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Chapter 22: Cleaning Up

 ピエール公爵の家族は必死に否定の声を上げようとした。だが、その叫びは広場を埋め尽くす群衆の歓声に、完全に飲み込まれてしまった。


「ふむ……」


 王はわずかに身を寄せ、ルイ公爵に小声で囁いた。


「これで……魔族は満足すると思うか?」


「さて」


 ルイ公爵は静かに答えた。視線は依然として処刑台――ギロチンへ向けられたままだ。


「やれることはやるしかありません。彼らは自分たちを“外交国家”だと主張していますからね」


 彼は姿勢を整え、さらに声を落とした。


「ならば――外交国家らしく振る舞わせればいい」


 短い間を置く。


「これは時間稼ぎになります。軍を強化する時間……そして、我々の評判を取り戻す時間です」


「チッ……」


 王は舌打ちした。


「未だに信じられん。他国が我々を悪者扱いしているなどな」


 彼の拳がぎゅっと握られる。


「我々は魔族と戦っていただけだぞ!」


 怒りを押し殺すように言った。


「それなのに……そのせいで、私は王位を退かなければならないのか?」


「それは……」


 ルイ公爵は慎重に言葉を選んだ。


「まさしく予想外の出来事でした、陛下」


「ご安心ください、父上」


 ボーが誇らしげに顎を上げた。


「私がさらに強大な軍を築き上げます」


 彼の口元が歪む。


「レイヴンドーンも――魔族も――すべて奴隷にしてやります」


 王はちらりと彼を見た。


「そうであってくれよ、息子」


 低く呟いた。


「本当に……そうであってくれ」


 その頃、処刑台の下では――


 処刑人がピエール公爵の家族を乱暴に押し出し、ギロチンの前へと跪かせていた。


 そして高くそびえる教会塔の内部。


 そこでは二人のサキュバスが、手持ちカメラでそのすべてを記録していた。


「オーバーウォッチ、映像送るわ」


 メーガンが小声で言った。


「そっちは受信できてる? コピー?」


『こちらオーバーウォッチ』


 落ち着いた声が通信機から返ってくる。


『映像はクリアだ。任務を続行せよ。オーバー』


「コピー、オーバーウォッチ」


 ジャネットはライフルの位置をわずかに調整した。


「ねえ」


 彼女は気軽な調子で尋ねた。


「昨夜、第三王子には何をしたの?」


「ああ?」


 メーガンはニヤリと笑った。


「ちょっと古典的なサキュバスの濡れ夢サービスに、ロヒプノールを少々混ぜただけよ。ケケケ」


 首を傾ける。


「しばらくは目覚めないわよ。そっちは?」


「私?」


 ジャネットは肩をすくめた。


「第二王子には濡れ夢なんてサービスしてないわ。酒場で飲み物に薬を入れただけ」


 ――ズガンッ


 ギロチンの刃が落ちた。


「イェェェェェェエエエエエッ!!」


 広場が爆発するような歓声に包まれる。


「あら」


 メーガンはレンズ越しにそれを眺めながら、淡々と言った。


「そろそろ始まるわね。スタンバイ」


 ジャネットはライフルを構え、ボルトを引いた。


「了解」


 そのとき、王太子が席から立ち上がり、王に向かって軽く頭を下げた。


「では父上」


 ボーが言った。


「今から継承を発表してきます」


「ああ、ああ」


 王は手をひらひら振った。


「好きにしろ」


 王太子は処刑台の前へと歩み出た。


 広場の全員が見える位置に立つ。


「来たわ……」


 メーガンが小さく呟く。


「ヴァンドリアの市民よ!!」


 ボーが両腕を大きく広げ、叫んだ。


「本日、私は発表がある!!」


 彼は一瞬、間を置いた。


 群衆の視線が完全に自分へ集中するのを確認して――


 その瞬間。


「そいつを止めろ!!」


 フードを被ったビーストマンが群衆の中から飛び出した。


 一直線に王族の処刑台へと突進する。


 外側の護衛線を突破し、飛びかかるように前へ――


 だが、処刑台の上にいた護衛兵が彼の前に立ちはだかった。


 プシュッ


 サプレッサー付きの弾丸が、護衛兵の頭蓋を貫いた。


 ビーストマンは、何が起きたのか理解できなかった。


 ただ一つだけ分かったことがある。


 目の前の衛兵が――突然、死んだということだ。


 彼は迷わなかった。


 崩れ落ちる死体を踏み越え、そのまま一直線に走る。


 処刑台へ飛び上がると、ビーストマンはローブを引き裂いた。


 その下に現れたものは――


 首から足先まで、びっしりと巻き付けられた魔法スクロールだった。


 何百枚もの爆裂スクロールが、層になって体を覆っている。紙というより、もはや鎧のように見えるほどだった。


「暴君に死を!!」


 彼は咆哮した。


「オスペリアに自由を!!」


 ――カァァァァァァァァァァァァァンッ!!


