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プロローグ

 気が付くと僕は一人掛けのフカフカのソファーに座っていた。訳が分からないままきょろきょろと周りを見渡してみる。

 イメージとしては商店街が立ち並ぶ大通りと言ったところだろうか。が、人が一人もいないのが非常に異常だ。

 オーケーちょっとまて。落ち着け僕。いったん状況を理解しようじゃないか。

まずは、僕は何故こんなところにいるんだ?大通りに来た覚えはない。まあ、記憶違いでいつの間にかここに来ていたのかもしれない。

 じゃあもしも無意識の内に来たとしよう。

 こんなに人がいないのもあまりにもおかしいじゃないか。

 一体この僕、時鳥(ときとり)子規(しき)の身に何が起こったんだ。そうだな。まずは記憶の整理をしようじゃないか。――そうだ。あれは今日の放課後――。




 世でいうところの高校1年生である僕は1学期を終え自らの高校の校門前で幼馴染の帰りを待っていた。

 奴は運動部で、今日も部活があるはずなんだけれど、どういうことかそれを休んで一緒に帰りたいとのことらしいが、何の真意があってのことか全くわからない。

 何かたくらみでもしているのだろうか。

 幼馴染である彼女、(うぐいす)涼香(りょうか)は幼少期からずっと一緒であった。もはや家族と言えるほどである。そんな枠組みの中で生活をしていた僕なのだが、思春期も共にしてしまっていたせいか、恋心をとやらを涼香に抱いていた。

 今日こそ伝えてみせようと、バクバクする心臓を抑えつつ、それを誤魔化すかのように携帯をいじる。

「子規!」

 いじり始めてしばらくして、聞きなれた声が僕の耳に入ってくる。

涼香が来たらしい。手を上げるしぐさをしをして、涼夏をちらりと見る。

 すっとしたスレンダーな細身の体。それでいてそんな無駄な脂肪などない体にはつかないはずの脂肪の塊、つまりはおっぱいがたわわな実が胸に二つ。目測ではCからDといったところか。この間訊いてみて殴られたのはいい思い出である。

 凛とした造形の顔は美人と言われる類の顔つきをしており、後頭部には短めなポニーテイルがぴょこぴょこと跳ねていて、クールぽさが増している。

「おう。涼夏。部活は大丈夫だったのか?」

「ああ。大丈夫だ。私程度いなくても大きな支障なんて出ないからな」

「…剣道全国2位が何を言ってやがる…」

 雰囲気で分かる人もいるらしいのだが彼女は剣道をやっている。家が道場なので、女子ということもあり護身で幼いころから涼香の親父さん直伝で教わっているらしい。

 そういえば、この間親父さんが「免許皆伝も近いなあ」と言っていた。高校生で免許皆伝とはこれいかに。

 再び、ちらりと涼香を盗み見る。運動ができて勉強も僕なんかよりもはるかにできる。まさに文武両道と、実にらやましい限りだ。

「ん?どうした?」

 僕の視線に気づいたようで涼夏が反応した。自然に目が合ってしまうのだが、恥ずかしさのあまり僕が顔をそらしてしまう。

「?」

 自分の顔が火照るのがわかる。何となく恥ずかしいなあ、と、自分の中に宿る恋心にくすぐったいものを感じつつ、ふと思う。

 ロマンティックなシチュエーションを彼女は好むとは到底思わない……のだけれど、いや、でもこんな路地裏での告白というのもいかがなものか。

 ちらちらと周りを見る。…人はいない。

「な、なあ。涼香」

 思わず声が裏返る。

「ん?」

 一歩二歩先に進んで歩いていた涼夏がくるりと振り返った。その顔は僕がさんざん魅了されてきた笑顔だ。

 その笑顔で言葉が詰まる。関係性は崩れないだろうか、だとか、ひょっとしたら振られるかもしれない、とか、漠然とした不安が僕の中でよぎる。

 にっこりと笑顔を浮かべたままの涼香は、首を傾げていた。畜生。かわいいな。

 すうっと息をのみ、思い切ったように、僕は「良し」と口に出し、

「好きです」

 と、言う。そして、林檎並に真っ赤であろう顔を涼香の方に向けた。

「…子規。えっと…その。冗談…だよね?」

 きょとんとした顔で涼夏はそう言う。…その発言はラブコメの主人公のようだぞ。何度も言って聞かせないとダメなやつか?なんて思い、再び思いを告げようとした途端、彼女は衝撃的なことを言った。

