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Chapter 13: Meet the Uglies (Part 2)

「アグリー中隊、聞け」

 リーダーは落ち着いた声で言った。

「チェーンガンで引き裂け。距離は保て」


 RATATATATATATATATATATATATATATA


 アパッチが一斉に発砲した。チェーンガンが唸りを上げ、機体は後退しながらも距離を維持し、迫りくる群れを噛み砕いていく。


 羽毛と血が空中に散った。

 アヴィアンたちは何十羽も撃ち落とされていく。


 だが――群れは止まらない。


 こいつらは空戦のために育てられた戦士だ。狂気じみた数でワイバーンすら押し潰すために訓練された、空の兵士。

 翼がさらに激しく羽ばたき、ヘリを包み込もうと前へ前へと押し寄せてくる。


 CLANK CLANK CLANK


 矢がアパッチの装甲に当たる。

 だが、ただ弾かれるだけだった。


「おい! 俺の塗装に傷つけんな!」

 パイロットの一人が叫んだ。


 二機のアパッチが危険なほど接近する。


「アグリー4! アグリー7!」

 リーダーが怒鳴った。

「下がれ! ローターに巻き込まれたら終わりだぞ!」


 二機は即座に機体を逸らした。


「アグリー5からアグリーリーダー! 弾薬が残り少ない! こいつら多すぎだ!」


「アグリー2、アグリー5を支援!」


「ネガティブ、アグリーリーダー」

 通信が返る。

「こっちも弾切れ寸前だ……」


 中隊長は自分のモニターをちらりと見た。


 表示は――赤。


 ほとんど包囲されかけていた。


 そのとき――


 突然。


 BRRRRRRRRRRRRTTT


 アグリー5の周囲にいたアヴィアンの群れが、空中で粉々に引き裂かれた。

 下から撃ち上げられた弾幕が、火の筋となって空を切り裂いたのだ。


「こちらバイソン1-1、アグリーリーダーへ」


 無線から、しゃがれた声が聞こえてきた。


「そっちは楽しんでるか?」


 下を見れば、戦場を横切るように進んでくる鋼鉄の群れが見えた。


 十二両のエイブラムス戦車。

 そして四両のM163 VADS。


 砲身を真っ赤に焼かせながら、まるで鋼鉄の神々のように前進してくる。


「へへ」

 アグリーリーダーは笑った。

「アグリーリーダーからバイソン1-1。お前ら遅いぞ」


「へへ」

 通信の向こうでも笑い声が返る。


「もう帰っていいぞ、アグリーリーダー。

 ここからは大人の仕事だ」


「はいはい。俺たちは帰投する」


 アパッチ中隊は旋回し、戦場から離脱していく。


 代わりに、新たに到着した“ムリカ”の装甲部隊が前へと突き進んだ。


 ―――


 ヴァンドリア軍 右翼


 一方その頃、右翼上空では――


 一機のチヌークがゆっくりと飛来していた。

 巨大なローターが重く、ゆっくりと空気を叩く。


 開いたランプの上に、一人の男が立っていた。


 スタン。


 歯の間には葉巻。

 コートは風にばたつき、燃え上がる谷を見下ろしている。


「よう、野郎ども」


 彼は声をかけた。

 誰にでもなく、そして全員に向けて。


「パパの帰宅だ」


 ―――


 FOBドアーズ 基地病院


 アイヴィーは、自分が今まで触れたことのないほど柔らかいベッドに横たわっていた。


 天井を見つめながら、まだ理解できずにいた。


 昨日の出来事が本当に現実だったのか、それとも悪い冗談だったのか。


 昨日まで、彼女はDMZで命からがら逃げ回っていた。

 それなのに今は、清潔で明るい部屋の中にいる。


 その横で――


 一人のゴブリン医師が、見慣れない医療器具で彼女の体を調べていた。


 金属。

 ガラス。

 プラスチック。


 見たこともない道具ばかりだった。


 ゴブリンは冷たい金属の円盤を彼女の胸に当て、それから小さな装置を持ち上げ、細い光を彼女の目に照らした。


 痛くはない。


 ただ、少し不快なだけだ。


「驚いたな」

 ゴブリンは横のモニターを見ながら言った。

「ショック状態にはまったくなってない。人間ってもっと簡単に壊れるって聞いてたんだが」


 アイヴィーは、隣に立つ女を見て気づいた。


 その顔を知っている。


 DMZを歩いているところを、何度も見たことがあった。


 魔族の役人の一人だ。


「で」

 ゴブリンは続けた。

「外務局はこの子をどうするつもりだ? ハンニャさん」


「んー。さあね」


 ハンニャは落ち着いた声で答えた。


「ベルフェゴール様は、もう彼女はいらないって言ってたし。

 レイヴンドーンにでも送り返そうかな」


 その言葉は、刃のようにアイヴィーの胸に突き刺さった。


 レイヴンドーン。


 その名前を聞いた瞬間、彼女の思考は崩れ落ちた。


 必死に埋めてきた記憶が、強引に掘り起こされていく。


 ――レイヴンドーン。


---


 彼女の母は、かつてドーンの街で名の知れた商人の、聡明な娘だった。


 その人生が終わったのは――ピエール公爵がやって来た時だった。


 「経済改革」という名の強制政策のもと、レイヴンドーンの商人たちは次々と地元商人に取って代わった。ヴァンドリアの商会が街を乗っ取り、資産は没収され、家族は破滅した。


