Chapter 11: Eagle and the Gecko (Part 2)
F-16のコックピットの中で、悪魔のパイロットたちは計器を落ち着いて確認していた。
「ピクシー・スリーよりピクシー・リーダー。こちらの二時方向に複数のボギーが離陸を確認。交戦許可を求む。指示をお願いします」
一人のパイロットが淡々と報告する。
「ネガティブ、ピクシー・スリー」
すぐに返答が返ってきた。
「編隊を維持しろ。主目標を優先する」
「了解」
各パイロットはターゲティングを調整し、それぞれ別のワイバーンキャンプをロックした。
武装はシンプルだ。
各機にハイドラ70mm無誘導ロケットポッドを二基搭載。
つまり――ワイバーンキャンプ一つにつき、ポッド一基。
十分すぎる火力だった。
「リップル、リップル、リップル」
パイロットたちは、まるで日常会話のような口調で発射コールを口にする。
次の瞬間。
ロケット弾がポッドから切り離された。
白煙が空に尾を引きながら、一斉に目標へと走る。
「な、何か撃ってきたぞ!!」
ワイバーン部隊の隊長が叫んだ。
空を横切る白い軌跡を見て、顔を青ざめさせる。
そして――
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
複数のキャンプが、ほぼ同時に爆発した。
炎。
破片。
引き裂かれた翼。
ワイバーンたちの悲鳴が、痛みと混乱の中で空を満たす。
「くそっ、あの化け物ども!」
ある隊長が震える手で弓を構えた。
そして弓兵スキルを発動するため、詠唱を始める。
「おお女神よ、我に加護を――」
FWOOOOSH
その頃にはもう、F-16は遥か彼方へ飛び去っていた。
「……速すぎる……」
隊長は呟き、ゆっくりと矢を下ろした。
再び、空が轟く。
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
別の編隊が頭上をかすめていく。
さらに爆発が起こり、残っていたキャンプを吹き飛ばした。
今度は、隊長は弓すら構えなかった。
もう分かっていたからだ。
無駄だと。
わずか五分足らずの間に――
十二機のF-16が、ワイバーン基地へ合計百六十八発の無誘導ロケットを叩き込んだ。
煙がようやく晴れた頃には。
ワイバーンの四分の三が、すでに死んでいた。
―――
DMZ
ヴァンドリア=レイヴンドーン連合本軍
一時間後。
ピエール公爵は、途切れることなく報告を受け続けていた。
士官。
精鋭兵。
高ランク冒険者。
頭が突然爆発する。
手足が消し飛ぶ。
全身が何の前触れもなく崩れ落ちる。
誰もが理解していた。
これは悪魔の攻撃だ。
だが――
どうやっているのか、まったく分からなかった。
現在の有力な説は呪いだった。
戦場全体に仕掛けられた、高度な呪いの罠。
そう考えるのが一番理にかなっていた。
神官たちは大規模な浄化を行った。
魔術師たちは周囲一帯に解呪の儀式を展開した。
専門家たちは地面を一寸一寸調べ上げた。
だが――
何もない。
呪いは存在しない。
罠もない。
魔力の残滓すら検出されなかった。
ピエール公爵は、指揮用テントから一歩も出ようとしなかった。
本人はそれを「戦略的慎重さ」と説明している。
だが。
周囲の人間は、皆同じことを理解していた。
――ただの恐怖だ。
そのとき。
地面が震えた。
低く、腹の底に響くような唸り声がキャンプを揺らす。
苦しげで、そして――
間違いなく竜の声だった。
ピエールはびくりと肩を震わせた。
「な、なんだ今の騒ぎは?」
彼は慌てて外へ出た。
ちょうどその時だった。
一匹のワイバーンが、不格好に降下してくるのが見えた。
翼の動きは明らかに不安定で、必死に着陸しようとしている。
地面に降り立った瞬間。
その騎手はほとんど落ちるようにワイバーンから飛び降り、体勢を立て直すと、そのまま公爵のもとへ全力で駆け寄った。
「閣下!」
男は叫んだ。
「ワイバーン軍団第三部隊、ジャック大尉! 緊急報告です!」
ピエール公爵は背筋を伸ばした。
「報告しろ」
「ワイバーン基地が攻撃を受けました――おそらく悪魔軍によるものです。通信クリスタルが破壊されたため、私が直接報告に参りました。多くのワイバーンが、離陸する前に撃ち落とされました」