「し、子規は彼女さんがいるんでしょ?」

「――は?」

 ちょ、ちょっと待ってくれ。何を言っているのだこいつは。

 彼女?僕にはそんな奴いたことはない。その旨を伝えると、彼女は「いつも一緒にいる子の事…だよ」と、なぜか辛そうな顔をする。

 いつも一緒にいる女の子――もしかすると、クラスで一番仲の良い工藤(くどう)(りん)のことだろうか?

 いや、待ってくれ。彼女は――というか、彼は、女装好きの只の変態野郎だぞ。家庭の事情だというがよくは知らない。周りの人間は知っていてそっとしておいているのにこいつは知らなかったというのか。

「嘘をつくな!」

 顔を真っ赤にして怒り狂う。勘違いだ!と、言おうとして声が被る。

「まだ言い訳するんだ!そんなやつだとは思わなかったよ!子規なんて大っ嫌い!」

「――っ」

 目に涙をためながら涼香は去って行っていき、突然の出来事にしばらく僕は唖然としていた。どういうことだ?いや、だめだ。本当に意味が分からない。

――大っ嫌い!

 頭の中で何度もフラッシュバックする言葉。幼いころはこの発言をよく聞いたものだけれど、最近は、全くと言っていいほど聞いていなかった。

だからだろうか。昔訊いた時よりずっと心が抉られる。

 彼女自身、幼いころからキレると大暴走してしまったり誇大妄想が激しくなってしまうところがある。

 多分後々仲直りしてもう一回告白すればまじめに考えてくれるんだろう。彼女はそういうやつだ。

 だが、今の僕にそこまで頭は回らなかった。

 大っ嫌い。今もその言葉だけが僕の頭の中でぐるぐるとまわっていた。

「…あれ?僕こんなにメンタル弱かったかな…」

 この程度では屈しないはずの僕の心はぐちゃぐちゃになっていて、今にも崩れそうにボロボロになっていて。たぶん誰かに死ねと言われたくらいで死んでしまうだろう。

「…帰ろう」

 いつもと違って冷たくさみしい路地は、涼夏の暖かさを改めて感じさせてくれるには十分だった。


「…ただいま」

 家のドアを開ける。靴を脱ぎ、玄関にある通路に足を乗せると、妹の杜宇(とう)2階から降りてきた。

「…」

 じっとこちらを見ながら不機嫌そうに口をゆがめてリビングへと入ってしまった。

 反抗期杜宇と命名してやろう。

 中学3年生という絶妙な時期とかぶってしまったからしょうがないかもしれない。なんて、いつもならばそうやって割り切っていた。が、今だけはそんな視線も突き刺さるように痛かった。自室へと入った僕はベッドに寝ころがる。