 母の家族も、例外ではなかった。


 皆、殺された。


 母だけが生き残った。

 ただし、それは運が良かったからではない。


 彼女の家を潰したヴァンドリア商人が、個人奴隷として手元に置くことを決めたからだ。


 四年後――

 アイヴィーは、その男との間に生まれた。


 彼女は、自分の存在そのものを憎む家で育った。


 それでも母は、知っていることをすべて教えてくれた。


 文字の読み方。

 商売の仕方。


 そして、何より大事なこと。


 ――人の読み方。


 相手が聞きたい言葉を言う方法。


 それは、母娘が殴られずに済むための、唯一の方法だった日もある。


 アイヴィーが十五歳になった頃、ヴァンドリア商人は夜になると彼女を自分の部屋に呼び始めた。


 やがて――


 彼の息子たちも同じことをするようになった。


 血の繋がりがあると知っていても、関係なかった。


 ついに母は、娘を救おうとした。


 古い商人仲間に助けを求めたのだ。


 だが――その男は、彼女たちを裏切った。


 アイヴィーをDMZへ連れ出し、魔族に売り払おうとした。


 だが魔族は奴隷を買わなかった。


 そこで男は、彼女を娼婦にした。


 自分の「投資」を回収するために。


 昨夜。


 その男は死んだ。


 アイヴィーの刃が喉に突き刺さった状態で。


 ―――


「お、お嬢様……お願いです」


 アイヴィーはかすれた声で言った。


「私を……送り返さないでください。私を探している悪い人たちが……私は……その……」


「どうして私が、あなたの身の上話なんて聞きたいと思うの?」


 ハンニャの声が、冷たく鋭く割り込んだ。


 アイヴィーはびくりと肩を震わせた。


 人間なら、無力な少女を演じれば多少は態度が柔らぐ。


 だが魔族は違う。


 気にする理由がないのだ。


 アイヴィーは唾を飲み込んだ。


 そして――別の方法を選んだ。


「……あなたは、私を送り返せません」


 静かに言った。


「なぜなら――私が必要だからです」


「ほう?」


 ハンニャは眉を上げた。


「どうしてそう思うの?」


「あなたたちは、見本が必要なんです」


「詳しく聞こうか」


「魔族は今、評判を変えようとしている。だからDMZで人間を生かしている。でも、それだけじゃ足りない」


 アイヴィーは一度息を吸った。


「だから、おとぎ話が必要なんです」


「おとぎ話?」


「助けを待つ姫。

 そして――白馬の騎士」


 彼女は顎で天井を指した。


 そこには、丸いガラスのついた箱が取り付けられていた。


「あの丸いガラスの箱。村にもありました。襲撃の間ずっと、私に向けられていた」


 さらに続ける。


「ここに来た時も、あなたたちが“記者”って呼んでる魔族が、また同じ物を私に向けました」


 ハンニャの表情は変わらない。


「あれは記録するための物です」


 アイヴィーは言った。


「そして、昨夜私を助けたあの妙な“奇跡”と合わせて考えれば……結論は一つ」


 彼女はハンニャの目を真っ直ぐ見た。


「あなたたちは、私を唯一の生き残りにしたかった」


 ハンニャは、にやりと笑った。


「ベルフェゴール様は、人を見る目がある」


 彼女は言った。


「ええ。あなたの推測は当たっている。でも、私たちはもう必要な映像を手に入れた。姫は救われ、騎士は英雄だ」


 ハンニャは背を向けた。


「だから、姫は家に帰る時間よ」


