第16話:闘技会
追記:都合で15話と16話統合しました。
最初の友達を作るのは難しい。
僕がこの学校に通い数日たったころに考えたどりついた結論である。授業がない時間が数日ほど続いているのだが、その際に思ったのだが、存外皆コミュ力が高いのだ。子供故、というのもあるとは思うのだが、ガイダンス(的な物)時に友達を作れるなんてなんて度胸がある子たちなんだ、と、つい戦慄してしまったよ。高校の時ろどことなくデジャブだなあ……あの時は涼夏がいたから友達がすぐにできたようなものなんだよなあ。
……今回に関しては自分で友達を作らなくちゃいけない、というのは、僕にとってはすごく大きな課題だなあ、などと、机に突っ伏しながら考える。と、まあ、こんなに騒がしい教室の真ん中で、突っ伏してしまえば目立つことは必至で、というか現時点でかなり注目を浴びている。視線が痛い気がするが、スルーである。僕にとって初めて会う人と話すなんて言う行為は至極困難だというのは、まあ、分かりきっていることなので本当は受け身になるほうが精神衛生上安全面に考慮できるのだけれど、ここ数日それを実行して結局ボッチだった。
いや、最初はそれこそ友達いない仲間が居たんだよ?それが1日目で5人に2日目で3人に3日目で僕1人と、どんどん消失してしまったのだよ。これなら話しかければよかったよ畜生!
と、後悔しても遅いので、とりあえずは、最近昼食時に話しかけられてきているセルフィのもとに行くことにする。彼女にコツを訊くのが一番早いというものだろう。
ちょうど時間も時間なので、僕は弁当箱を2つ手に持ち、食堂へと向かうことにした。
「え?と、友達?」
「そう。友達」
そんなわけで、お弁当を一生懸命頬張るセルフィにその話題を早速振ってみることにした。因みにキョウのメニューは多胡さんウィンナーと、キャベツとご飯、あとは卵焼きにホウレン草のソテーだ。ぶっちゃけ昨日の残り物である。
「うーん……どうやってって、言われてもなあ」
まあ、確かに困る質問ではあるだろう。だが、そこをあえて、と念押ししてみることにした。
「私は直ぐにできたけれど…というか、そういうのは自然にできるものだと思うんだけれど」
「できないからこうしてだなあ…」
「ああもう。わかったから…涙目にならないでよもう」
そこまでになっていたというのか…我ながら気持ち悪いなあ、と考えつつ、状況やらそう言うのを話してみることにした。
いろんなあれこれを聞いているセルフィは、いつの間にかどんどん微妙な表情へと変化していく。
そして、最後まで話しきった時には、何とも言えない悲しい表情へと変化していた。え?あれ?僕そこまで変なこと言っただろうか?
「シキ。うん…その…ごめん。私にはちょっとどうにも…」
「え?いやいや。こう、なんかあるでしょ?」
「………………」
「お、おい!?黙らないで!?たのむからあ!」
「大丈夫。友達なら私がいるから…で、でもシキになら、そ、それ以上に…ってえへへへへ」」
うわー。嘘だろおい。僕はセルフィにすら見捨てられて…。なんだろう。本当に泣きそうになってきたよ僕。
「…全く。シキはまた訊いてない」
「んあ?なにがだ?」
「………全くもうだよ全くもう。せっかくアドバイスしてあげたのになー」
「はっ!?え!?マジで!もう一回!お願いします」
「ざんねーん。1回きりでしたー」
ぐあ!マジかよ…。
まあ、そんなわけで、その後はそんな感じの問答が続き、最終的には何も聞き出せないという無様な結果に終わったのだった。
…今度からセルフィに話はちゃんと聞いてあげることにしよう。
そんなことを僕は心の中で誓うのだった。
