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第11話:僕と妹ときっかけと 中

「はっ…はっ…」

 僕は走っていた。

 山道を駆け抜け、生い茂る草木を掻き分け、時たま出てくる小動物系の魔物をお父さんの刀で切り伏せつつ、ただまっすぐ山頂へと向かっていた。

「クロ!」

「キュー!」

 相棒たるクロの名前を呼ぶと、僕と同じ速度で飛んでくれているのだろう、丁度真上から、可愛らしい返事が聞こえる。

 木の隙間から見える山頂を見据える。

 そこは、依然と赤く染まっていたままで、むしろ、さっきよりも赤い部分が広がっているようにも見えた。

「待ってろトウ……!」

 息を大きく乱しながら、僕はがむしゃらにそう叫ぶのだった。




 ―――話は1時間前までさかのぼる。

「トウ様が…トウ様が…!」

 リリィさんがやはり涙ぐみながら、トウの名前を呼びはなった。

覚醒してなかった僕の脳は、妹の名前とリリィさんの状態を見て、ただならぬ状況だと察知する。

「トウ?トウがどうかしたんですか!?」

「帰ってこないんです!既に、丑三つ時になる時間だというのに!」

 あわてて、壁に掛けてある時計を見る。その短針は3を、長針は10を指している。…外の暗さから、今が午前の3時でないことは明らかである。

 ――深夜の3時。

 魔物の一番活性化する時間であるといわれている。

「い、家の中にはっ!?」

「駄目です!気配察知の魔法を使っても…!」

「……っ!」

 リリィさんの横をすり抜けて、外へ出ようとする。が、柔らかい小さなリリィさんの手が、僕の腕をがっしりつかんだ。

「離してください!トウを……トウを探しに行かなくちゃいけないんだ!」

「駄目です!それで、シキ様もどこかに行ってしまったら……私……私!」

 そう言いながらさらに強い力で僕の腕をつかむ。……仮にも14歳女子の腕力じゃないと思うのだが。

「でも!」

「今は魔物が活性化している時間ですよ!?そんな時間に外に出たらあなたが無事ではすみません!」

「だからこそ探しに行かなくちゃいけないんじゃないのか!たった一人の妹なんだ!」

「貴方までそうなったら、どうするんですかと言ってるんです!」

 手を握る力が少し緩んだかと思うと、リリィさんは床に崩れ落ちてしまう。

 ……木製の床に点々と涙が落ち、色が濃くなっていた。

「…お願いします。ここに…ここにいてください」

「…わかりました」

 その場は一応そう言っておくことにした。

 そろそろつかまれている部分がうっ血しそうだし。

 するりと、リリィさんは、僕の腕を離す。

 ……止まっていた血が徐々に流れていく感覚に生きた心地を感じた。貴重な経験だな。

「私は、トウちゃんを探しに行きます。…本当にここで待っていてくださいね」

 目元の涙を拭き、下を向きながらリリィさんはそう言って、勢いよくドアを開けてそのままどこかに行ってしまった。

 どこかではないか。確実に外だ。

 玄関から、ドアの閉まる音がした後、僕は自分の布団でいまだ寝ているクロのもとへと近づく。

「クロ」

「キュッ」

 僕の声で、クロが飛び上がる。おそらく、今まで狸寝入りしていたのだろう。鳥なのに狸寝入りとはこれいかに。

「話は聞いていただろ?」

「キュウ」

 僕の目をしっかりと見つめ、クロはしっかりと頷いた。こいつは賢いから、リリィさんの話を多分すべて記憶していたのだろう。

そう言えば、こいつも一応は魔獣だけれど、この活性化の時間に突然暴れだしたりはしないんだろうか。いささか不安である。

「トウを探しに行こう」

「クルル!」

 クロが一鳴きたのち、僕は魔術媒体である指輪を指に着け、リビングに飾ってある父さんの刀と片手にクロと共に外へ飛び出す。

「クロ!トウのにおいは探れるか?」

「クルゥ…」

 首を横に振る。やはり、魔物が活性化しているということで魔物のにおいが濃かったりするから、トウの匂いがそれに紛れて探れないということなのだろうか?

「…キュ?」

 クロがどこかを見る。

「どうした?クロ」

 …問いかけても、なぜか反応がない。

 僕もその方向を見る。その方向にはちょうど、この村の守り神がられている霊山があるのだが、僕はその霊山を見て顔に驚愕の色を浮かべた。

「…なん…だよ。あれ」

その山頂…丁度、その神が収められている社が位置する場所である。

 その部分が、わずかに赤く染まっていたのだ。

「あそこに、トウがいるっていうのか?」

「キュウ」

 僕の目を見ながら、さっきのように首を大きく縦に振った。僕も、確証があるわけではなかったけれど。何となくそう思えた。いわゆる館というやつなのだろうが。

 当てがあるというわけではない…けれど、行くしか…ないのだろう。

「……クロ」

「キュッ」

 僕は大きく地面をけり駆け出し、クロは、僕の横で飛び立った。




『ぎゃぎゃぎゃぎゃ!』

 僕の前方に、異形な猿のような魔獣が現れる。

 1、2、3、4…5匹。このサイズなら、魔法の矢でイケるだろう。

光零の矢(アブリュート)