 そのまま、出口へと歩き出す。


「……でも、もし姫が話したら?」


 アイヴィーが言った。


 ハンニャの足が止まった。


 ゆっくりと肩越しに振り返る。


「それは脅し?」


 声が冷たく変わった。


「あなたたちに対してじゃありません」


 アイヴィーは柔らかく言った。


「あなたたちのためです」


 少しだけ微笑む。


「悪役が『自分は悪役じゃない』って言えば、みんな嘘だと思う。でも――その言葉を姫が言ったら?」


「人間が」


 ハンニャは言った。


「魔族の代弁をするって?」


「それに」


 アイヴィーの瞳に自信が戻る。


「姫が、言葉で人を動かすのが得意なのは……あなたももう知ってるはずです」


 ハンニャはしばらく黙って彼女を見つめていた。


「……面白い提案ね」


 やがてそう言った。


「考えておくわ」


 そして部屋を出ていった。


 ―――


 ヴァンドリア軍・重魔法師団


 戦闘は続いていた。


 アパッチの攻撃を受けても、なお数十基の魔導バリスタが生き残っていた。

 ヘリコプターが後退すると、残ったバリスタは照準を切り替える。


 空は捨てた。


 新たな標的――

 ムリカ軍の地上部隊だ。


「アヴィアン戦士! あの地獄のトンボを追うな!」


 大魔導師デュラクが叫んだ。


「魔族の象を包囲しろ! 魔導バリスタは――あの象を狙え!」


 魔術師たちが慌ただしく配置についた。

 矢に爆裂付与を次々と刻み込んでいく。


 バリスタ隊は仰角と距離を調整する。


 照準が、前進してくるM1エイブラムスに揃えられた。


「射程内にいるうちに撃て!」


 デュラクが怒鳴る。


「――今だ!」


 ヒュイイイイイイイイ――


 ドォォン!

 ドォォン!

 ドォォン!

 ドォォン!


 爆発が前進する戦車群の周囲で連続して炸裂した。


 炎と瓦礫が陣形を飲み込む。


 ―――


 ムリカ軍・M1エイブラムス「バイソン」中隊


 先頭車両の内部は、激しく揺れていた。


 ダッシュボードの上では、鳥の頭蓋骨のボブルヘッド人形が狂ったように揺れている。


「今日は最高だなァァ!! なんて素晴らしい日だ!!」


 運転手モルソフが嬉しそうに叫んだ。


「無駄口を叩くな、モルソフ」


 戦車長が短く言った。


 通信を開く。


「こちらバイソン1-1。全バイソン中隊へ」


 落ち着いた声だった。


「本物の火力ってやつを見せてやろう」


 その瞬間。


 戦場のあちこちで、バイソン中隊の全戦車が――


 前進を止めることなく。


 速度も落とさず。


 砲塔を左へ七十五度、一斉に回転させた。


 砲口は、爆撃の中を突っ切りながら――

 そのまま敵陣へ向けられる。


 ―――


 ヴァンドリア軍・重魔法師団


「……頭を……回した……」


 砲兵魔術師の一人が、呆然と呟いた。


 すべてのムリカ戦車の砲塔が、今や彼らへ向いていた。


 ドォォン!

 ドォォン!

 ドォォン!

 ドォォン!

 ドォォン!


 戦車が完全な同時射撃を行った。


 砲弾は戦場を一直線に切り裂く。


 容赦のない直線だった。


 魔導バリスタは玩具のように粉砕される。

 砲手たちは炎と破片の爆発に飲み込まれて消えた。


「反撃しろ! 反撃しろォォ!!」


 デュラクが叫ぶ。


 新たな魔力矢が空へ放たれた。


 ヒュイイイ――


 ドォン!

 ドォォン!

 ドォン!