 今や僕の癒しはこのベッドのみか…。

 はあ…と深いため息が僕の口からは漏れていた。

 不意にガチャリとノックもせずに誰かが入ってきた。…杜宇である。

「…どうしたの。元気ないけど」

「…」

 少し柔らかな笑みを浮かべて杜宇はそう言った。

「なに?振られでもしたの?」

「――っ」

 …こいつは…本当に…。人の嫌な部分しか見ないんだな。と、普段は思わないことを心の中で言う。彼女には聞こえないんだし、これぐらいの愚痴は良いだろう。

「ふん…」

「――…手前に何がわかんだよ!」

 杜宇がびくっと肩を震わせた。

ああ。だめだ。やめろ僕。感情が表に出すな。隠せ。

必死で押さえても時すでに遅し。

「っ…!…死ね!」

 最後にそう言い残して杜宇は去ってしまった。

「…はは」

 ダメだ。考えるな。死ねなんて言葉に屈するな。大嫌いなんて言葉を真に受けるな。

 なのに――その言葉は容赦なく僕の心の傷を重傷にしていく。…外に出よう。

 さっき家に入ったばかりなのに外に出るなんていつもなら億劫だけど今なら外にいた方がましになる。




 ここで、記憶は途切れている。だめだ。どうしてもこの先が思い出せない。

「…で?僕はいったいどうしてこんなところにいるんですか?」

 というかいったいどこなんだ、と、いつの間にか僕の横に居たニコニコ笑顔が素敵な人に聞く。

「あはは。まあそりゃあそうですよね。わかりませんか」

 一切笑顔を崩さずそう言う。謎めかしながら言うこの人に多少イラつきながらさらに問い続ける。

「貴方は死んだんですよ。そして、此処は天国と地獄のはざま。死んだ人物が来る行ってしまえば受付のような場所でしょうか」

「――は?し、死ん……だ?」

 この人は何といった。

 僕が死んだ?そしてここが天国と地獄のはざま?

「はい!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなの信じられるはず――」

「信じないとこの先スムーズに進まないんですよー。信じてくださいって」

 スムーズって……いや、でもそんなの。

「信じてくださいって」

「いや、でも――」

 こんな、突然現れた人の存在もなんなのかわからないのに、その人から発せられたそれをさらに信じろなんて無理がある話ではないだろうか。

「あ、私は神なんで正確に言えば人間じゃないです」

 あ。駄目だこの人。わりと痛い分類だ今完全に信用性が0パーセントまで落ちたよ。

「ああー。もう。今心読んだんですからそれで信じてくださいよう」

 いや確かにそうなんだけれど……そんな話はやっぱり信じられない。が、どうにも信じないとこのまま一方通行で話は永遠に続かなさそうだ。

 今は信じておくことにしよう

「一応はご理解いただいて何よりです!」

 嬉しそうに言うなおい。

 僕が今どれだけ混乱しているか……。

「心読めるんですからそれくらいはわかりますよ」

「……で?僕はどうして死んだんですか?」

「わお。ナイススルー……まあ、事故死ですよ。貴方のお家を出てすぐに車に引かれて亡くなりました」

「いや、ずいぶんとあっさり言いますね」

…まあ、もし本当にそうなら、そりゃああそこで記憶が途切れるるのも分かる。

「もともと生への執着心もなかったので一発即死でしたよ。……というかまだ信じてらっしゃらないんですか。」

 涼香と杜宇の言葉攻めのせいでどれだけ弱っていたんだ、情けない。

「…またスルーですか……というか貴方結構冷静ですね。予想ではもう少し大騒ぎすると思ったんですが。あなたのそばにいくときすっごい」

 そうだろうか?…いや、そう考えると確かに不思議なくらいに冷静だ。

 うーむ。何故だろうか。

「ま、いいですか」

 いいのかよ。

「ではでは!本題に入りましょうか!」

 そう言うと、神様(仮)はどこからか出したかボードを手に取り、メガネを装着した。メガネ美人――いや、美人どころか男か女かかわからないんだけれど。

「神様だから性別はないですよ」

 ああそう。

「じゃ、貴方に選択をしてもらいましょうかね」

「…なにをですか?」

 訝しげに僕が尋ねると神様(仮)はドヤ顔と共に紙をめくる。

「そりゃもう、この後のことについてです!」

「このあと?」

「はい。天国に行くか、地獄に行くか、転生するか!」

「転生って……」

「はい!ネット小説によくありがちなあの転生です!」

 神様でもネット小説読むんですね。意外な事実だよ。この神様進行している人はさぞがっかりしそうだ。

「まずは天国!きれいなお姉さんたちに囲まれて生活してウハウハ天国ライフ!」

「…いや、ありか?うーん…保留で」

 正直男ならだれでも憧れるよね。ハーレム。いや、涼香に振られた直後にこんなこと言うのは少しあれかもしれないけれど。

「じゃあ、ドM専用!自ら進んで地獄に!?わくわく地獄デイズ!」

「ねえよ!」

 自ら進んでって。しかもドM専用なのかよ。

「えー…」

 何で残念そうなんだよ。アンタ此処がおすすめだったのか!?

