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第27話:トラウマを乗り越える「声」

第27話は、灯がプロとしての誇りを胸に、ついに過去の天敵・加奈と対峙する決戦の回です。


※この話で得られる「知識」

プロフェッショナル・ディスタンス(専門的距離感): 個人的な感情と、果たすべき役割を切り離すことで、困難な人間関係もコントロールできるようになる。


過去の上書き: 過去に負けた相手に対して、今の自分の「成長した姿」で向き合うことが、最大のトラウマケア(暴露療法的な効果)になる。


許しと支援の分離: 相手を「許す」必要はない。ただ「自分の仕事を全うする」ことだけに集中すれば、心は守られる。


相談室のドアを開けるとき、私の心臓はまだ大きく跳ねていました。けれど、九条さんに言われた「生理的情緒的高揚」という言葉が、私に魔法をかけてくれました。この動悸は、私が戦うためのエンジンなんだ。


 私が席に戻ると、加奈は不思議そうな顔で私を見上げました。


「あの……さっきの続き、いいですか? 私、夫が急に蒸発しちゃって、子供の保育園代も払えなくて。実家とも絶縁してるし、もう死ぬしかないかなって……」


 加奈の言葉は、かつて私に向けられた鋭い刃ではなく、ただの悲鳴でした。

 私は、九条さん直伝の「感情を分離するノート」を開きました。


「立花さん。まずは、命に関わることから整理しましょう。死ぬ必要はありません。今のあなたに必要なのは、生活保護の申請と、DV避難に伴うシェルターの確保、それから――」


 私の淀みのない言葉に、加奈の動きが止まりました。彼女は私の顔を凝視し、やがて目を見開きました。


「……待って。あなた、もしかして、中学のときの……真庭、さん?」


 沈黙が流れました。

 過去の私なら、ここで目を逸らして逃げ出していたでしょう。でも、今の私はデスクをしっかりと指で押し、彼女の目を真っ直ぐに見返しました。


「はい。真庭灯です。今は、あなたの担当相談員です」


「……あ……っ」

 加奈の顔が、みるみるうちに赤く、そして青ざめていきました。「嘘……なんで。あんなに暗くて、何も言えなかったあんたが……」


「立花さん」

 私は、彼女の言葉を遮りました。

「あなたが私に何をしたか、私は一秒も忘れたことはありません。でも、今日私がここに座っているのは、あなたを責めるためでも、復讐するためでもありません」


 私は、九条さんがいつもするように、冷静に書類を指し示しました。


「私はプロです。プロの相談員として、目の前で困っている利用者の生活を立て直す義務があります。過去の私を許すかどうかと、あなたの今の問題を解決することは、別の話です。……支援が必要ですか? それとも、担当を変えますか?」


 加奈は震える手で顔を覆い、ポロポロと涙をこぼしました。

「……ごめんなさい。本当に、ひどいことをした。それなのに、私……あんたに助けてもらうなんて……」


「助けるのは私ではなく、法とシステムです。私はその手伝いをするだけです」


 その瞬間、私は自分の内側で、重い鎖が外れるような音を聞きました。

 加奈を「怖い存在」ではなく「支援が必要な弱者」として扱えた。

 過去の被害者としてではなく、知識と経験を持った「救う側の人間」として彼女の前に立てた。


 これこそが、私の自己効力感。

 私はもう、あの頃の私じゃない。


「……じゃあ、手続きを始めますね。まずは、お子さんのために、今日できることからやりましょう」


 私の声は、自分でも驚くほど、優しく、そして凛として響いていました。


次話への展開

次は第28話:鏡に映る、新しい自分です。

(※第7エピソードの完結編です)

加奈を送り出した後、灯が九条に自分の「原点」を打ち明けます。


実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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