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よくある異世界転生モノ  作者: 向ヶ丘こよみ
王都学院学園編――僕は友達が少ない
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第15話:入学式

 僕にとって初めての入学式といえば前世の数ある記憶の中で思い出深い記憶の一つだ。…入学式というか、入園式の方が正しいか。

 その入園式で僕は彼女――鶯涼夏に初めて出合ったのだった。思えば初めて彼女を見たときが、僕にとっての初恋だったのだろうと今なら思える。幼かった僕が恋心を抱くほどまでに、彼女は幼いころから美しかった。誰よりも何よりも美しかった。それ故に、誰も触れともせず、近寄ろうともしなかったのを覚えている。

 その所為か、周りからどころか親すらも離れて行ってしまった彼女の口癖は「大っ嫌い」というもの。壁を作り、自分が身を守るための精いっぱいの言葉だったのだと思う。むやみに近づいた僕は思いっきり「大っ嫌い」と罵詈雑言の数々を浴びさせられたわけなのだが。もはや彼女の倍雑言を聞いて育ってきたといっても過言ではないと思う。デレにも結構な時間かかったなあ。と、しみじみ思ってるわけなのだが、そういえば、あの日あの時「大っ嫌い」という言葉を浴びたのを思い出してしまった。はあ…。

「はぁ…」

「…朝から溜息ついちゃって……というか今日から花の王都学院生だっていうのに何て顔してるのよ」

「あ?あれ?僕溜息ついてた?」

「おもいっきりね」

 ふむ。口には出さないようにしていたのだが、ついつい出てしまったか。

 校門前に立ち、ついに入学かあ、と感慨深く思っていた末の溜息だったのだが。というか、僕そんなにひどい顔をしていただろうか。

「ほら。さっさと行くわよ」

 そんなことを言われ、セルフィに手を引かれ、馬鹿でかい校門をくぐった。

 受付のような場所で生徒手帳を見せたのち、学内へと入ることができるのだが、入ったとたんに僕は驚愕した。

「な、なんじゃこりゃ…」

 試験時には別の場所に案内させられ、実践試験やらを行ったのだが、その時は木造で例の防御魔法をかけて行われたわけなのだが、イメージが違いすぎて何というかもはやカルチャーショックレベルの衝撃を味わっていた。

「ビル…ビル群…?」

 どういうわけか、僕の目の前に広がったのはビルの群れ。コンクリート的な何かの舗装もなされ、まさに僕が生前夢見た学園都市そのものだったのだ。

 大通りのような所を僕とセルフィは歩いているのだが、その先には、周りのビルの中でも群を抜くほどの大きさの近未来的な形をした、建造物が一つ。

 恐らくあれが校舎かと思われる。

 街のシンボルタワーなのだろうか。

「…セルフィは驚いてないのな」

「ん?いや、だって私此処には何度か来たことあるし」

「そうなのか?」

「うん。お父さんの付き添いでね。王都の理事長さんともあったことあるんだー」

 と、言うことは、王族にあったということか。

 それはなんというか…すごいな。お前のお父さんは一体何者なんだ。

「ほらほら。早く行きましょ!」

 驚きはしてないものの、入学後に来ると進歩景色は違って決めるのだろう。すごくうれしそうな顔をしている。ついニヤニヤしてしまった。

「もう。なにニヤニヤしてるの?」

「べっつにー」

 訝しげな顔をしつつ、再び前へ歩き始める。

 いつもなら鋭いツッコミがあるはずなのだが…少しさびしく思いつつ、まあ、喜んでることだしいいか、と自分に納得させる。

 それでも腑に落ちないけれど。

「そういえば、お前は確か一番上のクラスなんだよな?」

 しばらく歩いて、ようやく校舎が近くなってきたなあ、思い始めた頃。そんなふうに話題を振ってみた。それに反応し、ニコニコ顔でこちらを振り向く。

 お前ずっとその顔だったのか。顔筋疲れそうなものだけれど。

 因みに、クラス、というのはそのままの意味で学年のクラスである。とはいっても、よくあるクラスのように、ランダムで配置されるのではなく、「序列」というのもが存在するのだ。一番上のクラス、Aクラスというのだが、それは文武両道の天才が集まるようなクラスで、逆に一番下のクラス、Eクラスは魔法も駄目武術もできない、そんな人たちが集まっているわけである。

