表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある異世界転生モノ  作者: 向ヶ丘こよみ
王都学院学園編――僕は友達が少ない
21/37

第20話:譲らない

「レン君、シキ君。遅刻ですよっ!」

「ごめんなさいっ!」

「ごめ……ん…な……ざい」

 そんなわけで昼語。時間もギリギリだったため、走って教室まで言ったのだが、どうやら間に合わなかった。

 なんでレン君はそんなに元気なんだよ……。僕とほぼ同スピードで走ってたよな?なに?チートか?チートなのか?

「いや、お前が体力ないだけだと思うが」

お前がありすぎなだけだと思うんだけれど。

「さっさと席に着きなさい!」

 腰に手を当ててプンスカ起こる先生。そんな姿も癒されます。

「「はーい」」

 この辺は小学生だな。と、自分の事を若干客観視しながら僕とレン君は席に着いた。

 それを確認した先生は小鳥を連想させるようなかわいさでコクリと頷き、にっこりとほほ笑んだ後話し始めた。

「じゃ、全員揃ったところで、授業始めますね。この授業からみなさんEクラスは授業に入りますが、王都学院学園は最初の授業でこの世界についての歴史を勉強します」

 そういった後、先生用に少し低く設定されている黒板に何かの絵を描き始めた。

 そう言えば家にあった本にはこの大陸についての事が書いてあるものはなかった。自分の知らないことが知れるので、今の僕を例えるなら「オラわくわくすっぞ状態」である

 今にも金髪になり、スーパー野菜人と化しそうなのだが、そこは抑えよう。

 ゆっくりと顔を挙げ、黒板を見た僕は驚愕した。

「これが私たちの住む大地。メガラニカです」

 その大陸の形は見覚えのある、というよりは、前世の趣味で見たことのある形の大陸だった。

 メガラニカ――。

 僕が元々いた世界の方では仮説上の大陸として有名な伝説上の大陸である。古代ギリシア時代には地球球体説というものが当時にはすでにあったらしく、その当時知られていた大陸は全て北半球に偏っており、安定性が悪いように見えた。そのため、南半球にもそれと釣り合いが取れるだけの巨大な陸地が存在するという考えが生まれた。

 そして、シルク先生が書いたメガラニカ大陸と言っているその絵はそのメガラニカそのものだった。

「余談ですが、このメガラニア大陸のほかに、聖獣や神獣等の位の高い生物が住んでいるムー大陸」

 黒板の真ん中にでかでかと書かれたメガラニカ大陸の右斜め上に書かれたそれもやはり僕が前世に見た伝説上の大陸そのものだった。

 ムー大陸――。

 ミステリー番組などで訊いたこと、あるいは見たことがある人は多いと思う。メガラニカ大陸のように発見されていない(・・・・・・・・)大陸であるが、このムー大陸に関しては決定的な証拠となる遺跡遺物などは存在せず、海底調査でも巨大大陸が海没したことを示唆するいかなる証拠も見つかっていないのだ。

「そして、この大陸の裏側に位置する魔王が統治し魔物のはびこる大陸、アトランティス大陸。先生一回パシフィス大陸に行きましたが死にかけました」

 冗談交じりにそう言う先生の目は死んでいた。

 メガラニカ大陸の左に書かれたメガラニア大陸由も二回りほど小さく描かれたその大陸も僕は見たことがあった。

 アトランティス大陸――。

 これもまた伝説上の大陸とされている。一昔前には謎の大陸ブームとして一躍人気になったが僕はそこまで調べていないのでそこまではわからないが。

 大陸と呼べるほどの大きさを持った島と、そこに繁栄した王国のことである。強大な軍事力を背景に世界の覇権を握ろうとしたものの、ゼウスの怒りに触れて海中に沈められたとされている。