「な、何だと!?」ピエールは声を裏返らせた。「どうやって攻撃された!? 悪魔軍もワイバーン部隊を持っているのか!?」
ジャックは激しく首を振った。
「いえ、閣下。攻撃は空からでしたが……ワイバーンではありません。翼が羽ばたいていなかったのです。それに、私が今まで見たどんな飛行生物よりも速かった」
ピエールの顔から血の気が引いた。
「そんな馬鹿な! 敵部隊はゲートを通過していない! それに、あの山脈を越えることなど不可能だ! 標高七千メートルだぞ! ワイバーンですらそんな高度には到達できない! まさか……我々の背後に秘密基地でもあると言うのか!?」
言葉を重ねるごとに、彼の声はどんどん高くなっていく。
「わ、私にも分かりません、閣下……」
ピエールは拳を握りしめた。
「生き残ったワイバーンは何騎だ? それと、貴様の指揮官はどこだ?」
「指揮官は戦死しました」
ジャックは硬い声で答えた。
「現在、ワイバーンは八十三騎が生存しています。私の機体も含めてです。彼らは今こちらへ向かっています。私は閣下の命令を仰ぐため、先行して参りました」
公爵はごくりと唾を飲み込んだ。
ピエールは臆病ではあったが、愚かではない。数十年に及ぶ政争が、彼の勘を鋭く鍛えていた。
彼は意識的に呼吸を整え、思考を巡らせる。
「……いや」
彼は低く呟いた。
「悪魔どもは狡猾だ。奴らは我々の背後のどこかに飛行部隊を隠しているに違いない。そして……本軍への攻撃を続けていないということは、航続距離に限界があるのだ。ワイバーンより短いに違いない」
彼は装飾の施された口髭を撫でながら考え込んだ。
「今回の損害は……確かに不運だ。だが、我々にはまだ十分な戦力がある」
ピエールは背筋を伸ばした。無理やり威厳を声に込める。
「攻撃を開始する! 生き残ったワイバーン部隊すべてに通達しろ。直ちに悪魔軍へ突入させろ。第一目標は大悪魔門の確保だ!」
彼は鋭く指を立てた。
「地上軍はその後に前進する。悪魔どもに、次の小細工を準備する時間を与えるな」
「はっ!」ジャックは即座に敬礼した。
ワイバーン騎士たちや近くにいた士官たちは、すぐさま動き出す。公爵の命令を伝えるため、キャンプの各所へと駆け出していった。
―――
前線作戦基地《FOB》ドアーズ
スタンは、ヘリパッドの横でハンツ将軍と並んで立っていた。
CH-47チヌークが、最終の飛行前点検を終えたところだった。双発ローターが重くリズミカルな轟音を響かせ、地面の砂塵を激しく巻き上げる。
ヘリコプターの隣には、巨大な貨物クレートが一つ置かれていた。頑丈に固定され、まるで出番を待つかのように静かに鎮座している。
スタンはそれを、子供が誕生日ケーキをテーブルに運ばれてくるのを見つめるような目で眺めていた。
「おお~、ハッピー・デイ、ハッピー・デイ♪」
彼は小さく歌った。
ハンツ将軍は眉を上げる。
「ずいぶんご無沙汰だったのですか、閣下?」
「そりゃもう」
スタンは陽気に答えた。
「ブエルの反乱のあと、ずっと退屈でね。もう一回反乱でも起こしてくれないかなって期待してたんだけど……」
彼は大げさにため息をついた。
「最近のあいつ、政治ばっかりやっててさ」
肩をすくめる。
「まったく、面白くなくなったよ」
ハンツはくくっと笑った。
「へへへ……おそらく、あなたがまだ健在のうちに反乱を起こすのがどれほど無意味か、あの男は身をもって――それも最大限に痛い形で――学んだのでしょうな、閣下」
スタンは腹の底から笑った。
「ははっ! その呼び方、久しぶりに聞いたな」
「失礼しました、閣下」
ハンツは肩をすくめた。
「この……騒ぎですからな。少し昔を思い出してしまいました」
彼はわずかに微笑む。
「昔の日々を」
スタンは彼の方を向いた。
「恋しいか、ハンツ? 戦場を駆け回って、槍で敵を突き刺してた頃が」
「率直に申し上げてもよろしいでしょうか」
ハンツは迷いなく答えた。
「まったく恋しくありません、閣下」
「ほう?」
スタンは首を傾げた。
「理由を聞こうじゃないか」
「はい」
ハンツは胸を張った。声には誇りが滲んでいる。
「今の時代に勝るものはありません。今では、自宅で孫と遊びながら、何マイルも離れた場所から数百……いや数千の敵をあの世に送ることができます」
