第28話:「あぅう…」
某掲示板にさらしてきて目ちゃんこ叩き潰された如月改め向ヶ丘です。
タイトルとか1話から此処までの内容を書き換えもしたいと思います。1日1話書き換えで1か月はかかりそうだなあ。
夜――僕たちは豪勢な夕食を食べ終わり、アンカー先生の話を聞き終わり、10日間お世話になる部屋へと訪れた。
どうやら、僕とレンは一緒の部屋らしい。
今は10時と、僕がいつも寝る時間で、既にレンは寝てしまっているのだが、一方僕の方はというとまったく寝れなかった。
つまるところは、全くもって暇なのである。
本も持っていない。そもそも本を読むとなると明かりが必要なのでレンを起こす事になってしまうから、何にしても本は読めないが。
「…暇だ」
そう言いながらベッドから勢いよく起き上がり、ベッドに座る。
思わず声に出してしまったため、レンが起きていないか見てみたが、どうやら熟睡しているようで起きる様子は見せなかった。まあ、10歳だしな。はしゃぎすぎて疲れるなんてことはしょっちゅうだろう。
確か外に出るのは禁止だったはずだ。確かシルク先生が説明していたとおもうんだが、ばれたら朝まで説教だったか。…禁止と言われると外に出たくなるのが男子って奴だよね!
と、言うことで、枕元にある棚に置いてあっショートソードをポシェットに入れ、そろりとドアを抜け廊下へと出た。
既に廊下は消灯されていて、少し冷たい空気が流れていた気がした。
僕が今から向かうのは裏庭である。裏庭には各階にある非常階段から向かうことができる。そのためこっちには先生の見回りはほとんどない。まあ、つまりは結構簡単に向かえるだろうということで裏庭に向かうことを決めたわけだ。
廊下に足音を立てないように抜き足差し足で移動する。こうすると、なんだか忍になった気分だ。
すると、遠くの方からカツカツという音が聞こえた。
多分見回りの先生だろう。遅くまでご苦労様です。
その足音は幸いにも僕が向かう方向の反対側から鳴っている。物音を立てないよう、なるべく急いで目的の場所である裏庭の方に向かった。
「だれかいるんですかー?」
「!?」
曲がろうとした方向から女の人の声が聞こえる。
こっそりと覗き見る。確か、あの人はBクラスの担任の人だったか?頬が赤くなっていて足取りがおぼついていない。
まあ、多分酒を飲んだ後に見回りしに来たのだろう。
今なんとかすればどうにかなるはずだ。
「うーん?いないのー?…出てきたらカルミラおねーさんがいいことしてあげるわよー」
「(なっ…)」
いいこと…だと!?
例えばなんだ?あんなことだったりこんなこと?いやいや。あまり期待するな!僕は10歳だぞ!?そんな過激なことしたら僕の身が持たない…?いや。これで僕の身がかれようともそれが本望。ここで出てしまった方が僕の幸せの為なんじゃないのか…?
「お説教してあげるわよー?」
「…」
だろうと思ったよ!畜生!
「…なーんだ。だれもいないみたいねー」
そう言った先生はくるりと反転し、幸いにもこちらの方には来ず足音が遠くなっていく。どうやら危機は去ったようだ。
その後先生はその先の曲がり角を行き姿を消した。…なんか、これだけ聞くとホラーだな…。この後先生行方不明になりそうである。僕も曲がろうとした角を曲がって非常口階段へと向かった。
裏口の非常階段を下りて、前もって旅館の人に聞いておいた、裏庭に出た。
木々が生い茂り、花が花壇に植えられている。金木犀の甘い香りが漂ってきて、綺麗に咲き誇っていた。きっとこの旅館の従業員が大切に育てているんだろう。
空気も木々が多いせいか何だか澄んでいる気がする。ここならショートソードのすぶりをしても問題なさそうだ。それに涼しいから中々に過ごしやすい。
ショートソードを手に持ち、クルクルと回す。
「このぐらいのサイズはすっごい持ちやすいな」
ヒュンヒュンと振り回しつつ、そう呟く。魔力を流すと変形してしまうので、剣技はこの状態だと使えない。その辺が不便なところか。
いったん振り回しを止めて、魔力を流す。光に包まれたショートソードは、ガシャという音を立てて、バスターソードへと変化していく。
「…ふんっ」
魔力を込める。スムーズに魔力が流れる。僕の愛用の木刀には及ばないものの、そんじゃそこらの武器よりはよっぽど流しやすく感じられた。
「うーん…小規模の剣技…なんかあったかな」
庭にあるものが傷ついたらいけないのであまり大規模な剣技は発動できない。しかし、僕の剣技の技のレパートリーは非常に少ないのだ。
「あ、一つあったな」
魔力の形を安定させ、剣技を発動する。
「剣技《牙突》」
バスターソードを両手に持ちながら前に突き出す。
剣道でも突き技なんてものがあっただろうが、あれの殺傷力が増した感じだ。まあ、殺傷力が増したらそれは剣道ではないけれど。
