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Chapter 24: Cleaning Up (Part 3)

バシントンDC ― ブラックハウス


 数日後。


 ソロとリリスは並んで廊下を歩いていた。


 朝から予定はぎっしりだ。ヴァンドリアとレイヴンドーンの戦後処理のせいで、会議が立て続けに詰め込まれている。


「エルフの誰か雇ってさ、うちの土地をどうにかさせるってのはどうだ?」

 ソロは不機嫌そうにぼやいた。

「もっと肥沃にするとかさ」


「無理です」


 リリスは歩調を落とさず答える。


「彼ら、国境に大使館を建てるだけでも渋ってましたから」


「うわ、ケチくせぇヴィーガンの木抱き野郎ども……」


「その呼び方、外では絶対に言わないでください」


 やがて閣僚会議室の扉が開いた。


 中で待っていたのは――


 ・レヴィ ― 外交大臣

 ・スタン ― 国防大臣

 ・モニー ― 財務・貿易大臣

 ・モー ― 情報局および対ヒューマノイド情報局長


「おはよう」


 ソロは席につきながら言った。すぐにスタッフがコーヒーを注ぐ。


「よし。ヴァンドリアの件だ。始めろ」


 モーが立ち上がった。手にはリモコン。


「数週間の潜入工作の末、我々のエージェント二名が現地協力者の獲得に成功しました」


 彼は淡々と説明する。


「洗脳し、即席爆薬を与え――その結果がこちらです」


 スクリーンが点灯した。


 映し出されたのは、ヴァンドリア王家の行列。


 次の瞬間。


 ドォォォォン!!


 王族の行列が爆発に包まれた。


「おおお……」


 部屋のあちこちから感嘆の声が漏れる。


「国王、王妃、皇太子、主要貴族――全員排除」


 モーは誇らしげに言った。


「いわゆる国家支援型テロリズムというやつですが、実に素晴らしい。安価。低リスク。効率的」


「うまくいって何よりだ」


 ソロはコーヒーを一口すすった。


「お前のBICHたちによろしく言っといてくれ」


(モーのエージェントたち。もちろんだ。)


