第閑話:少女達と少年達
消灯時間はとうに過ぎ、多分みんなは寝ている頃だろうという夜更け。
セルフィ・ストライフこと私とアイ・ロックハートことアイちゃんはいまだに会話をしていた。学園内のあれこれやAクラスの人たちとか大体そういう話である。
「はあ…結構話したわね。喉かわいちゃった」
「あはは…お水もってこようか?」
消灯時間はたしか10時だったろうか。時計を見る限り今は1時だ。
大体3時間は話していたことになる。それは喉も痛くもなるだろう。
「うんー。おねがーい」
アイちゃんはベッドの上でゴロゴロしながらそう言った。
私たちの部屋はAクラス専用の特別な部屋で、消灯時間以降は使えないがベルを鳴らすと軽食が運ばれるのだ。逆に消灯時間内は水道からは魔力水という特別な水が出てくる仕様になっている。
いわゆる差別化というやつだろう。と、シキ君は落胆しながら言っていた。相変わらず難しい言葉を使う。
2つのコップの中に魔力水を入れて、ベッドに戻る。
「あー…ありがとう…」
ふにゃんとした顔になりながらアイちゃんはコップを受け取った。こういうところを他の男子に見せたらさらに好感度上がりそうだなあ。
「んくっんくっ…ぷはあ…」
「はー…少し甘くって落ち着くよね。これ」
「ね。確か、少量の魔力が入ってるんだよね」
「うん。気分が落ち着くのは常に消費されてる魔力を少しずつ回復してるからだって、シキが言ってた」
「そう言うの妙に詳しいよね。アリオン君って」
「昔っから少し知識が偏ってるんだよね」
「…ねえねえ」
ベッドから勢いよく起き上がり、私の隣にどかりと座る。
ほこりがたつから正直やめてほしいんだけれど。
「ど、どうしたの?」
少し戸惑いつつ、そう聞いた。
「アリオン君と確か同郷…なんでしょ?」
「うん。まあね」
「じゃあ、なんか一つぐらいあるでしょー?」
「…なんのこと?」
私がそう言うと女の子らしくないいやらしい笑みを浮かべる。アイちゃんがこの顔を浮かべるときは大抵のシキと私の話を聞く時だ。なんの事とは聞いたものの大体の予想はついている。
「またまたー。あんたとアリオン君の昔の話よ。私結構聞いたけど、他にもまだ何かあるんでしょ?アンタたちのいちゃいちゃ!」
「いちゃいちゃ言うな!…何度も言うけれど、シキは私に恋心は抱いていないと思うよ?妹のような感じなんじゃないかと」
「でもでも、セルフィはシキの事お兄ちゃんじゃなくって男としてみてるんでしょう?」
「男としてって…」
急に生々しい話になった。アイちゃんは耳年増だからなあ。……と、そう思う私も私だ。人のことはいえそうにない。
「ま、まあ…そうなんだけどさあ」
「でしょー?アリオン君だっていつかは女としてみてくれることはあると思うよ?」
「うーん」
そう思ってくれるなら苦労はしないんだけれど。
「だって、セルフィと私の絡みみて興奮したりしてるでしょー?」
「興奮…ねえ」
ちょくちょく鼻血を出しているあれのことを言っているのだろう。あれはリリィさんと同じでかわいいものに反応してるだけだと思うんだけれど。
いや、自分をかわいいもの、と言ってるわけじゃないよ?……思ってないからね?
「クスクス」
葛藤する私を見て楽しんでいる、意地悪だなあ。まったく。
歯科医師をしてやりたい……そうだ!
「ねえねえアイちゃん!」
「ん?どしたの?セルフィ。いきなり大声あげて」
「アイちゃんのそういう…恋愛系の話しってあんまり聞かないじゃない?」
「え?うん…まあ」
少し戸惑った様子のアイちゃんである。自分がこの手の質問をされてことはあまりないのだろう。
「うん。じゃあ、質問1ね!」
「ええー。本当にやるのー?」
「もちろん!友達なんだから!じゃあ、質問1ね。えっと、アイちゃんは好きな男の子っているの?」
「いきなりその質問!?」
驚いた様子でそう言った。
「いいから」
「う、うーん…き、気になってる人は…いるんだけれど」
あれ?予想では「いないわよ!そんなの」とか言うと思ったんだけれど。
「誰々!?」
「言わない!ぜーったい言わない!」
「うーん。誰だろ…グレン君とか?」
「違う。…Aクラスの人じゃないわ」
「うーん…じゃあ、シキとか?」
「シキ君はどちらかと言えば友達」
「…あとは誰だろう」
「もういいでしょ!次の質問っ」
そう言って顔を真っ赤にしながら、次の質問を促す。
「えー。もう。しょうがないなあ」
ここでぐちぐち言っていてもしょうがない。私は次の質問をすることにした。
――こうして私たちの夜は更けていく。
「…今日の、どういうことなんだよ」
「言っただろう?私は、頼まれたのだよ。やらなくては殺される。…わかるだろう?」
「そうだけどっ!」
金髪の少年が声を張り上げる。
それを静かに聞く長身の少年。
どうやら、少々荒れているようだ。
「…仮にも。貴様だってその一員だということを忘れるな」
「今日だって危なかっただろうが!あいつらが来なかったら俺たちは人の道を踏み外してた……それに、あいつ等を巻き込んじまうかもしれねえんだぞ…!」
「……仲良くしなければいい話だろう」
「そういうことを言ってるんじゃねえ!」
ガンと、棚を叩く。
金髪の少年の怒りはヒートアップしていっているようで彼の顔は真っ赤になっていた。魔力は体中からにじみだし、既に魔力はオーバードライブ寸前だった。
「あいつらと結局仲良くなってしまったのは貴様のせいでもあるんだぞ」
「わかってるよ…そんなのッ!」
「先日の件もそうだ。私が止めに入らなかったら、問題にすらなっていた。目立ちすぎはダメ…そう言ったのはお前だろう」
「っ……」
クソ、と、今度は棚を蹴り上げる。若干へこんだものの、自動修復機能によってそのへこみは消えていく。
「…こんな命令人としても駄目だろう…俺は…俺はやらないぞ!」
「…命令だ。私達にはやるという選択肢しか残されてないのだ」
「畜生…お前は…お前は嫌じゃないってのかよ…!」
金髪の少年が床にうなだれながら俯く少年にそう言った。
「そんなわけ…なかろう…!」
長針の少年は悔しそうに言う。
食いしばる歯からは血が滲み、口の端からは血がたれていた。
「家名さえなければ、既に私はこの手を止めて、契約を破棄している。だが、私には…私達には家名という重しがあるだろう!家名に泥を塗ればそれは恥。これをすればそれを意味するのは家名の没落。…私一人の為に、家族を、その系列に位置する者たちを…見捨てろと…?」
「っ…」
「…良く考えておけ。今と未来。目の前にいる者と大事な者。…天秤にかければ一目瞭然だろう」
「…」
「私は寝る…おやすみ。ミカド」
「じゃあ…お前は俺に…目の前にいるやつを…見殺しにしろって言ってるのかよ…!グレン…!」
金髪の少年の悲痛な叫びが部屋に響く。
今は彼らの思惑など知る由もない――。