第25話:「冒険者ギルド?」
「お。全員揃ったな。じゃあ行こうぜ」
「ミカドよ。何故お前が仕切る」
「硬いこと言うなって。グレン」
Aクラス筆頭のイケメン二人はそんなふうに軽口をたたきあう。
周りの女子の目がハートマークになっているのが僕とレンの心をえぐるけれど、そんなことをイケメン二人はつゆ知らず、会話を繰り広げていく。
「(レン。僕ら此処にいるのもしかして場違い?)」
「(もしかしなくてもそうだぜ……シキ……)」
「ねー。いちゃいちゃしてないで早く行こうよ」
アイちゃんが口を「3」にしてそう言った。そんな口やる奴現実で初めて見たよ。できるもんなんだな。
「「いちゃいちゃって言うな!気持ち悪い!」」
「声が被ってるあたり信憑性がより増すな」
レンが引き気味にそう言う。仲がいい二人に僕とセルフィは苦笑する。ふと、話し声が聞こえたため、そっちの方を見てみた。
どうやらミカド君とグレンの方を見て何かボソボソ言っているようだ。
『やっぱりミカド様受けグレン様攻めが安定かなっ』
『あえてグレン様受けとかいいんじゃない?』
『ミカド様ヘタレ攻めなんてどうだろうか』
『『それだっ!』』
……………すこし冷や汗を流しながら再び彼らの方へと視線を戻した。幸い今の会話は二人には聞こえていなかったらしい。
「みんな。早く行こうよー」
セルフィが少し疲れたようにそう言う。
「セルフィもこういってるし…いこうぜ。グレンとミカド君」
「シキィィィィ!?誤解だ!私を信じてくれ!ホモはこいつだ!こいつなんだ!!」
「俺に擦り付けるな!ホモはお前だろホモ!」
「…ユノムール君。大丈夫。あなたが……その……同性愛者でも私たちは味方だから」
「セ、セルフィィィィィさぁぁぁぁぁん!違う!俺はホモじゃない!誤解だ!誤解なんだぁぁぁぁあああっ!」
二人が弁解する中、皆で生暖かい視線を送る。
「ま、茶番は置いておいて、そろそろ行こうよー。私とセルフィで先に行っちゃうよー?」
半ば呆れた表情をアイちゃんがセルフィの背後に回りギュッと抱き着く。
うわ。いい…この絵いい!僕の心のフェイス〇ックが400イイネしてる!僕の心のツイッターがこの映像だけで30000リツイートしてる!
周りの男子も「ぎゃああああ!死ぬ!萌え死ぬ!」とか「おっふ」とか「神様ありがとうございますぅぅぅっ!」だとか言っていた。
彼ら男子諸君とこの話題だけで一晩話せそうである。
「まあ、それはともかくお前らそろそろ行こうぜ」
「シキ。鼻血鼻血」
「おっと」
レンに指摘されてポケットに入っていたハンカチで鼻をふく。結構出ていたようで、一瞬でティッシュが赤く染まった。
僕出しすぎだよ。
「あれ?シキ!?血がすごいことになってるよ!?」
「うお…大丈夫かシキよ。私の血止め使うか?自家製だが」
「シキェ…」
心配している二人をよそに僕は鼻に丸めたティッシュを詰めて一人ホテルを出て行った。
「冒険者ギルド?」
「そ。オリオンの冒険者ギルドが一番盛んらしいよ」
空中繁華街を散歩した後僕達はとある場所にたどり着いた。
冒険者ギルドと看板に書かれたその場所はファンタジー系の小説でよく見るような外見とは少し違う。
「王都にも一応あるって話だけど、学生が多いからねー」
確かにあそこは学生の都市だから、そこまでの需要はないのかもしれない。
再びギルドの方に目を向けた。
雑貨屋のような趣で、窓ガラスから中をのぞくと、人は少ないものの悪そうなおっさん二人がいた。
入ろうとしていたのに余計なものを見てしまったために、ドアノブに手をかけるのに戸惑ってしまう。
「あれ?シキ。中に入らないの?」
「あーもう。アリオンくんどいて!私が先導するから!」
待ちきれ無いようすのアイちゃんは、僕をどかし率先してドアノブに手をかけ中へと入って行った。それに続いて、セルフィ、レン、ミカド君も入って行く。
「ちょ…皆!」
「…シキ。悩んでいても仕方がない。中に入ろう」
