Chapter 12: Meet the Uglies
FOBドアーズ 指揮センター
指揮センターの中では、将校たちがメインモニターの前にぎっしりと集まっていた。偵察機から送られてくる映像が徐々に鮮明になり、高空から見下ろした戦場が映し出される。
そこにあったのは、軍隊というより――
蟻の群れがうごめく、抽象画のような光景だった。
ハンツ将軍は腕を組み、モニターの光を疲れた目に反射させながらそれを眺めている。
「ふむ……」
彼は小さくつぶやいた。
「これが六十年前にあればな。ずいぶん手間が省けただろうに」
「閣下」
ヘッドセットを耳に強く押し当てながら、通信士官が報告した。
「エルフィスが建物を出ました」
ハンツは画面から目を離さない。
「よろしい」
落ち着いた声で言った。
「花火を上げろ」
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ヴァンドリア軍 前衛ライン
砂塵が戦場を横切るように流れていく。
その向こうで、レイヴンドーン軍が撤退していくのが見えた。旗がどんどん小さくなり、遠ざかっていく。
「お、おい! 見ろよ!」
一人の傭兵が叫び、必死に指を差した。
「レイヴンドーンの連中、逃げてるぞ!」
「チッ、臆病者め!」
別の傭兵が唾を吐き捨てる。
「俺たちのワイバーンが爆発したの見てビビったんだろ!」
「……いや、まあ」
三人目の傭兵が少し戸惑いながら言った。
「正直、今日いろいろ変すぎないか?」
「俺たちは悪魔と戦ってんだぞ」
二人目の傭兵が苛立って言い返す。
「変なのは当たり前だろ。だから俺たちは金を――」
SHRIIILL—
BOOOM
爆発が、傭兵たちを言葉の途中で消し飛ばした。
肉体も鎧もまとめて引き裂かれ、跡形もなく吹き飛ぶ。
まだ砂煙が落ち着く前に、鋭い音が再び空を裂いた。
SHRIIILL—
BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM
連続する五つの爆発が平原を横切る。
地面が裂け、巨大な口のように開いて、何十人もの傭兵を一瞬で飲み込んだ。
「悪魔の攻撃だぁぁぁ!!」
傭兵隊長が叫んだ。声が完全に裏返っている。
「生きたければ走れ! 動き続けろ――動けぇぇぇ!!」
兵士たちは走った。
隊列などない。
陣形などない。
ただの――パニックだった。
兵士たちのブーツが地面を叩き、男たちが叫び、祈り、互いを突き飛ばしながら逃げ回る。
息を切らしながら、女神への祈りが口からこぼれ続ける。
BOOM BOOM BOOM BOOM BOOM
だが戦場は――
そのどれにも答えなかった。
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ヴァンドリア軍 本隊中央
前衛が重なり合う火球の中で消し飛ぶのを見て、ピエール公爵の顔は真っ青になった。
ほんの数秒で、前線が消えた。
「な……」
彼の声は情けないほど細くなっていた。
「……あの爆発は……何だ?」
上空で旋回していた鳥人の偵察兵が、翼をきしませながら空を見上げる。
「な、何かが空から落ちてきています、閣下」
「砲弾のような……ですが……速すぎます」
ピエールの顎が固くなる。
「ならば、それを撃っている大砲があるはずだ。探せ」
鳥人はうなずき、さらに高度を上げた。
翼を強く打ちながら、地平線を見渡す。
左。
右。
前方。
――何もない。
だが視線が戦場のさらに奥へ流れ、山の稜線を越えた瞬間。
彼は凍りついた。
恐怖が、一気に全身を貫いた。
「か、閣下!!」
彼は叫んだ。
「砲撃は……山の向こうからです!」
ピエールは勢いよく顔を上げる。
「山だと? あんな高所に大砲を?」
「違います、閣下!」
鳥人は叫んだ。
「山の“向こう”から撃たれているんです! 山を越えて飛んできて……そのまま前衛に落ちています!」