彼は力強くうなずいた。
「これほどの満足感、過去にも現在にも、何ものにも代えがたいものです」
「アッハハハハハ!」
スタンは膝を叩いて大笑いした。
「相変わらずだな、ハンツ。安心したよ」
「変えるつもりは、最初からありませんので」
スタンは少し身を乗り出し、声をひそめた。
「そうだ、満足感といえば……最近の衛星技術の話、聞いたか?」
彼は芝居がかった仕草で目を見開く。
「ミサイルそのものにカメラを付けられるんだ。リアルタイムで見られる」
「なんと?」
ハンツは瞬きをした。
「想像してみろ」
スタンは楽しそうに言った。
「俺たちが朝のコーヒーを飲みながら、爆弾が顔面に直撃する直前の敵の表情を、ライブで眺めるんだ」
「本当ですか、閣下?」
ハンツは目を丸くした。
「これはまた……なんとも素晴らしい時代になったものです」
「まったくだ」
二人は同時に、遠慮のない大声で笑い出した。
だがその笑い声は、チヌークのローター音に完全にかき消された。
一人の兵士が近づき、鋭く敬礼した。
「失礼します、閣下。準備が整いました」
スタンは満足げに息を吐いた。
「よし。じゃあ将軍、私は行くとするよ」
彼はハンツの肩を軽く叩いた。
「残りの戦いは任せた」
「承知しました、陛下」
ハンツはうなずく。
「良い狩りを」
「いつでもな」
スタンはチヌークへ乗り込んだ。
数秒後、ヘリコプターは轟音を上げながら浮上する。
巨大なクレートを機体の下に吊り下げたまま、ゆっくりと空へと上がっていった。
―――
ヴァンドリア=レイヴンドーン連合軍 本陣中央
連合軍は隊列を組み、緊張した沈黙の中で立っていた。
一日中、報告が届き続けていたからだ。
兵士たちが突然倒れる。
頭が破裂する。
何の前触れもなく。
見えない攻撃。
警告も、防ぐ手段もない。
その事実が、兵士たちの士気をじわじわと削り取っていた。
神官たちは言った。
隠された呪いに違いない、と。
だがそれは、上層部が以前自信満々に語っていた説明と真っ向から矛盾していた。
――悪魔は弱い。
そう言っていたはずなのだ。
だが。
誰一人、そのどちらも信じてはいなかった。
そのとき。
戦場の上を、巨大な影が横切った。
生き残っていたワイバーン部隊――先ほどの混乱をかろうじて切り抜けたすべての機体が、密集した編隊を組んで頭上を飛び越えていった。
前線の兵士たちから歓声が上がる。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
地上の兵士たちにとって、ワイバーンは希望そのものだった。
火炎のブレス。
制空権。
そして敵陣を切り裂く、決定的な先制攻撃。
もちろん。
彼らは誰一人として知らなかった。
つい先ほど、ワイバーン基地で何が起きていたのかを。
「ヒュラァァァァァァァッ!!」
だが、その自信は――
三秒しか持たなかった。
BOOM
BOOOM
BOOOOM
空中で、数十体のワイバーンが同時に爆発した。
炎の花が空に咲き乱れる。
翼が引き裂かれ、巨大な体が粉々に砕け散る。
何かに撃たれている。
だが、それは速すぎて誰にも見えない。
「な、何が起きている!?」ピエール公爵が叫んだ。
「み、見てください! 雲の中です! 南西方向!」
甲高い声を上げたのは、戦場監視を担当する鳥人の見張りだった。優れた視力を持つ彼らは、戦場では極めて貴重な存在である。
「ど、どうやって……や、奴ら……山より高いところを飛んでいる……」
ピエールは空虚な声で呟いた。
遥か上空。
山脈の頂よりもさらに高い空に、白い線が刻まれていた。
まるで空そのものに傷が走ったかのように、長い航跡が伸びている。
そして遠くから――
ゴオオオオオオ……
聞き慣れない轟音が響いてきた。
異質な雷鳴のような音。
四機のF-16が成層圏から降下してくる。
そして――サイドワインダー・ミサイルを一斉に発射した。
ワイバーンたちに、勝ち目など最初から存在しなかった。
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
さらに十数体のワイバーンが爆発した。
巨大な死骸がそのまま落下する。
密集していた地上部隊へと――
ドォォォン!