この王都は延べ10万もの人が住んでいる。その5割は学生で占められていて、なんかもう本当にどこぞの学園のようだ、なんて思うが、その敷地の半分は数多い学生たちの量や、憩いの場として使われているため、研究施設などは全くと言っていいほど皆無である。魔法の研究施設などは、全て学園の中に収納されているというが、その真相は定かではない。
かく言う僕も、つい4日前に学生寮に入ったわけで、一人暮らし、というのを満喫していた。年齢が年齢なので、父母同伴、というのも実は許されているらしいのだが、僕自身に自炊の能力は備わっているためその心配は必要なかった。
問題はセルフィである。
彼女に自炊能力など備わっていなく、どころか、掃除すらもまともにできないらしい。
故に、弁当係というのをセルフィの父親から頼まれているわけだ。他にも週に1回掃除を手伝ったりする予定だ。飽くまで予定だが。
この寮には男性寮女性寮とかは存在しないんだろうか、とは気になったものだが、気にしないでおくとする。この学園の風紀がいささか心配だが。
「で、何でお前らがいるんだ」
「やっほーシキ」
「久し振りーシキくん」
寮に帰ると、そこには美少女が二人いた。
何を言ってるかわからねえと思うが安心しろ。僕も分からない。
「…カイエル。ミル。とりあえず帰れ」
カイエル――アレンの手下だった中くらいの方の女の子。特徴をあげるとするなら、スレンダー。ポニーテイル。そしてキツめの美少女。
ミル――これまたアレンの手下だった、小っちゃい方の女の子。特徴をあげるならば、小さい身長に似合わない胸についてるでっかいブツ。・ゆるふわファッション。そして癒し系美少女。
この二人はアレンの手下からアレンのハーレム要因へとランクアップしている。うらやましい限りである。
「えーせっかく来たんだから、もうちょっとゆっくりさせてよー」
「そーだよ。ケチだなあ」
「うるせえ。というか、お前らどうやって家に入ったんだ?」
「べっつにー?魔法使ったのよ。ま、ほ、う」
カイエルが、唇をとがらせて無駄につやっぽく言う。天然でこういうことをする奴なので、最近では気にならなくなってきた。
「そんな犯罪魔法あってたまるか!」
「じゃあ、正直に言うけど、玄関のカギ、開いてたんだよ?」
「嘘つけそんなはず…………あっ」
ミルに言われて気付く。そういえば、今この部屋に入った時も、鍵かかってなかったなあ、と。いや、でも決めつけるのはまだ早い。朝から順に考えてみよう。
えっと、確か朝は…起きて、顔洗って、日本風の朝食食べて、着替えて、鞄もって、靴はいて、鍵もって…あれ?僕鍵閉めたっけな?…あ。そうだ。朝は少し遅刻しそうで若干ペースはやめて行動してたじゃん。そうか。だから鍵を…。
「思い出した?まったく。不用心だよ?鍵を閉めてないもしもの時の防犯があるとはいえ用心しなくちゃ」
「そうだよ!防犯があったじゃん!」
「あんなの私達から見たら子供のおもちゃだよー」
「そーそー。特にミルの魔法解析はすごいんだからっ。ねー」
「ねー」
「ねー。じゃねえよ!…たく。で?お前らいったい何しに来たんだ?それにお前らも一応は今日学校だろ?」
「さぼった」
「さぼったよー」
「堂々と言いやがったな!優等生じゃなかったのか!?」
「大丈夫。学校には今日風邪だって言ってあるから」
「お前らが風邪ひいたって言っても信じるかどうかわからねえと思うがな…」
この二人は、セルフィと同じくしてAクラスの人間らしく、とてつもなく優秀なのだ。カイエルは、武道、ミルは魔法、と中々のコンビで最近はがんばってると聞いてはいたが。
「それに私たちシキが心配だったんだよ?」
