第29話:「ありがとう。えへへー」
予約投稿失敗の巻
追記:ストック分全て消費したんで次回からは投稿感覚は何時ものように行かなくなると思います。すいません
二日目の朝。
晩のこともあり、何となくけだるい。あの少女は大丈夫だったのか、とか、そう言うのを考えつつ寝たのがいけなかったんだと思う。眠たいけれど、これなら何とかなるレベルだろう。……ぐっすりだったレンは全く眠たくなさそうで、すっごい輝いている。健康的な10歳男子のようだ。
「「おっはー…」」
「「おはよう……」」
「お、おう…」
「!?」
髪の毛を整え、歩き回れるようなラフな格好に着替える、談笑をしつつ、朝の待ち合わせ場所であるフロントに行ってみれば、Aクラスの美少女二人とイケメン二人が廃人と化していた。セルフィとアイちゃんは目の下にクマを作り、ミカド君とグレンは暗い雰囲気を醸し出している。
一体に何があったのか。
「(シキよ。これは一体どういうことだと思う?)」
「(んなもん僕に聞くなよ。昨日までみんな普通だっただろ?)」
「(まあ。そうだな)」
セルフィとアイちゃんに関して言えば、花も恥じらう女学生だ。たぶん遅くまで恋バナでもしていたのだと思う。…恋バナって。まさか、セルフィにも好きな子ができたっていうの!?そんなのお兄ちゃん許しませんわよ!
まあ、それは置いておくとして、グレンとミカド君に限っては本当に訳が分からない。まさか二人も恋バナを!?
……誰得だよ。
「グレン、ミカド君?」
「「(びくっ)」」
「(…同じ反応してるよ)」
「(ホ…ホモォ…)」
「(馬鹿なこと言ってないで早く聞けよ。シキ)」
まあ。そうせかすな。レンよ。
「二人とも元気ないけどどうかしたのか?」
「……………私は特に何にもないが」
「……………………別に」
それ何かあった奴の反応だから。
って、いうか沈黙長すぎだろう。絶対に何かあるだろうそれ。…まあ、こういうのって、下手に聞いたら何かありそうだからな。聞かないに限るか。
「ふうん。そっか」
僕はそう一言だけ言って、レンに目配せする。
どうやらレンも同意見のようで、コクリと頭を縦に振る。空気の読める男でよかった。と、ほっとしていると、レンは二人の前に立ちこう言い放った。
「お前ら昨晩はお楽しみだった?」
レンのとてもいい笑顔と、グレンとミカドによるオラオララッシュがやけに印象的であった。
ほとんどの時間クラスは混合になるのだが、食事だけはクラス別にとる。理由はわからないけれど、まあ気にする必要もない。
あらかじめ説明された席へと座る。……シルク先生の救済か何かは知らないけれど、ランダムに設置されたはずの席順のはずだというのに、レンが僕の右にいる。余計なお世話…と言いたいところだが、話し相手には…というか孤独感に駆られないため正直助かった。
因みに今朝のご飯は、ベーコンエッグ、食パン2枚とジャム、紅茶だった。僕としては、食パンではなくご飯とがほしかったところだが我慢しよう。
……うわ。この紅茶甘すぎだろう。前世の自動販売機とかにあったペットボトルの紅茶並みの甘さである。子供だから飲みやすいようにってことでこの甘さなんだろうか?
周りのみんなはわりと平気で飲んでいるようだけれど……うーん。みんな甘党なんだろうか?それとも、僕の味覚が大人なんだろうか?
そう考えるとなんだか優越感がある。
その優越感に浸っていると、肩を突然叩かれた。
「ん?どうしたレン?」
レンの方を向くと、俺じゃないよとでも言いたげに首を横に振っている。あれ?僕レン意外にしゃべる人がいないはずだ。
「こっちこっち」
左側から声をかけられた。そちらに顔を剥ければ、苦笑いを浮かべる女の子がそこにいた。
「ああ。ごめん。レン意外にしゃべる人いないからついつい」
「あはは…」
その女の子は、僕らのクラスはともかく学年的にも有名な人物だった。
エレン・クラウディア。
勉学において多大な成績を残しながらも実技試験で大失敗し、惜しくもEクラス行きとなってしまった研究者向きだなあ、と個人的に思う人物だ。一度、僕と同じくBクラス行きを提案されたが、「Eクラスの方が面白いから」という理由で断った、という話でクラス中で「変人」というレッテルと共に有名となった。
僕は有名にならなかったのにな!今じゃ、セルフィたちと一緒にいる凡人野郎ですっかり有名だがな!…いまさら思うけど凡人って。転生者なのに……英雄の子供なのに……。
「で、何の用なんです?」
考えていて少し気分は落ち込んでしまったが、そのままクラウディアさんは放っておくわけにもいくまい。
「あ。いいよ。そんなに畏まらなくて」
手帳と鉛筆を持っている手をぶんぶんと振る。いや待て。なぜ持っている。
「いや、ちょっとミカド君たちとの関係というのを知りたくって」
「はあ?」
「あ、変な意味じゃないよ!?ただ、Aクラスとか上位クラスの人とどうやって仲良くなったのかなって」