『ギャッ』

『ギギャ』

『ギュアアア』

 僕の背後に表れた光の矢は、一直線にサルたちに向かい、猿を射殺した。ほとんどの猿の頭に命中している。

 猿は醜い声を上げその場で地に伏した。

 …やった後に分かるものだが、やはりグロテスクだ。そして、罪悪感がひどい。精神耐性のスキルが無かったら今頃吐いて、泣き崩れていただろう。

「…急ごう」

 猿の死体を踏みつけながら、僕は、再びまっすぐ走りだした。

 …依然として、山頂は赤く染まっている。まるで、血が流れているかのようで、いささか不気味だ。たぶんあれは魔力なのだろうが、その魔力がここまで目視できるということは、かなり濃い密度の魔力であるだろう。

 自然にある魔力も、濃ければ毒になる。…そこに、トウが長時間いるとするならば…。

 ――急がなければ。

《アアアアアアアアアアアアアア!!》

 ――!?

 突然、何かしらの咆哮が聞こえた。獣というわけではなく、人間の物とも思えない叫び声。山頂があんなことになっている元凶の叫び声だろうか?

《アアアアアアアア…》

 だんだんと咆哮が小さくなっていく。

 …なんだったんだろうか?ストレスがたまっていたとかそういうのかな。そうだとしたら人間らしいところもあると思うけれど。

 …上に向けていた目線を、今度は前に向けた。だんだん、景色に赤みが増しているのを見ると、赤くなっている部分にたどりつきそうだということだろう。

「クロ!」

「キュッ」

 僕の声に合わせ、クロが急下降する。

 クロは、僕の目の前に自分の足を持ってきた。

「行くぞ…痛いと思うが少し我慢してくれ!」

 僕は、クロの足をつかんだ。

「うおおお!?」

 だんだんの地面が遠ざかり、最終的には木の上までクロは飛び上がった。

 上では、クロの苦しそうな鳴き声が聞こえる。

「つらかったら言ってくれ!」

「クルルルル!」

 大丈夫だ、とでも言いたげに 僕に風の抵抗が強くならない程度に、その速度がどんどん増していく。腕が少し痛いけれど、クロも我慢しているのだし、弱音は吐かないことにする。

 山頂がだんだん近くなってきた。

 今現在飛んでいる下の地面は既に赤くなっており、後ろを向くと僕が飛び立ったあたりは既に赤く染まってしまっていた。

 少し飛び立つのが遅かったらあの魔力に飲まれていたかもしれない。そう思うと少しぞっとしなくもなかった。

 数分空を飛び続け、ようやく社の屋根が見えてきた。先ほどの声が聞こえてきた場所――山頂だ。

 クロもそれをわかっているのだろう、滞空したのち、社前の地面にそっと僕を置いてくれた。

「くっ…」

 魔力が濃い…濃すぎる。

 息が苦しくなるほどの濃さだ。正直立っているのもやっとなほどである。

「見えねえな…」

 目を凝らしても全く見えない。煙がたかっているかのようで、横にいるクロですら、羽毛から手を放してしまえば、どこにいるかわからなくなりそうである。

《…誰じゃ》

「――!?」

 どこからともなく声が聞こえる。

 さっき聞こえてきた咆哮の正体はきっとこいつだろう。

《……人間か》

 相手には、僕が見えているようで、僕の姿を的確に当ててきた。

《横にいるのは…ほう?珍しい。人間になついている魔物とはのう…》

 …僕だけではない。クロの姿も見えているようだ。この声の主にとっては、この赤い霧はあってないようなものなのだろう。

「…単刀直入にいう。妹を返してくれ」

《妹……ああ。あの人間の女子(おなご)の事か》

「…」

 ビンゴ。トウはやはりここにいるようだ。僕の勘も捨てたもんじゃないな。…いやまあ、クロが、この場所を教えてくれなかったら、勘も何もなかったのだろうけれど。

《しかし、それは無理じゃのう。あ奴は今から儂のえさとなるのじゃ》

「はっ?」

《あの膨大な魔力を持つ人間など喰うのは久しぶりじゃよ…カカカ》

 笑っているのだろう、喉を鳴らしたかのような声を出す。

「返せよ…」

《うん?》

「トウを…返せよ!」

そう叫びながら、僕は腰に指していた刀を抜き、声のする方向に構えた。

《クルクルクル!そんな鉄の棒で何ができるか…人間ごときが》

「うるさい!」

 刀に魔力を流す。

 この高密度の魔力の所為なのだろう。使っても減る気がしない。

《…儂とやる気か?お主》

「妹を返せっつってんだよ!」

「キュー!」

《クッ…カカカカカカ!面白い!魔物を使役する人間の小僧よ…我にたてつくとはなあ!いいじゃろう。所詮人間ごときが儂の姿をみれることをうれしく思え!》

 そう言い放った瞬間、高密度の魔力の霧が晴れていく。

いつもの、見慣れた頂上の社が姿を現す。が。ただ一つ、社の上の異形のそれ(・・)がいなければの話であったが。

《我は雷獣。雷を司りし神獣…我に逆らいし人間よ…我の肉体の一部となるがよい!》

 雷獣と名乗るその魔物は《アアアアアアアアア!!》と鳴きながら僕の前に降り立った。


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