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Chapter 16: A Demon Called Satan (Part 3)

Murica “Bison” Tank Company


RATATATATATATATATATATA

BRRRRRRRRRRRRTTTT


 走りながらの戦闘は、広大な平原を引き裂くように続いていた。


 ヴァンドリア軍の騎兵――ケンタウロスと騎馬兵が入り混じった部隊が、濁流のように押し寄せてくる。彼らは、後方に煙を上げる残骸と死体の帯を残しながら、アブラムス戦車とヴァルカンを執拗に追い回していた。


 ミュリカ軍には、ひとつ大きな問題があった。


「車体弾倉、もう終わったのか!?」


 砲手が怒鳴った。

 声が裏返りながらも、同軸機銃で突撃してくるケンタウロスをなぎ倒し続けている。


「だから普段使わねぇんだよ!」

 装填手が怒鳴り返す。

「リロードにクソほど時間かかるんだよ!!」


「来い……来い……来い……来い……!」


 砲手は歯を食いしばりながら、引き金を離さない。

 騎馬兵たちはどんどん距離を詰めてくる。無数の蹄が地面を叩き、まるで地獄のドラムラインのように響いていた。


「……よし、終わった! 装填完了!」


 装填手がタレットハッチを叩き閉める。


「撃てるぞ!!」


BOOOOM


 砲弾が飛び、ケンタウロスの群れのど真ん中で炸裂した。


 血肉と手足が爆発の中で宙を舞う。

 いくつもの体が回転しながら空へ吹き飛んだ。


「ちなみに、それが最後の六発だ」


 装填手が、妙に落ち着いた声で言った。


「クソが!! まだ何千もいるぞ!!」


---


ヴァンドリア軍 右翼


「マーキュリアル・スラスト!」


 聖騎士のひとりが、神聖魔法をまとった槍を投げ放った。


 槍はスタンの腕のすぐ横をかすめ、空中に熱い血の線を刻む。


 スタンは咆哮を上げ、振り向きざまにGAU-8を野球バットのように振り回した。


THUMP


 聖騎士の体が空中でぐにゃりと折れ曲がる。

 骨が砕ける音とともに、地面へ叩きつけられ、ねじれたまま動かなくなった。


 それでも、さらに数十人が突進してくる。

 スタンが近接距離にいると分かり、むしろ勢いづいたのだ。


 その自信は、数秒しか持たなかった。


 スタンはそのまま突っ込んだ。


 一振りするたびに、兵士の体が吹き飛ぶ。

 何人かは空中でぐるぐる回転しながら飛び、

 何人かはその場で文字通り押し潰された。


BOOOM

BOOOM

BOOOM

BOOOM


 背後では、AC-130が絶え間なく砲撃を降らせていた。


 遠方の密集陣形を正確に叩きながらも、スタンの周囲だけは避けている。


 味方誤射は、広報的によろしくない。


 スタンの胸が膨らんだ。


 歯の奥で、何かが光る。


 口の中に、渦巻くエネルギーの球が凝縮され――


 そして、放たれた。


BOOOOM


 純粋な地獄の火のビームが、突進してくる部隊を貫く。


 爆発が連鎖し、炎の波となって兵士たちを飲み込んだ。


 ……だが。


 それでも、まだ何百もの兵が突進してくる。


 スタンはうめき声を上げ、もう一人の騎士を横殴りに吹き飛ばした。


「はぁ……マジでこのあとモニーに言うわ……」


 ため息混じりにぼやく。


「ガンシップ、もっと増やしてくれってな……」


---


ヴァンドリア軍 本陣


 デューク・ピエールは、部隊の大群の後方を馬で駆けていた。


 数千の兵が、ただ一点を目指して押し寄せている。


 グレート・デーモン・ゲート。


 すぐそこだ。


 あと数マイル。


 ついに――

 勝利が、手の届くところにあるように思えた。


「閣下!」


 上空から、鳥人の斥候が叫ぶ。


「門の前に敵兵を確認しました!」


「数は!?」


 ピエールが怒鳴る。


「数百ほどです!」


 ピエールの目が細くなる。


「ヘル・ドラゴンフライはいるか? デーモンエレファントは?」


「いません、閣下!