そして、震える声で付け加えた。
「そ、それに……外れ弾がありません。
す、すべて……前衛に直撃しています」
ピエールはその場に立ち尽くしたまま、ゆっくりと現実を受け止めていた。
重い理解が、まるで肩の上にのしかかるようだった。
「……中央と両翼に伝令を出せ」
やがて彼は言った。
「前進を停止。全軍、クレーターの後ろに下がって待機」
旗が一斉に掲げられ、角笛が鳴り響く。
命令は波のように隊列の奥へと伝わっていった。
「前衛はどうしますか、閣下?」
別の将校が静かに尋ねる。
ピエールは戦場から目を離さなかった。
「そのままにしておけ」
冷静な声で答える。
「奴らに悪魔を引き出させろ。我々は、敵の地上軍すら見ていない段階で、すでに損害を出しすぎている」
彼はゆっくりと息を吐いた。
「鳥人の偵察を増やせ。次に何が起きるかを見張れ」
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ヴァンドリア軍 前衛ライン
BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM
クラスター弾が降り注いだ。
まるで鋼鉄の雨。誰も祈っていない神が、なぜか祈りに応えたかのように。
七千人いた前衛部隊は、数分で半分以下に削り取られた。
兵士たちは震える手でスタミナポーションを探る。
別の者たちは速度強化スキルを発動した。
それは魔力というより――純粋な恐怖で動いていた。
彼らは走った。
十分間。
肺が焼け、脚が悲鳴を上げ、頭の中は完全に空っぽのまま。
そして――
静寂。
爆発は、止んだ。
信じられないほど、恐ろしい沈黙だった。
荒い呼吸だけがそこに残る。
やがて彼らは、恐る恐る振り返った。
そして――それを見た。
死体の道。
数千もの死体。
大地にはクレーターが重なり合い、まるで竜の鱗のように戦場を覆っていた。
ついさっきまで、彼らは七千人いた。
今――
立っているのは二千人にも満たない。
「……こんなの」
三つの戦役を生き延びた老兵がつぶやいた。
だがその顔は、怯えた子供のようだった。
「……狂ってる」
戦場は答えなかった。
その代わり、空から新しい音が転がってきた。
兵士たちは顔を上げる。
あの空飛ぶ悪魔たちが戻ってきた。
さきほどワイバーンを虐殺した連中だ。
今度は――
低く。
ゆっくり。
まるで散歩でもしているかのように。
「弓兵! 長距離魔術師!」
隊長が叫んだ。
疲労と絶望で声が裂けている。
「撃てぇぇ! 今すぐだ!!」
矢が空を埋めた。
魔法も続く。
だが――
意味はなかった。
四機のF-16はあまりにも速く頭上を駆け抜け、誰も照準を合わせることすらできないまま空を切り裂いていった。
別の兵士たちは膝をつき、女神に祈りを捧げ始める。
その時だった。
彼らは、航空機から何かが落ちてくるのを見た。
滑らかなカプセル。
煙もない。
炎もない。
尾も引かない。
さっきとは違う。
ただ――落ちてくる。
そして――
BOOOOOOOOOMMM
ナパーム弾の缶が、まるで落ちる太陽のように戦場へ叩きつけられた。
落ちた場所では、世界そのものが溶けた。
炎の柱が噴き上がり、残っていた前衛兵を丸ごと飲み込む。
爆発は、さっきより鋭くもない。
大きくもない。
ただ――
終わりだった。
「ぎゃああああ!! ああああああ!!」
初撃を生き延びた不運な者たちは、液体の炎を浴びていた。
それは皮膚に張り付き、鎧に張り付き、骨にまで絡みつく。
消す方法はない。
水もない。
魔法もない。
希望もない。
あるのは――燃えることだけ。
悲鳴が谷に響き渡った。
一人。
また一人。
やがて声は消えていく。
最後には――
誰もいなくなった。
黒焦げの死体から、橙色の炎が糸のように垂れていた。
前衛兵は――
一人も残っていなかった。
