姉のものばかり欲しがる妹、“ヴィランをやっちまいな!”
ブッツヨックー男爵家に生まれたアリーナはナーラという妹がいる。
これが何でも欲しがる妹でして、アリーナの髪飾りを欲しがったときは少し困ったが、両親も「アリーナが良ければ、貸してあげなさい」と伝えた。
その次にネックレス。
靴はサイズが合わなかったので、ねだられなかった。
アリーナが新調したばかりのドレスをねだったときは、両親も止めた。
「ナーラ、そのドレスはアリーナのものよ」
「いやよ、いやよ!」
年相応とは思えない駄々のこね方に、目配せをするアリーナと両親。
「私は次の舞踏会はこれで行くの!」
両親は大きく吸った息を全部吐き切ると「サイズはまだ変えられるわ。本当にそれで行くの?」とナーラに尋ねている。
ナーラは大きく頭を振ると、目を輝かせている。
アリーナは仕上がったばかりのドレスをナーラに手渡した。
「しかし、アリーナ様のお召し物はいかがいたしますか?」
「マーメイドの装飾を少なめにしたドレスなら間に合うんじゃないかしら?」
アリーナは声を落としていった。
そしてナーラの楽しみにしていた舞踏会では、アリーナも同じタイミングでダンスホールへ入室する。
ナーラは精一杯胸を張った。
しかしアリーナの顔一つ分低い身長に、大柄の飾りを付けたドレスは、ナーラを幼く見せる。
女性にしては高身長のアリーナに映えるために作られた髪飾りはナーラ自身とドレスをちぐはぐに見せる。
シンプルなサファイアの大石が中央にはめ込まれたネックレスはナーラの印象とピンク髪とも合っていなかった。
それには周りの貴族たちも上手く表現できない。
「くくっ、あれなあに? お遊戯みたいに“着せられている”わね」
「アリーナ様がお召しになったら、非常にお似合いになるのに」
遠くから漏れる令嬢たちの声が聞こえたようで、ナーラは涙目になる。
アリーナは遠くの令嬢を睨みつけた。すると波が引いたように静かになった。
「アリーナ嬢、今宵は一段とお美しいですね」
スタイルの良さを際立たせるマーメイドドレスは、アリーナを一層美しく見せる。
控えめなネックレスと髪飾りは元々優麗なアリーナを引き立てる。
アリーナがその声に振り返ると、クール伯爵家のガーイが笑顔で挨拶をした。
奥にいる令嬢たちからざわめきが起こる。
「さすが、アリーナ様ね。あの美貌で伯爵家の令息を仕留めるなんて」
仕留めるって、こちらは狩人ではないんだが、と思ったが、アリーナは笑顔を返す。
ガーイの友人である宰相の息子であるヴィランが無表情で挨拶した。
そしてナーラを見るなり冷ややかな視線を向ける。
「ナーラ嬢の付けているサファイアは見事ですな」
今日の格好で一番浮いているネックレスを話題にするヴィランにアリーナはむっとする。
いくらアリーナのものを何でも欲しがっているナーラでも可愛い妹。
アリーナはナーラの前に立って盾になる。
「ナーラ、ヴィラン様はサファイアについてよく知りたいようですよ」
アリーナなりの合図だった。
ナーラはアリーナが得意げな顔を向けたことにようやく気がつく。
(ナーラが気がついてくれて良かったわ。私の心の中では、“ヴィランをやっちまいな!”だったんだもの)
肩の力を抜いて、姿勢は淑女になるとナーラの雰囲気が変わった。
「ヴィラン様、サファイアをお褒めいただきありがとうございます。こちらは今年、採掘されたばかりの新しい鉱山のものなのです。ヴィラン様もご存じですよね」
「あっ、あぁ」
ヴィランから煮え切らない返事が帰ってくる。
「新しいザマール地方のサファイアの特徴をご存じかしら?」
「あっ、あぁ」
ナーラは得意げな笑顔をヴィランに返す。
「もちろんご存じですよね。クール伯爵家が一番に買い入れを行っているのですから」
ナーラの言葉でようやくヴィランは合点がいった反応をする。
「スターサファイアか」
ヴィランは肩の力を抜いた。
「隣の鉱山も楽しみですわね」
「⋯⋯というと?」
ヴィランは思わずナーラに聞いてしまい、苦虫を噛み潰したような顔をする。
ナーラは屈託のない笑顔のまま返す。
「先月、カルサイトに混ざるルビーが発見されたとか」
会場はどよめいた。それもそのはずだ。
サファイアの隣の鉱山とカルサイトが発掘されているという二つの情報で、ナーラは続報を集め続けていたのだ。
その後も、ヴィランはサファイアとルビーが同じ鉱石ということに驚き、価値の基準を熱心に聞いた。
アリーナの心の中では“連続コンボ”コールが鳴り止まなかった。
心の中のヴィランは地面に倒れ込み、“KO!”と画面いっぱいにでる。
そんな想像をしていたのだが⋯⋯。
それが終わるとナーラの手を力強く握った。
「ナーラ嬢、ぜひ私とダンスを願えませんか? その後、バルコニーでもっと詳しい話を聞きたい」
アリーナは目を丸くした。笑いが漏れるガーイはアリーナに声を落として伝える。
「ヴィランは口は悪いですが、根は素直なやつなんです」
それからナーラはというと⋯⋯。
ヴィランとデートする度に欲しい、欲しいと言っているらしい。
ヴィランは面白くなさそうな顔で、高価な書物をプレゼントした。ヴィランの両親からは末永くヴィランと付き合ってほしいと念押しされているようである。
アリーナはというと、ナーラとヴィランの話の共有者として楽しく交流している。
周りからは美男美女のお似合いカップルと言われている。でもアリーナが主導権を握っている。
なぜかって?
それはガーイに腕相撲で勝ったからなのだ。