デーモンチャリオットと歩兵だけです!」


 その瞬間。


 デューク・ピエールの口元が、ゆっくりと歪んだ。


 ――賭けは、当たった。


「奴らの戦獣も弾薬も、もう限界だ!」


 デューク・ピエールは断言した。


「ここまで攻撃されれば、我々が退くとでも思っているのだろう!」


 彼は腕を高く掲げた。


「合図を送れ!!」


「突撃だああああ!!」


 角笛が鳴り響く。


VOOOOOOOOMMM


「うおおおおおおおおお!!」


 数千の声がひとつの咆哮となって重なった。


 七千の兵が一斉に走り出す。

 血への渇望と絶望が混ざり合い、ただひとつの最後の突撃へと変わっていく。


 グレート・デーモン・ゲートへ向かって。


 自殺行為とも言える、最後の突撃だった。


 そして――


SHIIIIING


 光が現れた。


 白い光。

 純粋な光。

 目を焼くほどの光。


 それが、隊列の中央上空の空間を引き裂くように出現した。


 空を見上げた兵もいた。


 だが多くの兵は、そもそも何が起きたのか理解する時間すらなかった。


 なぜ、突然空が裂けたのか――


KABOOOOOOOOOOM


 世界が、消えた。


 直径二キロメートルの爆発がすべてを飲み込んだ。


 一瞬。


 たった一秒もかからず、数千の命が消滅した。


 谷の地形が爆風を増幅する。


 風、砂塵、岩石、金属の破片――それらすべてが混ざり合い、時速三百キロを超える破壊のトンネルとなって戦場を駆け抜けた。


 爆心地の外にいた者たちも、決して助かりはしなかった。


 岩に叩きつけられ。


 仲間の武器や鎧から引き裂かれた破片に貫かれ。


 空中に投げ飛ばされ、落下の衝撃で骨を砕かれる。


 生き残った者たちも、数十フィートも吹き飛ばされた。


 首は折れ。

 手足はねじれ。

 体は不自然な角度で地面に叩きつけられる。


 デューク・ピエールもまた、乗っていた馬から激しく放り出された。


 地面に叩きつけられ、そのまま何度もバウンドする。


 だが――


 彼の周囲に、緑色の障壁が一瞬だけ閃いた。


 それが、飛び交う瓦礫の嵐から彼を守った。


---


ヴァンドリア軍 左翼


 爆発は、馬もケンタウロスも関係なく恐怖させた。


 左翼全体が、その場で完全に動きを止める。


 彼らの位置から見えたのは、人生で一度も見たことのない規模の火球だった。


 どんな大魔導師でも、あれほどの爆発魔法は放てない。


 戦場は沈黙した。


 ただ、遠くから響く破壊の残響だけが残っている。


---


ヴァンドリア軍 右翼


 兵士たちは、スタンへの突撃をやめていた。


 数秒の間、彼らはスタンの存在そのものを忘れていた。


「……あ、あんな力……神にしか使えない……」


 ひとりの兵士が震える声でつぶやく。


「で、でも……悪魔たちは……神を味方につけているのか……」


 別の兵が呟いた。


 兵士も、魔導士も、神官も――


 次々と膝をついた。


 武器が手から滑り落ちる。


 震える声で祈りがこぼれ始めた。


 スタンは、遠くで膨れ上がって消えていく火球を眺める。


「ひゅー……」


 口笛を吹いた。


「やっぱりさ」


 ぽつりと言う。


「カメラ越しより、実物のほうが迫力あるな。」


---


ヴァンドリア軍 本陣


「ごほっ……ごほっ……」


 デューク・ピエールは体を起こした。


 耳鳴りが止まらない。

 視界がぐらぐら揺れる。


 こめかみから血が流れていた。


 彼の首にかかっていた防護の護符――緑のペンダントが、弱々しく光を放つ。


 そして。


 真っ二つに、ひび割れた。


 ピエールは前を見た。


 彼の軍は――


 消えていた。


 七千の兵士が立っていた場所には、


 今はただ、


 巨大な煙を上げるクレーターだけが残っていた。