「じゃあ、三つ目!地球に新しい生命として誕生する!」

「それはないなあ。うん。却下でお願いします」

 うーむ。転生ってそういう転生だったかあ。これは天国に決定かなあ。

少しばかりがっかりしていると、終わりかと思っていた天使の口が開いた。

「じゃあ、大本命!気分気ままに異世界転生ライフ!」

「君に決めた!」

 天国なんて知るか!

ハーレムなにそれおいしいの?




「…では、まずあなたの善ポイントを確認させていただきますね」

「善ポイント?」

 急に謎の単語が出てきた。

なんだそれ。

「あなたの生きていた人生でどれほどいいことをしたかっていうのを具体的に数値化したものですね」

「…うーん。いいことしたことあったかなあ」

「たくさんありますよー?えーと…一番最近だと、えーっと…」

 そういって、神様(仮)は数枚ペラペラとボードの紙をめくる。

「あ。ありました。えっとですねー…『道端にいる老人を介護した』ですね。貴方が死んだ日の1ヶ月前ですね」

「へえ…」

 思い出した。あれか。

 うーむ。あの程度で全ポイントとやらはたまるのか。

「因みにそれは何ポイントなんですか?」

「ええっと…20ポイントですね」

……それははたして多いのか少ないのか…。

「多い方ですよ?善行自体行う人が多くはないので判断しにくいですが…」

 ナチュラルに心を読むな。

「じゃあ、一番点数高いのだとなんなんですか?」

「それはもう見なくても簡単ですよ。100ポイントの『死んだ』ことです」

「え?」

「あなたがいた地球にとって人間が一人でも死ぬということは一番の地球にとっての善行なんですよ」

「…なるほど……」

 地球はどれだけ人間が害悪だったのか垣間見えた気がする。皮肉な話であるが、確かにその通りだ。

と思わず納得する。

「で、まあその他もろもろの善ポイントを集計すると…はい。出ました!しめて220Pです!」

「けっこう多い…のかな?」

「いやーこの年でこの善ポイントはすごいですねー!」

「いや…まあ、どうも」

 喜んでいいのか悪いのかが全く分からない。他の善行は気になるところであったが、まあ覚えてること自体少なそうではあるので、やめておくことにした。

「じゃあ、この220ポイントに対応した数の自分のスキルを選んでください」

「スキル?」

「はい!良くある異世界転生にあるスキルです」

 あんたそのネタ好きだな。

 …まあ確かに良くあるけど。というかスキルか……能力。まあ、確かに異世界転生モノだとよくあるけれど。

「スキル…ねえ」

 神様(仮)が空中で掌をさっと横に振ると、僕がいつも目にしていたIEのブラウザ画面が出てきた

「わお。画期的」

 近未来感マックスである。

「ささ。マウスはここにあるので、ご自分で調べてみてください!」

「……はあ」

 そう言いつつ、ネットサーフィン(?)をやってみる。

 …ふむ。何がいいだろうか。しかし、…やはり魔法スキルはあったほうがいいんだろうか…?いやまて。そもそも、魔法があるのか?