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FOBドアーズ 指揮センター
「うおおおお……!」
「な、なんてこった……」
指揮センターの中で、将校たちが一斉に息を吐いた。
完全に呆然としている。
ナパームが実際の敵に対して使われるのを、リアルタイムで見るのは――これが初めてだった。
ハンツ将軍だけは黙ったままだった。
背中で手を組み、画面から目を離さない。
「……閣下?」
一人の中尉が、おそるおそる声をかける。
「もしかして……私と同じことを考えていませんか?」
ハンツはゆっくりとうなずいた。
「……ああ」
彼は静かに言った。
「バーベキューパーティーを開くには、ちょうどいい口実だな。孫娘を遊びに呼べる」
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戦場から4キロ地点
ルクシウス王子と将校たちは、岩だらけの丘の上から炎の地獄を見下ろしていた。
かつて前衛だった場所は、今や炎と煙に溶け込んでいる。
大地そのものが断罪されたかのように燃え続けていた。
「……あれ」
一人の将校が、乾いた喉でつぶやく。
「……あれ、俺たちだったかもしれない」
ルクシウスは答えなかった。
ただ静かに馬の向きを変える。
手綱を落ち着いて握ったまま。
「行こう」
彼は言った。
「もう十分見た」
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ヴァンドリア軍 本隊中央
「終わりました……」
鳥人の偵察兵が報告する。声は震えていた。
「前衛部隊は……悪魔の地獄の炎で……全滅です……」
「くっ……!」
ピエール公爵は歯を食いしばり、拳を握りしめた。
爪が手のひらに食い込む。
まだ軍の半分は残っている。
だが撤退すれば政治的破滅だ。
莫大な資金を無駄にし、後援者は激怒し、処罰が待っている。
しかし前進すれば――
死だ。
確実で、即座の死。
決断する前に、偵察兵たちが再び急降下してきた。
地面に着地すると同時に叫ぶ。
「悪魔軍が来ます!!
地獄のトンボと悪魔の象が接近中です!!」
ピエールの目が見開かれた。
理解が一気に追いつく。
「自軍が近くにいる状況で、あの砲撃や地獄の炎は使えまい」
彼は鋭く命じた。
「大魔導士デュラックと鳥人戦士に合図を送れ!
交戦準備!」
通信士官たちが一斉に動く。
旗が上がり、角笛が鳴り響き、命令が戦列の奥へと伝わっていった。
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ヴァンドリア軍 重魔法師団
その直後。
数百のバリスタ隊と二千人の魔術師が、急いで陣形を組んだ。
密集した一列となり、敵を迎え撃つ構えを取る。
大魔導士デュラックは望遠鏡を構え、遠方から近づく影を見つめた。
「やっとか……」
彼は小さく息を吐いた。
「ようやく、目で見える敵だ」
望遠鏡を少し下げる。
「奴らの魔法は恐ろしい」
彼は認めた。
「だが、数はこちらが上だ」
いわゆる“地獄のトンボ”は、ただの虫ではなかった。
それは――
八機のアパッチ攻撃ヘリだった。
精密な隊形で滑り込むように接近してくる。
ゆっくりと降下しながら。
落ち着いて。
逃げ場がないことを知っている処刑人のように。
「来るぞ! 距離五キロ!」
偵察兵が叫んだ。
アパッチのコックピット内で、悪魔のパイロットたちが無言でスイッチを切り替える。
『こちらアグリー・リーダー。全アグリー部隊へ』
無線が落ち着いた声で響く。
『撃て』
FWOOOOOOSH
三百発のロケット弾が、一斉に前方へ噴き出した。
それは美しく――そして恐ろしい波だった。
「魔術師! 防壁を張れ!!」
デュラックが怒鳴る。
緑色の障壁が次々と立ち上がった。
だが――
薄すぎた。
そして――遅すぎた。
BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOOM
ロケット弾が中央戦線を一気に引き裂いた。
大地が痙攣する。
障壁は大槌で叩かれたガラスのように砕け散った。
魔術師たちは悲鳴の途中で消えた。
バリスタは爆発し、木片となって空を舞う。
生き残った者たちは、空気の中に金属の味を感じた。
耳は鳴り続け、視界はぐらぐらと揺れる。
だが――
戦場は止まらなかった。
ゆっくりと兵士たちの聴覚が戻ってきた。
そして――ちょうどその瞬間。
二度目の一斉攻撃が降り注いだ。
BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM BOOOOM
「つ、強すぎる! もう防げ――」
その魔術師は、結界が崩壊した瞬間に消えた。
言葉は音節の途中で途切れる。
「…………」
そして戦場は、不気味なほど静かになった。
先頭のアパッチの中で、編隊長は落ち着いた様子で攻撃結果を確認していた。
数秒後、次の命令を出す。
『アグリー・リーダーより、全アグリー部隊へ』
通信機から声が流れる。
『これより接近する。武器使用自由』
全てのアパッチが前進した。
距離を詰めながら。
再びロケット弾が発射される。
続いて、M230チェーンガンの持続射撃。
ヘリは約1キロの距離を保ったまま攻撃を続ける。
目的は単純だった。
可能な限り多くの損害を与えること。
「トンボどもが射程内に入ったぞ!」
大魔導士デュラックが怒鳴る。
「魔法バリスタ! 信管を七秒に設定!」
生き残ったバリスタ隊が即座に動き出した。
装置を上へ向けて回転させる。
同時に砲術魔術師たちが走り寄り、
水晶の矢尻に時間爆発の魔法を付与する。
「撃て!!」
WHIIZZZ
数十本の魔法矢が空へと突き刺さるように飛んだ。
弧を描きながら、アパッチへ向かう。
「隊形を崩せ!」
アグリー・リーダーが叫ぶ。
「回避! 回避!」
アパッチは一斉に散開した。
空中で分かれ、滑らかに織り交ざりながら回避する。
訓練された精密な機動だった。
ヴァンドリア軍の攻撃は――
遅すぎた。
広すぎた。
そして――外れた。
「なんてこった!」
一人のパイロットが叫ぶ。
「対空砲持ってやがる!」
『アグリー・リーダーより全アグリー部隊へ』
通信は落ち着いた声のままだった。
『敵は対空能力を保有。各員注意』
一拍。
『なお、ヘリに傷をつけた場合、修理費は給料から天引きする』
これは実際の規則だった。
悪魔たちは高価なオモチャを渡されると、よく暴走するからだ。
「全部外れた!」
砲兵が叫ぶ。
「信管を五秒に変更!」
デュラックが怒鳴る。
「撃て!!」
WHIIIZZZ
BOOOM BOOOM BOOOM BOOOM
再び空中で爆発が起きる。
しかし――
アパッチは止まらない。
爆発はすべて、彼らの後方で虚しく花開いた。
「くそ……」
デュラックが杖を握り締める。
「あれは……まるでハエだ」
その瞬間。
一機のアパッチが“お返し”を決めた。
ロケット弾が、デュラックの位置へ一直線に飛ぶ。
BOOOM
デュラックは生き残った。
ぎりぎりで。
彼自身の黄金の防壁が、爆発を受け止めたのだ。
「おおおお!!」
周囲の魔術師たちが歓声を上げる。
指揮官がまだ立っているのを見て。
「祝っている暇はない!!」
デュラックが怒鳴る。
「鳥人戦士を出せ!!」
命令が伝達された瞬間――
空が暗くなった。
三千の鳥人戦士が一斉に飛び上がったのだ。
生きた雲のように空を覆う。
全員が人型。
茶色の羽の翼が一斉に羽ばたく。
弓と剣を持ち。
そして――
獲物を見つけて笑っていた。
「うわぁぁぁ……」
一人のアパッチパイロットがつぶやく。
「あれ……ばあちゃんの農場に出るバッタの大群みたいだ……」
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