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Chapter 15: A Demon Called Satan (Part 2)

スタンは、いまだ敵の魔法に拘束されたままだった。


「それはただの聖なる拘束魔法ではない――」


 声が高らかに宣言する。


「――魔界戦神よ」


 大司教アントニオが一歩前へ出た。その姿勢は完璧で、まるで戦場ではなく舞台に登場した役者のようだった。


「それはセレス教会魔導研究部が開発した、最新の拘束魔法である」


 彼は誇らしげに胸を張る。


「あなたのような強大な悪魔――すなわち魔界戦神のために特別に設計されたものだ」


 スタンはもう一度、拘束を試した。


 だが――


 びくともしない。


「へえ」


 彼は素直に認めた。


「人間もちゃんと研究してるんだな」


「当然だ」


 アントニオは胸をさらに張った。


「我らの文明は、すでに魔法発展の頂点に到達している。今では一般人ですら高度な魔法を扱えるのだ」


 そこで彼は少し眉をひそめる。


「だが……まさか悪魔が“技術”などというものに頼っているとは思わなかったが」


 その背後で――


 一人の司祭が突然、激しく痙攣した。


 次の瞬間。


 目、鼻、口、耳――ありとあらゆる穴から血が噴き出した。


 司祭はそのまま崩れ落ち、地面でぴくぴくと痙攣する。


 そしてもう一人の司祭が倒れた。


 さらにもう一人。


「えーと、ちょっといいか?」


 スタンが気楽な口調で言った。アントニオの肩越しに、後ろを顎で指す。


「後ろの“一般人”が死に始めてるぞ」


 アントニオは振り向かなかった。


「……進歩には犠牲が付きものだ」


 スタンはため息をついた。


 そして、今や役に立たなくなったオートキャノンを手放した。


 重い金属音を立てて地面に落ちる。


 彼は両手をだらりと上げた。


「まあ、今回は捕まったってことか」


 アントニオの笑みが、さらに大きく広がる。


「覚悟せよ――怒りの悪魔、サタンよ」


 だが彼が続きを言う前に、スタンは上げていた両手を交差させてバツ印を作った。


「その前にさ」


 スタンは落ち着いた声で言う。


「俺を倒した人間の名前、教えてくれよ」


「ハハハハハ!! よかろう!!」


 アントニオは誇らしげに叫んだ。


「そこまで気にかけてくれるとは光栄だ! 私は未来の教会指導者! サタンを祓う者! 大司教ア――」


 ドォォォン!!


 ドォォォン!!


 ドォォォン!!


 ドォォォン!!


 ドォォォン!!