兵士たちを押し潰し、盾を砕き、整然としていた陣形を無残に引き裂いた。
「ま、また攻撃です! 今度は南東方向から!」
見張りが絶叫する。
反対側の空から、第二の編隊が急降下してきた。
またしても白い航跡。
空に描かれる新たな線。
そして――
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
BOOM
三十秒も経たないうちに。
残っていたすべてのワイバーンが――
完全に殲滅された。
そして。
沈黙。
兵士たちは呆然と空を見上げる。
息が詰まるような、重苦しい沈黙だった。
ワイバーンはいない。
制空支援もない。
空には――
何もない。
「ば、馬鹿な……」
ピエール公爵は呟いた。
口髭をぎゅっと握りしめる。その仕草は、まるでそれが現実にしがみつく最後の錨であるかのようだった。
「こ、こんなの……あり得ない……」
だが。
将軍がその場で固まるわけにはいかなかった。
「ぜ、前進だァァァァッ!!」
残された力のすべてを振り絞り、彼は怒鳴った。
「動け! 敵はこの距離まで攻撃できるんだ! 止まっていたら殺される! 進めぇ! 突撃だァァァァァァッ!!」
号令兵たちは震える手で角笛を持ち上げた。
ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
側面部隊は一瞬ためらった。
だが、理屈は明白だった。
ここに立ち止まっていれば――
見えない何かに、ただ殺されるだけだ。
「と、突撃ィィィィ!」
「ウオオオオオオオオオッ!!」
三万の兵士が一斉に駆け出した。
荒れ果てた大地を踏み鳴らしながら、無数の足音が戦場を震わせる。
その先頭――一万三千の前衛部隊は、中心隊列から距離を広げながら全速力で前へと突き進んだ。
左翼では、ルクシウス王子がレイヴンドーン軍の中を馬で駆けていた。
彼の視線は地形を鋭く観察している。
何かを――
待っていた。
BOOM
前衛隊列の中央で、突然爆発が起きた。
兵士たちが吹き飛び、腕や脚が空中へ散らばる。
その瞬間。
それこそが、彼の待っていた合図だった。
ルクシウス王子は即座に士官たちへ合図を送る。
角笛が鳴り響いた。
ヴォオオオオオオオオオオン
躊躇は一切なかった。
六千のレイヴンドーン軍が一斉に西へ進路を変える。
戦場から離脱するように、鋭く方向転換した。
「な、何をしている!?」
ピエール公爵が怒鳴り声を上げた。
「逃げるつもりか!? あの臆病者どもがァッ!!」
「閣下、左翼部隊で追撃を――」
「必要ない!」
ピエールは即座に遮った。
「悪魔どもを片付けた後で始末してやる。どうせこの戦いの後には――レイヴンドーンなど存在しない」
彼は歯を食いしばる。
「必ずだ……必ずそうしてやる……」
一方。
レイヴンドーン軍の後ろでは――
前衛部隊だけが前進を続けていた。
すでに兵数は削られている。
残り――
七千。