 現代的に考えれば、大陸が一瞬にして消えるなんてことはありえないので別の王国や文明に重ねて考えたんじゃないかと僕は思っている。

「まあ、脱線はこれくらいにして、……よいしょ」

 おっと。既にアトランティス大陸とムー大陸を消しにかかってしまっている。趣味に花を咲かせていたらいつの間にか大陸解説が終わってしまっていた。聞いておけばよかったと今更後悔する。あとで配られた教科書を読むことにしよう。

 …もしかしたら、前世の世界と何かしらのつながりがあるかもしれない。

「では、そうですね。まずはこの大陸を圧倒的な力と知識で治めた唯一王一世様の話をしましょうか」

 どうやらメガラニカ大陸の歴史について話し始めるようだ。

 さっきの話は気になるものの、歴史好きな僕としては、この話もわくわくできた。

「唯一王一世さまは親と呼べるものがいません。どころか、出身すらも謎で突然出てきて世界を統治した後妻と子を残して消えてしまったといわれています。その後はどうなったかは分かりませんが、一番有力な説は自らの手で自害したというものです」

 ほう。

 それは、何というか、ミステリーだ。

「強大すぎる自分の力に自らが恐怖してしまったんでしょうね」

 感慨深そうにうんうんと頷く先生。

「強大すぎる力というのは自らがそれを抑えられるほどの精神力を持ってこそ真の価値を発揮するものだと先生は思います。皆さんも力がほしいなどとただ単に思うのではなく、それを扱うだけの努力や技量が必要だということを自覚してくださいね」

 意外に深いことを言いながらかわいらしい笑顔で笑う先生。

 その先生の笑顔に影があったのが少し気になった――なんてことはない……と思う。そう思いたい。

「その次に、唯一王の座と着いたのは、娘のギリア・メガラニカ・レニース…かと思われたのですが、なぜか、次の王位についたのはこれまた唯一王一世様と同じくどこからともなく表れ男性に譲られたと歴史書には示されているんですよ」

 ……ほう。それはおかしな話だ。

「その男性は唯一王二世として王位につき、娘であるギリア・メガラニカ・レニースを嫁に迎え、二〇〇年という間メガラニカ大陸に平穏の時を与えました」

『二〇〇年!?』

 誰かが驚いたような声を上げる。ぼくも思わず声をあげそうになったが、危なかった。

「はい。唯一王の座についてそのあいだは、なぜか都市を永遠にとらず、衰えもなければ決して死なないという所謂不老不死となっていたんです」

 悲しそうな表情を浮かべた先生はこう続けた。

「彼の妻となったギリア・メガラニカ・レニースもなぜか彼と同じ体になり、唯暦(ゆいれき)二二五年、唯一王二世様が王位に就かれてちょうど一八〇年の即座祭に生まれた彼との子供を彼に託し、自らの魔法で自害したと文献には残されています。それに絶望した唯一王二世様はその娘、ミリア・メガラニカ・レニースが二〇歳となった年に、唯一王一世と同じく自害をしました」

 悲しそうな表情の先生の目には涙が浮かんでいる。

 感受性の豊な人なのだろう。

「そして、その後就かれた唯一王三世様は、娘であるミリア・メガラニカ・レニースが付くこととなったのですが、とたんに国が少しずつ荒れるようになり、その対策として造られたのがギルドという場所です」

 ここでギルドの名前が出るか。ファンタジーにはありきたりだけれど、この世界だと、ギルドというのは傭兵的な人等が集う場所のようなものなのかな?