「な……何が……起きた……?」


 デューク・ピエールはかすれた声で言った。


「……俺の軍は……どこだ……?」


 彼の周囲では、わずか数十人の生存者がよろよろと立ち上がっていた。


 血まみれで、意識も朦朧としている。

 さっきまで何千の兵がいた場所――今は何もない空間を、ただ呆然と見つめていた。


 そのとき、ひとりの兵士が震える手で前を指さした。


「み……見ろ……」


「悪魔が……デーモンチャリオットが……来る……」


 低いエンジン音が響く。


 二両のM2ブラッドレーと、八台のハンヴィーが姿を現した。


 唸るエンジン。

 すでにこちらへ向けられている機銃。


 その光景を見た瞬間、


 デューク・ピエールの中で、何かが完全に折れた。


 もう自信は残っていない。


 あるのは――


 恐怖だけだった。


「撤退だ!!」


 彼は絶叫した。


「てったあああああい!!」


---


Murica “Bison” Tank Company


「サー! 敵が撤退してます!」


 アブラムスのドライバーが叫んだ。


 だが、ヴァンドリア軍の左翼は、ピエールの命令を聞かなくても理解していた。


 もう完全に終わっていると。


「全ユニット、停止」


 アブラムスが金属音を立てながら急停止する。


 一瞬だけ、戦場が奇妙なほど静まり返った。


 そして――


『……こちらバイソン・リーダー。全ユニットへ』


 通信機から、指揮官の声が流れる。


『前進。逃げる敵を追撃しろ』


 次の瞬間。


 戦車の列が一斉に動き出した。


 残っている弾薬をすべて使いながら、逃げる敵へ襲いかかる。


RATATATATATATATATATATA


 ケンタウロスも、人間も、馬も――


 六十二トンの鋼鉄の塊が進むたび、戦車の下で消えていった。


---


ヴァンドリア軍 本陣


 ピエールは谷を駆けていた。


 恐怖が喉を締めつける。


 呼吸は荒く、息がうまく吸えない。


 左右両翼は完全に崩壊していた。


 何千もの兵が、たった数十の敵から逃げている。


 もはや彼にとって、


 悪魔に殺される恐怖は、


 将来の出世よりも、はるかに大きくなっていた。


 判断は間違っていた。


 それも――


 致命的なほどに。


「デューク! こちらです!」


 聞き覚えのある声が響く。


 ピエールは振り向いた。


 そこにいたのは――


 大魔導士デュラックだった。


 生きていた。

 奇跡的に。


 だが、片腕はなくなっていた。


 焼かれて止血された切断面から、まだ煙が上がっている。


「だ……大魔導士!」


 ピエールは叫ぶ。


「生きていたのか! 我々はドーンへ撤退する! 立て直すんだ!」


「そうだ……」


 デュラックは荒い息を吐く。


「そこから首都へ連絡すれば……増援を――」


SPLAAATT


 デュラックの頭が、落としたスイカのように弾け飛んだ。


 理由は――


 見えない。


 何も。


 ピエールは絶叫した。


「ひ……ひぃぃぃぃ!!」


---


マルヴォラス山脈


 コヴァルスキーはゆっくり息を吐き、ライフルを下ろした。


「――以上」


 落ち着いた声で通信機に言う。


「これでハートのエースは俺のだ。諸君、五ポイントで逆転だ」


 隣にいたスポッターがニヤリと笑い、ラミネートされたターゲットリストから大魔導士デュラックの写真を引っかいて消した。


『クソッ!! 俺が取るはずだったのに!!』


 通信機の向こうから怒鳴り声が響く。


 スポッターは肩をすくめる。


「残念だったな、シエラ・エコー」


 にやにやしながら言った。


「その千ドルは俺たちのもんだ」


 コヴァルスキーは少し眉をひそめた。


「……そういえば」


「なんで急にスペードのエースがリストから消えたんだ?」