このなかで唯一と言っていい、冷静な人のはずなグレンも目をキラキラさせて中へと入って行く。僕は一つ溜息を吐き、しかたなく彼について行くことにしたのだった。
なんだかんだでみんなもまだ10歳なんだと思えるんだけれど、その好奇心は今ここで発揮すべきじゃないと僕は思います。
仕方なしに僕もこっそりと中へ入っていくことにした。
中は外観と相まって少しお洒落な喫茶店といった感じで、入って少し先にカウンターのようなものがあった。そこには耳が少しとがっている髪に綺麗なウェーブがかかっているお姉さんが可愛らしい笑みを浮かべて座っている。
雰囲気的にはエルフと、まさにファンタジーな感じだ。
T字型になっている店(?)内の左側には軽く軽食を楽しめるところがあり、その左には掲示板のようなものが存在し、張り紙がたくさん貼られていた。
「おいおい。嬢ちゃんたち見てえなガキがこんなところに来ちゃだめだろうが」
「早く帰りな!痛い目見るぜ」
無精ひげを生やした男性と小綺麗な男性二人が「ガハハ」と下品な笑い声をあげながらセルフィたちを取り囲んでいた。
外で見たときに見えていたあのおっさん二人だ。
なんというかテンプレ通りの絡みかたである。
「おっ。よく見りゃ桃髪の嬢ちゃんと緑髪の嬢ちゃんどっちもかわいいじゃねえか」
そう言ったおっさんその1と少しこぎれいな格好のおっさんともお兄さんともいえない人がそれぞれセルフィとアイちゃんに手を伸ばす。
「やっ…ちょっとやめてよ!」
「やめてください!」
二人は後ずさってそれぞれ僕とレンの後ろに隠れた。
「あ?……んだよ。彼氏持ちかぁ?」
「カハハ。マセてんなあ」
と、今度は僕達を品定めするように見ていく。
「…はっ。んだよ。妙に身なりがいいと思ったら王都学院学園の奴らじゃねえか?」
「…ふん」
そこで、僕達とおっさん二人の間にグレンとミカド君が割り込んでいく。なんだその自然な動作。
「そこまでにしてもらおうか?」
「私たちはここを見学しに来ただけだ」
二人とも、おっさん二人を睨みつける。
グレン君に至っては僕らよりも大きいため、威圧感がすごい。
「見学なあ」
「…」
おっさん二人は嫌な笑みを浮かべてお互いを見やる。
「じゃあよう。お前ら俺らを倒したらここを見学させてやるよ」
「かはは!お前ら王都学院学園の生徒だろ?魔法撃ってみろよ」
うわ。そんなこと言っても知らねえよ?
そこの二人…やり手だし。
「…《我が左手に集まりし風の魔力よ 彼らを切り裂き 死を知らせよ》」
「…《木の聖霊よ 我が魔力を糧とし彼らを縛り 嬲り殺せ》」
「ちょ…馬鹿野郎!マジでやるな!」
「ちっ…魔法妨害」
グレンとミカド君、それぞれの右手と左手に上級魔法陣が形成される。
この魔力の籠め方からして、店は軽く吹っ飛ぶだろう。
「なっ…お前等!やめろ!」
レンが必死な形相を浮かべそういった。
後ろ二人もあわあわと焦っている。まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。
「疾風怒濤!」
「寄生木!」
瞬間彼らの間に煙が舞う。両腕で顔を覆うようにして、顔を隠す。
が。
―――衝撃はこない。煙が晴れるとともに、グレンとミカド君、おっさん二人の間に人がいることに気が付いた。
「全く…こんな狭い屋内で戦闘を始めて…お前等ッ!子供相手にケンカ売ってんじゃねないわよ!」
よくある騎士の鎧を身に着けた女性は、まるで城の護衛の人のような印象を与える。女性はまるで男のような口調でおっさんどもを睨みつけた。金色の髪はグレンよりも色が暗い。肩まで伸ばしているその髪と凛とした整った顔と釣り目な目元が相まって元気っこのような印象を僕に与えた。
腰には大きな西洋剣をぶら下げていて、いかにも強そうといった雰囲気を僕に与えた。
「す、すまねえ…姉御」
「…ちっ」
少ししゅんとした表情でおっさん二人は姉御と呼ばれたお姉さんに謝る。
姉御、ということは二人は弟子とか部下とかそういうのだろうか?