「そうそう。シキくんちゃんと友達できてるかなーって。ほら。シキくん村では私達しか友達いなかったでしょ?他に友達作らなかったから受け身体質なんじゃないかなーって」
「うっ…」
ミルは、こういう人間観察が得意なのか、どこか鋭いところがある。
受け身体質、というのも当っていたので、ついつい唸り声をあげてしまった。
「もしかして図星?…全くもう。そんなんじゃ楽しくないよ?シキ」
「そーそー。学校生活、どうせなら謳歌しないとっ!」
それができたら苦労しないんだよ…と、言いたくなるが、この二人に負い目を作りたくないので、言わないでおいた。
……ちなみにこの問答はこの数時間後まで続き、僕が精神的にヘロヘロになり、夜を迎えた頃に二人は帰っていった。
その日の夜。寮全体に「もう二度と来るなー!!!」という声が木霊したというが、あくまで僕のせいじゃない。絶対にだ。
そんなこんなで次の日。
昨日のせいか疲れていた僕は、ずいぶんとぐっすり寝れたと、嬉しいやら悲しいやらなんといえばいいかわからない感想を持ちつつ、僕は顔を洗い、朝食を食べ、その後、2つの弁当を作る。ほぼいつも通りの流れで、3日目にして既に自動化してきているので、もしかしかしたら家事のスキルが僕に備わってきているかもしれない。
自分の行動に若干の溜息を出しつつ、もつ物を持って、今日こそは余裕を持って外へ出る。…良し。鍵は閉めた。
今日こそは大丈夫なはずだ。
と、思った矢先のこと。
「やっほー。おねーさんたちが迎えに来たげたよん。シキ」
「おはよー。シキくん」
「帰れ!!」
今日もどうやらぐっすりと眠れそうだった。
「はぁ…」
溜息をつきつつ今朝の疲れをシルク先生の姿と声によって癒す。途中から、セルフィが出てきて修羅場だったんだけれど、まあそれは置いておこう。
どうやら、この後何かしらのオリエンテーションをやるようで、その話をしている。トーナメント式で初期魔法オンリーの闘技会をやるらしいのだが、まさかそう来るとは思ってなかった僕は、若干の焦りが出ていた。
10歳で入学4日目でこんなことをするのか。
いや、うーん。でもこれは…。
僕事態実戦経験が少ないんだけれど。
「じゃあ、廊下に並んでくださいね!」
1クラス20人なので、100人。1対1のトーナメントなので時間もかかりそうだなあ、なんて思いながら、席を立ち、先生の言うとおりに適当に並ぶ。なんだか小学校を思い出す。
ちなみに僕のポジションは一番後ろ。安定である。
先生を先頭に闘技場へと足を運ぶ。Eクラスの場所は階段から一番遠い場所にあるため、寮住まいからしてみればいささか不満があるのだが、まあこれも差別化というやつだろう。
歩いて数十分。
闘技場へとたどり着いた。僕たちはEクラス用の席に着く。開会宣言を一番偉いう話の先生が言った。先生長みたいなのがあるんだろうか。
と、そこまで長ったらしくもなかった話は終わり、さっそく第1回戦が始まろうとしていた。
運の悪いことにAクラスとEクラスの試合ある。
初級魔法の連打でAクラスの子の勝利となった――と、こんな感じで試合が続いていき、10回戦目。
最初と同じようにAクラスとEクラスの勝負である。
最初のせいか、Aクラスと試合にあたった人は大抵降参していたのだが、あのEクラスの人は自信満々の顔で笑っていた。何か秘策でもあるのか、と骨のある試合を期待してみる。
Aクラスの人はメガネをかけた真面目そうな男子。一方Eクラスの人は俗にいうぽっちゃり系のメガネだった。
こう見ると、同じメガネでも歴然の差である。
Aクラスの人――ハイド・ミゼラはどうやらFクラスの人――レン・タカミチに先手を譲ったようだ。
外見や服装だけじゃねえ正真正銘の紳士ってわけか…こいつは精神的にも紳士だ!…気に入ったぜッ!