 複数の爆発が、司祭たちの隊列を外科手術のような精密さで吹き飛ばした。


 詠唱は悲鳴へと変わる。


 スタンの足元に描かれていた魔法陣が激しく明滅し、その光は急速に弱まっていった。


「おや」


 スタンが淡々と言う。


「ずいぶん早かったな」


「な、何だと!? 誰が攻撃している!?」


 アントニオが叫んだ。


 スタンは首を少し傾け、空を指差す。


「ああ」


 にこやかに言った。


「俺の可愛い守護天使だ」


 ---


 ムリカ軍 AC-130スペクター

 コールサイン『エンジェル』


 戦場の上空二千メートル。


 AC-130ガンシップが、ゆっくりと円を描くように旋回していた。


 三門の砲はすべて下方へ固定され、地上の混乱を静かに追尾している。


 機内では、砲手たちが機械のような正確さで作業を続けていた。


「ガン装填完了!」


「40ミリ・ボフォース準備よし!」


 砲手はモニター越しに照準を調整する。


 十字の照準が、詠唱を続ける司祭たちの密集隊形にゆっくりと重なった。


「40ミリ発射」


---


ヴァンドリア軍 右翼


 ドォォォン

 ドォォォン

 ドォォォン

 ドォォォン


 爆発が、残っていた司祭たちの隊列を次々と引き裂いた。


 詠唱の途中だった魔法陣が砕け散る。

 身体が宙に舞い、聖なる光は一瞬で霧散した。


 スタンの足元に展開されていた拘束魔法陣が明滅する。


 そして――


 あっさりと消えた。


 アントニオは周囲を見回した。


 目を見開き、顔には信じられないという表情がはっきり浮かんでいる。


「さてと」


 スタンは肩を軽く回しながら、気楽に言った。


「これで終わりか。もう隠し玉は残ってないみたいだな」


 彼は地面に落ちていたオートキャノンの端をつかむ。


 それをそのまま棍棒のように持ち上げた。


「じゃあ」


 スタンは付け加える。


「ここからは昔ながらのやり方でいく」


「砲撃しろォォォ!!」


 アントニオ大司教が絶叫した。


 いくつかの砲が発射される――


 だが。


 発射動作の途中で、上空からの精密な爆撃によって粉々に吹き飛ばされた。


 スタンは腰を落とす。


 そして跳んだ。


 ドォォン!!


 まるで隕石のように四階建ての高さを飛び越え、砲兵隊の真上に落下する。


 金属と肉片が飛び散る中、砲兵たちは一瞬で押し潰された。


 スタンはGAU-8を鈍器のように振り回す。


 聖騎士たちがボウリングのピンのように宙を舞った。


 そして――


 彼は振り向く。


 アントニオは凍りついた。


 巨大な魔界戦神がゆっくりと近づいてくる。


 一歩一歩、わざとゆっくりと。


「や、やめろ……」


 大司教は震えながら後ずさる。


「私は未来の教皇だ……教会には私が必要なんだ……私は大司教アント――」


 バキッ


 スタンが噛みついた。


 まるで獲物を捕らえるティラノサウルスのように、顎が閉じる。


 アントニオの上半身は、一瞬で消えた。


「おや」


 スタンはもぐもぐと咀嚼しながら言った。


「なかなか神聖な味だな」


 ---


 ヴァンドリア軍 右翼


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!


 さらに多くの飛行戦士が空中で引き裂かれる。


 三千いた部隊は、すでに数百まで減っていた。


 翼は破れ、隊形は崩壊し、戦意も完全に失われている。


 ついに彼らは戦場から逃げ出した。


「おおおお、やっと終わった――はぁっ……」


 砲手が椅子に倒れ込みながら息をついた。


 数千の目標に向かって撃ち続けていたのだ。


 ようやく呼吸できる。


『バイソン・リーダーから各ノーブルへ』


 通信が流れる。


『援護感謝する。隊形を整えろ』


 車列全体が一斉に左へ旋回した。


 そのまま停止し、整然とした一列の隊形を形成する。


 もはや上空から嫌がらせをしてくる飛行戦士はいない。


 十二両のエイブラムス戦車と、四両のヴァルカンが、今や主目標の前に並んでいた。


 ヴァンドリア騎兵師団。


 二千のケンタウロス。

 三千の騎兵。


 全員が完全武装。


 本来なら、悪魔歩兵の陣を粉砕するために待機している部隊だ。


 だが――


 そこに悪魔歩兵はいなかった。


 代わりに。


 十六の巨大な影が、沈黙したままこちらを見つめていた。


 十六体の“悪魔の象”。


 長い鼻のものもあれば、短いものもある。


 だが共通しているのは――すべて金属でできているということだった。


「あれは速くて凶暴だ」


 一人の騎兵将校がつぶやく。


「我々なら、飛行戦士よりはマシな戦いができると思いますか、閣下?」


 指揮官はフルフェイスの兜を少しだけ動かした。


「……やるしかない」


 彼は答えた。


「ここで悪魔を止めなければ、奴らは次にソリス大陸へ侵攻する」


 一瞬の沈黙。


「――家族が住んでいる場所だ」


 指揮官は腕を高く掲げた。


「槍騎兵、前へ! 悪魔の象へ突撃する!」


 騎士団の騎兵が、一斉に突撃陣形へと移行する。


 だが突撃の前に――


 すべての騎士が頭を垂れた。


 そして小さく祈りをささやく。


 女神へ。


 一方その頃、ムリカ側では――


 戦車兵たちが水筒のキャップを開け、チョコレートバーを回していた。


 戦場は完全に静まり返った。


『よし』


 戦車長が通信で言う。


『休憩終了だ。準備しろ、野郎ども』


 両軍は無言のまま睨み合った。


 沈黙のにらみ合い。


 そして――


 最初に動いたのはヴァンドリア軍だった。


 ヴォォォォォォォォン!!


