第26話:「……私だけの」
僕達が直立している隙にお姉さんは金貨合計40Gを受け付けに渡し終えたようで、お姉さんが喫茶店のコーナーで何かを注文したあたりで僕らは再起動した。
「はっ……お姉さん!?」
「ん~?おぉー。目ェ覚めたか」
グラスにストローを指して飲み物を飲んでいたお姉さんはのほほんとした表情でそういった。
「まあまあ!もうお金払っちゃってるんだから!今からドタキャンしたほうがよっぽど失礼だと思うんだけどなぁ」
にやにやとした顔で僕の方を見てくるお姉さん。確かにそのとおりである。「はぁ」と、ため息をついて受付の方に行くことにした。
やはり変わらず満面の笑みを浮かべた受付のお姉さんは僕達4人が受け付けの前に来たタイミングで「じゃあ、今から説明しますね」と、言って受付から喫茶店のテーブルに座った。
「えっと…受け付けはいいんですか?」
レンが未だにぎこちない動きを見せながらそう言う。それに対して苦笑いを浮かべながら「普段は人があんまり来ないので…」と言ってその場の空気がすこし重くなった。おい。オリオンのギルドは大分発展してるんじゃなかったのかよ。
「ま、まあまあ!座ろうよ!」
アイちゃんが無理やり笑顔を浮かべてセルフィの手を引いて席に座る。
「ほら。タカミチとアリオン君も!」
「お、おう」
「ういうい」
適当な返事な僕とやはり戸惑うレンが席に着いたところで受付のお姉さんが4枚の真っ白いカードを取り出した。
「えー、まず冒険者登録というのは冒険者ほか様々な職業になるために必ず通らなくてはいけない道です」
「様々な職業?」
「はい。例えば、商人や城の騎士になるのにも必要です」
「へえ…」
現実で言うところの資格が一つにまとまった感じだろうか。それは何というか、すごく楽だな、うん。
「また、仕事を受けた数や仕事の難しさによってランクが上がります。そのランクによってつける職業の幅が広がったりもしますね。さっき言った商人はランクC以上、城の騎士はランクA以上ですね」
へえ…なるほどなあ。じゃあ、ランクSSである先生たちはなんにでもなれる…とそういうわけか。ミラクルカードだな。
「まあ、皆さん王都学院学園の方のようですし授業で習ったと思いますが、魔術師のランクと冒険者のランクというのは統一されていて、魔術師で言うところのFランクは冒険者のFランクと認定されます」
確かにここまでは授業で習ったな。
「逆に冒険者のランクがFからEに上がれば、魔術師のランクもEに上がるということです。しかし、一つ例外がありまして、魔術師のランクがCで、冒険者のランクがFだと冒険者のランクが1つ上がっても魔術師の方はCに固定されたままとなります。まあ、固定されたままとはいっても冒険者のランクがCからBに上がれば魔術師の方はちゃんと上がりますがね」
その辺はちゃんとえっテイされているのか。まあ、割に合わないもんな。
「では、さっそく始めますね」
…さっきは遠慮していたが、こうなると改めて異世界にいるんだと思わせられる。周りの皆もなんだかんだでわくわくしている表情が顔からにじみ出ているし……その表情を見ている受付の人だったり、お姉さんだったりがすっごいだらけた表情をしていた。
「では…えっと…」
受付のお姉さんが無地のカード手に持ちながら、セルフィの目を見た。
「あ、セルフィ・ストライフです」
その視線の意味を察したのか、セルフィは自分の名前を言う。
「ストライフ…?」
すると、受付のお姉さんはなぜかセルフィの家名をつぶやき、驚いた表情を浮かべた。その顔はすぐにさっきのような笑顔に戻る。なにか思うことでもあるのだろうか。まあ、セルフィも貴族の出だし、名前くらいは聞いたことあるのかもしれない。
「セルフィちゃんの血をここに流してください」
「ち、血!?」
へえ。異世界ではよくありがちだけれど、本当に血を使うんだな。しかし血を出せと言われてもそんなすぐに出せるものではないとおもうんだけれど。
出すときも痛いし。
「ほ、他の方法はないんですか?」
「他の方法ですと…髪の毛一房と唾液一瓶がありますが…」
「血でお願いします!」
その時のセルフィは今までで一番必死だった。うんまあ、髪の毛人房も唾液人瓶も若干ホラーじみてるしね。うん
「うう…」
ナイフを渡されたセルフィは躊躇するように指先にナイフの先端を押し当てる。今セルフィの指先には地味な痛みが走っていんるだろう、涙目であった。…うん萌えた。セルフィニウム補充した
「痛いよう…」
血が2、3滴カードに落ちる。じわっと広がったかと思うといろんな文字が表示されていた。それを確認する前に…。
「ほら手、出せセルフィ」
「う、うん」
「治療」
淡く優しい光が彼女の指先の傷を塞いだ。
「あ…。ありがとうシキ」
満面の笑みを浮かべるセルフィ。それだけで満足です。セルフィの笑顔プライスレス。
「はい。これ。これがあなたの冒険者カードよ」
それを優しい目で見ていた受付のお姉さんが終わったタイミングを見計らってセルフィにカードを渡す。
「わあ…」
「あなたの血液から遺伝子情報を割り出してるからこのカードはあなただけのものよ」