 凄まじい爆発が、王都の広場を飲み込んだ。


 ヴァンドリア王家は一瞬で消えた。


 光と熱と粉塵に分解され、跡形もなく。


 護衛たちも、その場で蒸発した。

 そして、近くにいた運の悪い市民たちも――同じ運命を辿った。


 衝撃波は四方へと叩きつけるように広がり、人々を空中へ吹き飛ばした。周囲の建物の窓ガラスが次々と砕け散る。


 教会の塔の窓も例外ではない。


 ガシャァァン!!


 メーガンとジャネットは反射的に身を低くし、顔を腕で庇った。破片と瓦礫が周囲で激しく音を立てる。


「うわ……クソ」


 ジャネットは咳き込みながら言った。耳鳴りが止まらない。


「こんなデカいとは思わなかった」


「そりゃそうでしょ」


 メーガンは肩をすくめ、腕を下ろした。


「爆裂スクロールをあんなに一度に使うテスト、今までやったことないし」


 二人のサキュバスは素早く動いた。


 機材を回収。

 装備を袋に押し込み。

 薬莢を拭き取る。


 弾も痕跡も――


 何一つ残さない。


「オーバーウォッチ」


 メーガンは通信機に小声で報告した。すでにバッグを肩に担いでいる。


「任務完了。これから回収ポイントに向かう」


『コピー』


 オーバーウォッチの落ち着いた声が返ってきた。


『アスモデウス卿から感謝を伝える。オーバーウォッチ、アウト』


 通信が切れる。


 二人のサキュバスは慣れた動作で姿を変えた。


 角が消える。

 翼が溶ける。

 顔立ちが柔らかく変わる。


 数秒後――


 二人の人間の修道女が、教会塔の階段を静かに降りていた。


 そしてそのまま、混乱に包まれた街へと紛れ込む。


 誰にも気づかれることなく、彼女たちは王都を去った。


 その後、ヴァンドリア王国の公式調査は結論づけた。


 暗殺者は、ヴァンドリアの植民地の一つ――オスペリア出身であると。


 さらに、暗殺者と共謀していた人物の存在も判明した。


 正体不明のヴァンドリア王子。


 彼との秘密の書簡が発見されたのである。


 ―――


レイヴンドーン王国

ドーン市


 ドーンの城壁に、レイヴンドーンの旗が掲げられていく。


 一枚、また一枚と。


 兵士と市民は肩を並べて働いていた。


 短く、しかし激しい戦闘で壊れた瓦礫を片付けていく。ヴァンドリア守備隊とレイヴンドーン軍が衝突した痕跡だった。


 折れた武器が集められ。

 バリケードが解体され。

 石畳に染みついた血が洗い流される。


 戦いは、短かった。


 ドーンの市民たちは、ほとんど即座にヴァンドリア守備兵へ反旗を翻したのだ。


 内側から城門を開き、レイヴンドーン兵と共に戦った。


 今――


 解放された市民たちは街道の両側に並び、歓声を上げていた。


 一台の王族用馬車が街へ入ってくる。


 その中にいるのは、ルクストル王とレヴィだった。


「どうやら」


 レヴィが静かに言った。


「この街の人々は、まだ陛下を愛しているようですね」


「……私は」


 王は前を見たまま、低く呟いた。


「一度、彼らを見捨てた」


 その視線は動かない。


「……もう、彼らの愛を受ける資格などないと思うがな」


「そんなに自分を責めないでください」


 レヴィは静かに言った。


「この後、彼らには復興を導く指導者が必要になります」


 王はゆっくり息を吐いた。


「だが、それは私ではない。それが一番良いのだ」


 少し間を置く。


「……大臣殿。なぜヴァンドリアが軍を再建して戻ってこないと思うのだ?」


 レヴィは、意味ありげに微笑んだ。


「まあ……彼らは今、とても忙しいのですよ」


 彼は軽く肩をすくめる。


「家族の問題でね」


 そして前方を指さした。


「おや、ご覧ください。ルクシウス王子が陛下をお待ちです」


 城の階段の前に、ルクシウス王子が立っていた。


 疲労は隠せないが、その目は輝いている。


 父が馬車から降りた瞬間、王子の瞳に涙が浮かんだ。


「おお……我が息子よ」