「神様(仮)」

「ついに声に出し始めましたか……で、なんですか?」

 素敵な笑顔で対応するいい従業員である。多少笑顔が硬いが、従業員の鑑だ。この人が売り子だったら何でも買ってしまいそうなきがする。

「僕がこれから行く世界って魔法だとか、魔獣だとか命の危険とかあったりするんですか?」

「勿論!あなたが想像してる異世界と思ってもらって構わないですよ」

「…そうですか」

 またもやいい笑顔で言われてしまった。と、なると魔法は必須だろう。

 検索ウィンドウに 魔法 と入力しクリックする。

 ずらーっと出てきたそれらはあまりにも非現実的だった。上から、

・魔人級魔法才能200P 

・仙人級魔法才能150P 

・達人級魔法才能100P 

・魔法才能20P

 Etc…

 他にもいろいろあるがそれは後で見るとして、ここはあまりポイントを使わない方がいいだろう。それに、才能というくらいだから成長するはずだ。

 と、いうことで魔法才能をクリックした。

 次は、異世界=剣と僕の中で方程式が出来上がっているため、剣のスキルも必須でであろう。

 剣 と今度はそういう風に検索をかけた。

 やはり、これも検索結果が多数出てきた。

 魔法と同じく、最初に出てきた(本人が望んだようなものが検索結果順に出てくるシステムらしい)魔人級剣技才能とかが出てくる。

 ここも、無難に普通の剣技才能を選ぶことにした。

 そして共通言語と精神耐性のスキルで40P消費して残り150P残ったわけだが…あとはどうしようかな。

 うーん…。

「どうされたんですか?」 

 僕がさんざん悩んでいるのを見かねた神様(仮)が声をかけてくる。

「あー。実は残りのポイントどうしようかなーと思って…」

「…欲がないですねえ。……うーん。私のお勧めは…この『???』ってやつですかね」

「…これですか」

 慣れた手つきで画面を操作して、『???』というスキルを僕に見せてくる。というかブラインドタッチだ。やるな。さすが社会人 …いや、人じゃないけど。

「このスキルは、本当に必要な時に必要なスキルに変化してくれるんですよ」

「…なるほどね。しかも150Pといい感じですね。ちょうどぴったりですね。これにします」

 ほとんど何も考えずにそう言った。

 なんとも、適当な僕の発言に苦笑する。

「じゃあ、これでいいですね?」

「はい」

「じゃあ、手を出してください」

「…はい」

 言われた通り手を差し出すと、神様(仮)が手を握り返してくる。その瞬間ぽうっと光が漏れ、いろんな情報が僕の頭の中に流れ込んできた。

 少し頭が痛くなる。

「…すごい…ですね」

「それでは、あの扉に入ってください」

 そう言って指を指す。その先には一般家庭にあるような普通の扉だった。

 ……何処と無く僕の家のものと似ている気がするがただのデジャビュだろう。

 僕は、色々お世話になった神様(仮)に深くお辞儀をして、扉の前に立つ。

「行ってきます」

「いってらっしゃい」

 きっと目が覚めたら自分のベッドの上だろう。まずは涼香に会わないとな。そのあとは杜宇とも話し合おう。

 微笑みながらそんなようなことを考えつつ、扉をくぐっる。僕の意識が落ちる間際に見たのは、神様(仮)のほほえみだった。




 …声が。聞こえる。

 暖かい声が。女性と男性の声…?お母さん?いや、お母さんの声はこんなにきれいな声じゃなかった。じゃあ、お父さんか?――いや。こんなにかっこいい男性声優ボイスじゃなかった。というかそもそも僕らの親は昔無くなったはずだし。

 ――じゃあ、一体誰だ?

 僕は必死に目を開けようとするがどうも開かない。じゃあ、手だ。

 しかし、手も動かない。そして足も動かない…。どういうことだ?

 すると、急に変な浮遊感が僕を襲った。

「はーいよちよーち。いいこですねー」

 再び女性の声が聞こえてくる。…女性にこの僕が持ち上げられている…だと!?どういうことだ…僕の身長は174㎝。そうやすやすと持ち上げられるはずが…。

 …いや。逆に考えるんだ。もし、僕の身長が小さくなっただけなら…この人たちが普通の身長なのだとしたら――。

「いやあ。さすが僕たちの息子(・・)だ。僕に似てイケメンだな」

「さすが私の旦那はさりげなく自分褒めをはさむのね」

「うるさいなあ。いいだろ?こんな時なんだ。お前難産すぎてこちとらいま号泣しそうなぐらいうれしいんだからな」

 どうやら僕の予想は当たったようで。いや、うん。

 というか、僕はどうやら本当に死んだようで、さらにはあの人が本当に神様だったと、信じなくてはいけない羽目になってしまったようだ。あそこも死後の世界ということであっていたということだ。

 天国のお父さんお母さん。

 どうやら僕はもう一度赤ちゃんからやりなおさなくてはいけないようです。

 とりあえず、まずは泣くことにしようじゃないか。


この小説を手にとって頂き感謝します。

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