「ああ。そういうこと」
てっきり、昨日の腐女子集団の一味かと思ったのだが、違うらしい。
「うーん。幼馴染がAクラスだったから、自然とね」
「ふうん?…いやね、僕達Eクラスじゃない?どうやっても上位クラスからはさ……」
まさかのクラウディアさん僕っ子だった。これは萌えポイントだな。
……10歳の少女に何劣情を抱いてるんだ。僕は。そんなこと言ったら僕も僕っ子じゃねえか。
……自分で言って悲しくなってきたな。
まあ、話を元に戻そう。
これまで、僕たちはAクラスの4人と普通に接していた。けれど、この学園の中では下位クラスは上位クラスを拝めるもの。上位クラス破壊クラスを見下すもの、と、言うのが当たり前だ。
僕や、このクラウディアさんのように変な噂しか流れないのもEクラス故に、なのだろう。
「まあ、あの4人―いや。3人か―が、特殊なだけなだけなんだと思うよ」
「それはそうなんだろうね」
苦笑いを浮かべるクラウディアさん。
「君ら、Eクラスでさえも浮いてるもんね」
「ああ…勘づいてはいたけれどやっぱりか…」
「改めて言われると心に来るなあ」
レンが涙ぐみながらそう言った。
まあ、僕としてもクラスに早くなじみたいというのは本音ではあるが。
「まあ、やっぱりクラスアップを狙うしかないんだと思うよ。それ以外の方法だと思い浮かばないな」
「そっかー。うーん…」
コミュ障の僕がこれまでで培った経験端を聞かせると、メモと鉛筆を使って書き込みをしていた。ああ、なるほど。そのためのメモとペンだったか。
そして、意外にもレンがそういう関係の事をよく知っていた。まあ、あいつが僕とつるむ前まで、普通に友達(仮)はいたというからな。
その後、僕ら3人は雑談をしながら朝食を食べ終わった。
「今日は午前中に王朝の拝見、昼食は旅館でいただき、で、自由見学という順番で今日は過ごしていくぞ」
朝食後、ある程度の準備を終えた僕たちは、ホールへと集まっていた。
アンカー先生は前に立ち、今日の予定を話していた。もしかしてあの人って、この旅行の担当的な役割でも担っているんだろうか?
「準備ができ次第出発するぞ!」
アンカー先生がそう言うと各クラスで点呼やらなんやらが始まる。
それにしても王朝か…。
たしか、キリシア理事長先生の姉だとか妹だとか兄だとか弟だとかが一定の土地を治めるために作られたいわゆる城のようなものだったよな?
少し楽しみだな。
ちなみにキリシア理事長先生は王都しか治めていないらしい。姉妹や兄弟の順に与えられる土地というのは違うらしく、上になればなるにつれ治める土地というのは多くなるという。
という風に歴史の授業でシルク先生が言っていた。
「よし!点呼は終わったな!」
先生がそう言うとともに、生徒たちの声は一気に静まった。
…良く考えてみれば、前世の僕の通った学校はこんなんじゃすぐにおさまらなかった。そこを考えると、やっぱり、この学校の生徒というのはお坊ちゃまやお嬢様ばかりなのかもしれないな。
「起立!」
シルク先生の声が耳に届いた。
あ、ここはシルク先生が言うんですね。
と、そんなことを考えていたら、足元に何か光るものが見える。
それが魔法陣だと認識するのは転移を開始してからの事だった。
僕らが到着したのは普段は絶対に入ることができない王朝内の庭園である。どうやら、王朝内に直通の魔法陣だったようだ
と、まあ。
こんなふうに冷静に解説はしているものの、今現在の僕はそんなことを考えられるほどの余裕はなかった。
転移酔い、というものが存在する。
転移の魔法陣で、別の場所に移動し現地に着いたとたん激しい吐き気に襲われる、というものである。
そもそも転移というのは同じ魔法陣同士をつなぐ時空魔法の一つで、使用するには高度な魔法技術と、多大な魔力が必要となり、場所も必要となるこれなら歩いて行った方がいいんじゃないかという単体なら誰得魔法である。まあ、今回のように、100人弱もの人を移動させるという点では徒歩よりはましというわけである。
三半規管の強いう人間でさえ、この転移酔いにかかり騒ぎとなる程だという。
僕自身、そんなに三半規管が強いというわけではなく、前世でもバスやタクシー、そして船のすべての酔いに弱かった。エチケット袋が必須になる程には弱いと認識してもらえばいいだろう。
その僕がこの転移をしたらどうなるか。
「おえっうええええええええ」
…こうなる。
「ォえっ…袋がっ必要な者はぁぁっ…私のもとに来てぇぇええっ…ウボァー!」
アンカー先生もダウンしそうである。周りも同じとまではいかないが、阿鼻叫喚である。一部の人は身体強化能力で三半規管まで丸ごと強化させていたようだ。……無属性もちってずるい。
僕もっ!早く取りにィぃいい
「おい。シキ。大丈夫か?」
「なっ…んでえお前は平気なんっ…ゥえええええええ」
「いや…俺は電気を使って体の能力を調整できるから…」
さらっとすごいことを言ってないか?