…茶番はともかく、その誘いに乗ったレン君とやらはハイド君の目の前まで歩いて行ってハイド君のお腹に手を当てる。ずいぶん近いなあ、なんて思っていると、試合開始の合図とともに、レンとやらの手の平から魔法陣が生成された。
「雷よ」
「―!?」
いきなりの攻撃魔法に驚きながら吹っ飛ぶ。先行を譲った手前、防御もまともに取れず壁にぶち当たった。
メゴッという嫌な音が響く。
「か…は」
「あ、あわわ!やっべ!魔力籠めすぎた…!大丈夫!?」
レン君が焦ったような顔と声でハイド君に近寄る。手を差し出して、「大丈夫?」を連呼している。
先手を譲ったのはあっちだというのに、人のよさそうな子である。
「ッ――!僕に情けをかけるつもりか!」
「え!?ち、違うよ!ただ俺は…」
まあ、確かに紳士みたいな雰囲気と同時にプライドが高そうな感じも醸し出してたが…。まさかあんなマンガみたいなセリフを聞けるとは。
「…もういい。不愉快だ。一気に終わらせる」
少しよろけながらゆらりと立ち上がり、レン君を睨みつける。
ここから畳み掛けるつもりなのだろう。
「木よ」
「うお!?」
レン君の足元に木が絡み付く。昔、リリィさんがやっていたのを思い出した。木属性は凡庸性が高いというが、どちらかと言えば、嫌がらせ性能もだいぶ高い気がする。
「くっ…サン――」
「水よ」
「がっ…」
顔面に水の塊が当たる。顔面から水面に落ちた痛みが走っているのだろう。今すぐ転げまわりたいのにさっきの木が足に絡みついたままなのでそれもままならない。
鼻血がたれながらも必死に意識を取り持とうとしているのが見て取れた。すごいな。あの至近距離で水の塊なんか当たったら意識なんて軽く飛んでしまうはずなのに。。
「…なんだ。まだか。…審判員さん。これ気絶するか、降参ですよね?」
「あ、ああ。そうだが…」
まさか…気絶するまで続けるつもりか。
審判員さんもそれをわかっての一言だったのだろうけど、いくらなんでもそれは…。そんなことを思っていると、にやりと口をゆがめるハイドくん。
「水よ」
「がっ…」
また顔面に水球がぶつかる。
「…あはは。まい…t」
「えー?なんだって?聞こえないなあ水よ」
「ッ…が」
そう言ってまた水よを当てる。
前言撤回。Aクラスってのはあんなのばっかなのか。やな奴だ。紳士どころか悪党だった。
「あはは!もう一回言ってごらん?はい!」
かなり悪役です。どうもありがとうございました。
耳を口に近づけるハイド君。
と、その瞬間レン君は大きく口を歪めた。ハイド君はそれが見えていないのか、いまだニヤニヤしていた。
瞬間、レン君の目の前に魔方陣が展開された。それは
「え?」
ハイド君が素っ頓狂な声をあげる。
「んな…!?」
「はっ!水よを楽しそうに売ってる間に詠唱は終わってるぜ」
「くっ…」
「大丈夫。死にはしないよ!」
雷砲」
「中級魔法の雷砲だって!?でもそれを使えば…」
「ああ!もちろん敗退だけど、Aクラスの鼻っ柱を折れると思えば安いもんさ!」
雷砲とやらは放たれる大きな音を上げレン君の真正面から雷の球が吐き出され、次の瞬間には、フラフラと倒れるハイド君に水たまりの上でうつ伏せで気絶しているレン君がその場にはあった。
その様子を見た審判は、ハイド君側に旗をあげて、
「レン・タカミチ!違反行為により敗退!勝者、ハイド・ミゼラブル」
と高らかに言った。
どこか、不穏な空気を残しながらも闘技会はまだ続く――。
「貴様がセルフィさんを誑かしているという変態鬼畜野郎か!」
試合もいよいよ後半となってきて生徒も先生も熱狂してきた頃に僕の出番はやってきた。僕の相手はAクラスのミカド・ユノムール君で、金髪オールバックのきつめの目つきが特徴のヤンキー風貌が特徴である。
そんな彼だが、場に出たとたん女子たちの黄色い声が周りを包む。
そんな…まさか…!この世界ではハイド君のような真面目イケメンより、こんな感じの不良系イケメンのほうがモテるというのか…!
