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勇者なんてお断りだ!クリスマス企画特別番外編

作者: 優太

 華やかに彩られた、街のイルミネーション。モールのアーケードはただでさえ人が多いのに、今日は――特に男女のペアで――人が多すぎる。

 今日がなんの日かと問われても、この銀髪の少年は鼻で笑うだろう。いや、それすらしないかもしれない。

 今日はクリスマス・イヴ。御子イエス・キリストの生まれる前夜にして、今ではカップルがバカをやる日だ。しかし彼は、信者でなければ彼女もいない。それにバカをやったり個人的に祝う気もない。

 彼にとって、この日は最悪なのだ。誰にも祝われなかった誕生日、そして、両親の命日。彼の心は、途方もなく荒んでいた。

 

 彼、柊春樹は、今年で十三歳を迎え、直中学二年に上がろうとしていた。顔立ちにはまだ幼さを残すがどこか大人びた落ち着き、もっと言えば冷淡な雰囲気を持つ彼は、実際年齢がもっと上に見える。

 ラフなだぼっとした服装にマフラーに顔を埋め、身を小さくしている彼の身長は、背筋を伸ばせば百六十五はあるだろうが、猫背のせいでそうは見えない。

 そんな彼がこのアーケードを通ったのにはわけがある。といってもこんな華々しいところではなく――

「よお兄ちゃん、一本吸ってく?」

「……頂きます」

 その裏、建物の隙間から光が辛うじて届く掃き溜めのような通りだ。軒を連ねるのは、風俗か組の事務所。ここは、いわば社会不適合者のための通り。

「お前、最近この辺に来たあ……」

「春樹です。柊春樹」

「そうそう、春樹だ。って、お前いくつだよ」

「十三です」

「じゅうさっ……」

 そこら辺にたむろしている五、六人の、恐らく高校生の集団が吹き出す。

「お前、その年でよくこんな場所見つけたな」

「なんとなく、惹かれたんで」

 ふうー、と肺に落とした煙を吐き出して、春樹が淡々と答える。

海翔(かいと)さんでも、十四でしたっけ?」

 先の集団の一人が、春樹に構う青年に問う。

「そうだなぁ。正確には十五になる一日前だがよ」

「えらく早いな、坊主」

「あれ、ここって年齢関係ありましたっけ」

「いんや、来たいときにくりゃいいし、来たくないなら来なくていい。ここはそんな自由な場所さ」

 海翔と呼ばれた――学ランのボタンを留めず着崩した、無造作ヘアに天真爛漫を思わせる顔の――青年が、かかと笑って言う。

「まあ、知ってますけど」

「知っとるんかい!」

 また、後ろで集団が笑う。ここは、笑いに溢れていた。眩しいけど、ずっといたい。春樹は、そう思っている。このすぐ後に起こる事件までは。

 

「通報、裏13番区域で暴漢三名が少女を連れ去ろうとしてます」

 通報、それは裏路地を仕切る彼らのような集団に届く、独立した自治制度。制度といっても勝手にやっているのだが、裏路地に限定すれば、警察よりよっぽど信用できる。それが、裏路地の制度だ。

「13? けっ、一番近いの俺らじゃん。よし、てめぇら行くぞ」

 海翔が立ち上がり、周りを見回しながら言う。

「うぃっす!」

 そして全員も立ち上がる。

「春樹は、通報は初めてだったか?」

「聞いたことだけは。けど、なにするんすか」

「まあ簡単に言えば、裏路地(こっち)を荒らすバカどもを蹴散らすわけよ。力でな」

「力、で……」

「そう。裏路地(こっち)では力こそ正義だ。けど方向性の誤った力は、同時に悪となる。力ってのは自分のために使うんじゃない。誰か、守りたいやつのために使うんだ」

「……守りたい、やつ」

「今は考えるより行動だ。行くぞっ」

「はい!」

「よし、いい返事だ!」

 

