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Chapter 7: Roll and Action! (Part 3)

南へ六十マイル――FOBドアーズ。


 FOB(前方作戦基地)ドアーズは、三千人のムリカ兵を収容できる大規模な基地である。


 駐屯地のあちこちで、戦車や砲兵車両が所定の位置へと並べられていた。乗員たちは忙しなく砲弾や弾薬箱を運び込み、それぞれの車両へ補給している。


 南側の滑走路でも同じような光景が広がっていた。地上整備員たちが航空機の点検を行い、兵装を取り付け、出撃準備を進めている。


 基地中央のブリーフィングテントの中では、スタン、ハンツ・ラムダ将軍、そして数名の将校が航空写真を机の上に広げていた。


「敵の地上戦力は三万です」


 若い中尉が報告した。


「歩兵、騎兵、魔術師、砲兵。航空戦力はワイバーン三百、鳥人戦士三千」


「ふーん……三か月前の“歓迎部隊”よりはでかいな」


 スタンがぼそりとつぶやいた。


「はい、サー。こちらの小規模部隊が敵の襲撃隊です。今夜の真夜中ごろにはDMZへ到達する見込みです」


 その言葉に、テントの中の空気が重くなった。


 誰もが顔を曇らせる。


 スタンはゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着かせた。


「司令官。こちらの準備状況は?」


 スタンがハンツ将軍に尋ねる。


 ハンツ将軍は顔をこすった。


「正直に申し上げます、サー。これまで我々は反乱部族や地方軍閥との戦いを数えきれないほど経験してきましたが……」


 彼は少し言葉を選んだ。


「こういう戦争は初めてです。部隊はまだ準備を進めていますが……率直に言って……時間が足りないと思います」


 テントの中の全員が、自然と外の訓練場へ目を向けた。


 向こうでは、小隊が訓練を行っていた。


 鬼軍曹が隊列の前に立ち、その隣には一人の民間人がいる。


「おーのー……しびりあん……ころされてる……」


 小隊が棒読みで言った。


「今のは何だァァァァ!?」


 鬼軍曹が怒鳴り声を上げる。


 すると、帽子に「ACTING COACH」と書かれた人物が軍曹の耳元で何かささやいた。


 軍曹はうなずき、部隊へ歩み寄る。


「お前! 一歩前へ!」


 彼が指差したのは、不運にも最前列に立っていたPFCベラ。


 小柄な吸血鬼の少女で、体が小さいせいで前列に配置されていた。


「イエス、サー!」


「もう一度やれ」


 ベラは震えながら言った。


「おーのー……しびりあん……ころされてる……わたしたち、とめないと……」


「ふざけてんのか!? 感情だ! 絶望だ! もっと出せ!」


「お……おーのー! しびりあん……ころされてる……!」


 ベラはすでにかなりテンパっていた。


「まだ足りん! そこにいるのはお前の母親だ! 赤ん坊の妹だ! 今まさに殺されてるんだぞ!」


 鬼軍曹が顔を近づけて怒鳴る。


「おおおおおおのぉぉぉ!! しびりあんがころされてるぅぅぅ!!」


 ベラは半泣きで叫んだ。


 ブリーフィングテントの将校たちは、その光景を見ながら完全に絶望していた。


「神よ……我らを救いたまえ……」


 スタンがつぶやいた。


 ―――


 北へ十マイル――ヴァンドリア=レイヴンドーン連合陣営。


 岩だらけの丘の上から、ピエール公爵、デュラック大魔導士、ルクシウス王子、そして数名の将校が崖の縁を見下ろしていた。


 崖の先端では、アントニオ大司教が祈りを捧げている。


「我々の偵察隊は日没頃にはDMZの村へ到着します」


 ルクシウスが説明した。


「そして真夜中過ぎに襲撃を開始します。なお、あの村に駐屯している我が兵には、深夜前に密かに撤退するよう命じてあります」


「いい判断だ」


 ピエールがくつくつ笑った。


「傭兵どもがうっかりお前の兵を殺してしまっては困るからな。ほら、私だってお前の民を気にかけているだろう?」


 ルクシウスは拳を握りしめたが、何も言わなかった。


「村にはどれほどの魔族が守備についている?」


 ピエールが尋ねる。


「普段は夜になると、二十名ほどしか残りません。しかし……今日は違います」


 ルクシウスは少し眉をひそめた。


「兵の報告では、見慣れない新しい守備兵が配置されているそうです。全員が白い制服を着ており、村人一人一人と積極的に話をしているとのことです」


「ふむ……おそらく別系統の部隊だろうな。だがそれでも二十人程度なら問題にはならん」


 ピエールが肩をすくめた。


「それと……」


 ルクシウスは続けた。


「兵の報告では、魔族たちは今日、村で何か慈善活動のようなものを行っているそうです。村人全員に新しい服と金貨を配り、さらに魔族の治療師が、住民の体にある傷跡を消して回っていると」


