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第12話:僕と妹ときっかけと 中-2

僕の目の前に降り立ったその雷獣の容姿は、クロより二回りほど大きな狼のような姿だ。鋭い目つきに、獰猛な動物特有の牙。狼と違うところといえば、3対もの足を持つところもそうだけれど、何よりも雰囲気自体が違った。

格が違うというべきか。

雷獣と言えば、昔母さんにも聞いたことのある名前である。何でも、神の身でありながら、この村に災厄を運んだ魔獣として、お父さんと決闘をしたという。血で血を洗うような決闘の末、ついに父さんは雷獣を打ち取ったのだ。その後、どこかに封印されたという話だが、まさかこの神社だったとは、なるほど霊山と言われるわけだ。

《ほう。儂を前にしながら、冷静を保つとは…かかか。中々肝が座っておる小童じゃのう》

「…」

《いつもでその余裕を保ち続けられるか…見ものじゃ!》

「っ…!」

 雷獣がそう言い終わると同時に狼のような咆哮をあげる。さっき聞いたようなわけのわからない咆哮ではない。空気が震えるような、その声だけで今すぐ震えて帰りたい気分になりそうな、咆哮であった。これから戦いに挑まんとしている咆哮なのだろうか。

《小僧。お主から先にうてい》

 ニタニタと、獣ながらにして、口元を歪め僕を見下してそう言った。明らかに僕を挑発しているのだろう。

「わかった」

 僕は雷獣の眉間に人差し指を立てた。今、雷獣が僕の指を食べようと動けば即座には反応できず、喰われてしまいそうな、そんな距離の近さである。

《……》

 やはり、雷獣のニタニタとした口もとは変わらない。

 おそらくよほどの余裕があるのだろう。その余裕をぶっ壊してやろう、と、僕は声を発する。一番得意なあの魔術を。

光よ(ライト)

《ぐっぬうううう!?》

 僕も目を完全に閉じきった状態でその魔法を発した。それが戦いの幕開けでもあった。相手は仮にも神であり、こちとら人間である。僕がチートならともかく、絶対に勝てないような無謀な戦いだったのは言うまでもない。

《こしゃくなあああ!》

 前足をぶんぶんと振りまわす雷獣。

 それを余裕を持って、バックステップで回避する。

雷よ(サンダー)

