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第13話:僕と彼女ときっかけと 終

「大変です!」

 今日の討伐の依頼が終わり、ふらふらになりながら家に帰った俺、クロウと妻であるユフィが玄関に入った瞬間、出迎えたかと思ったリリィに突然そんなことを言われる。

 さすがにもう寝ている時間だと思った故に、少し驚いた。

「ど、どうしたんだ?リリィ」

「元気いいわねー…」

 ユフィが肩をがっくり落としながら、そう言った。

相当憑かれているのだろう。リリィの元気さに少し呆れているようだ。

「ト、トウ様が家にいないんです!」

「はあ?そんなわけないだろ?」

 今日の討伐は、リリィでは力不足ということで先に家に帰ってもらっていたのだが、少し遅くなってしまい、現時刻は真夜中の3時となっている。

 こんな遅い時間まで4歳のお女の子が外に遊びに行くわけがない。あの子も、賢いし、危険の察知もできるはずだ。

「もうちょっとよく探せばきっといるって」

 少し呆れた風に俺はそう言う。

 この家は、5人で住むには広すぎる程に大きな家である。故に、見つからない場所だったり、意外な場所だったりに隠れることは容易いのだ。

「いないったらいないんです!気配察知を発動しても反応がないんですよ!」

「そんなはず…すまん。疲れているところ悪いんだが、ユフィ。たのめるか?」

「りょうかーい」

 リリィもそれなりだが、魔術師としてはかなり強いユフィの方が、魔法の精錬度が高い。気配察知の魔法もきっとユフィの方がうまくやるだろう。

気配察知(サーチ)

 ユフィの足元に魔方陣が展開される。

「……あれ?どういうこと?」

 しばらくの間気配察知の魔法を使っていたリリィは眉をしかめてそう言った。魔力をもっと込めたようで、魔法陣がさっきよりも輝いている。

「……」

 下を向きながら、ユフィは、そっと魔方陣を閉じた。

「ユフィ?トウはどこにいた?」

「…ない」

「うん?」

「いないの…トウが。家の中に…気配のかけらも残ってない」

 さっきよりも渋い表情を浮かべたユフィ。

 …一体どういうことだ?

「だから言ってるじゃないですか!トウ様が家にいらっしゃらないんですよ!」

「っ…!」


 SSSランクの魔術師であるユフィが、気配察知を使っても見つからないということは、家には絶対いないということを指すようなものだ。

この家にいないのならば、当の居る場所はすなわち外。

「まずいぞ…!今は、魔物の活性化の時期だ。こんな時間にまで外に出てたら!」

「行きましょう!」

 ユフィが、玄関に置いた杖を再び持つ。

 俺も、玄関の上に置いた仕事用のを腰につけ――ようとしたのだが、

「私も行きます!」

 リリィがあわてた様子で、そう言った。

「まて。まずはお前は、シキに事情を説明しに行ってくれ!」

「…はい。わかりました!」

「あと、絶対シキはトウを探しに出ようとするはずだ!それを全力で阻止してくれ!場合によっては、気絶させてもいい!」

「わかりました!」

 聞き終わったリリィは、シキの部屋がある2階の階段のある方向に走って行った。

「まずは聞き取りをしましょう。村長さんのお宅に行って、連絡網を!」

「ああ!」

 家全体に万が一のことが無いよう、特別性の結界を作動させてから、ユフィと共に玄関を出た。




 村長の家に行って連絡網をまわしてみたものの、誰一人としてトウの姿を見た人はいないという。つまり、村民皆の目の入らないような、複雑なところへ入って行った、ということになる。

「…だめ。気配察知(サーチ)が機能してない」

「やはりか…」

 俺も、身体強化の魔法を使おうとして、さっきから何度も失敗している。

 ユフィも同じく全く魔法が働いていないようだ。

「…初期魔法とか、単純なものしか発動しないわ」

 そう言って、指先を淡く光らせるユフィ。その光すらも、今にも消えてしまいそうなほどだ。

「まるで、魔法陣が破壊されてるみたいに、根本的なことからうまくいかないの。多分なんだけど、このあたりの自然魔力がなくなってるんじゃないかしら」

 自然魔力。

 魔法を発動させるうえで、魔力の基盤と言ってもよいくらい最も重要となる要素だ。魔法というのは、己の魔力を使って、発動させるものだ。しかし、それはあくまで出てくる魔法の話である。