 一方、13番区域。

「なあ一緒に来いよお」

 色欲まみれの気色悪い笑みを浮かべ、ずんぐりした体型の男が、ピンクのロングヘアー、あどけなさを化粧で隠し、ファー付きのモコモコした着丈の長いコートにミニスカート、ヒールのブーツを履いた少女に手を伸ばす。

「だから行かないっつの!」

 少女は、手に持ったバッグでその手を払う。

「強気な女は好きだぜぇ」

 今度はまるで骨と皮だけのような、げっそり痩せた男が、払いきった少女の手をガッチリ掴む。

「ウチに、触んな!」

 ゲシ、とヒールで男の爪先を踏みつける。

「いでぇ! いてえよお!」

「おいおい、こりゃ治療費だの慰謝料だの取らなきゃだなあおい。なんなら体で払ってくれてもいいんだぜえおい?」

 おいおいばかり連呼する、この中で一番筋肉質でよく日焼けした男が、そう言って近寄る。

「お前らみたいな下衆に見せる裸なんか持ってないね。さっさと失せろ、ウジ虫!」

「んだとごらあ!」

「もういい、てめぇらおい! 力づくでこいつをとらえろおい!」

 言われ、ずんぐりしたのとのっぽが一足に彼女へ近づいて、捕らえた――はずだった。

「捕らえた」

 小さな呟き。

「ぐはっ」「ぬおぁっ」

 続いて盛大な悲鳴。

「なにもんだおい!」

「お決まりな台詞だな。もうちょっと考えろよ」

 そう返すのは、銀髪の少年――春樹だ。

「んだとガキおい!」

「あとそのおいって口癖、ダサいぞ」

「てんめぇ……カチ殺すぞおい」

「殺せるもんなら――」

 彼はそこで殺気を感じ、しゃがみこむ。と、彼の頭上ではいち早く復活したずんぐりが、虚空を抱いていた。

「殺してみな!」

 春樹は立ち上がる勢いのまま、がら空きになったずんぐりのあごを蹴り上げる。悲鳴もなく泡を吹くずんぐりの胸板を蹴り砕き、完全に沈黙させてから、再び筋肉男へ目をやる。

「あと、名前を聞くときは自分からってばあちゃんに聞かなかったか?」

「はあぁ?」

「あ、もうばあちゃんいないの。そりゃご愁傷さま」

「てめぇ……どれだけ人を小バカにすりゃきが済むんだおい!」

「んー、死ぬまで」

「じゃあここでその口閉ざしてやらぁおい!」

「死ぬの対象、間違えるなよ」

 呆れ声の春樹の言葉は、しかし憤怒した男には届かない。大振りの喧嘩パンチを、あえて、紙一重でかわす。次の左のストレート、右ローキック、左ミドルキック、すべてをすれすれでかわしてゆく。まるで、完全に相手の動きを見切っているかのように、ギリギリまで引き付けて。

「くそっ、掠りもしねぇぞ、おい」

「鈍すぎてあくびが出そうだな」

「なめやがって、くそ……。くたばれやあ!」

「ド三流のテンプレ台詞なら、もう聞き飽きたわ――」

 かなり大振りな、右からのアッパー。それを上体をそらしてよけ、そのままブリッジ、両足を浮かせて逆立ち一歩手前の姿勢から、腕のバネだけで体を重力に逆らわせる。

「ボケ!」

 ガツン、とか、ごつん、とかいう言葉では表現しきれない、なにか痛々しく鈍い音が、筋肉のあごや首から鳴る。春樹はそのまま反り返って上を向いたあごを足場に宙を一回転、綺麗に着地する。逆に筋肉は、最後にあごを蹴り飛ばす非情な技で後頭部を強打、そのまま失神したようだ。