 そのAとEの間には当然ながらB、C、Dのクラスがあるのだが、その説明はまたあとで説明するとしよう。

 一番上のクラス、という言い方をしたが、詰まる所セルフィはAクラスという天才集団の一員に見事仲間入りを果たしたのである。

「うんまあ、そうだけど……って、あれ?そういえばシキはどこのクラスなの?」

「……言わないとだめ?」

「…え?あれ?ま、まさかそんなはずないよね。うん。そんな言い方するなんて紛らわしいなあシキは!」

「…ははっ」

 今の僕は、新しい生活がスタートするようには見えてないだろう。…冒頭から元気がなかったのも、主にこのことが原因なわけで。

「え?嘘…え?」

  僕はというと武術の成績は良かったものの学問のほうの成績が非常によろしくなかったため――。

「…Eクラスだよ」

「……………え?」

「だから!Eクラスだって!」

「…………ごめん」

「……頼む。謝らないでくれ」

 もう、一生懸命応援してくれた父さん母さんとかアレンのお父さんとかその他大勢の人たちに申し訳ねえよ…Eクラス入りだって言ったときすっごい微妙な顔されたもん…。

「だ、大丈夫!お昼は一緒の食べよ!私シキ君のご飯大好きだもん!」

「…飯目当てかよ」

「ち、ちがうよ!?そ、そういう意味じゃ…」

「ふぐう…!」

「にゃああ!泣かないで!?ね!?泣き止んでお願いだから!」


閑話休題


 慰められながら歩いていると、いつの間に校舎の前についていた。

「まあ、うん!頑張ろ!シキ君ならクラスアップできるって!」

 なおも慰められつつ、校舎の中へと入る。

 ちなみに上履とかはない。土足OKだ。

「…そうね」

 就学中ずっとクラスはずっと同じというわけではなく、試験や実技の結果によってはクラスをあげることができるというのも大きな特徴かもしれない。

 逆に言えば成績によってはクラスダウンも大いにありうるということで、油断ままならないというのも事実。

「じゃあ、僕はこっちだから」

「頑張ってね!シキ!」

「…なけてきた」

「えっとその…うん。頑張ろうね!」

「同じことをなぜに買い言ったし……うんまあ、そっちもな」

 いつまでもめそめそしてられないからな。頑張ろう。

 ちょうどT字路になっている廊下の左を歩いていくセルフィの姿を見送った後、僕は右へと方向転換をして、Eクラスを目指す。




 Eクラス前。僕はなんとなく落ちつかないなあと思いつつ、ひどく近代的な引き戸式ドアに手をかけ、未知なる世界へと足を踏み入れた。

 教室内の緊張感は半端じゃあなく、通常なら視線が刺さるはずだというのに、誰一人としてこちらに向いていない。

 そんな中、僕阿自分の名前が書いてある席へと座り、彼ら動揺がちがちになりながら、先生が教卓に着くのを待つ。

 ……しばらくして恐らく先生であろう、人物が、前の方のドアから入ってきた。其の人は、静かに黒板前を通り、教卓へと着いた。

その人は非常に可愛らしい外見をしている故に空気の重さのギャップに皆驚きを隠せないようだった。

「起立」

可愛らしい外見とは真逆の静かで冷静な声を発することに、若干の驚きを覚えながら、僕を加えたみんなが一斉に立ち上がり、

「気を付け」

 続いてその声に背筋をピシッと整え、

「礼」

 最後に整えたまま、形を崩さないように、30度くらいで腰を傾けた。

「あ。もう座っていいですよ」

『台無しだよ!』

 俺を含めたクラスのほとんどが口をそろえてそう言った。

 さっきまでの重々しい雰囲気なんだったんだよ!と言ってしまいそうな勢いでさっきまでの空気はぶっ飛んでいた。

 「えへへ。一回やってみたかっただけなんですよ。…こほん!では、改めまして、私はあなた方の担任でSS魔術師のシルク・リフレートです!」

 その先生―シルク先生は、セルフィぐらいの身長でありながらお胸様がすさまじいことになってるというある意味印象深い人であった。母さんと同じくらいなんじゃないんだろうか。

 とまあ、それよりも、だ。シルク先生が言っていたSS魔術師、というのにどうやらみんな反応してしまっているらしく、周りが、某賭博マンガのようにざわざわし始める。

 SS魔術師といえばこの大陸において十数人しかいないといわれている達人級魔術師である。そんな人が担任と言われればざわめくのも当然だろう。

 この辺は何となく有名人が学校に来てキャーキャーし始める学生と一緒な気がする。

「とはいっても、この学校の魔術師の先生の方々から見れば雑魚も当然なのでそこまですごいというわけではありません」

『どういうこと?』

 誰かのそんな声が聞こえた。

「この王都学園は世界でも有数の魔術師を集めているので、私を末尾に結構有名な魔術師の方が集まっているんですよ。ですから、私なんてまだまだひよっこです」

『そうなんだ…』

 再び誰かが呟いた。今度は女生徒の声である。

「とはいっても、私は教師でもあり腐ってもSS魔術師ですからね。全てをたたきこんであげますよ!」

 そう言って胸を張るシルク先生。

 無駄に胸が強調されて「たゆん」という擬音を立てて揺れる。それを見た僕を含めた男子たちは「おお…」と、さっきとは違う意味で、寧ろさっきよりも大きくざわめいていた。

『お、おい…俺らむしろラッキーだったよな!』

『あ、ああ。こいつぁ…』ブシュ

『おい!鼻血でてんぞ!』ブシュ

『お前もな』

 …まずいな。これは…思った以上にバカばっかりだ。

 そんなことを思っている僕の鼻からほのかに鉄のにおいがしたのは内緒である。


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