 魔法陣。簡単に言ってしまえば、魔法の出てくる扉のようなものである。

 その魔方陣は、発動させた魔術によって、空気中にある自然魔力によって書き出されるものなのだ。つまりは、その自然魔力がないということは、魔術を出す扉が出てこないということだ。

「…一旦、家に帰ろう。リリィと作戦を練ろう」

「…もうちょっと探す」

「駄目よ。今、この状態で、魔獣に襲われれば無事じゃすまないわ」

 魔術の使えない今、頼りになるのは、俺の剣術だけだ。

「もうすこし探しに行く。俺だったらこの剣術があれば、たいていの奴は殺れる」

 そう言いながら、俺は踵を返した。

「だめ!それで、貴方が危険な目にあったら元も子もないでしょ!?」

 興奮したように俺の手首を握る。その手は、どんなに振り回しても外れなさそうになかった。

「別にいい!」

「よくない!」

「…!お前はトウがどうなってもいいと思っているのか!?」

「思ってるわけないでしょ!?馬鹿!」

「っ…」

「今は!冷静になって作戦を考えることからでしょ!闇雲に動いて、私たちが死んだら誰がトウを探すのよ!」

「…」

  儚げで、今にも泣き崩れそうな彼女の表情――。その必死な表情に俺は何も言い返せないままでいた。

「あと。頼むから」

 涙ぐみながら彼女は、続けてこういった。

「自分を犠牲にするようなこと…言わないでよ。あの時みたいのはもう嫌なの!」

「っ!」

 俺の手首を握る両手の力が強くなる。

 そうか。そうだったな。

「…すまん」

 静かになったユフィの手をするりと俺の手首から離す。今度は、彼女の手首を俺が引き、いったん家へと戻って行った。

 と、そこへリリィがやってきた。

「リリィ!どうだった」

「駄目でした…いません。どうやら、自然魔力もなくなっているようで気配察知(サーチ)も発動しませんし…」

「ああ。まずは、いったん家に帰ろう。…シキは?」

「はい。一応は納得してくれました。ただ、あんまり探すのが遅れたら、探しに行きそうな雰囲気でしたが…」

 …あのシキが?