木刀は人を傷つけないようと思って使い始めたが、このバスターソードなら《牙突》だけで人一人が殺れちゃいそうである。…うん。使用には注意だな。
その後何となくブレードを降り続ける僕。そろそろ眠くなってきたか?なんて思い始めた頃、不意に今まで静かだった木々ががさりと揺れた。一瞬風か?と思ったが、そこの一部分しか聞こえていない。
その音に僕は身構えた。さすがに油断し過ぎた。いくら人気がないといってもここに先生が来ないとも限らない。
「(くっ…さすがに色々やり過ぎたか…!?先生が来ないのをいいことに最後の方『ちぇすとぉぉぉぉおおおお』とかいってたからな…。ここは土下座か!?突然土下座すれば先生も恐れおののいて許してくれるはず…!いや…あえてここは逃げる?これなら僕のゴミプライドも傷つかないし、説教も免れる…よしそれでいこう)」
僕のダメ人間な思考がまとまった辺りでゆっくりと視界を背後に回した。
「きゃあ!」
背後には先生らしき人物はおらず、その代わりに聞こえてきたのは可愛らしい小さな悲鳴と、何かが土に落ちる音だった。
「あぅう…」
さっきの選択肢をすっかり忘れた僕はその音の方に恐る恐る近づいてみる。
「…ど、どちら様で?」
「…え?」
そこにいたのは小さな角を生やした幼女であった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
僕が手を引っ張って裏口の入り口あたりに連れてきたあたりからずっとこうである。
土下座をしてなぜか僕に許しを乞うていた。その姿はさっきまで僕がしようとしていた選択肢のうち片方であったがそこは触れないでおく。
彼女はひどく衰弱していた。それでいて、僕を畏怖するような目つきで期限をうかがうような目で見ていた。
「…とりあえず落ち着け。な?」
肩に手を置いて土下座の態勢を解く。
こんなことずっとされていたら気分が悪い。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
それでもなお目をぎゅっと瞑り、懇願する。
…それにしてもこの子はどこの子だろうか。服はぼろぼろだし…捨て子なんてことはないだろう。このあたりで捨て子がいるなんて話は聞いたこともないし見たことはない。
とりあえず僕は素振りを咲いた後に飲もうかと思っていた水筒の水を彼女に渡す。
それを渡された彼女はきょとんとした目つきで僕を見ていた。
…なんだか小さいころのセルフィを思い出すな。彼女も昔はこんな感じで人とあまり話さない子だった。
「それを飲んで落ち着いて」
「…」
小さくコクリと頷くと水筒の水を一気に飲みこむ。
「けほっけほっ」
「時間はあるからゆっくり落ち着いて飲んで。な?」
えずく彼女にそう言うと、今度はゆっくり飲み始めた。
飲み終わった後の彼女に再び僕は慎重に話しかけた。
「で、君はどちらさま?」
「あ、えっと、その…」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
狼狽える彼女に微笑みかけながら僕はそう言った。
「えっと、わたしは…メイ…そう。メイって言います」
「メイちゃんか。家はどこなんだ?」
「…わたし、その、逃げてきて…」
「逃げてきて?」
「は、はい」
逃げてきて?家出ってことだろうか?
「そうか…」
ふむ。僕も生前を思い出すな。昔は無茶してた涼夏に嫌気がさして家出しては涼夏にビンタされて家に帰ったものだ。
…思い出したら頬が痛くなってきた。
「でも家に帰らないとお父さんとお母さん心配するんじゃないか?」
「っ…おとうさんもおかあさんも…いない」
「えっ…あ。その…ご、ごめん」
いろいろ事情があるようだ…うん?ならばなぜ家出してきたのだろうか。
「あのっ!すいません。やっぱり家に帰るので、その、ごめんなさい」
込み入った話をしたせいだろうか。メイは俯いてそう言った。
「そうか。…その、またな」
頭に手を置いて僕がそう言うと、とたんに顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
…さすがに髪の毛に触られるのは嫌だったのだろう。少しかわいそうなことをしたかもしれ無い。
…僕の眠気はすでに限界を迎えている。さっさと寝てしまおう。
なんて、この時はなんとなしに頭に入れていただけの出来事がまさかあんな出来事につながってしまうとは、全く思っていなかった。
シキ:素振りマン。幼女には優しい紳士としてブレイクしそう
レン:スヤァ…
カルミラ:Bクラス担任。普段はまじめだけど酒が入ると途端に隠語を連発する。先生たちの間ではH氏と呼ばれている。
メイ:小さな角と小っちゃい尻尾がチャームポイントの幼女。かわいい
牙突:どこかで聞いたことある技。魔力でコーティングした剣をサーベルの如くのように相手に突き刺す。痛そう