第9話:「怒鳴る」利用者
初めて挑戦します(^^)
あたたかく見守ってくれると嬉しいです。よろしくお願いします
※第9話のポイント
「怒りのゴミ箱」という言葉: 優しい人ほど、相手の怒りを正面から受け止めて傷ついてしまう。それを九条が「技術不足」として指摘する構成です。
岩田さんの背景: 職人という「プライド」が、今の「無力感」を増幅させています。
「……だから! さっきからそう言ってるだろうが!」
耳を突き破るような怒鳴り声に、私は思わず肩を跳ね上げた。
訪問先の居間。車椅子に座った岩田さんは、麻痺の残る右手を震わせながら、私の持ってきたリハビリ計画書を床に叩きつけた。
「すみません、岩田さん。でも、このメニューをこなさないと、ご自宅での生活が……」
「うるさい! できないことをやれと言われるのが、どれだけ苦痛かわかるか? お前ら若いもんに、俺の情けなさがわかってたまるか!」
岩田さんは元家具職人だ。自分の指先一つで魔法のように家具を生み出してきた彼にとって、脳梗塞で動かなくなった体は、檻も同然なのだろう。
わかっている。頭では理解しているけれど、真っ赤な顔をして私を睨みつける彼を前にすると、喉がヒュッと締まる。
「……申し訳、ありません。次回、また見直してきます」
「二度と来るな! やる気がないなら、もっとマシな奴を連れてこい!」
逃げるように玄関を飛び出した。
冬の風が、火照った顔に冷たく刺さる。情けなくて、怖くて、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえながら、私は事業所へと戻った。
◇
事業所のドアを開けた瞬間、重苦しい空気が私を包んだ。
デスクに座る九条さんは、私が報告書を出す前から、すべてを見抜いたような顔でこちらを見た。
「ひどい顔だな、真庭。岩田氏に怒鳴り散らされて、自分の尊厳まで床に捨ててきたか?」
「……九条さん。私、やっぱり向いていないのかもしれません。岩田さんを怒らせるばかりで、何も力になれなくて……」
九条さんは立ち上がり、ゆっくりと私の前に歩み寄った。その靴音が、静かな事務所に無機質に響く。
「君は、大きな勘違いをしている。岩田氏が怒っているのは、君に対してではない」
「え……? でも、あんなに私のことを『やる気がない』って……」
「言葉の表面だけを掬って一喜一憂するのは、プロの仕事ではない。ただの『感情の奴隷』だ」
九条さんは、私のバインダーを指先で叩いた。
「いいか。彼は君を攻撃しているのではない。自分の中に巣食う『ある正体』に耐えられず、叫んでいるだけだ。その正体を見極められない限り、君は一生、誰かの怒りのゴミ箱として人生を終えることになる」
「怒りの……正体……?」
「明日までに考えてこい。人間が、なぜ怒るのか。その火種がどこにあるのかをな」
九条さんの瞳には、いつもの冷徹さの奥に、試すような光が宿っていた。
私は、床に叩きつけられた計画書の汚れを思い出しながら、必死に自分の心を守るための術を探し始めていた。
次話への展開
次は第10話:「怒り」は二次感情であるです。
九条によるアンガーマネジメントの核心講義が始まります!
実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)
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