「さあな」


 スポッターは肩をすくめる。


「新しい友達へのプレゼントとか、なんとか」


 コヴァルスキーは再びライフルを構え、スコープを覗いた。


 デューク・ピエールはまだ走っている。


 つまずき、転び、必死に逃げている。


 完全なパニック状態だ。


 だが――


 コヴァルスキーは引き金を引かなかった。


 命令は命令だ。


---


ヴァンドリア軍 右翼


BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM


 AC-130が撤退する大軍を切り裂いていく。


 生き残った兵たちは、完全なパニック状態で逃げていた。


 互いを踏みつけながら走り、

 隊列のことなど誰も気にしていない。


 もちろん――


 スタンのことなど、もう誰も覚えていなかった。


 スタン自身も追撃する気はなかった。


 彼はゆっくりと元のデーモンフォークの姿へと縮み、そして――


 全裸になった。


 だが本人はまったく気にしていない。


 ちょうどその時、近くにチヌークが降下してくる。


 スタンは片手を上げ、のんびりと手を振った。


 ヘリが着陸すると、乗組員たちがすぐに駆け寄ってくる。


 一人は布を持ち、

 一人は葉巻を持ち、

 一人はウイスキーの瓶を持っていた。


「お疲れさまです、サー」


 スタンは瓶のキャップを歯で引きちぎり、そのまま豪快に飲み干す。


「ああああああぁぁぁぁ……」


 大きく息を吐いた。


「うまいな。最高だ」


 乗組員が葉巻に火をつける。


 スタンはそれをくわえながら肩をすくめた。


「まあ……今日も普通の出勤日ってやつだな」


「今回の戦い、録画しておけばよかったですね」


 クルーの一人がぼそっと言う。


「かなり強いメッセージになったはずです」


「いや、心配するな」


 スタンはニヤリと笑い、近くの丘へ視線を向けた。


「世界はちゃんと見てるさ。」


---


戦場近くの丘


 二人の人間のスパイが、戦場の混乱を観察していた。


 一人は望遠鏡を覗きながら、慎重に戦闘の結果を記録している。


 もう一人は素早くスケッチを描き、見える限りの車両や航空機を書き留めていた。


「……あの巨大な爆発について、どう報告する?」


 望遠鏡の男が言う。


「攻撃したものが、何も見えなかった」


「さあな」


 スケッチの男が答える。


「事前に仕掛けていたんじゃないか?」


「ゲートへ向かう道は、あそこしかない。爆発トラップを置くにはちょうどいい場所だ」


 望遠鏡の男は少し黙り込んだ。


「……戦闘は一日もかからず終わった」


「しかも三万の軍が、たった十数の敵に敗北した」


「ワイバーンや鳥人の戦士を数えてないのにだ」


 彼はゆっくり息を吐く。


「……上は信じると思うか?」


「信じさせるのが俺たちの仕事じゃない」


 もう一人の男は道具を片付けながら言った。


「見たものを報告する。それだけだ。」


 少し考えてから続ける。


「たぶん、他のスパイも同じことを考えてる」


「……あの夜、DMZ村から逃げ出せたスパイは、どれくらいいると思う?」


「かなり多いだろう」


 男は答えた。


「特に大国のスパイはな」


 二人は丘の影へと姿を消した。


 彼らの報告は、それぞれの国の司令部へと届けられる。


 Muricaは、スパイが至るところに潜んでいることを最初から理解していた。


 だが――


 モーは彼らを放置するよう命じていた。


 世界に見せてやればいい。


 Muricaの力を、ほんの少しだけ。


 全部ではない。


 ほんの一部だけ。


 そして何より――


 彼らの袖の中には、まだまだサプライズが残っていた。

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