 角笛の咆哮が静寂を引き裂く。


「突撃ぃぃぃぃぃ!!」


 ケンタウロスと騎兵が一斉に走り出した。


 蹄が地面を叩き、数千の突撃が一つの濁流となって押し寄せる。


 戦吠が重なり、巨大な咆哮となって戦場を揺らした。


『バイソン・リーダーから全車両!』


 通信が鋭く響く。


『今すぐ後退!』


 十六体の鋼鉄の獣が、一斉に後退を始めた。


 砲口は前方を向いたまま、完璧な連携で滑るように下がる。


『自由射撃!』


 ウィィィン――


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!


 ドォォォン

 ドォォォン

 ドォォォン

 ドォォォン


 ラタタタタタタタタタタタタ!!


 戦車に搭載されたすべての砲と機関銃が、突撃してくる騎兵の塊へ一斉に火を噴いた。


 砲塔のスタビライザーが低く唸る。


 砲身は信じられないほど滑らかに目標を追尾した。


 これほど密集している。


 外す方が難しい。


「な、なんだと!? やつら……後ろに走れるのか!?」


 一人の騎士が悲鳴を上げた。


 一発の砲弾で、小隊が丸ごと消える。


 20ミリ・ヴァルカン砲が、肉も鎧も骨も区別なく食い破る。


 着弾のたびに血と土煙が噴き上がる。


 毎秒、数百人が引き裂かれ、粉砕されていく。


 後退速度は時速四十キロ。


 ヴァンドリア騎兵が接近できるまでには――


 とても長い距離が必要だった。


「女神よ……」


 騎兵指揮官がつぶやく。


「どうか……私の魂を地獄に落とさないでくれ……」


 彼の祈りに答えたのは――


 120ミリ砲弾だった。


 ドォォォォォン!!