 そんな一言で、納得したのか?いや。でも、リリィがそう言うのだから、多分そうなのだろう。

「いったん家に帰ろう。あそこが一番安全だ」

「わかりました」

「…」




「…やられたか…」

 一旦家に帰ってきた俺らが見たのは、なくなっていた、シキの外靴であった。

「くそっ…」

「そんな…シキ様…何で!」

「っ…!?」

 みんなが狼狽える。

 だめだ。落ち着け。冷静になるんだ。俺。

「…まずは、落ち着――」

 俺が、みんなを落ち着かせようとした、その時であった。

《アアアアアアアアアアアアアア!!》

 耳をつんざくようなその声は、遠くの方から聞こえてきた。

 方向的には、あの霊山。

 …さっきの獣とも人ともとれない鳴き声が、訊き間違いでなかったとしたら――。

「まさか…雷獣!?」

「そんな…でも、確か…」

 確か、あの霊山の頂上にある社には俺が昔仕留めた雷獣の亡骸が眠っていたはずだ。それが、この魔物の活性化とともに目覚めてしまったとしたら…。

「――っ!まずいぞ!」

 トウは、体内魔力が非常に多い人間だ。

 雷獣は人を喰らうかなり危険な魔獣――。しかも、魔力の多い人間を喰らい、自らの魔力とする。

 まずい。かなりまずい。トウは雷獣のもとにいると考えて間違いはなさそうだ。

 と、なると…。

 これは討伐用などとあまいことは言ってられない状況のようだ。俺は、急いで今の方へ向かった。あそこには、確か俺が使っていた妖刀があったはずだ。

「クロウ君。あれ、使うのね?」

「ああ。致し方ない」

 と、そんな会話をリリィとしつつ、居間へと入った俺は、驚愕した。

「おいおい…まじかよあいつ…」

 今の最奥に位置していたはずの妖刀は、そこにはなかった。誰かに盗まれた、というのは可能性としては限りなく低い。

 これはおそらく――。

「あのバカっ…」

 息子のバカさ加減に呆れを含めつつ、唇をかむ。

 恐らくシキも何か感づいてこれを持っていたのだろうと思うこんなことならば、あの方なの恐ろしさについて、話しておけばよかった――。

 いや、後悔しても始まらない。

今は、トウのもとに向かうことが先決だ。恐らくシキもそこにいるのだろうし、できるだけ急いだ方がいいだろう。

 ユフィとリリィに事情を話したのち、おれたちは忌まわしきあの霊山へと向かうこととなった。




「これは…シキのか?」

 山道に向かう途中、小さな複数の足跡を見つける。

 この足跡は、さっきまでなかったものだ。

「そんな…まさか、シキ君この中に!?」

「いや。まだそう決めつけるのは――」

「…いえ。どうやら、そのようよ」

 俺の声を遮ったユフィが呟くようにそう言う。

 彼女の向く方向には無造作に切り開かれた雑木林が存在していた。

 切り開かれたその雑木林の穴の高さを見る限り、どうやら、あそこから無理矢理入ったらしい。

「クソ…あそこからはいるぞ!」

 腰から刀を抜き、道を切り開きながら、中へと入っていく。

 …足跡が、上の方に続いている。

「そんな…無事で…無事でいて!シキ様!」

 青ざめた表情でそう言うリリィ。

 リリィほどでもないが、ユフィも少し顔が青い。恐らく、俺も青くなっていることだろう。




 切り開かれた道を進んでいく。

 …所々に、魔法の打ち込まれた跡や、切り傷のある魔物の死骸が落ちている。

「これ…全部シキが…?」

「そうらしいな」

 驚きを込めた声色でリリィがそう言った。

「すごい…全部一撃で…」

 そう。初めて、生き物を殺したはずだというのに躊躇や戸惑いが、その傷跡からは全く感じとられない、手際の良さが目だっている。

 そして何より、あの刀を効率よく使っていたことにも俺は驚いていた。

恐ろしい程の手際――。あいつは一体…?