そんなことを考えながら僕も場に出たときにそんなセリフを僕は言われた。
「聞いてるのか?変態鬼畜野郎」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!僕が何をしたっていうんだよ?」
「はっ!何を言うかと思えば…お前は気付いて言っているんだろ?」
そう言ってミカド君は大きくのけぞりながら僕を指差した。ジョジョ立ちである。というか一生懸命見下そうとしてるのかあれは。
「入学当初にセルフィさんの弱みを握り!更には無理やり昼休みには弁当を一緒にする!」
「いや…それは――「ええい!黙れ!」――ええー…」
「友達だと言い張るつもりか!?ハッ!お前のようなEクラスとセルフィさんのような魅惑の麗しいAクラスの才女がか!?」
おいまてお前。本当に10歳か?高校生とかじゃないのか?と、思わせるほどの数々の言葉に若干気圧される。
幼馴染なだけなのだが…。何となくは予想していたものの此処まで罵倒されるとは思わなかったぜ。
セルフィが容姿端麗で才色兼備なのは重々承知なのだが、ぶっちゃけ、「好きな人」よりは「妹」や「親友」のような感じなので、愛情はあっても愛はない。
そんなよこしまな感情は抱いていないのだが。
「俺がお前をコテンパンにして、性格矯正して!あわよくばセルフィさんの好感度をアップを狙う!」
「絶対最後の一言が本音だろ!?」
「ええい!問答無用!」
そして、試合開始を意味する銅鑼が鳴り響く。だいぶ古式だなあ
「俺はハイドとは違って先手は譲らねえぞ!雷よ」
雷よをぎりぎり避けた僕は思考する。ぶっちゃけこの試合は僕には勝ち目がないと踏んでいる。光零の矢とかの僕が集中的に使ってきた十八番技は使えないので、雷よがぎりぎり遣える程度である。肉弾戦も正直武器がないと勝てる気がしない。
…と、なったら、Fクラスの先人たちのようにて振り上げて、「降参」というだけ…。
「おっと!そうはいかないぞ!変態鬼畜野郎!風よ!」
「ぬお!?」
風の塊は僕の振り上げた手を容赦なく後ろにぶっ飛ばす。
「ぬあっ…」
その行為は降参の行為をやめさせるだけでなく、そのあとを考えていたようで、崩れた体制を狙ってまた風よで構築した風の塊を打ち出してくる。
雷系魔法がまともに使えない僕としては、目くらましの光よしか魔法が実質ないわけで、逆に言えば、目くらませた瞬間のみを探せばいいわけだ。
「がッ…は…」
風よは朴の灰の中の空気をすべて吐き出させてくれた。きっついなー。同年代との戦いはなかったわけで、いやーためになるなー(俸)
「このまま…終わらせる!」
どうやら、遠距離からの止めは良しとしない人なのか、わざわざ向こうから近づいてくれた。
「どおりゃああああ!」
寝っころがる形になった僕の腹に向かってミカド君の拳は振り上げられた。
チャンスはここしかない。
さっきからずっと指先に貯めていた魔力を彼の眼もとで一気に解放した。
「え?…―「光よ」―…のおおおお!?」
彼は拳の振り上げを中断して、眼を押え悶え始めた。
「こ、小賢しい真似をぉぉぉ!!」
小物のような…というか、小物そのものの声を上げる。やべえ。噛ませ役臭がプンプンする…!そんな失礼なことを思いながら、ふらふらと立ち上がる僕。距離を取って、今度こそ手を挙げて「降参」しようとしたその時である。
「だらっしゃあああ!!」
がばっと立ち上がるミカド君。
おお…父様でさえ5分は悶え続けるという光よをくらってものの数秒で起き上がるとは…。中々の手練れだな…。
「目が見えずともッ!音で聴きッ!風を感じるッ!」
彼が右手を大きく掲げそういうとまたもや女子が黄色い歓声を上げる。
ワムウみたいなこと言い始めたああ!!こいつはやばい。まさか齢10歳でこんな厨二発言をするとは…いずれ「俺の右手が光って唸るゥ!」とか言うんじゃないか?
「む。こっちか!」
「なっ…」
瞬間、にやりと笑った彼はこっちに向けて高く跳躍した。まずい!いち早く降参しなくては。
「こうさ――ぬおおお!?」
「させるかああああ!!」
跳躍後こちらに走ってくるミカド君。その顔は鬼の形相と言っても差支えがない。
「どらああああ!」
「ぬあああ!?」
手を挙げるべく、必死の攻防をくりかえす僕ら。
彼もいち早く眼の治療をしたかったのだろう。必死の形相だ。勝ちたいという思いもセルフィにいいところを見せたいという思いもその顔からは伝わってきた。
「これで…終わりだ!」
「これで…終わりだ(手を挙げる意味で)!」
しまった…!腰が抜けて…。
Sideセルフィ
シキとユノムール君の対決は、それはもうひどいものだった。
シキは兎に角降参をしようと手を振り上げるのだが、ユノムール君がそれを阻止する。それの繰り返しであった。
しかし、熱が入りすぎている生徒(特に女子)や先生は白熱する一方だ。恐らく、すごく熱い戦いに見えていることだろう。
「おーい。セルフィ?」
いやいや。よく見ようよ。これだいぶしょぼい戦いだよ?