「私だけの…」
きらきらとした目つきでカードを眺めるセルフィの姿はおもちゃを買い与えられた子供のようで、年相応の10歳の子供の笑顔だった。
そんなセルフィの冒険者カードをのぞき見る。
NAME:セルフィ・ストライフ《10》
JOB :王都学院学園Aクラス
SKILL:身体能力上昇 LV3
「しんたいのうりょく?」
「ああ。それね?個人が持ってる才能って奴ね。魔法才能は描かれないけれど。身体能力上昇は読んで字のごとく身体能力が著しく上昇するの。普通の子の身体能力が20だとしたら身体能力上昇持ちの子は30っていった具合にね」
お姉さんが若干得意げな顔で言う。
なるほどなあ。セルフィのあの強さはここからってわけか。なんか納得してしまった。しかし、才能か。魔法才能は書かれないって言ってたから……ひょっとして僕の才能って下手したら何もなかったりするんじゃないのか?……うわ。不安になってきた。
僕が思案しているうちにアイちゃんも済ませてしまったようで小さく「いつっ」と聞こえた。
涙目になりながらこちらをちらちら見てきている。
「はい♪」
「ん?」
なぜかアイちゃんが指先を見せてくる。
どういうことだろうか。
「……むー…指っ!」
「?」
指……あ、そういうことか。
アイちゃんの血のにじんだ指先に治療をかけた。光に包まれて傷が完治した。これ普通にやってるけど結構異様な光景だよね。逆再生みたいな感じだもん。治り方。
治療をかけた代わりと言ってはなんだが、アイちゃんのカードを見せてもらった。
NAME:アイ・ロックハート《11》
JOB :王都学院学園Aクラス
SKILL:魅了 LV2
「み、みりょう!?」
「ああ、それね?たしか、種族問わずすべての生物の異性に好かれるっていう才能ね。まあ、これに至っては才能というよりスキルに近いかな」
「…なあ。セルフィよ」
「な、なあに?」
魅了の効果を聞いたためか唇の端をひくひくしているセルフィに一つ訊いてみた。
「アイちゃんって…男子からもててるんだよな?」
「う、うん。そりゃあモテモテだよ。モテすぎて若干引くくらい」
「…もしかしてそれって」
僕とセルフィとレンがゆっくりとアイちゃんを見る。
「…う」
「う?」
「うにゃあああああああああ!!」
顔を真っ赤にしたアイちゃんが暴れだす。それが落ち着くまで十数分の時間を要した。
アイちゃんの錯乱が落ち着いたあと、レンの冒険者カードを発行をしたがレンの才能は見せてくれなかった。なぜだろう。
それを除けば特に滞りもなく進んだ。因みに奴の指はなおしてやらなかった。
だって、ぽっちゃり男がこっちを涙目に見てたら助けようという精神は生まれないよ?
と、まあ、今度は僕である。不安は募ったままだが、こう皆に見られてたらやっぱ僕はいいですとか言えないもの。
レンから回ってきたナイフを人差し指の先端に押し合てる。滴った血液を真っ白なカードに垂らし、じわりと広がった血液がカードに僕の情報を書き出していった。
NAME:シキ・アリオン《■》
JOB :リ・インカーネーショナー・王都学院学園Eクラス
SKILL:剣技才能・???
「あれ?シキのだけ私達とは違うね」
「本当だ…」
「り・いんかーねーしょなー?あと、才能のところに読めないのがあるね」
「なぜか年齢も読めないしな」
「…故障?いえ…でもそんなことありえない…」
『???』は確か僕があの天使からもらったもう一つの能力だったと思う。いまだ開花せずだけれど。
それよりも、『リ・インカーネーショナー』だ。
たしか、『リ・インカーネーション』が転生という意味だったはず。つまり、転生者って意味か?
幸いここには『リ・インカーネーショナー』の意味が分かる人はいない。いや、ばれてもごまかせばいいんだけど。しかし、年齢が読めないというのも分からない。もしかして、今の年齢と前世の年齢がごちゃ混ぜになってバグってしまったのかもしれない。
「もしかしたらっていうこともあるかもしれないし……もう一回やってみる?」
「いえ。いいです。これで」
申し訳なさそうな顔をする受付のお姉さんに僕は笑顔を浮かべる。営業スマイルである。…あ。名札にイーファって書いてあった。じゃあ、この人はイーファって名前でいいのかな?
「あ。終わったかい?」
戦士のお姉さんが謎の飲み物を飲み終えたようでこちらに近づいてきた。
「はい。無事に。ありごとうございましたお姉さん」
「礼には及ばないよ。それよりもごめんな。たいしてもてなせなくって」
それをお姉さんが言いますか。それって本来はイーファさんが言うべきセリフですよね?
「それは私のセリフでしょ?クリア。勝手にとらないで頂戴」
いつの間にか思案から復活していたイーファさんがクリアさんを注意する。
「じゃあ、これで僕ら帰りますね。もう少し観光しておきたいですし」
「そう?わかったわ。またいらっしゃいね」
「はい。ぜひ」
笑顔でそういうイーファさんに軽く挨拶をした僕らは冒険者ギルドを後にした。
次はどこに行こうかな。
そういえば、すっかり忘れていたがグレンとミカド君はどこにいったのだろう?