《クルゥゥゥゥゥゥ!!》

「っ!?」

 頂上の方から咆哮がきこえる。

 この咆哮で確信する。やはり、上にいるのは雷獣だ。

「急ぐぞ!」

 俺らは、雑木林を登るペースを少し早めた。

 その数分後。そろそろ頂上、というところで、あることに気付く。

 先ほどまで全く感じられなかったのに、急に魔力が出始めているのだ。その密度は、恐ろしい程濃く、魔力過多症になってしまいそうなほどであった。

「頂上が近いわよ!」

 平気な顔で、リリィがそう言った。自身に込められた魔力が相当ある彼女はこの濃密な魔力は、平気なのだろう。

 一方、リリィはというと、さっきとは違うベクトルの青い顔をしていた。さっきから懸命に自身に治療(ケアル)をかけている。

 …そろそろ出口だ。少し、日が出ているためか、そこからほんのりと光が漏れている。

「シキ…あ?」

 雑木林をやっとの思いで、抜け、頂上に着いった俺は、そう言った。

「シキ…様?」

「何よ…これ…なんなのよ!」

 そこにあったのは、焼け焦げえぐれている地面とその上で倒れているクロ。近くで仰向けになって寝転がるトウ。破壊された社のがれきの上で、血をふきだしている何か。

 そして。

 立ったまま痙攣した、黒いなにかに体を覆われたシキであった。

《グ…ガッ…》

 血をふきだした何かはびくりと動いたあと、苦しそうな声を吐いている。

 …おそらくは、あれが雷獣だろう。

《くくっ…なんじゃ。もう来てしまったのか…英雄どもよ》

 忌々しそうな声を上げる、雷獣。

 いったんシキとトウとクロの事は二人に任せて、俺は刀をさやから抜き雷獣に近づいた。

《そう警戒しなくともよい…儂の魔力はもう尽きた……もう行動することすら出来ん。時期儂は真の意味で死ぬじゃろう》

「…シキをどうした」

《…なんじゃ?…もしやあの小童、貴様の息子か?やけに魔力の質がにとると思ったらやはりそうだったのか》

「いいから答えろ!」

《カカッ。…貴様なぞの質問には答えんわい。その代り、二つほど、癪じゃがお主に言っておこう》

 のそり、と動く雷獣。

 どうやら、目をこちらに向けたようだ。

《…あの小童…『闇の魔力』が使えるじゃろう》

「なんっ…ど、どういうことだ!?」

《気を付けい。あの小僧の闇の魔力…半端ではないぞ。儂レベルの…いや、もしかしたら儂以上かもしれぬ》

 カカッと、笑いながら雷獣はそう言った。

《あの小僧の闇の魔力…自分で扱えるようにならなくては、『沈む』ぞ》

「沈む…?」

《…それ以上はもう言わん。儂にも儂なりのプライドがあるんじゃからのう…カカッ》

 大量の血をまき散らす雷獣は、心底楽しそうであった。

どういう意味だ?何を言っているんだこいつは。シキが『闇の魔力』が使える?それを意味するのは、シキが――。

《…地獄で…待って…………お……る……ぞ…》

 最後には、途切れ途切れになりながら、雷獣は光の粒となって、跡形もなく消え去って行った。

 そんな中俺は、後ろで騒がしい二人をよそに、小さくこうつぶやく。

「『闇の魔力』が使えるなんて…そんなの、まるで魔獣じゃないか…」

 治療されているシキは、淡い光に囲まれ、治癒魔法をかけれらている。黒い何かは徐々に引いてるようだったけれど、なぜだか、俺はその光景に漠然とした不安を覚えられずにはいられなかった



 夢を見た。

 真っ黒い暗闇の中に沈んでいく夢を。


 その暗闇は底なし沼のように、僕の体をどんどん引きずり込んでいく。

 足。

 下腹部。

 片腕。

 上半身。

 と、順に飲み込まれ、いよいよ頭ともう片方の腕を飲み込もうとしていたその時、上の方から光が差してくる。

 その光は、全てを浄化するような、優しい暖かい光だった。

 その光の中心から腕が伸びてきたかと思うと、僕の残った腕の手を取り、光は「起きて」といった。その光が何の光だったかは分からない。ただ、僕はその光で懐かしい気持ちになれた。


 そうだ。


 この光は―――。




「っ!?」

 汗をぐっしょりかいている。…どうやら、今のは夢のようだ。

 周りを見渡し、暗闇でないことを確認する。……どうやら、ここは家のようだ。

 自室の見慣れた風景で、今の今まで僕はベッドで寝ていたようだ。

「いたっ!」

 体の節々がぎしぎしという音を立てる。

「…」

 どうやら、昨日の夜から無事に生還出来たようである。あの状況から、僕がどんな逆転劇を見せたかどうかはわからないが、少なくとも僕は生きて帰れたようだ。

 いや。ただ、父さん母さんリリィさんの3人が助けに来てくれたという可能性もあるか。寧ろ、そっちの確率の方が存分にある。

「…」

 ちらりと、横にいる包帯だらけのクロを見る。

 規則正しい寝息を立て、ぐっすりと眠っているようだ。

「そうだ…トウは…」

 あの時、喰われそうになっていたはずのトウは一体どうしたんだろうか?

 …3人あのタイミングで来てくれたというなら助かっているはずだが…。

「今はもう少し寝転がっていようかな…」

 体がまともに動けないこの状態で、トウを探し回るなんてことをしたら今度こそ死んでしまいそうなので今は寝転がることを優先した。

 …探索魔法が使えればなあ…。

 しかし。

 昨日の夜、僕はまともに戦えなかった…。

 相手は神獣格というのもあったが、それにしても戦えなさすぎだろう。

 これでも精神年齢は25歳である。あれだけ妹の為とか啖呵きっておいて、戦えなかったら僕モブに降格だよ。

「修行やらなくちゃなあ」

 そうだ。あと、あの時頭に響いた声…一体何だったのだろう。

 内容はよくは覚えていないが、確か、「闇の魔力」とか言っていたな。

 ううむ。

 確かに僕は闇の魔力を持っていて、それにしては呪文がないなあとか思っていたが、ひょっとしてあれか?危機的状況に瀕すると発動する、ジャ〇プ主人公の特殊能力的なあれか?

