第28話:鏡に映る、新しい自分
第7エピソードの完結編です。トラウマを乗り越え、ひと回り大きくなった灯と、それを見守る九条の静かな信頼関係を描きます。
※第7エピソードのまとめ
自己効力感の定着: 過去のトラウマを克服する鍵は、逃げることではなく、成長した今の能力で「今の課題」に立ち向かうこと。
セルフ・コンパッションの深化: 過去の無力だった自分を責めるのをやめ、今の自分が成し遂げたことを正当に評価する。
加奈さんが、何度も頭を下げながら事務所を去っていきました。彼女の背中は小さく、かつての「クラスの支配者」の面影はどこにもありませんでした。
静かになった事務所で、私は自分の手を見つめました。
もう、震えてはいませんでした。
「……九条さん。私、あの日からずっと、自分のことが大嫌いだったんです」
私は、片付けを始めた九条さんの背中に向かって、ぽつりぽつりと話し始めました。
「いじめられて、言い返せなくて、逃げるように学校に行かなくなって……。そんな無力な自分を変えたくて、誰かを救えるようになりたくて、必死に勉強してこの仕事を選びました。でも、どこかでずっと『私はまだ、あの頃の逃げ出した子供のままだ』って、自分を疑っていたんです」
九条さんは手を止め、眼鏡を外してレンズを拭き始めました。
「真庭。人間は、過去の記憶を書き換えることはできない。だが、その記憶が持つ『意味』は、今の行動でいくらでも塗り替えられる」
九条さんは私の方を向き、その鋭い瞳で私を射貫きました。
「今日、君は自分を傷つけた相手を、自分の役割(プロ意識)で圧倒した。それは復讐ではなく、君が『過去の自分』を救い出したということだ。君はもう、誰かに人生を定義されるような弱い存在ではない」
「……はい」
「自己効力感とは、根拠のない自信ではない。今日のような『修羅場』を、自分の知識と意志で乗り越えたという事実の積み重ねだ。……これで、君はもう私の指導がなくても、大抵の困難には折れないだろう」
九条さんはそう言うと、不器用な手つきで私の頭を一回だけ、ポンと叩きました。
「……ま、お喋りの時間は終わりだ。コーヒーを淹れろ。今度は、君の自己効力感のように、濃くて芯のあるやつをな」
「はい!」
私は給湯室の鏡に映る自分を見ました。
そこには、過去の影に怯える少女ではなく、誰かの人生の隣に立つ準備ができた、一人の「相談員」がいました。
外はもう、すっかり春の匂いがしていました。
完結まで、残すところあと2エピソード!
灯の個人的な課題もクリアされ、いよいよ物語は「真のプロフェッショナル」への道、そして九条と灯のコンビの集大成へと向かいます。
実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)
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