「で、ヴァンドリアは今どうなってるの?」


 リリスが尋ねた。


「王子二人が互いを犯人扱いして争ってます」


 モーは楽しそうに答える。


「貴族たちは指導者不在。そして内戦がいくつ起きてもおかしくないレベルの緊張状態です」


 スタンは椅子にもたれかかった。


「で、俺たちはどっちを支援する?」


「表向きは?」


 モーは肩をすくめる。


「誰も」


 にやりと笑う。


「裏では? 全員です」


 リリスが笑った。


「最高」


 モニーが口を挟む。


「それと、植民地や属国も忘れないでください。今ごろ“自由”の匂いを嗅ぎつけてるはずです。ヴァンドリアが金持ちだったのは、ああいう土地があったからなんですから」


「レヴィ?」


 ソロが視線を向ける。


 レヴィは穏やかな笑みでうなずいた。


「彼らとは仲良くしておきましょう」


 モーがスライドを切り替える。


「それともう一件」


 画面に新しい図が表示された。


「ヴァンドリアの魔術師たちが、地峡に水路を建設する計画を立てていたことも判明しました」


 シミュレーション映像が流れる。


 陸地を貫く巨大な運河が掘られていく。


「目的は、我々の侵攻ルートを水没させること」


 リリスが口笛を吹いた。


「これ、うちの船通れる大きさじゃない?」


 スタンがうなずく。


「ヴァンドリアの魔法は伊達じゃないな」


 モニーの目がきらりと光る。


「ふむ……面白いですね。もしその水路が完成したら、我々の貨物輸送時間は大幅に短縮できます」


 スタンが続けた。


「ってことは海軍の再展開も早くなるな」


「それに」


 レヴィが付け加える。


「ヴァンドリアは、いつ爆発してもおかしくない火薬樽になります。なら、新しい友人――レイヴンドーンへ直接アクセスする陸路は、むしろ断っておいた方がいい」


「国際商人に使わせれば通行税が取れるわ」


 リリスが笑みを浮かべた。


「それに、レイヴンドーンと共同管理って形にすれば――」


「どうせ連中、こっちに借金あるしな」

 モニーがぼそりと呟いた。

「鹵獲した船の代金で」


 レヴィが指を一本立てる。


「ですが、その水路が完成すれば、ヴァンドリアは当然“取り分”を要求してくるでしょう」


 ソロは椅子にもたれかかった。


「ふーん……」


 数秒考えてから、肩をすくめる。


「海軍がなければ、取り分も要求できないだろ?」


 全員の視線が一斉に彼へ向いた。


「まだ戦争中なんだろ、形式上は?」

 ソロは続ける。

「スタン。停戦になる前に、ヴァンドリアの残りの艦隊を全部沈めとけ」


 スタンはにやりと笑った。


「ルサルカが喜びそうだな」


「それと、俺たちの軍とレイヴンドーン軍を国境に集めろ」

 ソロは付け加える。

「そうすりゃ、ヴァンドリアも“運河建設”を急ぎたくなるだろ」


 モニーが満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしい」


 レヴィはスライドを次へ進める。


「次に、レイヴンドーンの件です。良い知らせから」


 画面に新しい資料が表示された。


「同盟は正式に承認されました。彼らは我々の基地をいくつか受け入れる予定です」


 スタンが嬉しそうにうなずく。


「いいね。他国が攻めてきたときの緩衝地帯としては最高だ」


「彼らの皇太子が二年間統治を行い、その後は議会制民主主義へ移行する予定です」

 レヴィは続けた。

「これで内戦のリスクが下がり、将来の我々の資産や利権も守りやすくなります」


「いい仕事だ」


 ソロは言った。


 だが――


「ただし……」


 レヴィはため息をついた。


「悪い知らせもあります。彼ら、完全に破産しています」


「どれくらい“破産”してる?」


 モニーが警戒するように聞いた。


「我々の想定以上です。正直、こちらが売りたい物をほとんど買えません」


「はぁぁぁ!?」


 モニーが悲鳴を上げた。


 リリスがこめかみを押さえる。


「あー……やばい予感」


 会議室に沈黙が落ちた。


 そのとき。


 ソロが指を一本立てた。


「あ」


 全員が彼を見る。


「じゃあさ、あいつら――えーと、“自由貿易協定”で払えばいいんじゃない?」


 一同、固まる。


「それ、何です?」


 モニーが首を傾げた。


 ソロは説明を始めた。


 関税。

 輸入枠。

 安価な資源輸出。

 インフラ投資。

 そして債務による経済的拘束。


 それらを、まるで慣れた講義のように流れるように説明していく。


 モニーはまばたきした。


「……つまり、向こうが我々に売る資源は安くなる?」


「そういうこと」


 ソロはうなずいた。


「その間に、俺たちは向こうのインフラを好きなだけ整備できる。費用は――もちろん向こう持ちだ」


「つまり、巨大な借金を背負うことになるのね」


 リリスが言った。


「レイヴンドーンって、借金かなり嫌ってる国だったよね?」


「選択肢がありません」


 レヴィはあっさり答えた。


「今、世界で彼らの味方は我々しかいませんから」


 モニーはゆっくりとうなずいた。


「なるほど……ドーン港は、とんでもない金鉱になるな……」


「それに石油もある」


 リリスが付け加える。


 ソロが小声で言った。


「あと家畜」


「チッ」


 モニーが舌打ちする。


 ソロは背筋を伸ばし、会議の終わりを示した。


「今回の戦争、うまくいってよかった」


 彼は言った。


「でも忘れるな。俺たちはまだ弱い」


 指を折って数える。


「艦隊は一つ。潜水艦は四隻。戦闘機部隊は数個。戦車も数百台」


 テーブルを見渡す。


「王国一つ潰すには十分だ」


 一拍置く。


「でも、大陸と戦うには足りない」


 閣僚たちは黙っていた。


「だから賢く戦う」


 ソロは続ける。


「戦場は選ぶ。一度に一つだ」


 全員がうなずいた。


「女神との戦争は――まだ始まったばかりだ」


 ムリカは、多方面戦争に耐えられるほど強くない。


 まだ。


 ―――


ソリス大陸・どこかのダンジョン


 ソラは、あの映像が頭から離れなかった。


 魔族が、地球の武器を使っている。


 しかも――


 魔族の都市は、地球の都市にあまりにも似すぎていた。


 それが、ソラの頭から離れなかった。


 どうして魔族が、ここまで完璧に地球の技術を再現できる?