…そう言えば、こいつ雷属性の扱いは得意だったな。僕も雷属性持ってるし、やろうと思えば…?
「素人がやったら、頭ぶっ壊れるからやめとけ」
…なぜ僕の考えたことが…!?
「つうか、治療使えばいいだろう?」
あ。そうか。今の僕には心強い味方!
治療先生があるんだった!
「治療っ!」
僕自身に指を向ける。淡い光が僕を包み込む。と、同時にさっきまでひどかった嘔吐感が一気に引っ込む。
すごいや魔法って。
「治療って便利だよなあ」
レンが、呆れながらそう言った。
「まあなあ。光よによる盲目もがんばれば治っちゃうしな」
そう考えると治療というよりは、万能薬とかのが正しいと思うのだが。いやでも怪我も回復するしなあ…。
エリクサーとかかな。いや、それだとアイテムだしな。
「おい。シキ?」
「ん?ああ。どうした?」
「もういくみたいだぞ?」
僕が、治療の名称を改めて考えている間にいつの間にやら、みんなの酔いは大分おさまっていたようだ。
改めて、僕らが入る場所を見てみる。
立派なお城だ。
既に庭園内だというのに、王朝前には分厚そうな開けるのに相当苦労しそうな重たそうで大きな門が設置されている。
その周囲にはやはり大きな壁が設置されている。
超大型巨人の足蹴で崩れちゃいそうな壁とだけ言っておこう。
その門の上には侵入者を絶対に通しそうにない魔法陣が多数設置されていた。
物理的にも入れないようにレーザー的なものが貼ってある。
…あれに触ったら一瞬で体に穴が開きそうである。
外周にも何メートルかおきに兵士が配備されているという。その中にある城もそれはそれは立派なものだった。
城壁のせいで、ここから見えるのは城のてっぺんそして、周りに浮いている塔のようなものだけである。
…さすが、空中都市オリオン。城の一部まで浮いているとは。
そういえば、裏繁華街っていうのもあったな。あとで…いや。明日以降の自由時間に一人で行くとしよう。
色々な施設を見て回った僕らは、最後に大広間へと案内された。それにしてもすごかったなー。
実験室とか、魔導書保管室とか、歴史室とか、食堂とか、もういろいろを見て回ったのだけれど、あれは楽しいなんてもんじゃない。
みんなはつまらなそうだったが、それはもう面白かった。元々こういう真面目系イベントで大盛り上がり出来るタイプだから、大興奮であった
「お前すごい盛り上がってたな」
「そうかー?普通だったと思うぞっ」
「いや。今のも語尾が吊り上ってた」
「まじで!?えへへー」
「かわいいなおい」
「ありがとう。えへへー」
「つっこめよ!?」
彼が軽快に突っ込む。今日もレンはさえてるなー。
「やべえこいつ。早くどうにかしないと」
『ここが、唯一王七世の七女である、アリア・メガラニカ・レニース様の仕事をするための大広間となっている』
アンカー先生がそう言った。
拡声器で大声をさっきから出してるが、大抵こういうところって、静かにするものじゃないんだろうか?
まあ、そう言う心配はいらないか。
『今日は特別に、アリア様による質疑応答などがある!』
へえ。
と、僕はそこは無反応だった。至極どうでもよかった。人物は良い。なんか王室特有のあれこれを見せてくれよ!
『それでは、大臣殿…ってえ?』
アンカー先生がそこまで言ったところで、髭の生えた紳士がアンカー先生のもとに駆け寄った。あれが大臣殿、ということだろうか。
あわてた様子だったけれど、何か起こったのだろうか。
顔にずいぶん汗を浮かべた大臣さんが、アンカー先生の持つ拡声器を持ち、驚きの一言を言った。
『えー。皆様訊いてください!』
声まで紳士っぽかった。なんだこの国声が渋い人多すぎだろう。
『アリア様がこの後、質疑応答に受け答えする予定でしたが、急きょ予定を変更いたします!』
それは良かった。これで帰れるのかな?僕はすでにお腹がすいているのだが。
『アリア様を、我が兵士とともに探してください!』
周りが騒然とする。
…何を言っているんだ?このおじいさん。
『我が場内の兵士の身では、この城は広すぎる!ですので、皆様部屋の中は絶対いじらないように探してください!』
王女さがしって奴ですか。
ウォーリーを探せ寄りは難しくなさそうだなあ、と一人他人事のように考えていたのだった。
シキ:僕っ子
レン:雷系の魔法が得意な様子。逆に言えばそれ以外取り柄がない
セルフィ:ヒロインとしての霊圧が消えた
エレン:僕っ子少女。不思議ちゃんだけど天才らしい。詳細不明
大臣:髭をたくわえた紳士。最近アリア王女の反抗期で困ってるらしい
転移魔方陣:ほとんどの人が人目にさらされながら嘔吐する最強の魔法陣。好きな人のその姿を見て覚める人もいればヒートアップする変態もいるという
色んな施設:アリア王女の要望で作られた場所がほとんど。飽きたら使わなくなる。モッタイナイ