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第14話:エピローグ

「誕生日、おめでとー!」

 そんな声と共にクラッカーが放たれた。ちょっと火薬くさいけど、良しとしよう。

「いやー。あんなに小さかったシキがもう10歳かー!いやー!でかくなったなあ!」

 妹が雷獣に誘拐される、という衝撃の事件から、1年の時が経過した。

 あの後、僕とクロの怪我は順調に回復していき、やっと完治へと至り、魔力過多症にかかっていたトウも普通に生活できるようになっていた。

 今日は僕の誕生日ということで、セルフィやご近所さま、はたまた、あの3人衆(今は一人だけれど)などいろいろな人が来ている。

 さすがは貴族。

 だが。

 そこにトウの姿は見えない。

 実は、あの時を境に、なぜか僕はトウにかなり嫌われてしまった。どこで覚えたのか「死ね」などなどの暴言を僕にはいてくるまでに、だ。

 理由はなぜか教えてくれない。

 最初はかなり傷ついたものだが、何というか、その暴言のせいであっちの杜宇を思い出してしまい、怒るに怒れなくなってしまっていた。寧ろ懐かしさを感じる程だった。

「本当よねえ。すっかり声も低くなっちゃって」

「いや、いうほど低くはなっていないでしょ母さん」

「そう?」

「そうだよ。わざわざわかりにくいことを言わないでくれよ」

 いろんな人たちが僕の方に群がってくる。

 むう。今は憂鬱な気分だというのに。

「シキ!」

 しばらく、ぼうっとしていると、左の方からイケメンボイスが聞こえてくる。

「ん?ああ。アレンか」

 アレン――例の3人衆のあのガタイのいい男の子。彼は現在13歳で、今は、父親の家業である鍛冶屋を手伝っているという。

 あの後ろにいた二人は今は、王都学園都市に通っているらしく、今この場にはいない。つまり、僕が王都学園都市に入学すればあの二人は僕の先輩ということになる。

「二人は元気か?」

「ああ。時々手紙が来るけど、二人とも元気にしてるみたいだよ」

「…しかし、あの二人が、女子だって知った時にはすごく驚いたものだよ。うん」

「まあ、それは俺もだよ。親睦を深めようっつって、風呂に入ったら…」

 今では、チビの方が小っちゃい系のかわいい女の子になっていて、モヤシの方が、スレンダー系のかわいい女の子になっていたのだから世の中捨てたもんじゃあないなあ。

 …ちなみにあの二人、やはりというべきか、どちらもククルの事が好きなようでそれに関しての相談を持ち込まれた時は壁殴りをしてしまった。

あの時の僕の予想は当たっていたようで、彼は随分なスケコマシに成長していた。…本人に自覚はないので、天然ジゴロと言った方が正しいかもしれない。

くそう。

「じゃあ、俺は他の人にあいさつしてくるから」

「おう。じゃあな」

 そう言って、彼は踵を返してどこかへ行ってしまった。…踵の返し方が、小さいころと変わらないのをみて、苦笑いをしてしまったが。

 さて。僕も他の人にあいさつしようか、と、フラフラとさまよっていると、急に母さんが、出てきて、こんなことを言い始めた。

「あ。シキ!そういえばプレゼント、渡してなかったわね。クロちゃーん?あれ持って着て頂戴!」

 クロもすっかりこの家になじんだようで、「きゅう」という返事と共に違和感なくちょこちょこ歩いていく。ただ一つ困ると言えば、身長がほぼ僕と同じであるというところだ。          

…生前の10歳の頃よりは大きいとは思うがまだまだ140㎝で、最近目つきも鋭くなってきて、人間としての危機を感じることがあったりする。まあ、それでもかわいいことには変わりはないんだけれど。