「…全くわからんな」

 壁掛けの時計を見る。

 今は、まだ午前の10時だ。

「…あとの事は、3人に…聞いて…見、よ……う」

 とぎれとぎれにしゃべりつつ、僕はゆったりとベッドへと崩れ落ち、再び眠りについた。

 その数時間後――。

 僕は玄関から聞こえるドアの閉まる音で目が覚めた。時計を見る限り、今は午後の22時だ。あれから、12時間寝てしまった計算となる。

「よいしょ…」

 上体を起き上がらせる。

 さっきの節々の軋んだような感覚は少しはあるものの、歩くのに支障はなさそうなので、3人の顔を見に行くことにした。

 お腹もなぜかありえないほどすいているしな。

 クロを踏まないように、慎重にドアを開ける。階段を慎重に降りて、3人は帰ったらリビングいつもいるはずなので、リビングへと向かう。

「ちゃーす。三河屋でーす」

 リビングのドアを開けながら、僕はそう言った。

 …もうちょっとましな入り方はないのかと一瞬思ったが、それは心の奥にしまっておくことにする

「「シキ!?」」

「シキ様…!」

 父さん母さんが僕の顔を見て、驚愕する。リリィさんは目を見開いて、そのまま固まっていた。

 少し面白い光景である。

「いつ起きたの!?いや、今なんでしょけど!大丈夫なの!?怪我はまだ治ってないでしょ!?もうちょっと寝なくていいの!?」

「ちょ、ちょちょちょちょっと待っ…わぷっ」

 1語ずつ迫ってくる母さんは最終的に僕の頭をその豊満なお胸様に抱きとめた。ち、窒息する…!腕をぐいぐい通して、脱出を試みるも、いつぞやのリリィさん並の腕力で、全然身動きが取れない。仕方がないので、腕をばしばしと叩く。降参の合図である。

「あ、あら。ごめんね」

 その意図を読み取ってくれたようで、すぐさま母さんは、その腕を解いてくれた。

 リリィさんの時のように気絶ぜずに済んでよかった。母さんは腕力は無いからな。

「げほっげほっ…し、死ぬかと思った…」

「お怪我は大丈夫なのですか!?」

 間髪入れずに、今度はリリィさんがやってきた。

 正直今ので、僕の体は限界を迎えそうなのだから、例の抱きしめ(格闘)は勘弁してもらいたいのだが。

「大丈夫じゃないけど、歩ける程度にはなりました」

「ふえ…よかったですぅ…」

「な、泣かないでよリリィさん!」

 こんな感じで二人が、喜んでいる中、父さん本人だけは渋い表情であった。

「…皆」

 父様の一言で僕を含めた三人が一瞬で静まる。この声色はやけに真剣なものだったからだろう。


「ここに座ってくれ。色々なことを整理しよう。シキ。お前も色々聞きたいことがあるだろう?」

 トウがどうなったのかとか、あの後――。僕の頭で謎の声が響いて、意識がなくなった後どうなったのか、など色々聞きたいことはあった。

 とりあえずは、いつもの席へと座った。

「トウは、どうなったんですか?」

 みんなが座って、30秒ほどの静寂があったあと、僕はそう口を開く。僕にとっては一番先に確認したいことだった。

「トウは助かったよ。魔力過多症にかかってはいたものの、今では外を走って回れるくらいには回復した」

「…良かった」

 …「俺らが来たころにはもう……」とか言われたら、僕はここで発狂していたかもしれない。

「でも、一体どうやって?」

 あの声が響いたとき、僕は意識を失った。あの後3人が来ていた可能性は高いとは言ったものの、そういいタイミングで来てくれるものなのだろうか。

「わからない」

「…は?」

「わからないんだよ。俺たちが来たころには、雷獣はすでに肉の塊へと変貌していた」

 …あの異常な強さだった雷獣が、肉片に?そんなこと父様たち以外にだれができるというのだろうか?