「セールーフィー?」
シキも武器も攻撃魔法もない中よく頑張るなあ。たしか、シキの奴、初級呪文って光よだけじゃなかったっけ?
「…セルフィー!」
その辺はさすがというべきかなんというか。
「セルフィィィィイイ!!」
「にゃうっ!な、なに!?アイちゃん!?」
急に耳元で怒鳴られたためか、耳奥がじんじんする。
「かわいい反応してるところ悪いけど、私ずっと呼んでたんだけれど?」
そうやって、呆れた顔をするのはAクラスで初めてできた私の一番の友達であるアイ・ロックハート。肩の高さほどの桃色の髪の毛はと端麗な容姿の為か、クラスを問わず結構な人数から告白されている。まだ入学4日目だというのに今日にの人数だ。
おまけに優しくて、私よりも…その…お、おっぱいがおおきい。正直うらやましい。
「あはは…ごめんね。アイちゃん」
「……もー!かわいいなああ!このこの!」
「きゃっ!」
アイちゃんは私の抱き着いたかと思うと頬ずりをしてくる。
うう…恥ずかしい。みんなは試合にあつくなってるのがせめてもの救いというべきか。
「と、まあセルフィいじめは置いておいて」
「もー…」
「にゃはは。でも、セルフィが無視したのが悪いんだからね」
笑顔でそういうアイちゃんは一際男子の目を引く。
そのくらい彼女の笑顔は魅力的なのだ。
「む。たくさんの目線…」
周りを睨みつけるアイちゃん。肉食動物か何かだろうか。
「まあその話は置いておいて、セルフィは本当にあのシキ・アリオン君とお昼ご飯食べてるの?」
「うん」
「なんで!?」
驚愕に顔を染めるアイちゃん。
「幼馴染だもん」
「へー…ほー…ふーん」
今度はにやにやとした笑いを浮かべる。
「な、なによ」
「アリオン家といったら、父母両方ともあの伝説の剣士と魔術師っていう噂じゃない?」
「うん」
「それって本当なの?」
「うん」
数年前ユフィさんとクロウさんに聞いたことがある。
その英雄譚はすさまじいものだった。当時は信じられなかったのだが、シキ曰く、本気と書いてマジらしい。
そんな人に稽古をつけてもらえるシキは幸せものだな。と、言ったらシキは死んだ目をしていた。その目は今でも忘れられない。
「なのになんでアリオン君はEクラスなの?」
「筆記がね…」
「ああ…」
アイちゃんは私のその一言で納得したらしく、感慨深そうに目を閉じる。
子規は、どうやら本番にようぃらしく一気に内容が吹っ飛んでしまった、と少し前に行っていた気がする。まあ、その分実技がすさまじかったので、それを考えると、ッ式の実力のほどが伺える。
「セルフィはアリオン君の事好きなの?」
「ぶっ…」
アイちゃんのその一言で思わず吹いてしまった。
なにを唐突に…。
「いやさ、アリオン君よくみると、かっこいいし、好きなのかなって」
「かっこいいからってわけじゃ…」
「へー?好きなのは認めるんだ」
そう言うと、アイちゃんはまたさっきのようなニヤニヤとした顏に戻る。
「なっ…」
「違うのー?」
アイちゃんの探るような目線。
私はこの目線が苦手だ。
「……………………………………………………………………そうだけど」
長い沈黙の末、私は肯定の言葉を口にした。
「おおおお…。学園美少女10位を争う可愛い女の子に好かれるとは」
「び、美少女!?」
アホの子のような声を上げてしまった。
「知らないの?まぁ、無理もないか。非公式だもん」
私の知らないところでそんなことが。
は、恥ずかしい…。
「「これで…終わりだ!」」
私達がそんな争いをしてる間にも試合は進んでいた。
シキとユノムール君は互いの拳を互いの頬に当てがって倒れる瞬間であった。
そして立ち上がったのは――――…。
「はぁ…はぁ…」
シキだった。
その事実に、生徒は更に興奮をする。
そんな、ヒートアップしたなか、彼は手を上げて、大きな声でこう言った。
「降参しましゅ!!」
一瞬で場がシン…となる。
そんな中隣の友人は一人口元に手を起き、ふるふると震えていた。