「ピィ♪」

 2分ほど待っていると、ありえないくらい大きな食卓にありえないくらい大きなありえないくらいかわいい鳥がありえないくらい大きなプレゼント箱を口にくわえて入ってきた。

「でかっ…母さん。いったい何をつめたんだよ」

「まあまあ、とりあえずは開けてみなさい」

「は、はあ…」

 言われた通り、小包ならぬ大包をあけてみると、中にはブレザーやら本やらが入っていた。

「…なんです?これ」

 中に入っていたのは、僕の高校の制服を彷彿とさせるブレザー式の制服と、教科書、そして、父さんの愛刀が入っていた。

「王都学園の制服と教科書よ。あー…懐かしいわ…」

「あれから結構経ったよなあ…」

 ほのぼのと二人が過去を回想している。結構って、言っても6年とか8年とかくらいしかたっていないだろうに。

「それより、なぜ、父さんの愛刀が?」

 さやから刀身まで、全てが黒い、まさに真っ黒な刀を指差して僕は言った。

「まあ、知ってのとおり、それは俺が学生時代から愛用してた俺の愛刀だ」

「ああ、はい。よく話してたよね」

 …こんなもの愛用してたのか。妖刀とかそんなんなのかな。…いや、それはないか。

「ま、前に言った通り、抜くにはそれ相応の力と魔力が必要だからな?」

 ぐっと力を込めても全然抜けない。あの時はすんなり抜けたというのに、一体なぜなのだろう。

 気になる。

「とはいっても、媒体にもなるし、さやに入れたままでも使えるから、まあ抜かずともそのまま使えるから結構優秀なんだぜ?」

「ありがとうございます。気のせいでしょうが、父様がかっこよく見えます」

「だろ…って、いつもは思ってないのかよ?」

「はい」

「即答かよ!?」

 刀を大包みの中に戻す。

「で、これは私からです。シキ様」

 リリィさんが、指輪を渡す。

「…これは…婚約指輪」

「んなわけないでしょ!」

 リリィさんの珍しいツッコミが入った。鋭く良いツッコミである。

「これは、杖の代わりの魔術媒体です」

 確か、僕の戦闘スタイルだと、杖をいちいちもってられない。杖と刀を両立して持つのは意外と難しく、どちらにしようかと迷っていたところだったのだ。まあ、それこそ先ほどの刀ですむことなのだが。

「光と雷の威力が強くなる加護をつけています」

「おお…」

 リリィさんの手から指輪を受け取り、左手の人差し指にはめ込む。

 …サイズがちょうどである。手をグーパーしても、あんまり違和感がない。

「サイズは、自動で変更されるので」

「最新技術!?」

 すごいな!

 改めて、指から外すと小さくきゅるっという音がした。元のサイズに戻る音だろう。

「…私の宝物なので、大事にしてくださいねっ!」

「宝物…」

 成程それは大事にしねえとな。

 グッと、指輪を握りしめるように手をグッと握りしめる。

「ありがとう。リリィさん」

「はいっ」

 最高にいい笑顔でリリィさんはそう言った。

 ―――――こうして騒がしい時間が過ぎてゆく。




「はぁ…疲れた」

 のみまくって、中では既に皆出来上がっている状態であった。あのリリィさんですら、飲みまくっていて、絡みまくられた末に逃げ出した僕は中庭でクロと共に寝転がっていた。

「ピィ…」

 クロも意外とストレスがたまっていたようで、疲れ気味な顔をしている。まあ、お前は子供の相手をたくさんしてたからなそれはもう疲れただろう。

「あー…今の僕の癒しはお前だけだよ〜クロ〜」

「キュゥ」

 ドヤ顔で僕に羽を貸してくれた。うわ…ふわっふわ…きもちええ…。

「でも…これもあと一ヶ月なんだよな…」

「ピィ?」

「僕さ。あと一ヶ月でここを出ていくんだ」

「キュッ!?」

 …王都学園都市に受かったことは、セルフィたちには言っていない為、まあつまりは秘密裏に王都学園都市に行くこととなるのだ。

「それまで、お前ともセルフィともいっぱい遊ばないとな。うん」

「ピィ…」

「ははっ。んな悲しい顔するなって。僕が死ぬわけじゃないんだから」

「キュゥ…」

「はあ…あっちでも学生だったのにこっちでも学生かあ…」

「ピィ?」

「いや。こっちの話だ。気にするな」

 考えてみれば、前世の僕は「僕は学校なんて何の役に立つんだ?行きたくない」なんて厨ニ的なことを考えていた。いまわかった。何の役に立つとかじゃなくって、そういう風に思うことで僕は逃げていたんだ。自分の本音に真っ向から向き合わず、いつの間にか本当の自分じゃなくなっていたんだろう。