「…おそらくは、お前だ」

 父様は、ずっと伏せていた目線を僕の方へと移した。

「…え?僕。いや。ちょっと待って下さいよ。僕は…僕が…?」

「あくまで推測だ」

 …あのブラックアウトした意識の状態で、僕が戦ったというのか?…たとえそうだとしても、元々の僕は強くないから、そんな状態で戦ったら木端ミジンコだ。存在すらも消されてしまうぐらいに。

 …ならば僕は一体どうやって?

 あの時頭に響いた声を思い出す。


『――闇の魔力を開放しました

 ――現在魔力である光・風と闇の魔力を変換しています

 ――闇の魔力を人格維持の為強制発動します

 ――闇の魔力、解放しました。これより目の前の対象:雷獣を抹殺します』


 闇の魔力――それで、僕は雷獣を殺したというのか?いや――。

「…はぁ。ばかばかしいな」

「何か言った?」

「いえ。なんでも」

 死に際になって?闇の魔力とやらが解放されて?それで、神とも呼べる存在を殺した?……ばかばかしい。厨二の極みじゃないか。

 だけれど。

 それ以外には、あの状況を脱せられる力は存在しない。

 転生者特典か何かかよ。そんなのまるで―――


 ―――主人公じゃないか。




 今回の後日談。

 結局、僕の闇の魔力とやらは僕の中では謎に包まれたまま、その話題は終わってしまい、そのあとは3人からこってりとしぼられた。

 主に、何で外に出たのか、ということだった。

 因みに言われたのは、

 母さんは「確かに妹を助けに行くっていうその行動自体は素晴らしいし、尊敬できることです。けれど、あなた自身に何かあったらどうするのよ。バカ息子」

 リリィさんは「バカ。大馬鹿者ですよ」

 父さんは「女を泣かせねえように頑張んな」

 であった。……最後のは説教とは何か違う気がするけれど。

 そのあとは、その日みんな疲れていたということで、僕以外のみんな自分たちの床へと着いてしまっていた。昼間かなり寝ていたせいか、眼が冴えているため、深夜帯にもかかわらず、僕はクロの寝息しか聞こえない自室にて、僕は自分のベッドに寝転がっていた。

 天井をぼうっと眺めつつ、ついさっき父さんに言われたことを考えていた。

 リリィさんと母様がすでに寝静まった後、風呂に入り終えた父様の言った話題である。


「…リリィとユフィにはまだ言ってない話なんだが、一つ訊きたいことがある」

 牛乳を飲んでいると、唐突にそう言ったので、少し僕はびくりとしてしまった。我ながらビビりである。

「お前、あの山に何で入ったんだ?」

「…また説教ですか?」

「…そういうんじゃない。ただちょっとな」

 あの説教をまた長々とされたら、雑魚メンタルに定評のある僕にはもう耐えきれなくなるところなので、少し安心したのは内緒だ。

「赤くて、すっごい濃密な魔力が、あの山の頂上に集まってたんだ」

「赤い濃密な魔力…?」

「ええ。と言うか、父さんは、その魔力を見たでしょう?あの山に入ったということは」

「……いや。見ていない」

 え?どういうことだ?あの魔力を見ていない…?ああ。でも、あの魔力は僕が来たすぐ後にあの雷獣によって晴らされたから、父様には見えていないというのもしょうがないかもしれないか。

「あとは、クロが、あの霊山にトウがいるって感じ取ったらしいので」

「…そうか。いや。悪かったな」

 そう言うと、いつもの柔らかい表情へと変化する。僕が起きてから、終始何か不機嫌そうな表情をしていたから、なんだか救われた気分になる。

「じゃ、おやすみ。早く寝ろよ」

 そう言うと、さっさと自室へ入って行ってしまったのだった。


 …そのあとからだろうか。何か、僕の心の中につっかえるものがあったのだ。

「…ま、明日考えるか」

 明日の僕へと、その課題をバトンタッチした後、引きずり込まれるように夢の世界へとダイブしたのだった。

 その翌日、セルフィに怒られて、1日中遊ぶ羽目になったのは言うまでもない。楽しかったしかわいかったから文句はないけれど。


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