 ---


 ヴァンドリア軍 本隊中央


 大悪魔門へと続く谷は、幅七キロにわたって広がっていた。


 両側には、棘のように尖った山々がそびえ立つ。


 まるで巨大な獣の牙のようなその光景は、門へ向かって進軍する何千ものヴァンドリア兵の背筋を冷やしていた。


「急げぇぇ!!」


 後方の安全な位置から、ピエール公爵が怒鳴る。


「もっと走れ! 悪魔が増える前に離れるんだ!」


「閣下」


 士官が報告する。


「サタンと悪魔の象は、まだ戦闘中です。我々を追ってきてはいません」


「よし!」


 ピエールは鋭く言い放った。


「このまま南へ進み、大悪魔門を確保する! サタンと悪魔の象が門を使えないようにすれば、その間に東へ略奪に向かい、艦隊と合流できる!」


 彼は分かっていた。


 これは罠だ。


 だが――


 この谷の方が、開けた平原より安全に感じられた。


 悪魔の飛行兵からの攻撃も少ない。


 悪魔の砲撃からの遮蔽もある。


 唯一の危険は――


 もし前方に、別の悪魔の象の部隊が待ち伏せしていた場合。


 だがピエールには、どうしても欲しいものがあった。


「頼む、女神よ……」


 彼は小さくつぶやく。


「悪魔の村でもいい……何でもいい……もし奴隷を数百人でも捕らえられれば、まだ私の名誉は取り戻せる……」


 祈りの言葉は、もはや簡単に口から出てくる。


 だがその思考は――


 貴族の義務よりも、略奪者の欲望に近づいていた。


「門が見えるぞ!!」


 前方から誰かが叫んだ。


「ラァァァァァァ!!」


 軍勢全体が咆哮する。


 先ほど味わった恐怖と屈辱が、胸の奥で燃えていた。


 復讐が欲しかった。


 どうしても必要だった。


 悪魔門が、目の前にそびえ立つ。


 彼らはそこへ向かって突撃した。


 ---


 三千メートル上空


 C-130ハーキュリーズ輸送機が、澄み渡った青空をまっすぐに切り裂いて飛んでいた。


 翼には太陽の光がきらめく。


 窓の外では、のんびりとした雲がゆっくり流れていた。


 地政学も、これから起きる戦争犯罪も――


 まるで関係ないかのように。


 操縦席の中では、パイロットと副操縦士がそれぞれ湯気の立つ紅茶を手にしていた。


 乗員が淹れたばかりの一杯だ。


「ありがと」


 パイロットは目を半分閉じながら香りを吸い込む。


「くそ……いい匂いだな」


「なあ」


 副操縦士は一口飲んでから、フロントガラスの向こうを眺めてため息をついた。


「空って、こんなに綺麗だったんだな……まだ信じられない」


「だろ?」


 パイロットが笑う。


「そりゃあ先祖が人間の領土に執着したわけだ。毎日あの永遠の雷雲ばっかり見せられてたら、私だって頭撃ち抜いてる」


「ほんとそれ」


 後ろの乗員が身を乗り出しながら言った。


 彼も紅茶のカップを持っている。


「あのクソ女神が、何世紀も俺たちを嵐の天井の下に閉じ込めたせいでさ。完全にメンタル崩壊案件だよ。今じゃカウンセラーに『外に出て空を見なさい』って言われても素直に従ってる」


「その前は」


 副操縦士が思い出すように言う。


「週末のストレス発散って言ったら、バーか娼館かの二択だったな」


『あるいは』


 インターコムから声が割り込んだ。


『金が吹き飛ばない趣味を見つけるって手もあるぞ』


 三人の悪魔が同時に貨物室の方を振り向く。


 そこでは、数人の乗員が巨大な金属板の上にかがみ込んでいた。


 絵筆が、慌ただしくも手慣れた動きで走っている。


 副操縦士が眉を上げた。


「……俺たち全員が、お前らみたいな“芸術家”じゃないんだよ」


「そっちは終わったか?」


 パイロットが声をかける。


「もうちょっと――もうちょっと――よし、完成!」


 副操縦士と乗員の一人がシートベルトを外し、貨物室へ向かった。


 金属板の上には、完成した作品が置かれている。


 ウインクしながら投げキッスをするセクシーな悪魔娘。


 その下には、漫画みたいな爆弾の上に腰かけている姿が描かれていた。


 さらに、その下には太字の文字。


 WELCOME TO MURICA


 乗員の一人が低く口笛を吹いた。


「おいおい……今回は気合入ってるな」


「プレゼント、気に入ってくれるかな?」


 絵を描いた悪魔の一人が首を傾げる。


「気に入るさ」


 副操縦士がにやりと笑った。


「命を懸ける価値があるプレゼントだ」


 操縦席から通信が入る。


『全員配置につけ。もうすぐ目標だ』


 絵を描いていた悪魔たちは一歩下がり、最後に自分たちの作品を眺めた。


 そして誇らしげに、それをGBU-43/B大型空中爆風爆弾へ固定する。


 通称――


 マザー・オブ・オール・ボムズ。


 副操縦士は操縦席へ戻る。


 他の乗員たちもそれぞれの席に固定された。


 その頭上では、空が相変わらず穏やかだった。


 不自然なほどに。


 そしてはるか下では――


 これから、とても不運な出来事が起きようとしていた。


『オーバーロード、こちらサッカー・ヴァン』


 戦闘システム士官が報告する。


『目標へ接近中』


『了解、サッカー・ヴァン』


 オーバーロードが答えた。


『そのまま続行。グリーンライトだ。繰り返す、グリーンライト』


 貨物室のハッチがゆっくりと開いていく。


 風が機内へと叫びながら吹き込んだ。


『視認確認』


 CSOが落ち着いた声で言う。


『五……四……三……二……一……投下』


「投下!」


 ガンナーたちが叫んだ。


『オーバーロード、マザー投下。サッカー・ヴァンは帰投する』


 遥か下で――


 死が、地面へ向かって口笛を吹きながら落ちていった。

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