 口をあんぐり開け、魔法陣を展開させた。その魔方陣からは、本当に初級魔術か?とでも言いたいぐらいの極太レーザーが発射される。

「うおおお!?」

 肉眼で確認して、よけきれるはずもなく僕はそれを全身に浴びる。

「がっ…」

 服のいろんなところが炭化している。が、なぜかダメージが全くといっていいほどになかった。

「キュウ…」

 前方にそんな声が聞こえた。

「クロ…!?」

 そこでは、クロが黒いなにかをバリアのようにはっていた。

 なるほど。あれに僕は守られたのか。

「クロ。ありがとう」

「クルルル」

 顎の下あたりを撫でる。すると、気持ちよさそうな声を上げた。戦闘中にも癒してくれるとは…。

《小癪な…仮にも黒鷹が一族のくせに人間の肩入れとは…》

 黒いバリアの所為で、見えないが多分いらいらとした表情なのだろう、雷獣がうなり声をあげながらそう言った。

 徐々に黒いバリアが消えていく。

 完全になくなったと思うと、そこには雷獣はいなかった。

「なっ…何処に!?」

 周りを見渡す。が、雷獣の姿は見当たらなかった。

「キュゥ…」

 クロも、グルグルと見渡したり、すんすんと鼻を聞かせたりしている。

 …数十秒がたつが、やはり雷獣は見当たらない。

「まさか…逃げたのか?」

 いや。奴はプライド高そうだったし、逃げるなんてことは多分しないはずだ。

《そんなはずなかろう?》

 その余裕のある声が聞こえたのは、右でも左でも上でもななめでもなく、下、であった。そう。地中。

くぐもったような声が聞こえたときには、時すでに遅し。雷獣はする爪と、 獰猛そうな眼をのぞかせ、僕を見据えていた。

「っ…!?」

《遅いわ…小僧》

 僕は、下からの雷獣の斬撃を、もろに受けてしまった。

 全身から血が噴き出す。と、同時に、まるでアッパーのような衝撃が僕に走り、投げ出される。尋常ではない痛みが僕の体に走った。

「がっ…ぐっ…」

 4,5メートル上空に吹っ飛んだ僕は、そのまま背中から地面へと腰から落ちていき、絶息する。

《かかかかか!苦しかろう!?》

心底楽しげな声を雷獣は上げる。

「ぐっあっ…グっ…!?」

 空気が呼吸器官に回らない苦しみでのた打ち回りながら、乱暴に思考する。

 ――奴は一体いつの間に地中に潜ったというのか?

 ――地面に潜った後なんていうのもなかったはずだ。

《なんじゃ?その状態で思考をしているというのか?》

「あっうっ…」

 まだ、空気が全身に回らない。

 隣では、クロが僕の胸を足で踏んでいる。心臓マッサージなのだろう、だんだん息を取り戻せるようになった。

《特別に教えてやろう。とくに種なんてないのじゃからな。さっきのはのう――》

光よ(ライト)!」

《ガッ…グアアア!》

 得意面しているところに、僕の光よ(ライト)をぶつけてやった。

 上半身を下にかがませて、前足で目を覆っている、さっきとは反応が違うあたり、やはり最初はある程度どんな攻撃が来るのかは予測していたのだろうか

「《きらめく光の精霊よ 闇夜を照らし 我に勝利の導きを》」

 僕の今出せる最大魔術の詠唱を始める。つい数日、リリィさんから教えてもらった必殺技のようなものである。

この魔術はリリィさんの教えた中級呪文の中で、唯一明確なイメージが思い浮かんだのがこの魔術で、唯一の成功例であった。中級呪文の中でも高威力を誇るこの魔術は、僕の中では必殺技として位置付けている。

 両手を前に出し、標準を未だ悶えている雷獣に合わせる。丁度頭に当たるように調整をした。

光霊昇弾ハイライト・イレーザー

 僕の手の平から浮かび上がった魔方陣から飛び出した8つの輝く光弾が、四方八方を飛んでゆき雷獣の頭めがけ飛んでいき、狙い通りの場所に直撃した。

《クルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!》

 雷獣の叫び声が、響き渡ったところで、いったんの静寂が訪れた。

「や、やった…か?」

 …あ。やっべ。このセリフフラグだわ。…いや、でもさすがに倒せてはいないにしろ、あの量の光弾を顔面に受けて無事ではいられないはず――!?

《…儂をなめすぎたな小僧》

 土煙の中で、魔物特有の眼光が光る。

《………もうおあそびは終わりじゃ。死ね》

 その眼光にあてられ、僕は動けなくなる。

――怖い。僕は直感的に、本能的に、そう感じてしまった。

《これは魔術の類ではない。解こうと思えば解ける、威圧の類じゃが…なんじゃ。小僧。儂にあんな啖呵を切ったわりにこの程度の威圧で動けなくなるのかのう?》

「つまらん」と、本当に心底つまらなそうに、雷獣は言った。さっきまでの人を小ばかにした言い方では無い。ゴミに語りかけるような、自分以下のものに話しかけるような、そんな冷たさと無機質な目で僕の頭の前に行き、見下していた。

《 《雷の神の名において宣言する。この者共に神の雷を与え罰せよ》 》

 雷獣はなにかしらの詠唱を始める。

 …それと同時に、地面ではなにか淡い光放ちながら、発光していた。頭さえも動かないので、どうにか眼を動かす。

 どうやら、僕とクロを囲うように何かの魔法陣が発生しているようだ。

 雷…って言ってるし、上級の雷魔法とか打たれるんだろうか?