 そう考えたら、あの時僕がフラれたのは運命だったのかなあ…。いやまあさすがにそれはおかしいか。

「シキ?」

 不意に、僕の後ろからそんな声が聞こえた。

「…ん?セルフィか?」

 どうやら、話を聞いていたのだろう。セルフィの目は微かにうるんでいた。

 初めて会った時からずいぶん成長したな。髪の毛とか肩甲骨あたりまで伸びてるポニーテールじゃん。洗うときとか邪魔じゃないんだろうか…。

「あと一ヶ月で行っちゃうって…本当?」

「んだよ。聞いてたのか」

「……じゃあ、私もついていく」

 何を突然言い出すかと思えば……。

「はあ?何言ってるんだ?」

「じゃあって、言うか、実は私も行かなくちゃいけないんだよね。王都学園」

「…なんで?お前の家そういうしきたりないんじゃないの?」

「ううん。私は自分の意志で行きたいと思ったの。しきたりとかじゃなくって」

「…まあ、いいんじゃないか?」

「なによ。その薄い反応」

 どうやら僕の反応は薄かったらしい。僕なりに10パーセントくらい喜んだのだが。苦笑いしつつ、彼女は僕の隣に座った。

「ふう。まあいいわ。じゃあさ。いま私と勝負しない?小細工なしで」

「はあ!?いやまてよじゃあってなんで…いや、それよりお前魔術とか剣術使えんのかよ?」

「剣術はまだだけど魔術は結構使えるつもりよ?」

 ふふんと、胸を張るセルフィ。

ずいぶんと自信満々さ加減に、すこしわくわくとしつつ、立ち上ってこういった。

「…じゃあ、いいぜ。こいよ」

若干格好つけたのは言うまでもない。

「うふ。そうこなくっちゃ!」

僕が、杖を構えると、彼女の方も戦闘準備完了と言わんばかりに、杖を構えた。

「じゃあ、えっと…クロ!危なくなったら止めてくれ!」

 僕のそばにいたクロにそういうと、「ピィ」と言いながら被害をこうむるまいと遠くへ行った。魔獣故に、最近では黒にかなうことが少なくなってきているため、子ども同士の戦闘を止めるにはクロで十分だろう。

「いくわよ〜?」

「はいはい」

「…戦いの歌(ファイト・スタイル)!!」

「のお!?」

 とてつもない速さで、僕の懐まで迫ってきて、アッパーを僕に食らわせようとする。それを、とっさの反応でジャンプし躱す。

 というか戦いの歌と言ったら、たしか無属性の攻撃力脚力上昇の接近戦専用中級呪文のはずだ。

 いつの間にマスターしたのかよ!

「ちっ。次は当てるわよ…!」

「キャラが違うんですけど!」

 まずい!なめてると殺られる…!

半ば10歳の少女に抱く感情ではないけれど。

「くっ…アブリュー――」

「呪文なんてさせない!」

「なっ…」

 僕が光零の矢(アブリュート)を放とうとすると、また懐に入ってきた。僕はそれほどまでに隙があるんだろうか。

「じゃあ、これで決めるわ!《燃え盛る火炎の焔よ!我の拳へ纏われ!》」

 まずい!まさか…!

火炎拳(デッドヒート)!!」

 火炎が彼女の拳にまとわりついて、いかにも熱そうなそれへと変貌する。確かあれは、中級炎魔法だったはずだ。あれをまともにくらったらやばい!ととっさに判断をした僕の選んだ魔法は、

「ぬあああ!光よ(ライト)!」

 当然というべきか、現時点で僕が一番最強なんじゃないのか?と考える僕の十八番を放った。まともに食らった彼女は当然――…。

「うわあああ!?目っ!目がぁ!」

火炎拳(デッドヒート)が消え、目を抑えてのた打ち回るセルフィ。

「ううう…うなー」

 目を抑えたまま、じたばたするのをやめたセルフィは、うなりながら立ち上がる。

「もういいだろ?目ぇ治してやるから来い」

「あうう………うん」

 ふらふらと危うい足取りで僕のもとへと寄る。

「おいおい…あぶねえだろ?そこにいろ」

「う…うん」

「ったく。急にお淑やかにやりやがって。差がありすぎるぞ」

「うるさいなあ…うぐぐぅ…」

「ほれ。手ぇどけろ」

 そういうと、素直に手をどけた。

先ほどリリィさんにもらった指輪をはめなおし、

「はぁ。治療(ケアル)

「うう…あ…ん」

 …妙に艶のある声出しやがる。

「うなー…」

「うし。もう大丈夫だろ?」

「…うん」

「たく。世話かけやがって」

「あのさ…」

「あん?どうした?」

「……私ね?シキ君に本当は言いたいことがあってさ…」

 んだよ。やけにしおらしいな。昔みてえだ。

「お、おう。ねみいから早くいってくれ。寝ちまいそうだよ」

 えらく神妙な面持ちでそういうため少しどもってしまった。

「う、うん。えっとね…えっと…その…」

「…」

 …う。まずい。眠くなってきた。

 あ…これ駄目なやつだ。

「私ね、シキ君の事―」

 その言葉の先は僕には聞こえなかった。




「…まったくもー!まったくもうだよ!まったくもう!」

「ピィ」

「な、なによ。クロ。その憐れむような眼は」

「ピィ…」

「むう。まあ、いいや!またいつか、私がこいつに勝ったらまた言うことにする!うん!そうしよう!」

「キュウ」

「じゃあね!クロ!あ、シキちゃんと運んどいてね!」

「ピィー」

「うん!ばいばーい!」




 ―――――そして1月が経った。


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