「それでも国のあれを防ぐことができなかった唯一王三世様は三つの首都を作りました」

 そう言って、人差し指、中指、薬指の三本を立てた。

「一つ目がこの王都。一番初めに作られた首都であり、開発当初は要塞という役割を果たしていました」

 薬指を折って、「そして」と言葉をつなげる。

「二つ目が新都です。ここでは、魔術師や、騎士などの育成と開発を行っています」

 中指を折った先生は「最後に」と言葉をつなげる。

「三つ目の境都。ここは、主に国の境界線の管理だったりを行っていましたね。その三つの種とは一〇年の時を得た頃に、唯一王三世によって、それぞれの都市学校が作られることとなり、現在に至っています」

 なるほどな…つまり、メガラニカという大陸自体が作られてからそう経っていないということか。

 皆もそう思っているのか感慨深そうにしていると、どこからかキーンコーンカーンコーンという高校ではあまり聞かなかった懐かしのチャイム音が聞こえる。

「おっともう時間ですね。大陸の話で少し時間を取りすぎましたかね。それでは、みなさんまた明日お会いしましょう」

 授業終了の合図とともに教室内がざわざわとみんなが会話をしだす。

 そんな中僕だけは少し考え事をしていた。

「(メガラニカ大陸。ムー大陸。アトランティス大陸。…どういうことだ?なぜ前世で訊いた古代の伝説上の大陸がここで出てくるんだ?これは偶然じゃない。――そういえば唯一王一世と唯一王二世は突然現れたんだよな…?)」

 そこで僕は一つの答えにたどり着いた。しかしそれはあまりにも現実性のない答えだった。だが、そう思わないと、この世界にあるこの時代には会わない建造物や物があったことの説明がつかないのだ。

「(彼は――唯一王一世は転生者……?)」




「はっはっは!やっと現れたか!シキ・アリオンよ!結構待ちわびたぞ!」

 あの後思考の海に取り込まれていた僕を救ってくれたのはレン君の「お前…放課後のあれ忘れてねえよな?」だった。

 はっとリアルで言いながら、教科書などをバッグに詰め込み、レンとともに待ち合わせ場所のスタジアムへと向かった。

 そして、着いた矢先に言われた一言がさっきの一言である。

 スタジアムの観客席にはいろんなクラスの女子がキャーキャー黄色い声援をミカド君に送っていた。女子だけじゃなく、男子もいるあたり本当に人望があるということだろう。僕が遅れてきたことについて嫌味を言わないあたり本当にいいやつなのかもしれない。僕の世界にいたらDQNと名前を付けることは間違いない不良チックだし。DQNはいいやつが多いという法則なんだろうか?

「いやー。ごめん。トイレ行っててさ」

「そうか。じゃあ、始めるぞ!」

 おおう。いきなりだな。

 そして、その言い訳じみた発言も責めないあたり、彼はまじめにいいやつだと思い始めてしまった。

そんなはずないのに。

「ルールとかってあるのか?」

 僕が少し疑問に思っていたことを聞く。

 息を整えるまでの時間稼ぎというやつだ。

「ふむ。昼に言った通り、魔術なら何でもアリだ。どちらかが気絶するまでやる。もし死んだらその時点でその死んだ奴が負けだ」

 死ぬって…そうだ、忘れてた。ここ剣と魔法のファンタジーな世界だった。

 ……汗が一気に噴き出た気がする。が、同時に謎の高揚感のようなものが僕を支配していた。わくわくともいえる。

「さあ。始めるぞ。前も言った通り俺はハイドのように優しくない。だから先手は――」

「そんなの僕も一緒だよ。君に先手は―」

―――譲らない。

「《きらめく光の精霊よ 闇夜を照らし 我に勝利の導きを》」

「《我が左手に集まりし風の魔力よ 彼らを切り裂き 死を知らせよ》」

 僕らがそれぞれほぼ同時に詠唱を始める。僕はしょっぱなからラストスパートのつもりで、自身の必殺技ともいえる魔法の詠唱を唱え、同時に呼吸を整える。

光霊昇弾ハイライト・イレーザー

疾風怒濤(ウィンドスラッシャー)!」

 僕の構えた手の平の魔法陣から光の極太レーザーが、ミカド君の振り払った手からは風の刃が、それぞれ吐き出され、ぶつかり、砂埃を巻き上げる。

 それは試合開始の合図でもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