表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

Chapter 2: New Face of the Demon Kingdom

大魔門。


「おい……あいつら、本気だと思うか?」


「……さあな。だが、どうにも全部おかしすぎる」


「まあ戦争がないなら嬉しいけどさ。それでもヴァンドリアから家族を呼び戻す気にはなれないな」


「同感だ。うちの妻なんて、女神様が“魔族から逃げるチャンスをくれてるのに、残るなんて馬鹿だ”って毎日文句言ってくる」


「私語はやめろ。もうすぐ来るぞ」


 ルクシウスが鋭く言い放った。


 二人の兵士は即座に口を閉じた。


 魔族軍との奇妙な遭遇から、すでに二週間が経っていた。


 二週間。


 待ち続け、見張り続け、そして――あまり深く考えないよう必死に努めた二週間だった。


 なにしろ魔族の公爵が現れ、平然と和平を宣言し、そのまま……帰ってしまったのだ。


 人類連合軍は依然として大魔門の前に駐屯している。


 魔族軍も約束通り門の向こうへ退いた。だが、完全に去ったわけではない。巨大な門の向こう側には、今でもその姿が見えていた。


 ただ立っている。


 ただ見ている。


 そして、微動だにしない。


 両軍のちょうど中間地点には、一つの建物が建っていた。


 四角い。


 そして――やけに現代的だった。


 それだけでも十分おかしい。


 だが、さらに異常なのは、その建物がたった一日で建てられたことだった。


 一日。


 本当に、一日で。


 建設を行ったのはゴブリンやオーク、そして様々な魔族たちだった。


 奇妙な道具を使い、轟音を上げる鉄の乗り物を操り、金属の怪物のような巨大な機械を動かしていた。それらは悲鳴のような音を立て、ガタガタと震え、まるで拷問されている獣のように唸り続けていた。


 その作業速度は、不気味だった。


 だがそれ以上に恐ろしかったのは――その正確さだった。


 ルクシウスと将校たちは、建設の全工程を黙って見守るしかなかった。


 理解できなかったからだ。


 異なる魔族種族が協力して働いている。


 喧嘩もない。


 怒鳴り声もない。


 流血もない。


 彼らは滑らかな壁を作り上げた。


 角はまっすぐに整えられ、床は均一に仕上げられていた。


 それを――


 一日で。


 不気味、という言葉では足りなかった。


「来るぞ」


 先に聞こえたのは音だった。


 咆哮でも、遠吠えでもない。


 まるで空気そのものが何度も叩かれ、「ちゃんとしろ」と言い聞かされているような音だった。


 何かが空から飛んでくる。


 地獄トンボ――


 いや、それよりも大きい。


 もっと騒がしく、もっと凶暴そうな何かだった。


 バタバタバタバタバタ


 その機械は空から降下し、風と砂埃を巻き上げながら地面に降り立った。


 ルクシウスは腕で顔を覆った。着地の衝撃で地面が震え、靴底を通して振動が伝わってくる。


 扉が開いた。


 中から現れたのはレヴィアタンだった。


 その後ろには一人の女性魔族。


 さらにその周囲を、魔族兵の分隊が護衛していた。彼らは整然とした動きで配置につき、その規律正しさが妙に腹立たしかった。


「ご機嫌よう、ルクシウス皇太子」


 レヴィアタンは穏やかな声で言った。礼儀正しく、そしてこの場の緊張などまるで意に介していないかのようだった。


「和平会談に応じてくださり感謝します。中で続きを行いましょうか?」


「……挨拶を返そう、魔族公爵レヴィアタン」


 ルクシウスは硬い声で答えた。


「その通りだ。だが、その前に……」


 彼はレヴィアタンの背後にある機械を指し示した。


「その……空飛ぶ物体の名を教えてもらえないか?」


「ああ」


 レヴィアタンはにこやかに答えた。


「これは輸送用の乗り物で、ヘリコプターと呼ばれています。この機体の型式名はブラックホークです」


「ブラックホーク……」


 ルクシウスはその名を繰り返した。


「見た目と同じくらい、不吉な名だな」


建物の中に入った瞬間、人類側の使節団は静かに圧倒されていた。


 すべてが――見慣れているようで、どこかおかしい。


 光は水晶や炎から来ているわけではなかった。天井に埋め込まれた光る球体や、細長い筒のようなものから放たれている。明るいのに、不思議と目に優しい。


 室内の空気はひんやりとして安定していた。壁に取り付けられた奇妙な箱が冷たい風を吹き出しているからだ。外では荒れ地が太陽に焼かれているというのに。


 机は広かった。


 だが、妙に薄い。


 作りも完璧すぎた。反りもない。端の歪みもない。


 そして――椅子。


 椅子には車輪がついていた。


 ルクシウスはそれをしばらく見つめた。


(なぜタルヴァリスで、椅子に車輪を付ける必要がある?)