 衝撃が地面を揺らす。


 だが――


 戦車は止まらない。


「なぜ倒れないんだ!?」


 魔術師が叫んだ。


 さらに矢が装甲へ命中する。


 もう一発。

 さらにもう一発。


 無意味だった。


 側面装甲二百五十ミリ。


 すべてを受け止め、まったく速度を落とさない。


 デュラクの胸に、冷たい理解が沈み込んだ。


 矢が何本撃たれても――


 跳ね返る。


 斉射。


 また斉射。


 死んでいるのは――


 片方だけだった。


 彼らは。


 火力で負けている。


 射程で負けている。


 そして――


 格が違った。


「クソがァァァ!!」


 デュラクが怒りと恐怖で顔を歪めて叫んだ。


 ―――


「敵砲兵、残り八」


 戦車長が落ち着いた声で言った。


「バイソン中隊。第一目標を完了させる」


 彼は砲手の方へ身を乗り出し、ディスプレイを指差した。


「バリスタの近くにいる、とんがり帽子の怒った人間が見えるか。九時方向」


「確認」


 砲手が答える。


「撃て」


「了解!」


 ドォォン。


 爆発が、大魔導師デュラクのいた場所を完全に飲み込んだ。


「直撃」


 砲手が報告する。


「全戦車へ。第一目標達成」


 戦車長が通信で告げた。


「第二目標へ向け西進。左翼を殲滅する」


---


 ヴァンドリア軍・右翼


 スタンは上空から戦場を見下ろしていた。


 ムリカ軍の戦車隊が西へ突き進み、その後ろをアヴィアン戦士たちが群がるように追撃している。


「ほほう」


 彼はくすりと笑った。


「どうやら、うちの坊やたちは最初の目標を片付けたようだな」


 その瞬間。


 ヒュッ――


 一本の矢が真っ直ぐ彼の頭へ飛んできた。


 スタンは振り向きもしない。


 片手を伸ばし――


 パシッ。


 矢を空中で掴んだ。


「ほう?」


「サー!! 三回目です!! お願いですからチヌークの外に立たないでください!!」


 操縦士が悲鳴のように叫んだ。


 ヘリの機体には、すでに何本もの矢が突き刺さっている。


「分かった分かった」


 スタンは適当に手を振った。


「最近の若いのはうるさいな。貨物を投下しろ」


 カチッ。


 ボタンが押された。


 輸送機の腹部から巨大な木箱が切り離される。


 箱はそのまま自由落下した。


 しばらくして――


 バサッ!


 パラシュートが開く。


 速度が落ち、箱はゆっくりと戦場へ向かって漂い始めた。


「よし、じゃあ私は行くか」


 スタンは気軽に言った。


「迎えに来るとき、ウイスキーを忘れるなよ」


 そして――


 ランプから一歩踏み出した。


 落ちた。


「ウォー・ダディ、戦場に降下」


 操縦士が報告する。


 チヌークはすでに旋回して離脱を始めていた。


「繰り返す。ウォー・ダディ、戦場に降下」


 ―――


 落下しながら、スタンの身体がねじれた。


 皮膚の下で、黒い血管が膨れ上がる。


 亀裂が走った。


 溶けた蜘蛛の巣のようなひびが肉体に広がり、その隙間から悪魔の光が漏れ出す。


 ドォン。


 彼は地面に激突した。


 巨大な土煙が柱のように噴き上がる。


 衝撃で、地面には深いクレーターが刻まれた。


 兵士たちは恐怖の目でそれを見ていた。


 砂煙の中から――


 巨大な影が立ち上がる。


 中で、何か巨大なものが動いた。


 最初に現れたのは、雄牛のような脚。


 次に、馬車よりも横幅のある人型の胴体。


 最後に――


 山羊のような頭。


 その頭には、巨大な二本の角がそびえていた。


 血のように赤い皮膚。


 岩のような筋肉。


 高さは二階建ての家ほど。


「グオオオオオオオオオオオッ!!」


 咆哮が戦場を震わせた。


 隊列が崩れる。


 兵士たちの間に恐怖のざわめきが広がった。


「み、見たことある……あれ……絵本で……」


「さ、サタン……!」


「本物だ……戦の魔神……」


「女神様……助けて……」



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