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第1話:出遭い

 あれから四年の月日がたった。

 すっかり歩けるようにもなり、ようやく人間らしく自由に動蹴るようになってきた。四歳らしくなく人並みにしゃべれるので両親から天才だ!ともてはやされている。最近では自重し始めているが。

「シキ様ーごはんですよー」

 おっと。リリィさんが呼んでいる。

 申し遅れた。僕の名前はシキ・アリオン。

 名誉あるアリオン家の長男であり一人息子。このアリオン家、どうやら地位のある家名で、おかげでいい生活ができている。金持ち万歳状態だ。

 僕ら家族の住む村は、まさに田舎な場所で、木々が生い茂っていたりして道路なんかも舗装されていない。田んぼも存在する、田舎と呼ぶにふさわしい。The田舎、といった感じだ。父さん母さんが五年間ここに越してきたらしいのだが、母さんの持前のコミュニケーション能力の高さで、すぐに順応したらしい。今でも近所からの評判も以外に上々であるという。

 あの二人はどうやら過去に何度もこの大陸の脅威を取り払った英雄と呼ばれているらしく、家との縁を切ったらしい両親がどうして貴族と呼ばれているのか不思議におもったものだが、どうやらその功績を讃えられてのことらしい。そんな経緯があったのか、と聞いたときには感動をしたものだ。

 それを知る近所の貴族も、下手に崇めたたえないのでかえってやりやすいとここの間母さんは言っていた。

 そんなわけで、僕らアリオン家はなかなか平和な毎日を送っている。

「はいはい。今行きますよー」

 と、そこまで僕の設定を述べたところで、僕を呼ぶリリィさんの声に応答した。開いていた分厚い本を閉じ、食卓へと向かう。




「へー。今日はリリィさんが作ったんだ」

「はい。どうぞご賞味ください」

 さっき僕を呼んだ人物である、うちの専属メイドのリリィさん。ファミリーネームはアリオンで通しているらしい。

 茶色いショートカットで、垂れパンダのようなのほほんとしたたれ目が特徴だ。全体的にスレンダーなのが最近の悩みらしい。いいと思うけどね、貧乳も。

「おお。リリィが作ったのか。これは期待できるな」

 父さんが軽い口調でそう言う。

 父さんの名前はクロウ・アリオン。達人級剣技才能を持っているらしく、その件の腕は確かで、一度村に入ってきた魔獣を一発で切り倒したのを見たことがある。

 銀髪イケメンである。滅べ。

「…悪かったわね。料理が下手で」

 そう唇を尖らせて言ったのは僕の母さん、ユフィ・アリオン。

 本人も自覚している通り、すさまじく料理のスキルがない。一回作ってもらったことがあるが、あまりにもまずくて外に捨てたら、その捨てたところに魔獣が何匹も死んでいたというエピソードがあるくらい料理が下手である。魔獣殺しのお母さんと心の中で呼んでいるのは内緒である。

 容姿は、いかにもツンデレそうな釣り目に赤毛のポニーテイル。その豊満な胸はリリィさんとは真逆であるとわかる。

 因みに、普段は父さんが料理を作っている。

「じゃあ、いただきます」

「…なあ。シキよ。毎回食事ごとに思うのだが、それはいったいなんなんだ?」

「残念な記憶力をお持ちの父さんには関係ない話です。むぐむぐ…おいしー」

 あーこの野菜スープ最高。

 野菜のおいしい部分だけを全部このスープに詰まっていると言っても過言じゃないね。

 特にこのジャガイモ。口に入れた途端ほわっとほぐれて口の中で溶けてしまうのがもうおいしすぎて泣きそう。

「な……はあ。お前も言うようになったなあ。小さいころのユフィみたいだ」

「…失礼ねえ。私そんなこと言った覚えないんだけれど。…あら。ほんと。もしかしてクロウ君よりおいしいんじゃない?」

「そんな…おほめに預かり光栄です」

「まさに下剋上ですね。さすがリリィさんですよ。もうどこに嫁にいっても引っ張りだこですね」

 おだててみると、「そんなあ。えへへ」と顔を真っ赤に染める。なんだそのしぐさ。かわいい。思わずごちそうさまと言いたくなったよ。

「…そんなにか。…どれ」

 スプーンでスープを飲み込む。その様子を僕ら家族全員でかたずをのみこみながら見ている。

 リリィさんもをすぐにまじめな顔になり、緊張した面持ちで父さまのほうを見ていた。

「…こ、これは…!」

「(びくっ)」

「野菜のおいしい部分だけを全部このスープに詰まっていると言っても過言じゃないくらいの野菜のうまさがしっかりとしみだしている…!特にこのジャガイモ。口に入れた途端ほわっとほぐれて口の中で溶けてしまうのが何ともたまらん…!…ふっ。リリィよ。この俺をここまで感服させるとはなかなかやるな」