 それでも……。


 実際に座ってみて、ほとんど力を入れずに位置を調整できたとき――その快適さを認めざるを得ない自分が、少しだけ嫌だった。


「さて」


 レヴィアタンが席に着きながら言った。


「会談を始める前に、改めて自己紹介をさせてください」


 彼は机の上で手をきれいに組んだ。


「私の名はレヴィアタン。魔族公爵の一人として知られているかもしれませんが、現在の正式な役職は、ムリカ合衆王国の外務大臣です」


「そして私はハンニャ」


 女性魔族が滑らかな声で続け、洗練された所作で一礼した。


「ムリカ外務省の外交官です」


 ルクシウスは軽く咳払いをし、背筋を伸ばした。


「私はルクシウス。レイヴンドーン王国の皇太子であり、父であるルクストル王の代理としてここに来ている。こちらが私の随行団だ」


 彼は順番に手で示した。


「グレゴール。レイヴンドーンの大魔導士。


 アントニオ。セレス教会の大司教。


 ピエール公爵。ヴァンドリア王国、ドーン州の総督」


 レヴィアタンとハンニャは礼儀正しく紹介を聞いていた。


 だが――


 その視線がアントニオ大司教に向いた瞬間。


 ほんの一瞬だけ。


 彼らの目が鋭くなった。


 焦点が合う。


 まるで……獲物を見るように。


 アントニオの背筋を、冷たいものが這い上がった。


 しかし次の瞬間、二人の魔族はまばたきを一つすると、何事もなかったかのように整った外交官の姿勢へ戻っていた。


「改めて」


 レヴィアタンが穏やかに言った。


「この会談に応じてくださったことに感謝します。先に申し上げた通り、ムリカ合衆王国は和平を望んでいます。我々の過去の関係を考えれば、この提案が……受け入れがたいものであることは理解しています」