 …いや待てよ?そうなったら、僕とクロ死んじゃうんじゃないか?……いやいやいやいやいや。

《覚悟はよいか?…行くぞ》

 僕が、心の中で葛藤していると、雷獣がそう言い放った。

 まずい。

 まずい。

 まずいまずいまずいまずい。

《 神雷の黄昏トワイライト・サンダー 》

 最後に僕が見たものは、僕らを覆う雷と、自分の焦げていく身体。そして、苦しそうに鳴き声を上げるクロであった。




 激痛で目が覚める。……どのくらい眠っていただろうか?

 最後…確か、僕は天から落ちてきた雷で焦げて死んだんじゃ…?いや。だったら、こんな激痛で、地面が目の前にあるのはおかしい。

《ほう?あれだけされていながら目が覚めたのか》

 僕の頭上で、そんな声が聞こえた。

 耳も片方イカれてしまったのか、右耳からしか音声の情報が入ってこない。

「あ…ヴ…」

 喉もやられたのか、まともに声も発せない。

 いや。発せようと思えば発せられるのだろうが、舌を動かそうと思えば、激痛にみまわられるのだ。

 手を動かそうとしても、足を動かそうとしても、感覚すらない。おそらくは、どちらも両手足としての機能を失っているのだろう。

 それでも僕は、ただ一言いうために激痛を我慢した。

「ド…ヴ………を……」

《くくっ…激痛で声も出ないのだな。よかろう。教えてやるよ小僧。お前の妹なら、今目の前に居るぞ》

「っ…!」

 首の痛みを我慢して、前を見る。

 そこには、妹が横たわっていた。ただ、やはり、濃い魔力を浴び続けたせいだろう。顔を赤くして、荒い息を吐いている。

 …頑張って、感覚のない手を動かそうとする。が、動かない。その悔しさに、僕は一粒涙を流した。

《クク…なんじゃ?自分が情けのうて涙が出てきたのか?》

 それを面白そうに見る雷獣。

《そこにいる鳥は、もう死んでおるのかのう?…いや。まだ微かにじゃが生きてはおるか……カッ!しぶといのう》

 鳥…おそらくは横で僕のように地面で寝転がっているクロのことだろう。…まだ生きているという言葉に、僕は安堵を示した。

《……なんじゃ。お前が絶望しなくては面白くなかろう?》

 再びつまらなそうな目で僕を見る。

《…そうだ。丁度良い。今お前の妹とやらを喰おうと思うていたところじゃ》

 名案だ。とでも言いたげに目を光らせる雷獣。

 やめろ。嘘だろ?おい。

 やめろ。やめろやめろやめろ!!

《かかっ。その表情…良いのう》

 恍惚とした表情で、僕を見る。

 …気持ちが悪い。

《さて…じゃあ、喰おうかのう。そろそろ儂も腹が減っておったからな》

 そう言って、一歩一歩、トウに近づく。

「や…めろ…」

 そして、トウの真上に立ち、ゆっくりと、涎をたらしながらトウの頭に口を近づける。

「あ…あ…う……ああ…」


 やめろ。

 やめろ。

 やめろやめろやめろやめろやめろ。

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

 やめろ!

 だれか…だれでもいい!なんでもいいから、僕たちを助けてくれ!

 とうとう僕が命乞いを誰かにし始め、雷獣の口が、トウの頭にかぶりつこうとしている瞬間、僕の中で、何かの声が再生された。


――闇の魔力を開放を始めます。

――……現在魔力:光、魔力:雷を闇の魔力に変換しています。

――……変換が完了しました。

――闇の魔力を精神維持の為強制発動します。

――闇の魔力、解放しました。これより目の前の対象:雷獣を抹殺します。




 機械音にも似たその声を最後に、僕の視界は真っ黒に染まった。


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