 僕と心の中のコメントが大体一緒なのを聞いて気分がすごく下がった。

 パクリ野郎め。と、心の中で小さく毒づく。

「あ、ありがとうございます!」

「…ふ。仕方がない。約束だ。この家の料理権をリリィちゃんに移そうじゃないか!」

「わーい!」

 …リリィさんよ。それでいいのか?絶対父さまに言いように使われてるだけだぜ…。

 とまあ、こんな感じにいつも通りの食事風景は過ぎていった。

 午後。

 外にいる子供たちの喧騒が聞こえるが僕には関係ない。この時間帯は、自室で本を読む時間なのだ。

 はあ…この時間が一番幸せ。自分がどこにいるかなんて考えないで、自分の空間が自分を中心にできる感じ。素晴らしいね。

「この…うすぎ…が!」

 …うるさいなあ。と、本にしおりをはさみ、声の聞こえる方角にある窓をのぞき見る。

 どうやら喧嘩が始まろうとしてるらしい…とはいっても、僕はお人よしじゃないし、首は突っ込まない。

ラノベ主人公のように都合のいい脳みそのつくりにはなっていないのだ。

しばらくして、僕はすぐに本を読み漁る作業に戻った。

「…か…!」

 …まだケンカは続く。まあ、すぐに終わるだろう

「…く…よ!」

 まあ、子どもの喧嘩だし多少はね?

「…がっ!」

 …ちょっと長くない?もうやめようぜ。そんな不利益な遊び。

「………っ!この…!」

 …ぶちっ。

 頭からそんな血管の切れる音が聞こえてきた気がした。

 もう限界だ。そう思い、机の横にある窓まで椅子を持っていきそれに上って窓を開けた。

「うるせえんだよ!この糞ガキども!やるなら他でやれ!」

 僕の部屋は2階にある。

 割と地面に近い位置にあるため、僕の叫びはそのガキどもにも聞こえたようだ。…故にその喧噪もここまで聞こえたんだけれど。

「…あ?…はん。なんだ…アリオン家の引きこもりの坊ちゃんかよ。まったく…驚かせんな!つうか、お前にガキって言われたくねえわい!」

 僕がガキとよんだその子たちは大体3人くらいいた(大体7歳ぐらいだろうか?)。その中心にはうずくまっていた緑髪で青い目をした女の子がおり、どうやら3人でその女の子をいじめていたみたいだ。

 どう見ても遊んでいるようには見えないし、やはりケンカか?…いや、これは一方的な暴力、所謂リンチというやつだろうな。

 …さて。ここで、あの女の子は助けるべきなんだろうか?平穏を望むならここで手を出さない方が無難だろう。

 …多分、今の僕を涼香が見たらこういうだろうな。あのきれいな声で『臆病者』と。ラノベ主人公だなんだと言っていたさっきの自分に平謝りしたい気分になったが、首を突っ込むことにしようではないか。

 後悔はしない。そう決めたんだ。

だから僕は窓から身を乗り出して

「「「あ…」」」

 どしゃあ。

 頭から落ちてしまったようだ。…幸い受け身をとったので、かすり傷程度といったところだうか?