 向こう側に地球人がいるに違いない。

 それ以外に説明がつかなかった。


 なのに、女神はそのことを一言も話していない。


 おかしい。


 妙に、おかしい。


(この世界が、ただの“もう一つの地球”になったら……まずいんじゃないか?)


 ギィィィィッ!!


 突然、二体のコボルトが左右から飛びかかってきた。


 ソラは剣を一振りする。


 一撃。


 それだけで二体は両断された。血が洞窟の床に飛び散る。


「チッ……ちょこまか鬱陶しいな」


「ソラ! 後ろ!」


 イザベルが叫んだ。


 影の中から、三体目のコボルトが飛び出してくる。


 ソラは気配すら感じていなかった。


 ザシュッ――ザシュッ


 二本の氷柱が空気を裂き、跳びかかったコボルトを空中で串刺しにした。


「これが“世界を救う勇者”ですか?」


 鋭い声が響く。


「ダンジョンの中で空想に浸るのは、やめた方がいいと思いますけど?」


 ソラは振り向いた。


 そこにはイザベル。


 そして、その隣には――


 頭には不釣り合いなほど大きなとんがり帽子。

 体に対して大きすぎる杖を抱えた、小さな少女。


 新しいパーティーメンバー。


 ユミ。


 いわゆる“天才子供魔法使い”。


 歩くテンプレ。


 師匠が「実地経験の方が教育になる」という理由で、魔法学校に通わせる代わりに、勇者パーティーに放り込んでモンスター退治をさせるタイプのやつだ。


「ありがとな、ユミ」


 ソラは微笑みながら彼女の頭をぽんぽんと撫でた。


「お前ならやってくれると思ってた」


「も、もちろんですっ!」


 ユミは慌てて答えた。頬が真っ赤になる。


「わ、私は天才魔法使いですから!」


 そして――


 当然のように。


 この天才魔法使いはツンデレでもあった。


 キィィィィィィィ!!


 ダンジョンの奥から、コボルトの将軍と二体のコボルト魔術師が姿を現す。


 耳障りな叫び声を上げながら突撃してきた。


「ダンジョンボスか」


 ソラは落ち着いた声で言った。


「準備しろ」


 戦いは短かった。


 数回の剣閃。


 いくつかの魔法の爆発。


 それだけで終わった。


 ボスは崩れ落ちる。


 直後、淡い光がパーティーを包んだ。


 レベルアップの証だ。


 タルヴァリスにおいて、“異世界の勇者”が恐れられている理由はステータスではない。


 システムだ。


 通常、タルヴァリスの住人は生まれた時点で能力の上限が決まっている。


 マナ。

 筋力。

 速度。

 すべてだ。


 マナ上限が高ければ魔法使い向き。

 筋力上限が高ければ戦士向き。


 社会での役割は、ほぼ生まれた瞬間に決まる。


 だが――


 異世界から来た勇者は、そのすべてのルールを壊す。


 ソラはレベルアップするたびに、すべての上限値を引き上げることができた。


 さらに厄介なことに――


 この壊れた仕組みは、パーティー全体にも適用される。


 歴史記録によれば、中堅レベルの勇者パーティーが単独で軍隊を壊滅させた例すらあるという。


「えっと……」


 ユミが戸惑った声を出した。


「なんか……いつもより強くなってません?」


「確かに」


 イザベルはゆっくりと手を握った。


「これは……いつもと違う」


 ソラはステータスウィンドウを開いた。


 そして――


 目を見開いた。


「なあ、みんな……」


 ソラが言った。


「これ、信じられないと思うけど」


「何?」


 イザベルが身を乗り出す。


「新しいパッシブスキルが増えた」


 ソラはゆっくり言った。


「ダブルEXP」


 ごくりと唾を飲み込む。


「これから、成長速度が二倍になる」


「まあっ!」


 イザベルはすぐに両手を胸の前で組んだ。


「女神様の祝福ですね!」


 その場で祈り始める。


 ソラは――祈らなかった。


 彼は考えていた。


(ダブルEXP……)


(ちょうど魔族が地球の技術を使い始めたタイミングで?)


 偶然か?


 それとも――


(……女神が、まだ俺たちに隠していることがあるのか?)

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