「チッ……」


 デュラック大魔導士が鼻を鳴らした。


「悪魔の常套手段だな。住民どもを魔族のシンパに変えるつもりだろう」


「まったくその通りですな、デュラック大魔導士」


 祈りを終えたばかりのアントニオ大司教が口を開いた。


「魔族の同調者などに、我々が情けをかける必要はありません」


 その時だった。


 全員が思わず息を呑む。


 アントニオの体を、はっきりと目に見える聖なる光――神聖なオーラが包み込んでいたからだ。


「女神は、私の祈りに応えてくださった」


 大司教は静かに言った。


「女神は我々の味方です。もはや、邪悪な魔族どもに正義を下すのを止められる者はいません」


「ありがたいお言葉です、閣下」


 ピエールがうなずいた。


「仮に魔族どもが我々を止めようとしても、この規模の軍勢を相手にするのは骨が折れるでしょうな」


 彼らは崖の下を見下ろした。


 そこには、数千の兵士からなる巨大な陣営が広がっている。


 空では数騎のワイバーン騎士が巡回飛行をしていた。


 ―――


 NASA

 ミッションコントロールセンター


 管制室の空気は張り詰めていた。


 全員が自分のモニターに集中している。


 中央では、バブがNASA長官と並んで立ち、報告を待ちながら落ち着かない様子で腕を組んでいた。


「……機器のキャリブレーション、確認完了」


「軌道位置も確認。目立った偏差なし」


「データ検証……完了。異常は検出されません」


 報告を終えた管制官たちが、一斉にNASA長官とバブの方を向いた。


「ベールゼブブ氏」


 NASA長官が言う。


「デビルズ・アイは、100%の稼働状態です。いつでも使用可能です」


 その言葉を聞いた瞬間――


 管制室に拍手が広がった。


 バブは満面の笑みを浮かべ、長官と固く握手する。


「ああ、ありがとうございます、長官」


 彼は嬉しそうに言った。


「では失礼します。首相に“戦争の準備が整った”と報告しなければなりませんので」


 ―――


 DMZ

 真夜中ごろ


 テントの一つの中。


 そこでは“家族”が夕食を終えたばかりだった。


 人間の夫。

 獣人の妻たち。

 そして人間の子供。


「なあ、もう一回どうだ? へへへ」


 夫がニヤニヤしながら言った。


「また? これで二回目よ?」


 妻の一人が呆れた顔で言う。


「ちゃんと料金に追加しておくからね」


「ケチくさいこと言うなよ。明日までは一応、夫婦なんだからさ」


「あー……絶対ヤダ」


 テーブルに座っていた“息子”は、退屈そうな目でそのやり取りを見ていた。


「ていうかさ」


 少年が言った。


「なんで魔族は俺たちに“家族ごっこ”なんてやらせてるわけ?」


「ガキ! またタダ見してたらぶっ飛ばすわよ!」


 獣人の女が怒鳴った。


「ははは、いいじゃないか」


 男が笑った。


「こいつは“息子”なんだから見ても問題ないだろ。たしか魔族はこれを“性教育”って呼んでたはずだ」


 ドンッ。


 突然、テントの扉を叩く鈍い音がした。


「誰か外にいるみたいだよ」


 少年が言った。


「見てこい」


 男は面倒くさそうに手を振った。


「またエホバのなんとかだろ。今日これで三回目だぞ。ほんと迷惑だな」


 少年は立ち上がり、入口の布をめくった。


 外には、白い服を着たエホバ・アキュセスの一員が立っていた。


 だが――


 次の瞬間、少年の顔から血の気が引いた。


 その男の腹には剣が突き刺さっていた。


 白いシャツが、真っ赤に染まっている。


 エホバの男はそのまま前へ倒れ込んだ。