 ぱっぱっと、スウェットのような何かについた砂埃を払って僕は立ち上がる。その間3人は、黙ってみていてくれた。いや、唖然としているんだろうが。

「…こほん。あー。君たち。ここで喧嘩はやめてくれないか?」

「「「そっちかよ!?」」」

 3人の元気な声が聞こえる。

 いやー。年頃の男の子はそうじゃなくちゃね。

「…っじゃなくて!」

 一番体格のいい男の子はそう話を切り出した。

「お前には関係ねえだろうが!このガキ」

主に近所迷惑だよ。

「ま、いいや。とりあえず殴るね」

「ま、ままままて!お前アリオン家の人間だろ!いいのか!こんなところでそんなことして!家名の面汚しになるぞ!」

「…いや。僕の家族はそんなに心の狭い人間じゃあないから」

 なめてもらっては困る、と、彼らに注意しておく。まあ、近所の眼だとかは知らないけれど。

「…おいちょっと待て。その子血吐いてんじゃねえか」

 あわてて駆け寄る。血を吐いているということは口の中がキレている、もしくは内臓系がやられているということだ。

 うるさい彼らをどかし、女の子のもとに駆け寄った。…この出血量は、口が切れたというわけではないようだ。つまり――。

「やべえな…」

「は?なにがだよ」

「この子の出血量だ。お前らこの子に何発拳を当てやがった」

「何発って…そんなの覚えてるわけじゃ…って、違う!お前何で俺らに質問してやがるんだ!」

 彼の言葉を無視し、事の重大さに少し驚きつつ、どうするかを考える。…これは医者か?いや、まずはお母さんを呼んだ方が先決か。

「お前ら、どけ。お母さんよんでくるから」

「はっ!誰がどくか!お前もそこでそいつと同じようになっちまえ!」

 そう言うと、でっかい子は、僕に拳を思い切り振り上げた。振りもモーションもでかいなあ、なんて思いつつ、さっと避けると、カウンターとばかりに、でっかい子のお腹に思いっきり腹パンする。

子供の筋力だ。言うほどの威力はないだろうが、鳩尾にあてた。結構痛いだろう。

「…がっ…!…こいつ!」

「…うわ。小物」

「…う、うう…腹いてえ。…くそ!母ちゃんに言いつけてやる!」

 そういって、騒然と走り去って行ってしまった。はやいよ退散。本当に只の子どもじゃないか。ファンタジーらしくもない。

子分らしき人物二人も、トテトテと着いていってしまう。…あっけないなあ

「…ったく。クソガキどもめ」

 …っとと。そうだ、それよりも、この子の事だ。とりあえずお母さんを呼ぶことにしよう。




「一体どうしたっていうのよ?」

「いいから!早く来て!」

 今で、煎餅らしきものを食べていたお母さんの手を引っ張ると、僕は急いで裏道の方に今も倒れこんでいるであろう、女の子の元まで連れてきた。

 その姿を見たお母さんは、すぐにまじめな表情となり「シキ。居間にある私の装備一式を持ってきて」と言い、すぐに女の子のもとに駆け寄り、怪我の応急措置を開始した。

 ことは結構重大なのだろう。其の真面目な表情からそれを察する。

 急いで、僕は日ごろからお母さんが持ち歩いているという装備一式とやら総出に抱えお母さんのもとへと運んだ。

 それを無言で受け取ると、その中から色とりどりの瓶、そして杖のようなものを取り出す。ビンの蓋をきゅぽんと抜くと、をれをフラスコの中に入れていく。みるみるうちに混ざっていく液体は、やがて綺麗な緑色へと変色した。

 それを、女の子の口に運ぶ。

「がふっ……コクコク」

 一瞬液体が吐き出されるが、すぐに喉へと液体は運ばれていく。どうやらうまく呑み込めているらしい。

 途端に、彼女の顔が血色のいいものへと変化していく。どうやらあの謎の液体は、回復薬のようなものらしい。すごいな回復薬。

「…ふう。これでたぶん大丈夫でしょう」

 ほっと一息ついたようにそんなことを言った。

 その言葉に僕も思わず安堵する。

「シキ。お手柄だったわよ。あと少し遅かったらこの子は死んでいたかもしれなかった…さすが我が子ね!」

 にっこりとほほ笑むお母さんに、ああ、あの時、あの選択をしてよかった、と思わせられた。後悔はしなかったんだ

 笑顔に救われる、というのは表現が違う気もするけど、気分的には、その気持ちに等しかった。

「さて。仕上げよ。治療(キュアー)

 杖を取り出し、彼女の方に向ける。

 なるほど。これが魔法か、と驚いていると、杖の先から魔法陣が展開された。そこから淡い光が漂い、その光を受けた彼女の呼吸は徐々に規則正しいものになった。


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