「陛下」


 ルクシウスは深く頭を下げた。


「本日をもって、ドーン城を陛下に献上いたします」


 彼は顔を上げる。


「これにより――レイヴンドーン王国は、再び完全な姿を取り戻しました」


 王は顔を上げ、懐かしい石造りの城壁を見つめた。


「この城は……」


 声がわずかに震える。


「お前が生まれた場所だ」


 ゆっくりと首を振る。


「まさか、再びこの城を見る日が来るとは思わなかった……」


 王は静かに頷いた。


「ありがたく受け取ろう。我が息子よ」


「光栄です、陛下」


 ルクシウスは微笑んだ。


 王の視線は、遠くの地平線へと向いた。


「この美しい城……この美しい街……」


 彼は柔らかく笑う。


「お前の亡き母は、ここで夕日を見るのが好きだった」


「お前を腕に抱きながらな」


 そして――


 口調がふっと軽く変わる。


「ところで息子よ」


「城門を通るとき、ピエール公爵に会ったのだが」


 王は肩をすくめた。


「この美しい街を汚す存在は、もう十分だろう」


「彼を片付けてくれないか?」


「はい、父上」


 ルクシウスは即座に答えた。


「すぐに部下へ命じます。杭に刺した首を撤去させます」


「ありがとう」


 王は頷いた。


「では、入ろうか」


 彼はルクシウスとレヴィへ向き直る。


「この新しい時代について話さねばならん」


 少し間を置く。


「……民主主義の時代についてな」


 レヴィは礼儀正しく微笑んだ。


「どうぞお先に、陛下。殿下」


 ―――


レイヴンドーン=ヴァンドリア国境付近


 長く、惨めな列が故郷へ向かって進んでいた。


 ヴァンドリアの難民たちだ。


 兵士。

 商人。

 そして――奴隷たち。


 レイヴンドーン軍は彼らの通過を許していた。


 解放された市民が復讐に走る前に追い出したかったのだ。


 ただし――


 国境を越える際、船と貴重品はすべて没収された。


 その移動を監視しているのは、レイヴンドーンとムリカの合同哨戒部隊だった。


「なぜ奴隷を解放しない?」


 レイヴンドーン軍の隊長が小声で尋ねた。


 ムリカ・レンジャー隊のアーヴィング隊長は煙草に火をつける。


 そして一本、相手に渡した。


「数が多すぎる」


 彼は簡潔に言った。


「そんな人数を養えば、あんたらの経済は崩壊する」


 煙を吐く。


「ヴァンドリアの問題にしておいた方がいい。俺たちの問題になるよりはな」


 レイヴンドーンの隊長は煙を吸い込んだ。


 目がわずかに見開かれる。


「パイプより実用的だな」


 彼は言った。


「それに……うまい」


 アーヴィングは頷いた。


「心配するな」


 アーヴィングは煙を吐いた。


「そのうち、あんたの街でも買えるようになる」


 彼は肩をすくめる。


「本格的な貿易が、もうすぐ始まるからな」


 両軍の文化交流は――なかなか賑やかなものだった。


 レイヴンドーン側は新鮮な肉や野菜を提供した。

 ムリカ側はタバコ、ビール、そして様々な娯楽を持ち込んだ。


「ええと……その……」


 レイヴンドーンの隊長は気まずそうに咳払いした。


 そして声を少し落とす。


「一つ、苦情があるのだが」


「何だ?」


「部下たちが……どうも……」


 彼はさらに声を小さくした。


「“アダルト雑誌”という娯楽品に……あまりにも夢中になりすぎているようでな……」


「ああ……それはすまないな」


 アーヴィングは慣れた調子で申し訳なさそうに言った。


「実はあれ、うちの軍でも禁止品なんだ」


 少し間を置く。


「だがまあ……」


 彼は煙草を指で弾いた。


「若い連中がこっそり持ち込むのを止めるのは、なかなか難しい」


 もっとも――


 その雑誌を小遣い稼ぎで売っているのは、アーヴィング本人だったのだが。

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