「我々の民を食い殺すことを“関係”と呼ぶのか?」


 アントニオ大司教が鋭く言い返した。


 レヴィアタンは首をかしげた。


「違うのですか?」


 彼は本気で不思議そうに言った。


「違うのですか?」


 その後に訪れた沈黙は、重かった。


 アントニオが爆発する前に、ハンニャが一歩前に出た。


「まずは、何が変わったのかをご覧いただいた方が建設的だと思います」


 彼女は落ち着いた声で言った。


「そのために、映像をご用意しました。記録された動く映像を表示する装置です」


 彼女は小さな装置のボタンを押した。


 すると――


 部屋が一瞬で暗くなった。


 人類側の使節団は一斉に身構えた。手が杖や聖印、武器へと伸びる。


 壁に設置された巨大な黒い板が、突然光り始めた。


「おお……」


 グレゴールがささやいた。


「なんとも奇妙な形の水晶だ」


 その画面が、突然動き出した。


 空では嵐雲が激しく渦巻き。


 火山が噴火し。


 溶岩の川が荒れ果てた大地を切り裂いて流れている。


 その風景は、敵意に満ち、容赦がなかった。


 そして――


 落ち着いた声が部屋に響いた。


 どこか奇妙に荘厳で、まるで世界を解説する語り部のような声だった。


「むかしむかし、遠い遠い地に――魔族の王国がありました」


 画面の中で、ゆったりとした語りが続く。


「そこは自然が容赦を知らぬ土地。言ってしまえば、この星でもっとも生きづらい場所の一つでしょう」


 映像が次々と切り替わる。


 肉食植物が獲物に噛みつき。


 巨大な魔獣が岩を砕きながら突進し。


 火山が噴火し、溶岩が地域ごと飲み込んでいく。


「この過酷な大地には、六百以上の種族、千三百以上の部族、そして数え切れないほどの言語が存在していました」


 荒れ狂う戦場の映像。


 燃え上がる集落。


 互いに争う魔族たち。


「千年もの間、部族間戦争は王国を蝕み続けました。そこに生きるには――あまりにも厳しい時代でした……」


 映像を見つめながら、レヴィアタンの目が潤んだ。


 彼はそっと顔に手を当て、何度も瞬きをする。


 ハンニャは無言でハンカチを取り出し、すっと差し出した。


 レヴィアタンはそれを受け取り、目元を押さえた。


「争いが唯一止んだ瞬間は、“大脱走”の時でした」


 ナレーションが続く。


「人間側では“魔族侵攻”と呼ばれています」


 人類側の代表団の空気が、ぴんと張り詰めた。


「本能に導かれるように、魔族の人口は北へと流れ込みました。そして必然的に――非魔族の隣人たちと衝突することになります」


 誰も言葉を発しない。


 ただ画面を見つめていた。


「しかし――百三十年前」


 画面がふっと暗転した。


 そして。


「……大脱走は、起こりませんでした」


 ナレーションが静かに再開される。


「混乱の中で、魔王ルシファーは一人のオークと出会います」


 画面には、粗い絵が映し出された。


 魔王の前に立つオーク。


「その名は――ソロモン」


「ただのオーク……」


 語りが続く。


「しかし、彼は一つの考えを持っていました」


 間。


「それは、これまでどの魔族も想像したことのないもの」


 そして――


「平和で、統一された国家」


 部屋の中で一斉に息を呑む音が上がった。


 映像の中で、ルシファーの姿が変わる。


 咆哮する王ではない。


 話を聞く王だった。


「ルシファーはその理想を受け入れました」


 映像が高速で変わる。


「共通言語が作られ」


「部族間の争いは崩壊し」


「商業が発展し」


「科学と技術が広まり」


「都市が建設され」


「教育と福祉は国家の優先事項となりました」


 画面に数字が表示される。


「現在、識字率は――98.2%」


「なっ……!?」


 グレゴールが思わず声を上げた。


「そ、それは……つまり……」


「すべての魔族が?」


「ゴブリンやオークまで……読み書きができるのか!?」


「当然です」


 ハンニャが淡々と答えた。


「ムリカでは、学問的成果の追求はすべての市民に奨励されています」


 少し間を置いて。


「オークの人々も、ゴブリンの人々も含めて」


 その瞬間。


 ピエール公爵が勢いよく立ち上がった。


「が、学者だと!?」


 彼は叫んだ。


「お前たちのゴブリンが……うちの息子より頭がいいと言うのか!?」


 ハンニャはわずかに首を傾げた。


「申し訳ありませんが、あなたの息子についてのデータはありません」


 彼女は落ち着いた声で答える。


「ですがムリカでは、ゴブリンが医師、裁判官、その他の知的職業に就いている例は珍しくありません」


 ピエール公爵の顔色が真っ青になった。


 今にも気絶しそうだった。


「ピエール公爵、座りなさい」


 アントニオ大司教が鋭く言った。


「私は続きを聞きたい」


 ハンニャは再びリモコンを押した。


 映像が再開する。


 地獄のような風景が変わっていく。


 村が広がり、町になり。


 町が都市へと変わる。


 石の建物は鋼鉄へと変わり。


 木製の荷車はトラックへと置き換わる。


 道はどこまでも伸び。


 摩天楼が空を突き刺し。


 高速道路が大地を縦横に走る。


 飛行機が空を轟音とともに飛び交う。


 あまりの変化の速さに、眩暈がしそうだった。


「そして七十年前」


 ナレーターの声が続く。


「魔族王国は正式に民主国家へと移行しました」


「その名は――」


「ムリカ合衆魔族王国」


「新しい目的と、新しい国家の姿を得た民主魔族国家は」


「今、タルヴァリス世界との平和的共存を求めています」


 画面がゆっくりと暗転した。


 そして――


 ドーン!!


 突然、壮大なオーケストラ音楽がスピーカーから爆発した。


 どこか宇宙戦争を思わせる、あまりにも英雄的な旋律だった。


 人類代表団はほぼ椅子から飛び上がった。


 画面に文字がゆっくりと上へ流れていく。


 Written and Directed by Belphegor


「ぐっ……!」


 レヴィアタンが変な声を上げた。


 彼は慌ててリモコンに飛びつき、電源ボタンを叩きつける。


 音楽は途中でぶつりと止まった。


「今のは何だ!?」


 彼は小声で怒鳴った。


「これは外交用の映像だぞ!」


 ハンニャは静かに眼鏡を直した。


「ベルフェゴール卿が仰っていました」


 淡々と説明する。


「自分の作品が魔族以外の観客に上映されるのは初めてなので、見逃されるわけにはいかない、と」


「……あの怠惰め」


 レヴィアタンは低く呟いた。


照明が再び点いた。


 人類側の使節団は、まだ固まったままだった。


 まるで――何か別のものがまた爆発するのを待っているかのように。


「さて」


 レヴィアタンが姿勢を正し、完全に外交官の声に戻って言った。


「今の映像で説明した通り、我々はタルヴァリスのすべての民と、平和で友好的な関係を築きたいと考えています」


 彼は一瞬だけ言葉を切った。


「そしてもちろん――」


 軽く肩をすくめる。


「今回は、人を食べる関係抜きで、ですが」

こんにちは、Bimbananaです。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。


もし翻訳の質が悪かったり、読みにくい部分があれば、ぜひ教えてください。

できるだけ修正して、もっと楽しんでいただけるようにしたいと思います。


本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