「おしまい、っと」

 暴漢たちからダウンを奪い、一息つく春樹。すると、背後から肩を指でちょんちょんとつつく感触がして振り返る。そこには、あのピンクの髪の少女がいた。

「あの、ありがと」

「……別に。俺ただ通報と裏路地(こっち)の正義に従っただけだから」

「けど、ウチを助けてくれたのは事実じゃん」

「まあ、ね。とりあえずこんな危険な場所、君みたいな子が来る場所じゃないよ」

「タメなんに?」

「えっ?」

「今、中一でしょ? 知ってるよ、舞脚(ぶきゃく)の春樹」

「なんだ、それ?」

「銀髪に猫背、いつも攻撃をすれすれでかわして、カウンター狙いのテクニシャン。その喧嘩は、まるで演舞のようなところからついた通り名、じゃないの?」

「初めて聞いたな」

「あー、春樹ってのはどっかで聞いたことあると思ったが、舞脚だったか」

 そこに現れたのは、海翔とその仲間たち。

「とりあえず、ありがとね。ウチは晴。九重晴っていうの。今度、よかったら遊ぼうよ」

「んー……。気が向いたらな」

「うん、期待してるから。じゃあね」

 言って、晴と名乗った少女は表通りの人混みへ紛れ込むように姿を消した。

「ナンパ成功か?」

「冷やかしはなしで」

「おまっ。連れねえなぁ」

 どっ、と盛り上がる一同。そんな中、微笑を浮かべる春樹。今助けた彼女が、後に春樹にとって賭け値のない存在になることを、彼はまだ、知らない。当然晴も、海翔も。

 

 

 

 

「なあんてこと、あったなぁ」

「懐かしいねぇ」

 ここは春樹の部屋。六畳の部屋の一角に置かれたシングルベッドで晴に腕枕をしながら、懐かしむ二人。

「あの頃は正直、イヴなんてなくなればいいと思ってたけど、今は大事な日だ」

「春樹の誕生日、盛大にお祝いするよ。こんな風にね――」

 パッ、と消える電気。外が夜の暗さに支配されているため、急なことに春樹の目はついてこれない。

「え、なんだなんだ?」

 パンパンパァン。

 鳴り響くクラッカーの音と――

「「春樹、誕生日おめでとう!」」

 急に点灯した部屋の明かり。そこには、部屋には収まりきらないほどの、勇者なんてお断りだ!のキャスト達。

「え、みんな……? あれ、え? なにこれ?」

「春樹」

 不意に、隣から優しく呼び掛ける声。顔を見ずともわかるが、条件反射で晴の方へ顔を向ける。

「誕生日、おめでとう」

 近づく顔、触れ合う唇。それを実感し、彼は晴を抱き締める。

(やべぇ。俺今、世界一幸せだ!)

 

 誕生日、それは誰にでもあるもの。だったら、大事な人の生まれた日くらい、盛大に祝いたいもの。自分の大事な人に盛大に祝われたら、嬉しいもの。そして、幸せなもの。

 誕生日、それは、その人にとって、とても大事な一日だ。

 

 HAPPY BIRTHDAY HARUKI.

というわけで!

まあ明かされてない設定ですね。

春樹は12月24日生まれ、軍司は5月5日生まれ、晴は7月24日生まれです。

特に意味はありません←

まあ強いていうなら、彼らの誕生日に似たようなことをするかもしんないですね。ってことでしょうか。

まあこの話はかなり思い付きの要素強めですww

というのも――

作:あ~、イヴ更新日じゃん。ちょうどいいや、春樹お前誕生日な

春:ちょっ、そんな理由で俺を生むなっ!

作:は?俺男だからてめぇ生む器官ねえよ。お前ゲイ系の変態か?

春:くっ、術中にはまった川orz

作:ざまぁww

――って具合です(春樹はかなり弱い立場)

まあそんなわけで、今回の更新に至りました。

いやぁしかし、最近は寒いですねぇ。

みなさまお体には気を付けて。

ではでは、わたくすはこの辺で。


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