのその呟きは聞かなかったことにする。
さて。
エレンとレンとはあとで落ち合うことにったので、とりあえずは、室内の案内板に従って、奥の方に魔導書のコーナーへと行くことにしよう。
……しかし、まあ、さっきは比喩で迷路のようだと言ったけれど、こうして歩くとそれが比喩ではなく事実としてそうだと思わされる。
すべて同じ本棚で、本の大きさや色の違いはあるけれど、ほぼ同じものがいくつも続いてるのはきっと誰でも迷ってしまうだろう。位置をちゃんとメモをしておけばよかった、と後悔をしていると、大きなフロアへと出た。
「ここかなあ……」
中心にはあの窓際にあったソファーより、数倍大きなもの、そして一際豪華な机が一つ。机の上にはたくさんの本が積み重なっていた。
不安に駆られつつも、その机に近づく。どうやら積み重なっていたのは魔導書のようだ。ずいぶん古びたものから真新しいものまで、たくさん存在している。
中には表紙が掠れて読めないものすらあった。
「…こいつは…何というか」
すごい、と素直に思った。
わくわくする。
「ちょ、ちょっと読んでも気付かれないよね」
うん。きっと大丈夫に違いない。放置されてるんだよね!
自分の中にそう結論つけると、僕はソファーにゆっくりと座り、無造作に本を手にとってぱらぱらとめくり始めた。
「……なんだろう。これ」
本の中身は全く読めない文字で埋め尽くされており、時々描かれている図解がさらに内容をわからなくさせていた。
「共通言語のスキルがあんのに……読めねえのか」
人知を超えた言葉か、単に文字が汚いだけなのか…どちらかは分からないけれど。
「興味は、あるな」
「おい。そこの平民」
不意に、ゾクリとするような冷たい声が僕の背筋をくすぐる。聞こえてきたその方向をブリキのおもちゃのようにぎこちない動きで向いてみれば、そこには、きらびやかな衣装――まるで、お姫様のようなドレスに身を包む一人の少女の姿があった。
直感ですぐにその人物が誰なのかを理解する。この子が、アリア王女だ。
本来の目的を思い出し、今までのわくわくとした気持ちが、既にピリピリとした警戒の気持ちへと変化をしていた。
シキ:美術館とか喜んで行くタイプ。インドアかといわれればそうでもない
レン:美術館とか図書館は嫌。でもまあついて行きはするタイプ。人付き合いがいい
エレン:完全なインドア文化系。美少女ともなればそれすらステータス
アリア:こおり・あくタイプ
王朝ホール:四面に四神をあしらった壁が存在する。主に、訪れたゲストの食事を用意するそう。客人席とオーナー席が10mくらい離れているのがネック
王朝図書館:様々な蔵書がある。世界最古の魔道書のレプリカもあるというが、読めた人物は誰も居ないという。アリア王女お気に入りの場所が何処かにあるというがたどり着くのは至難の技である。