 そしてその背後から――


 巨大な影が現れる。


 血に飢えた視線で、少年を見下ろしていた。


---


DMZ

 村の入口


「突撃ィィィ!!」


 数百のケンタウロス戦士と騎乗した傭兵たちが、轟音とともにDMZへ雪崩れ込んだ。


 蹄と軍靴がテントを踏み潰し、地面を蹴り裂き、ついでにそこにいた人間も踏み潰していく。


 火は瞬く間に広がり――


 悲鳴は、それよりも早く広がった。


 襲撃者たちは、動くものすべてを斬り伏せていく。


「隊長! 俺たちの連中が魔族と接触しました! あいつら臆病者みたいに逃げ回ってます! もう何匹か仕留めました、残りも追ってます!」


 報告を聞いた襲撃隊長はニヤリと笑った。


「ハッ! 新しい警備兵が銃を持ってないって報告を聞いたときは、妙な魔法でも使ってくるのかと思ったがな」


 彼は手を振った。


「いいだろう。命令は変わらん。魔族を先に殺せ。そのあとで残り全員だ。行け」


「了解!」


 副官は馬を返し、燃え上がるテントの方へ駆け戻った。


 笑いながら、部下たちへ次々と指示を叫ぶ。


 ―――


 襲撃者たちは村を一軒ずつ制圧していった。


 抵抗しようがしまいが、男も子供も容赦なく殺される。


 女たちは年齢に関係なく襲われた。


 先ほどの獣人の女も、地面に押さえつけられていた。


 何人もの襲撃者に覆いかぶさられながら。


 彼女の“夫”と“息子”は、そのすぐ横で冷たく横たわっている。


「あ……あ……お、お願い……」


 女は震える声で言った。


「好きにしていいから……お願い……殺さないで……あぁ……私、いつでも――」


「うるさいな」


 襲撃者の男はぼそりと言った。


 そして喉を掻き切った。


 手を止めることすらなく。


 女は血を吐き、体を弱々しく痙攣させる。


 男はそれでも彼女を使い続けていた。


 村のあちこちでは、住民たちが必死に抵抗していた。


 フォークやシャベル、あるいは手近にある道具を武器代わりにして。


 数少ない“教育を受けた”住民たちは、火球や氷の槍などの攻撃魔法を放って応戦する。


「クソッ! 俺の斧さえあれば!」


 ある男がそう叫んだ直後――


 騎乗した襲撃者の一撃で、頭が体から離れた。


 住民たちの武器は、すべて事前に没収されていた。


 魔族たちが“家族のイメージに合わない”という理由で、改装プランの一部として取り上げていたのだ。


「兵士はどこだよ!? 一体どこにいるんだ!?」


 男の一人が叫ぶ。


 しかしその横を、別の男が押しのけて走り抜けた。


「もう無理だ! 俺は逃げる!」


 そう言って、数人の男が村から逃げ出し始める。


 一方――


 魔族側も、村人たちと同じくらい酷い状況だった。


 エホバ・アキュセス。


 あの陽気に戸を叩く布教者たちは、襲撃者たちに次々と殺されていた。


「待ってください! 我々は平和の使者です! ただ言葉を伝えに来ただけで――アァァッ!」


 剣が振り下ろされ、魔族の体を切り裂いた。


「魔族を一匹仕留めたぞ! ハハハ!」


 襲撃者の男は嬉しそうに叫んだ。


 彼は角と尻尾を切り取り、さらに子供のような好奇心で死体の胴体を割り開く。


「ん? 変だな……おい!」


 男は首をかしげた。


「こいつ、結晶がないぞ」


「ああ、それな」


 隣の仲間が答えた。


「他の連中も同じこと言ってた。ここの魔族、誰も結晶を持ってないらしい」


「チッ」


 襲撃者は舌打ちした。


「一番高く売れる部分なのによ」



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