「私に謝るんじゃなくて、この子供たちに謝りな」
「ご、ごめんな。ガキ。ちょっと酒はいっててよう…」
「…わるかった」
おっさん1(無精ひげの方)はスキンヘッドの頭の後ろに手をやり申し訳なさそうに苦笑いしながら腰を少し曲げて謝った。
おっさん2(小綺麗なほう)は単純に腰を少し曲げて謝っただけであった。
しかしこのお姉さんすごいな。あれ暮れ者のおっさん二人を一瞬で沈めるわ、上級魔法二つを消し去るわ、何者なんだろうか。
強いというのは確かなんだろうけれど。
「すまなかったな。私のパーティメンバーが迷惑かけてしまって」
「…おい。あんた俺たちの魔法をどうやってかき消した?」
こちらに顔を向け申し訳なさそうな顔を浮かべるお姉さん。
それを無視して食いつくミカド君は少し空気を読もうぜ。
「ああ…あれか。気にするな」
面倒そうな口調でお姉さんはそういった。
「気にするなって――「もういいだろ。ミカド」――グレン?」
それが気に入らなかったのか、食って掛かるミカド君をグレンが片手で制する。かっけえっすグレンさん。マジリスペクトっす。
「こちらもすまなかった。少し大人げない反応だった」
「大人げないって……あんたまだ子供だろう?それならあんな反応も当然さ」
「……確かにその通りだ。ミカド!外出るぞ!」
「なっ…おい!俺はまだ言いたいことが」
「いいから来い」
そのまま僕達に目配せして、ミカド君とグレンは外に出て行った。
一体どうしたんだろうか。
「……?まあ、いいか……お前らはあいつらについて行かなくていいのか?」
「いえ。僕らはもう少しここを見学したいので」
「ふうん?なんだ。冒険者登録しに来たわけじゃなったのか」
「ぼうけんしゃとうろく?」
僕の後ろに隠れていたセルフィがいまだにおびえながらそういった。いまだに怯えてるようで、その声は少し震えていた。
おねえさんはそれに気付いたようで、優しい目つきになった後、鎧をガチャガチャと鈍い音を立てさせ。セルフィの身長に合わせてお姉さんはかがんだ。
「お嬢ちゃんたち。もう大丈夫だから怯えないで、ね?」
優しい声色で、頭をなでる。と、いうかアイちゃんも怯えてたのか。普段からは想像できないけど彼女もそういえば女の子だったな…。
「はい。もう大丈夫よね」
二人がその言葉を聞いてコクリと頷くと、にっこりとほほ笑んでお姉さんは立ち上がった。
「ま、さっきの反応みる限り本当にそのつもりじゃなかったみたいだね」
「ええまあ…えっと、冒険者登録って…」
レンが少し呆けながらそう言った。今の見事な手際に目を引かれていたようだ。……あ。これチゲえ。お姉さんに見とれてただけっぽい。こいつ顔に似合わず女好きか。子供のくせに。
「ああ…あ。どうせならお前ら登録していくか?私が金払うから」
「お金が必要なんですか?それは少し申し訳ない気が」
「まあまあ!お詫びのしるしだと思って!」
「因みにいくらなんですか?」
「ん?年齢によって違うけど、お前らの年齢だと10Gかな」
「「「「いやいやいやいやいやいや!」」」」
僕ら4人の声が重なる。それはそうだろう10Gと言えば日本円にして約10万円である。
僕らからしてみれば大金だ。
「あははは!子供にしては謙虚だな!私が子供の時はもっとはっちゃけてたけどなあ」
「そんな10Gなんて大金…」
「大丈夫だって!私金持ちだから。それに…さっき買ってきた獲物換金すればもっと金は入る」
そう言って、傷一つない綺麗な何かしらの部位をどこからか取り出した。
「少し待ってな?」
受付のような所に行くと、さっきまでおろおろしていたお姉さんがそれに反応してお姉さんと雑談を交わしながら受付をさっさと済ましていく。
あっという間に終わって、お金が入っているであろう袋をお姉さんに渡した。
「よう。おわったよ」
ホクホク顔のお姉さんは綺麗な笑顔で袋を持ち上げる。
「150Gだったよ!」
とってもいい笑顔でそういうお姉さんに固まる3人に対し、僕は一人、冒険者に成ろうかなあ、などとゲスい事を考えていたのだった。
シキ:ピュア(自称)からむっつり(確信)にランクアップ
レン:意外とクール
セルフィ、アイ:百合疑惑
ミカド、グレン:曰くミカドのへタレ攻め…┌(┌ ^o^)┐ホモォ…
男子諸君:永遠のチェリー
腐女子達:ホモが嫌いな女子はいません!
おっさん1:お姉さんのパーティメンバー。意外と強いが今後出てくるかは不明
おっさん2:1と同じくお姉さんのパーティメンバーで意外と強いが(ry
お姉さん:強い超強い。でも多分シルク先生に負ける
冒険者登録:次回参照
G:ゴールドの略。忘れ去られそうな金銭設定。
疾風怒濤:肉片になるほどの鎌鼬を発生させ、対象者を切り裂くエグい魔法。お姉さんがやったのは実は魔法陣の破壊で、もしも失敗してたらお姉さんは今頃肉片でした
寄生木:気に寄生する植物、ヤドリギを対象者に植え付け徐々に嬲り殺していくゲスい木属性の魔法。同じくお姉さんがまともにくらっていたら骨になるまで養分を吸われ続け殺されてました